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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/10/02

U-18野球ワールドカップ観戦記(3)…身長・BMIランキングを振り返りついでに東京五輪の野球も占ってみる

先日、2020年開催予定の東京五輪に日本が開催国として追加提案する競技が正式発表されました。日本では古い歴史と絶大な人気を誇る野球(&ソフトボール)が大方の予想通り入ったのを始め、日本(正確には琉球)発祥で日本勢のメダルラッシュが最大級に期待できる空手、芸能人に愛好家が多いことで大会前のPR合戦が今から目に浮かぶサーフィン、当初は「ローラースポーツ」としてインラインスケートやローラーマラソンとともに申請されるはずだったのがいつの間にか単独通過となったスケートボード(インラインスケートとローラーマラソンは落選)、そして、うちのオラ君(岩手放送マスコット)も大好きでよく足を運ぶスポーツクライミングです↓。

(我が家の近くのボルダリングウォールで頑張っているところ)

ロイター通信(2015年9月29日):五輪=2020年東京大会、野球ソフトなど5競技の追加提案へ
(以下に青字で全文引用。強調は筆者)
http://jp.reuters.com/article/2015/09/29/tokyo-idJPKCN0RT00J20150929
[東京 28日 ロイター] - 2020年東京五輪の大会組織委員会は28日、野球・ソフトボール、空手、スポーツクライミング、スケートボードとサーフィンの5競技から、合計18種目の実施を国際オリンピック委員会(IOC)に提案することを決定したと発表した。
大会組織委は声明で、「伝統的な競技と、若者を中心とした新たな競技を選んだ。これらの競技は日本だけでなく国際的にも人気がある」と述べた。ボウリング、スカッシュと武術も最終選考に残っていたが、落選した。
提案が認められれば、男女ともに9種目が実施されることになる。五輪の新ルールでは、メーンとなる28競技以外の追加種目を開催都市が選ぶことができる。
最終判断は来年8月のIOC総会で決まる。


開催国が追加提案する以上、自国のメダル争いに有利な競技を推さない手はありません。これら計5競技18種目は来年8月のIOC総会に諮られ、最終的に決定されることになります。

これらの競技からは多数のメダルが日本にもたらされる予感がしますが、その中でもとりわけ国民の期待が大きいのは、やはり国民的人気の野球ではないかと思います。先日の2015 WBSC U-18ベースボールワールドカップ(8月28日~9月6日)も、日本は1次ラウンド5戦全勝、スーパーラウンド3連勝で決勝に臨みましたが、アメリカに惜敗し準優勝に終わりました。この大会に出場した18歳以下の選手たちは、東京五輪開催の2020年夏には22~23歳となっているはずで(1年生の清宮幸太郎選手は21歳)、この中から五輪メンバーに名を連ねる選手が何人いるのか、特に大会一番人気だった「Louis Okoye (ルイ・オコイェ)」ことオコエ瑠偉選手は選出されるのか、今から大いに気になるところです。(→U-18ベースボール・ワールドカップ観戦記(2)…開催国特権について考える

さて、ここで気になるのは、先のU-18ワールドカップにおける日本チームの立ち位置、ひいては金メダル争いの一番のライバルとなると目されるアメリカとの戦力比較です。過去の当サイトで何度か披露してきた身長・体重・BMIランキングによる分析はあまり見慣れないかもしれませんが、私は長年重宝しています。というのも、身体プロフィールそのものは多少の過大申告ないし過少申告こそあれ、チーム打率や投手成績のような対戦相手や地域格差によって大きく左右される数値とは異なる次元の数値であり、過去のチームや他国のチームとの比較はもちろん、ひいては他競技との比較すらも可能にするからです。

ということで、先月閉幕したこのU-18野球ワールドカップの12か国の選手のランキングを以下に列記します。日本のメディアではどこも報じないこのランキング、かなり興味深い結果となりました。なお、データの出典は大会期間中に販売された公式パンフレットですが、このパンフレットで身長の表記が不完全であったカナダとイタリアに関しては、各国の野球連盟がインターネットで公表しているデータ(末尾参考サイト参照)を採用しました。

