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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/12/04

世界最頻出テロ用語は日本語?!「KAMIKAZE」大合唱の仏メディア、「NINJA」大流行のテロリストのアカウント名

パリで同時多発テロが起きた11月13日の金曜といえば、私はフィギュアスケートのグランプリ大会の一つであるエリック・ボンパール杯観戦のためにフランス南西部のボルドーに滞在中でした(→世にも奇妙なフランス・ボルドー体験(1)…テロの影響で中止となったエリック・ボンパール杯に行ってきました)。そして、大会のショートプログラムをフル観戦して、夜の22時過ぎにスケートリンク近くのホテルの自室に戻ってきました。

この日は、以前の記事にも述べた通り、フランス国営放送テレビのTF1でサッカーの親善試合『フランスvsドイツ』が中継される日で、私は部屋に戻るなり速攻でテレビをつけました。この時点ではちょうど後半が始まったばかりで、フランスが1-0でリードしていました。実際にはこの試合の前半16分頃より場外で自爆テロによる爆発が数度あり、現地観戦中だったフランスのオランド大統領やドイツのシュタインマイヤー外相がスタジアムから退出するという事態が発生していたようですが、少なくとも私がスケートから帰ってきてから見た限り、テレビではその点には特に触れることなく、何事も無かったかのようにサッカー中継が続いてました。

しかし、スケート観戦疲れがたたったのでしょうか。実は私、後半87分にフランスが2-0とドイツに対するリードを広げた瞬間から物凄い睡魔が襲い、テレビを点けっ放しにしたままウトウトと寝てしまったのでした。そして、ハッと目覚めてコチラ↓のテレビ画面を見たその瞬間、デカデカと映し出される我が目を疑うような光景に、一体何が何だか…と頭が混乱してしまったのでした。

(11月13日夜23時過ぎ)

”ATTAQUES A PARIS”(パリにて襲撃あり)という黒地に白字の字幕、そして、ついさっきまでサッカーをやっていたはずのサッカー場に観客が、それも信じられないほどの人数がひしめいているではありませんか。コチラは何といってもついさっきまでうたた寝していた身ですので、一体何が起きたのか、わが脳は即座には把握できませんでした。しかし、サッカー中継を終えたばかりのはずのTF1の後続番組と思われた、このパリでの一連の凄惨なテロを伝える第一報となったこの特別番組の中で、何度か使われたとある日本語の単語が、私のそれまでの眠気を見事に吹っ飛ばすことになります。その「和製英語」ならぬ「仏製和語」と呼ぶのが妥当なのかもしれない単語は、この当日深夜の特番でコールされてからというもの、翌日以降のフランスのテレビでそれこそ朝から晩まで連呼され、新聞・雑誌などの活字媒体にもバリハリに登場することになります。まさに、”最頻出テロ用語”の名を欲しいままにせんばかりの勢いでフランス全土を駆け抜ける、元々世界共通語でもあった日本単語とはズバリ、「KAMIKAZE (神風)」です↓。

上はテロ翌日の朝のニュースの見出し「ATTAQUES KAMIKAZE À PARIS」(パリで神風の襲撃あり)で、左がパリ11区シャロンヌ通り、右がパリ11区の惨劇のあった劇場「バタクラン」の前からの生中継映像となっています。ちなみに、このKAMIKAZEは自爆テロを指す世界共通語であり、ドイツでは「カミカーツェ」(二番目の”カ”にアクセントあり)と発音しますが、フランスでは「キャミキャーズ」(冒頭の”キャ”にアクセントあり:日本ハムファイターズの”ファイターズ”と同じ抑揚で発音)と呼ばれるようです。

さらには、14日の夜以降も、「キャミキャーズ」なる単語は快進撃を続けます↓。

キャミキャーズの親戚2人が逮捕される」(14日深夜:上写真右半は自爆テロリストの自宅前からの生中継)(14日夜)

「パリの襲撃:バタクランでのキャミキャーズの父と兄が拘束される」の字幕と、「我々は今戦時下にある」と勇ましくインタビューに応えるフランス首相のマニュエル・ヴァルス氏(⇐今回のテロ以降、支持率アップ中)。(14日夜)

キャミキャーズの親戚6人が事情聴取を受ける」(11月15日朝)

