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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/07/03

過ぎたるは及ばざるが如し(3)…味付グリル肉にご用心!バーベキューの季節に公表されたその惨憺たる品質

案の定というか、このコーナーも本当に第3回を迎えることになってしまいました(苦笑)。それもこれも、ドイツにおいてここのところ、何らかの食品の危険性が喧伝されることが毎週コンスタントに続いているからに外なりません(→過ぎたるは及ばざるが如し(2)…今度はコメと米菓子に有害ヒ素!離乳食も?ドイツが全土に警告を発した衝撃内容)。それにしても、よくネタが尽きないものと感心してしまいます。よりによって、キャンピングカー旅行やガーデンパーティーの大好きなアウトドア大好きなドイツ人にとって最良の季節であるはずの初夏のこの時期に、スーパーで売られているグリル肉の品質の酷さを伝える月刊誌「エコ・テスト」(Öko-Test:この雑誌の詳細については後述)の結果が全土に公表され、これを各メディアが相次いで報道したものだから、さあ大変!ということで、代表してコチラのニュース専門チャンネルN24の報道を和訳してご紹介したいと思います。

N24(2015年6月27日):Erschreckender Test So schlecht ist Grillfleisch aus dem Supermarkt(驚きの結果 - スーパーのグリル肉はこんなに酷い)(青字は記事からの翻訳。赤字は記事内にない筆者独自の注釈)
http://www.n24.de/n24/Nachrichten/Verbraucher/d/6887614/so-schlecht-ist-grillfleisch-aus-dem-supermarkt.html
・夏といえばグリルパーティーの季節だが、ビオ(オーガニック、有機・無農薬の農畜産物)の肉は高価なのと、自分で味付けするのは手間がかかるため、ついついスーパーの安い味付けグリル肉(マリネ加工された状態でパックされたステーキ肉)に手が出がちだ。しかし、最近発表された味付けグリル肉に関する「エコ・テスト」の調査結果は、そんなグリル好きの人間の食欲を損ねるようなものだった。
・「エコ・テスト」は、スーパーで販売されている豚の頚部のステーキ(日本でいう豚トロ)を13製品ピックアップして調査した(←各製品を数点ずつピックアップしており、サンプル数が13ではない)。その結果、全製品が品質の低いものであり、中でもクズ肉(Gammelfleisch:古くて変質した肉のこと)だったものが2サンプル、多剤耐性菌を含むものが4サンプル、抗生物質の残留のあるものが1サンプル見つかった。中には、賞味期限前にもかかわらず既に緑色に変色し、臭いもおかしいものもあった。
・繁殖している菌の種類自体は問題ないが、その数が多すぎる、というものが11サンプルあった。多剤耐性菌を検出した4サンプルは、(手に傷があったりする人がその肉に触ることで)危険な創傷感染につながる。
・抗生物質の残留が認められた1サンプルは、食べれば人体に移行する。
・さらに「エコ・テスト」のリポートには、これらの食肉を生産する牧場における動物たちの飼育環境が劣悪であることについても述べられている。
・ビオの肉製品は今回の調査で全て「gut(良)」の成績であり、「エコ・テスト」は消費者になるべくビオの肉を買うよう、そして、マリネ加工された製品を避けるようにと勧告している。



(写真左はエコ・テストの表紙。写真右は昨年のW杯サッカーブラジル大会の時期にドイツの大手スーパーマーケットチェーンの一つであるREWEから売り出されたマリネ加工済の豚ステーキ肉。2切れ入っており約300gのお値段が250円程度という安さ。ドイツにはこのように調味ソースに漬けた状態で真空パックされた生肉の販売が多く、そのまま焼くだけでよいという手軽さも人気の秘訣。ブラジルW杯にあやかってコーヒー・ペッパーを使用したスペシャルマリナードなる売り文句のステッカーが貼ってある。しかし、今回の報道に照らし合わせると、このように色の濃いマリナード・ソースに漬けられた肉は要注意ということになる。色や臭いが変質していても分かりにくく、品質を誤魔化すのに適しているというのがその理由だが、もうとっくに食べてしまったワタクシ…笑)

ドイツにとって、2005年から2006年にかけてこれでもかと続出した食肉スキャンダルは、その後に大いに尾を引いて今に至っています。2005年には上記記事内にも出てきた”Gammelfleisch”(クズ肉)なる単語が流行語大賞ならぬ「今年の言葉」の5位に選出されるなど(ちなみにこの年の大賞は「女首相」)、この頃よりドイツ国民は肉離れ傾向に拍車がかかり、ベジタリアンやビーガンの増加や寿司ブームにも多少貢献し、特にビオ食品の業界には大いなる追い風となったものでした。さらに2013年2月には、EU圏を広く股にかけた「馬肉混入ラザニア」で話題になった馬肉スキャンダルがあったかと思えば、その直後に今度は偽装の「ビオ」ラベルがついた非ビオの卵が流通するという「ビオラベル偽装事件」が勃発したりと、食をめぐる有象無象の攻防の記憶はまだ決して古くなってはおりません。こうなると、一体何を信じて生きて行けばよいのか、悩んでしまいます。自ら土を耕すことのできない一般消費者は、「安全安心な食品は金がかかる」と「食品の安全を気にしていたら金がもたない」という相反する思いの板挟みの中、よ~くお財布と相談しながら、安売りコーナーとビオ・コーナーの間をウロウロする他にないのかもしれません。

