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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/07/31

フランスにて腰を抜かす(2)…雑誌ル・ポワンが指摘する「魚は必ずしも体に良くない」の衝撃的理由

下の写真は昨年の11月、フィギュアスケートのグランプリシリーズ・フランス大会が通常のパリではなくボルドー開催となったゆえに図らずも滞在することになったボルドー市内で、スケートリンクの最寄りの某スーパーマーケットの魚売り場があまりに壮観だったために思わずパチリと撮影したものでした。海に囲まれている日本では珍しくもないと思われるでしょうが、国土が北のごく一部しか海に面しておらず国民が魚を食べる習慣がほとんど無いドイツにおいては、このような充実した魚売り場に出会う機会自体がごく限定されており、魚を食べたいと思ってもなかなか手に入らない現実があります。それだけに、漁業とワインの街で遭遇した魚売り場に「さすがボルドー!さすがフランス!」とばかりに思いっきり興奮かつ感動したことを、まるで昨日のことのように思い出します。(→エリック・ボンパール杯観戦記(1)…ボルドー散策で町田選手が道に迷ったのはこの教会?!

「魚を食べると頭が良くなる」という歌があるのははさすがに日本だけかもしれませんが、「肉は体に悪く、魚は体に良い」といった情報がメディアを席巻しているのは、何も日本だけに限りません。しかし、この後に及んでいきなり、「魚は必ずしも体に良くない」「魚は週3回以上食べてはいけない」などと突然言われたら、皆様はどう思われますか?毎日食べてるヨ~、という方もいらっしゃることでしょう。以前当サイトで取り上げたおコメや米菓子の無機砒素の話にも結構な衝撃を受けた私ですが(→過ぎたるは及ばざるが如し(2)…今度はコメと米菓子に有害ヒ素!離乳食も?ドイツが全土に警告を発した衝撃内容)、これで魚にも問題があるようなら、まさに日本食の一大危機です。その衝撃内容を含む記事は、フランスの雑誌「ル・ポワン」(Le Point)の中にありました↓。

ル・ポワン(Le Point)(2015年7月16日号 No. 2236):Manger intelligent...Vérités et impostures sur la santé(賢く食べる…健康にまつわる真実とペテン)
http://www.lepoint.fr/gastronomie/manger-intelligent-16-07-2015-1949267_82.php

表紙には、おいしそうな果物や野菜に肉・魚が並ぶ写真の上に恐ろしげなタイトルがサラリと印刷されています。例によって例のごとく、記事内容のうち上記リンク先から無料で読めるのは冒頭600文字のみで、続きを読みたい場合は「1ユーロ(≒約135円)から」と書いてあるところを経由して有料電子版を契約しなくてはなりません。ちなみに「1ユーロ」なのは契約月のみで、二月目以降は4週分7.90ユーロ(約1070円)、半年契約(26週分)なら39ユーロ(約5270円)、一年契約(52週分)なら78ユーロ(約10550円)となります。ちなみに、私は普通に駅のキオスクで購入しましたが、その単価は4ユーロ(約540円)と、電子版よりは割高になりますが、立ち読みで中を確認してから買うことが出来るのはやはり紙媒体の強みです。

さて、「賢く食べる…健康にまつわる真実とペテン」という衝撃タイトルの特集記事、その中身は各種食材の”健康神話”や世間的に流布する通説を徹底検証したもので、その真偽はともかく、なかなかよくまとまっており説得力もある内容でした。ここで全てを紹介したいのはやまやまですが、さすがにあまりにも膨大なので割愛したいと思います。しかし、この中で私がその内容の衝撃のあまり記事を床に落としてしまったという記事は、無料公開部分には含まれていません。しかし当サイトでは、その内容の重要性に鑑み、二週に分けてその全文和訳を紹介したいと思います。それは、上記記事内の「Alimentation, vérités et mensonges」(食料にまつわるマコトとウソ)というコーナーの中の一部で、「魚なら何でも健康に良い訳ではない」というタイトルの短い囲み記事です↓。(以下、引用は青字、強調は筆者。筆者注釈は赤字として区別。なお、訳文中のナンバリングは原文にはなく、読みやすくするため筆者が挿入したもの)

Le Point第2236号、51ページ:”Tout n’est pas bon dans le poisson”(魚なら何でも健康に良い訳ではない)
長い間、魚は食料品の優等生とされてきた。オメガ三系脂肪酸(n-3系脂肪酸とも呼ぶ、多価不飽和脂肪酸)やミネラルに良質のタンパクを含み、肉よりもカロリーが低い。しかし、よく言われるように、魚は週に2回までしか食べてはいけない…なぜなら、海や川が殺虫剤、重金属、PCB(ポリ塩化ビフェニル)(←日本では1960年代末~70年代の食品公害病の一つであるカネミ油症の原因として有名)で汚染されているからである。
最も汚染が酷いのは、
1.(食物連鎖の上位にいる)肉食系の魚(他の汚染魚をエサにすることで体内に汚染物質が蓄積)
2. 脂肪分の多い魚(汚染物質は魚の脂身に蓄積するため)
である。それなら、水産養殖の魚は良いのかというと、その衛生状態をコントロールするために抗生物質や殺虫剤が使用されており、これらの物質は往々にして我々の食卓にまで到達する。私たちの体にはそのような残留物質を中和・解毒する能力はあるが、その処理能力には限りがある(このため、魚を頻繁かつたくさん食べれば有毒物質の体内処理が追いつかず、人体に蓄積することになる)
ビオ(農薬・抗生剤不使用)の魚はより良いエサを使用しているが、飼育環境の水質もまた重要。
特に注意してほしいのは、ヒラメやカレイといった平らな魚の危険性である。これらは、海底に溜まっているありとあらゆる汚染物質を取り込んでいる。その他の問題として、フクシマ以来(depuis Fukushima)の太平洋における魚の汚染がある。