そして、連日の「キャミキャーズ」連呼もそろそろ落ち着くかと期待された18日になったら、今度は何と、「おんなカミカゼ」こと、「ファム・キャミキャーズ」(FEMME KAMIKAZE)の登場です↓。

そのタイトルもズバリ、「女神風、殺される」です(11月18日朝)。この日の早朝、犯人の隠れ家と思われる住宅街にて銃撃戦があり、主犯格を含む3人のテロリストが殺害されたというニュースです。

仏和辞典によれば、「KAMIKAZE」はかつての日本の「神風特攻隊員」の他に、「無鉄砲な人、命知らず」を意味する男性名詞とあります。そうです、これは既にフランス語になって久しい単語なのです。日本では「イスラムの自爆テロと神風特攻隊は違う!一緒にするのは誤解である」という論調もあるようですが、そもそも「目的のためには自らの命を顧みない=無鉄砲・命知らず」というその一点において、今回のような自爆テロは少なくともフランス語で言うところの「キャミキャーズ」としてもドイツの「カミカーツェ」としても、全く矛盾しないものです。日本語オリジナルの意味をいくら訴えても、現地で定着しているものの意味は変えられません。

となると、次に湧いてくる疑問として、「もし女だった場合はどう言うのか?」というのも当然出てきます。似たケースとしてはフランス語で医者を指す「médecin」があり、これは男性名詞ですが、女医さんの場合は「femme médecin」となります。そして、今回の「KAMIKAZE」の場合も、今回報道を見る限り、前に「FEMME」を付けて女性形を作ることが判明…!などと、こんな事に感心している場合ではないのですが、今回の字幕を見た瞬間に「ヤッパリ!」と、妙なところに納得してしまうのでした。

「テロリストの中に女神風あり」(11月18日夜)

「神風2人はギリシャ経由で来た」(11月20日夜)

いやいや、もうええ加減にせえよ…!と叫びたくなるほどの「キャミキャーズ」の連呼です。それでも、晴れてドイツに戻ってきてからの報道だと、今回のパリの自爆テロ犯は「カミカーツェ」と呼ばれることは少なく、むしろ「Selbstmordattentäter」という単語が多用されており(Selbstmordは自殺のこと、Attentäterは暗殺者のこと)、神風旋風は多少なりとも弱まったかに思えました。しかし、そう思って油断していた私の耳に、まさかコチラ↓の番組内から、この恐るべき「カミカーツェ」なる単語が再び襲い掛かって来ようとは、私は全く裏をかかれたのでした。

これは11月17日のドイツZDFの朝の情報番組「ZDF Volle Kanne」の中で紹介された、19歳の少年冒険家の旅ブログに関するリポートです(末尾参考サイトに動画リンク先あり、上の写真6枚は全てこの動画からのスクリーンショット)。オンエアのタイミングから見ても、おそらく13日のパリのテロのはるか前に収録が済んでいたと思われます。以下に、番組内容を簡単に和訳して要約します:

高校を卒業したばかりの19歳の少年ヤニス・リープシュレーガー君(Jannis Riebschläger)は、高校時代の同級生と一緒に、二人でヒッチハイクでノルウェー最北端のノール岬(Nordcap)に行くことに成功(写真左上)、そしてその旅の体験を自身のブログにアップしてきました(写真右上)。さらには、旅行先で撮影した映像を自分のパソコンで編集して映画も制作(写真中右)、まるでテレビ局のスタジオか見紛うような機材に囲まれた自宅の自室にて、自身でナレーションのアフレコも行うという凝りようです(写真中左)。彼は高校時代はバンドをやっており、当時の仲間を自室に呼んでギターをかきならしつつ音楽を楽しむことも稀にありますが(写真左下)、今の彼にはバンド活動も決まった彼女を作ることも頭にありません。彼の人生の究極の目標は、「冒険家ブロガー」として生計を立てられるようになること。次の旅行の目的地はネパールと決まっており、その旅行の計画立案や費用面に関しても、彼の両親は応援して全面的に支援してくれています(写真右下)。