それでも、今回のような食品流通業界のイカサマが大々的に白日のもとに晒されること自体は、そのような彷徨える一般消費者にとってはありがたいことなのかもしれません。今回紹介したドイツの「エコ・テスト」は、1985年4月に創刊された消費者情報マガジンで、毎月10万部以上の売り上げを誇る月刊誌です。調査は抜き打ち覆面方式で、対象は今回のような食品に限定されず、化粧品から子供の玩具に日用品や工具、さらには何と保険や住宅ローンにまで及ぶという範囲の広さで、しかも全てが独自調査で、結果は自前の月刊誌に掲載されます。ネットでもその結果を見ることはできますが、その閲覧は無料のものもあれば有料のものもあり、このホームページからの収入も彼らにとっては貴重な財源となっています。

ドイツでは、同様の調査機関として「シュティフトゥング・ワーレンテスト」(Stiftung Warentest)というのも有名です。しかし、やっていることが似ているだけに、ここは「エコ・テスト」との間に熾烈なバトルがあるとも言われています。というのも、「シュティフトゥング・ワーレンテスト」は旧西ドイツ連邦政府の肝いりで50年半ほど前に誕生した歴史のある機関で、国やEUからは補助金が出ており、調査結果を掲載する自前の月刊誌「テスト」(test:1966年3月創刊、毎月の売上は40万部以上)や年一回のイヤーブック(下写真)は無広告であることが謳い文句なのに対し、「エコ・テスト」は国庫からの補助は一切無く、雑誌販売やネットの有料サイトからの収入のみならず広告収入も少なからず取っているからです。「エコ・テスト」誌上で調査結果が良かった商品は、少しページをめくるとその広告が載っているというパターンが珍しくないことから、今回のグリル肉に関する各報道のコメント欄を見ると、「ビオ業界のロビー活動の成果!」という読者の辛口コメントがかなり書き込まれていたりするのも、この背景を知ればナルホドと思わされます。


それでも、「シュティフトゥング・ワーレンテスト」という従業員数も総収入も5倍、雑誌売上は4倍という巨大なライバルの向こうを張って健闘する「エコ・テスト」があればこそ、商品を投入する企業に緊張感も危機感も生まれようというものです。「都合の悪い結果が出たら広告収入を引きあげて圧力をかければよい」という動きは、このような調査を果敢に行う組織が多ければ多いほど困難になります。逆に、良い調査結果が出た商品はこれ見よがしに「○○テストにてスコア△△点の優良評価」なるシールを貼って売り上げを伸ばしています。悪い調査結果を掲載されたくない企業にとって、これらの調査の影響力は絶大なのです。

ちなみに、このような市場商品の抜き打ち調査の企画は、よほど視聴率が良いのか、テレビでもさかんに取り上げられる傾向にあります。中でも有名なのは、ドイツ公営第2放送(ZDF)の「WISO」(月曜19:25~)という情報番組です。この中に、先述の「エコ・テスト」も真っ青の情け容赦なき抜き打ち覆面調査のコーナーがあります。時には歯磨き粉だったりシャンプーだったり、ジュースバーのオレンジジュースだったりと、毎週のように何らかの製品ないし商品のテストが商品名丸出し行われ、悪い結果が出た場合は製造元や親会社からのコメントも一緒に紹介されます。聞き苦しい言い訳に終始する企業もあれば、即座に対応に乗り出す企業があったりと、そのリアクション自体もまた消費者にとっては貴重な情報となり得ます。同様の企画は、もう一つの公営放送であるARDもよく行っています。日本で言えば天下のNHKに相当するこれらのテレビ局が、このような企画をコンスタントに流し続けるのを見るたびに、日本人である私はつい、見ていてヒヤヒヤしてしまうのです。

日本にはこのような調査をする機関がそもそもどれほどあるのでしょうか?あったとしても、ドイツの「シュティフトゥング・ワーレンテスト」や「エコ・テスト」のような強い影響力を業界に及ぼすメジャーな存在として発信することは、日本ではおそらく難しいでしょう。特定の商品の欠点を指摘したり、消費を低迷させるような内容を報道することは、たとえそれが真実であったとしても、スポンサーに配慮して自主規制という名のタブーと化してしまうことはないのでしょうか?最近、権力側の人間が「政府にたてつく新聞は潰すべき」「広告収入を潰すために経団連に働きかけよ」などと暴言を連発しているという報道がたて続いているようですが、今後私たち一般庶民は「だまされないための情報」をどこから取るのか、まさに正念場に立たされているのかもしれません。

(お肉は調味済みのものを買うのではなく、自分の手でソースやスパイスを選んで味付けしましょう!という今回のドイツ報道に、岩手放送のオラ君が俄然やる気を出しているところ)


<参考サイト>

ÖKO-TEST Juli 2015(2015年6月版):Grillfleisch Unter aller Sau(タイトルは直訳すれば「すべてのブタよりも下」、つまり、「非常に質が悪い」という意味)
http://www.oekotest.de/cgi/index.cgi?artnr=106331&bernr=04&seite=00
(上記リンク先がこのグリル肉に関する報告の原文。13ページにわたる長文が無料公開されている。しかし、図表を含むPDFは有料で4.50€)

Die Welt(2007年5月30日)経済欄:Verbraucherschützer - Krieg zwischen Stiftung Warentest und Öko-Test(消費者保護-シュティフトゥング・ワーレンテストとエコ・テストの戦争)
http://www.welt.de/wirtschaft/article904772/Krieg-zwischen-Stiftung-Warentest-und-Oeko-Test.html

Hamburger Abendblatt(2015年6月29日): Öko-Test Grillfleisch aus dem Supermarkt - die traurige Wahrheit (エコ・テスト:スーパーのグリル肉の哀しき真実)
http://www.abendblatt.de/nachrichten/article205426991/Grillfleisch-aus-dem-Supermarkt-die-traurige-Wahrheit.html

シュティフトゥング・ワーレンテストのホームページ
https://www.test.de/

エコ・テストのホームページ
http://www.oekotest.de/
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