以上がまず、同記事の前半部分です。脂身の多い魚がダメなら、トロの大好きな日本人はどうなってしまうのか、ヒラメの刺身は食べてはいけないのか、のっけから心配になってきました。しかしそれ以上に、この記事の最大のハイライトは何と言っても「フクシマ以来の太平洋汚染」というくだりに尽きます。この一節が目に入ってきたのがそもそも先週紹介したル・モンドの社説を読んだ直後だったこともあり(→フランスにて腰を抜かす(1)…ル・モンドの社説が凄いことになっている件)、私は雑誌をポロッと落とした挙句に考えこんでしまったのでした。

記事内には、フランスにおいて元々「魚は週2回までと言われている」という主旨の表現が出てきます。おそらくこれは、魚に限らず、特定の食材に偏ることなくリスクを分散せよというのが本来の意味なのではないかと思います。ちなみにドイツの場合、「魚は週1回金曜日に食べよう」とよく言われ、表向きは宗教上の教義(キリスト受難の日である金曜日には肉を食べない)ということになっていますが、私の周囲を見渡す限りまるで守られている気配がありません(笑)。このドイツにおける「週1回(金曜)は魚を食べよう」なるキャンペーン、フランスの「週2回まで」より回数が少ないのは、魚が入手しづらいドイツならではの事情を汲んだものかもしれません。それよりも何よりも、日曜はスーパーだろうが百貨店だろうが全ての店が定休という恐るべき国ドイツにおいて、これは流通が止まる土日に魚を腐らせないための在庫処分という、ショーバイする側の都合なのではないかと、私自身は随分前から勝手に勘ぐっています。

そもそもル・ポワンという雑誌の読者層といえば、基本的にはフランス在住のフランス人か、フランス語の出来るフランス周辺の欧州他国の人間と思われます。そして、前述のような内容を読めば誰だって、「太平洋の魚はとりあえず避けておこう」と考えるのは火を見るよりも明らかです。なぜなら、彼らの目の前に広がっているのは大西洋であって、太平洋は遠い異国の海でしかないからです。そして日本は、今も現在進行形で汚染水の流出が延々と続く太平洋の魚とともに生きていく他にないのです。その裏で、欧州の中ではピカイチの日本びいき国家であるフランスにここまで書かれてしまう時代になった現実を、ル・モンドの社説に引き続き実感せずにはいられませんでした。

そういえば、この記事を読んだ数日後、フランス発のこのようなニュースが流れてきたのも、何かの因縁を思わせます。

AFP通信(2015年7月23日):仏、消費電力半減・原発依存度引き下げへ 議会が法案可決
http://www.afpbb.com/articles/-/3055293
フランス国民議会(下院)は22日、2050年までに国内のエネルギー消費を半減し、現在75%の原子力発電への依存率を2025年までに50%に引き下げる法案を可決した。
新法ではまた、2030年までに化石燃料の使用を2012年比で30%削減、温室効果ガスの排出量を1990年比で40%削減することを求めている。
フランスの原子力発電依存率は世界最高で、原子力エネルギー生産量は世界2位。原子力エネルギーの削減は、2012年大統領選でのフランソワ・オランド(Francois Hollande)大統領の主要公約だった。


(上記AFP通信の記事と同内容のドイツZDFニュースHeute Express画面。リンク先は末尾に記載)

この法案がオランド大統領の主要公約ということ自体、どう見ても日本の震災翌年に相当する2012年というタイミングが重要な役割を果たしたであろうことは想像に難くありません。この文脈を念頭に上記ル・ポワンの記事を読み返してみると、一度の事故で美味しい魚も他の食材もダメにしてしまうようなテクノロジーや環境汚染を目の当りにして、グルメなフランス国民一人一人の心の奥底に元々潜在していた警戒心や猜疑心が一気に表出し、そのムードの変化を各メディアの報道が捉えて文章家しているだけなのかもしれないとさえ思えてきます。このようなことの積み重ねが続けば、今後のフランスの政策を左右する原動力になっていくことでしょう。

ちなみに、この記事には後半部分があり、食べて良い魚と食べてはいけない魚が列記されています。これまた我々日本人にとっても非常に参考になる興味深い内容なのですが、長くなるので来週まとめて紹介したいと思います。


<参考サイト>
ZDF Heute Xpress(2015年7月23日):Frankreich stimmt für Energiewende(フランスがエネルギー政策を転換)
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/beitrag/video/2454360/Frankreich-stimmt-f%FCr-Energiewende?flash=off
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