以上がかいつまんだ番組内容です。これのどこが「神風」なのかというと、最後の方で少年の母親の発言の中に出てきます。ドイツでは、高校生が高校卒業資格試験に合格してから大学に行くまでの期間といえば、かつては兵役に就く(兵役拒否の場合は代替となる社会奉仕活動に従事)というのが定番でした。しかし、今のドイツでは兵役義務が廃止されていますので、多くは社会福祉施設でのボランテイアや海外生活などを一年程度こなすケースが多くなっています。それが、この青年は「冒険家ブロガー」を生業にしたいと言うのです。当然、ZDFの番組スタッフは少年の母親に対し、息子を冒険家にすることに対する不安はないか?と問います。それに対し、この母親はこう答えたのです(←リンク先動画の5分6秒あたり):

「(最初は不安だったが)、彼はこれまでの旅行の下準備なども本当によくやっていたし、生活に疲れている訳でもなく、彼の人生にとって意味のある事なのだから、それに考えてみれば
別にカミカーツェ(神風)になろうって訳じゃないんだから、
しっかり準備もしているようだし、心配は減った。でも、旅は何が起きるか分からないから…」


この母親のコメントを、今回のパリのテロ犯たちの母親ならどう聞くのでしょうか。世の中の母親にとって、自分が腹を痛めて生んだ子が「カミカーツェ」になることも、「キャミキャーズ」になることも、ましてや「ファム・キャミキャーズ」になるなど、言語道断も言語道断、それだけは勘弁してほしいと思うのが本来の母親としての心情でしょう。語源となった本家・日本の特攻隊員の母親だって、本心をギュッとその胸の中にしまい込んで耐えに耐えていただけで、本心は別にあったであろうことも、疑う余地はないでしょう。

さらにこの放送から数日後、11月23日の夜にはドイツのニュース専門チャンネルn-tvで非常に興味深いドキュメンタリーが放送されました。「Undercover beim IS」(イスラム国への極秘潜入)というタイトルのこの番組は、イスラム国からのリクルーターの呼びかけに応じてシリア入りする欧州の若者が増えている現状に迫り、あるフランス人女性が現地に潜入取材するという、まさに命がけの体当たりとも呼ぶべき渾身のルポルタージュです。そして、その中でイスラム国のジハーディストのフェイスブック等のインターネット上の自称名として、繰り返し出てきた単語があったのです。それがコチラ↓、何と「NINJA」(忍者)です。

見た瞬間、「えぇぇっ、”忍者”って、こっち方面でこんな使い方される単語なの?」と、ムスリムを中国語で書くと「穆斯林」(musilin)になることよりもはるかに大きい衝撃を受けました。日本でも、イスラムのジハーディストの間で自らを忍者と名乗るトレンドがあることを知っている人は決して多くはないはずです。なお、番組中には日本の忍者のような恰好をして蹴りの練習をする彼らの映像もチラっと出てきます。神風の次は忍者だというのだから、ひょっとして我らが日本文化って、世界から見たら相当ヤバい世界とみなされているのでしょうか?それとも、知らなかったのは私だけだったとか?そこにさらに追い打ちをかけたのが、フランスのメディアの中のこのような見出しでした↓。

タイトルの「このテロリストたちはイスラムの新型の忍者である」(Ces terroristes sont les nouveaux Ninjas de l’islam)だけで、もうお腹いっぱいです。しかし、リオジェ教授のインタビュー内容自体はなかなか分かりやすいです。このリンク先の動画のアドレスは末尾参考サイトに示していますので、フランス語がお分かりの方は是非ご覧いただきたいと思います。

今回の教訓は、世界共通語としての日本語といえば「寿司」と「漫画」と「アニメ」ばかりではなかった、ということに尽きます。最も有名なのが「津波」「過労死」というあたりからも、日本語から世界共通語になった単語にはロクなものがないと元々言われていたかもしれないのが、今回の「仏製和語」(?)とも呼べるかもしれない「神風」に「忍者」まで加わったのは痛かった…と言うことでしょうか。パリのテロ以降の数日間を経験するにつけ、「日本は世界から称賛されている!」などという日本でしか見たことのない妙ちきりんな報道や書籍に騙されてはいけないのだという認識を新たにして、いっそう気を引き締めようと思うに至った、今回のボルドー体験でもありました。


<参考サイト>

ZDF Volle Kanne(2015年11月17日):Abenteuer Blogger(冒険家ブロガー)
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/beitrag/video/2604604/Abenteuer-Blogger?flash=off

OUMMA TV(2015年11月20日):R. Liogier : "Ces terroristes sont les nouveaux Ninjas de l’islam"
https://www.youtube.com/watch?v=Sjd7OQqazbE
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