まず、身長の中央値を高い順に並べ、大会での順位もその右に併記しました(7位~12位はスーパーラウンドと並行して他球場で行われたコンソレーションラウンドにて決定)。結果は…やっぱりという感じです。(優勝のアメリカを赤太字、準優勝の日本を青太字で表記。なお、チェコとイタリア、台湾と日本に関してはタイ記録であるが、平均身長の高い方を上位として順位を確定した)

<身長中央値ランキング>(単位:cm)
1位(188)       アメリカ             ←優勝
2位(186)       カナダ                            6位
3位(184.5)      オーストラリア               4位
4位(183.5)      チェコ                                      11位
5位(183.5)      イタリア                                     10位
6位(182)        韓国                      3位
7位(180.5)      キューバ                          5位
8位(179.5)      メキシコ                                    7位
9位(178.5)      チャイニーズタイペイ(台湾)                    8位
10位(178.5)     日本               ←準優勝
11位(178)      ブラジル                                     9位
12位(174)      南アフリカ                                   12位

このランキングでまず目が行くのは、優勝のアメリカがトップだったこと、そして、大会最下位の南アフリカが身長でも断トツの最下位だったということです。さらに、身長が下から3番目のチビッ子軍団でありながら準優勝を成し遂げた日本と、高身長ながら野球の普及度が低い欧州から来た2チーム(チェコ・イタリア)を除外すれば、見事なまでに身長下位のチームほどチーム成績も下位に沈んでいることに驚かされます。裏を返せば、高身長の国民を多く抱える欧州諸国が日本の少年野球チームのような全国津々浦々に張り巡らされた育成システムを構築して野球少年を徹底的に英才教育しようものなら、果たして世界における野球の勢力地図はどう書き換わってしまうのか…まさに”眠れる獅子”を欧州に重ね合わせて想像せずにはいられません。アメリカに優勝する実力があるのだから、環境さえ整えば自分たちだって素質では決して負けていないと、今大会でイタリアやチェコはきっと感じたことでしょう。そして、5年後の五輪に向けて既に何か始動しているかもしれません。

なお、「野球は身長が高い方が有利?」という観点でのブログを、アメリカのインターネットではよく見かけます。中には学術論文になっているものもあり、それらのデータを見ると、「高身長は打者のホームラン数と相関する」とか、「投手は高身長の方が球速が出る」など諸説乱れ飛んでいますが、「差ははっきりしない」というデータこそあれ、「高身長が不利」というデータは一つもありません。かの地には”You can’t coach height.”(身長の高さは教えることができない)ということわざまであるようで、身長というファクターが野球という競技にとっていかに重要と考えられているかがよくわかります。そして、これは私が過去35年以上にわたる甲子園の高校野球の歴史の中から掴みだした「身長トップクラスでBMIが真ん中らへん」という勝者のプロフィールともかなり重なります。(→出場49代表のBMIランキングの変遷から占う今年の甲子園の優勝旗の行方

さて、BMIについて話が出たついでに、以下にランキングを紹介しましょう。これを見て、皆さんはどう感じられますか?

<BMI中央値ランキング>(体重(kg)を身長(m)の二乗で割って算出)
1位(24.701)      チャイニーズタイペイ(台湾)                    8位
2位(24.607)      カナダ                            6位
3位(24.416)      日本               ←準優勝
4位(24.364)      ブラジル                                     9位
5位(24.090)      アメリカ             ←優勝
6位(24.055)      南アフリカ                                   12位
7位(23.911)      オーストラリア               4位
8位(23.809)      イタリア                                     10位
9位(23.582)       韓国                      3位
10位(23.460)     チェコ                                      11位
11位(23.354)     メキシコ                                     7位
12位(23.272)     キューバ                          5位

このBMIランキングも、なかなか示唆的です。BMIトップスリーに位置する日本の準優勝を除外すると、これまた上位進出チームが見事なまでに真ん中近辺に集中しています。そして、同じアジア圏のチームでも、日本と台湾は非常に似たポジション(低身長、高BMI)にあったのに対し、韓国の高身長ぶりと控え目なBMIは興味深いところです(なお、日韓では身長中央値は3.5cm差ですが、平均値では5.4cmもの差があります)。これは、甲子園の高校野球で言うところの「痩せノッポ」と私が表現してきた「歴代優勝校に最も多くみられるプロフィール」(例:春夏連覇の1979年箕島・1998年横浜・2010年興南、1999年の桐生第一、直近では2013年の前橋育英など枚挙にいとまなし)とピッタリ一致します。「痩せノッポ型チーム作り」は韓国の高校野球界の指導方針の成せるワザなのか、それとも韓国人の体質に起因したものなのかは現時点では私にはわかりません。分かっているのは、韓国男子の平均身長が日本よりも4cmほど高いという現実のみです。いずれ、韓国野球界の関係者に出会う機会があれば真っ先に聞いてみたいと思います。

それにしても、今回のU-18日本代表チームは、中肉中背ならぬ「多肉低背」(?)とでも呼ぶべきゾーンにいたようですが、意図的にそうなったのでしょうか?ここでU-18日本代表のデータの中央値でなく平均値も紹介すると、平均身長は177.4cmで下から2番目、平均体重77.6kgで下から3番目、平均BMIは24.642で上から3番目です。これを参考までに今年の夏の甲子園大会における甲子園代表49校の全選手のデータ(平均身長173.8cm、平均体重71.4kg、平均BMI23.602)と比較すると、U-18日本代表は平均的な甲子園球児よりも身長が3.6cmアップなのに対して体重は6.2kgもアップし、その結果、BMIが1以上跳ね上がったことになります。

パワフルな外国人を相手にパワーで見劣りしないためにこのような選考になったのであろうことは想像に難くありませんが、次の東京五輪でもこの方針で行くのでしょうか?少なくとも甲子園の高校野球では、BMIの高いチームは低いチームとの戦いにおいて、往々にして走力の差で敗れることが珍しくありませんでした(→BMIランキング的中!?東海大四の決勝進出が教えてくれた「BMI野球」が不利な理由)。

しかし、それ以上に私が懸念するのは、日本全国でスポーツ振興の美名のもとに高校生以下の学生のBMIを無理やり押し上げることが、のちに成人してからの彼らの健康に害悪を及ぼさないかということです。身長170cm台の人間の体重が3キロほど上がれば、BMIは約1上がります。健康診断などで皆様も指導を受けた経験があるかもしませんが、体重が半年ないし1年の間に3キロ以上(BMIにして1以上)急激に上がった場合、あるいはBMIが25を超えた途端、血液データや心電図が一気に悪化したり、血圧が急上昇して心臓への負担を示す症状が現れたり(パニック発作ないし過呼吸と診断されるケースもここに混じっている可能性あり)することが、特に東洋人たる日本人の場合は(他人種よりも)多いのです。日本人と欧米人で肥満の基準が違うのも、そのためです。欧米ではBMI30以上を肥満と定義するのに対し、日本ではBMI25以上で肥満とされており、「過剰診療につながる」「けしからん」と批判する声もよく聞かれます。しかし、日本人は欧米人と異なり、BMI25を超えると一気に高血圧・糖尿病・高脂血症のリスクが急上昇するのは、インスリン分泌能の差といった遺伝的素因の影響も大きく、欧米と同じ基準を当てはめてはいけないのです。

今も昔も、健康診断などに従事する際、特に相当ご年配のお医者さんが「身長から100を引いた数字を体重が上回らないように」と健康診断の際に指導するのをよく小耳にはさみます。昔の男性の平均身長は158cm位だったので、BMIで言えば23台前半の値です。かつての食糧難の時代、栄養が足りず正座の習慣もあったため足が短かった身体には、それでも立派な肥満の部類に属していたのかもしれません。しかし、逆に現代の高校野球の現場では、野球部の指導者は「身長から100を引いた数字が最低体重だ!」「これこそ甲子園レベルの肉体」「この数字を下回らないためにも、とにかく食べて食べて食べまくれ!」といった、そのまんま大食い番組のスローガンになりそうな発言が全国的に肯定的に流布されている現実もあります。彼らは体重アップこそがパワーの源、そしてそれが勝利にもつながると信じているのでしょうが、真実は果たしてそうなのか、誰も検証していないように見えます。そして何よりも、学校健診時に今の運動部の高校生、特に野球部員の血圧を測定してみると、皆さん軒並み高いことに驚かされたりするのです。急激な体重アップというノルマのみならず、塩分の濃い食事、ひいては炭水化物過剰の偏食も関係しているのでしょう。そして、夜中までスマホ…というような睡眠不足も背景として無視できないように思われます。

2020年東京五輪の野球では、「ルイ様」ことオコエ瑠偉選手や清宮幸太郎選手を擁してU-18の借りを返し、悲願の金メダルを…と言うのも結構ですが、その前に選手が内臓疾患や思わぬ難病で競技を続けられなくなったり、いきなりホテルで急死してしまうような事態にならぬよう、日本チームのパーフォーマンスを最も高める身体プロフィールはどのあたりにあるべきかを今一度考え直してほしいと、医師としての立場からも願わずにはいられません。


<参考サイト>
日刊スポーツ(2015年9月29日):あれれ?ローラースポーツがスケボーに…東京五輪
http://www.nikkansports.com/sports/news/1545602.html

カナダ選手名鑑(注意!リンク先はPDF)
http://www.baseball.ca/uploads/files/2015%20JNT%2BAUS%2BSelection%2BCamp%28Media%29%20Sheet1.pdf

イタリア選手名鑑(注意!リンク先はPDF)
http://www.fibs.it/FileDownloader.ashx?IdFile=51824&Cul=it-IT
※ファイル容量が大きいためページ読み込みに時間がかかる場合があります

@AZSnakepit:Jim McLennan ”Baseball Players: Does Size Matter?”
http://www.azsnakepit.com/2010/7/5/1550963/baseball-players-does-size-matter
(バッターとピッチャーの両面解析で、打者の方に長身が部分的に有利というデータが示されている。野球選手の長身化の話もさることながら、アメリカ全土の男性の平均身長が1900年の170.2cmから1970年には177.8cmに増えた(7.6cmアップ)、という記載が興味深い。日本男子も同期間でそれ以上となる10cm近い伸びを示したものの、1900年の平均身長は157.9cm、1970年は167.8cmと、その絶対値には絶対的な差があるようである)

axonpotential.com:For Baseball Pitchers, Height Does Matter
http://www.axonpotential.com/for-baseball-pitchers-height-does-matter/
(身長の高い投手の方が有利なのは、前に倒れ込む力がより強くなるから…というデューク大学のAdrian Bejan教授の説を紹介)

A. Bejan et al.  Int. J of Design & Nature and Ecodynamics Vol. 0, No. 0 (2012) 1-16  “The Constructural Evolution of Sports with Throwing Motion : Baseball, Golf, Hockey and Boxing”
https://constructal.files.wordpress.com/2013/07/dne146_baseball.pdf
(上記Bejan博士の論文のオリジナル。プロ野球選手のポジション毎の平均身長や、高身長ほど痩せているというデータあり。ゴルフのドライバーの飛距離と身長との相関、ボクシングのノックアウト数と腕の長さとの相関など、他にも楽しいデータが目白押し!)

Baseball Research Journal (2010秋版、Volume 39 Issue 2):Glenn P Greenberg “Does a Pitcher’s Height Matter?”
http://sabr.org/research/does-pitcher-s-height-matter
(高身長の投手の方が低身長よりケガしにくいと思われているが、データからその傾向は明らかでなかった)
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