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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/06/26

過ぎたるは及ばざるが如し(2)…今度はコメと米菓子に有害ヒ素!離乳食も?ドイツが全土に警告を発した衝撃内容

二度あることは三度あると言うか、歴史は繰り返すと言うべきか…。前の週の記事の執筆中に似たような内容の報道が飛び込んでくるというケースが最近妙に続いている当連載ですが、今回もまた同じような展開が待っていました。「豆腐の食べ過ぎ」に警鐘を鳴らすドイツの報道についてせっせと原稿をまとめていた先週半ば(→過ぎたるは及ばざるが如し…豆腐の食べ過ぎで腎結石という中国報道から得られる大食い的教訓)、今度は「コメの食べ過ぎ」に待ったをかけるこのような報道が次々とドイツメディアに登場してきました。これは、コメを主食とする日本にとっては、さすがに見過ごすことはできません。元々シリーズ化するつもりが全くなかった「過ぎたるは及ばざるが如し」が、期せずして今回晴れて第二回を迎えることになり、シリーズ化の予感がしております(笑)。



まず代表して、6月15日の新聞記事を和訳かつ要約して紹介します。その際、より分かりやすくするため、同日朝のドイツでオンエアされたZDFの朝の情報番組『Volle Kanne』から、該当するニュース解説映像のスクリーンショットを記事内容に連動させる形で貼り付けてみましょう。(動画そのものは日本からも末尾参考サイトで視聴可能)

RP Online(2015年6月15日):Bundesinstitut für Risikobewertung - Experten warnen vor Arsen in Reis und Reisprodukten(ドイツ連邦リスク評価研究所-専門家がコメと米加工品に含まれる砒素について警告)(記事内容は青字。赤字は記事内に記載のない筆者注釈)
http://www.rp-online.de/leben/gesundheit/ernaehrung/arsen-in-reis-bundesinstitut-fuer-risikobewertung-warnt-vor-krebserregenden-stoffen-aid-1.5165999
・ドイツ連邦リスク評価研究所(Bundesinstitut für Risikobewertung通称BfR)は、「コメと米加工品は無機砒素の濃度が高い」という調査結果を(6月11日に)公表した。


(BfRは日本で言う農林水産省と消費者庁を合わせたような省庁であるドイツ連邦食糧・農業省の下部機関で、所在地はベルリン。食料の安全などについて各種調査や勧告を行う。仕事内容は日本でいう内閣府傘下の食品安全委員会に近い)
・砒素は地殻内に存在する毒性化学物質で、金・鉛・コバルト・銅の精錬の際に環境へ放出される(他にも化石燃料の燃焼や窒素系化学肥料の使用による環境汚染の形での放出も)。薬品製造に使用されることもある。人体への致死量は60mg。人体内の代謝を阻害し、腹痛・嘔吐・下痢ひいては電解質・タンパク・水分を喪失することで死に至る。
食料品における砒素濃度は特にコメにおいて高く、これは多量に水を使用する水田というその栽培方法に起因する(水で地面を覆い空気中の酸素と接触させない方法)。コメは、地下水と地面から無機砒素を吸い上げる。

・BfRの最新の調査結果では、コメと米加工品においては(有機砒素よりも人体に対する毒性が強いとされる)無機砒素の濃度が相対的に高い
・「無機砒素化合物(anorganische Arsenverbindung)は人体に対して発癌性がある物質に分類されており、食料品からの摂取は合理的に達成可能な限り低く抑えることが望ましい(←これを「ALARAの原則」という:詳しくは後述)」とBfRのヘンゼル教授の弁。教授によれば、この研究で特に印象的だったのは、「コメそのものよりもライスワッフルなどの米を加工した食品の方が砒素濃度がより高く出た」ということ。

(上写真右:精米。左:コメをポップコーンのように膨化させた菓子(パフライス)の一種。パフライスを円板状にプレスして固めたこの菓子はドイツでは「ライスプッファー」と呼ばれ、中でもチョココーティングされたものが人気)
・なぜ米菓子などの加工品の方がコメそのものよりも砒素濃度が高くなるのかは不明。BfRは、「ライスワッフルやライスフレークなどの米加工品の摂取量をほどほどにするように」と勧告。さらに、「特に乳幼児や小児はコメをベースにした食料品や飲料のみで栄養を与えられるべきではない、ほんの少量でも体が過剰反応する」とも。
・グルテンを避ける(ためにコメを摂るようにしている)人々は、その栄養源をコメに頼るのではなく、他のグルテンフリーの炭水化物であるトウモロコシ(Mais)・キビ(Hirse)・ソバ(Buchweizen)・アマランサス(Amaranth)・キノア(Quinoa)を取り入れるよう、専門家は呼びかけている。
・とはいっても、コメを全く食べるなとは言っていない。バランスの取れた(ausgewogen)、バリエーションに富んだ(abwechslungsreich)食事をとり、主食の穀類の種類をマメに変えれば、人体に危険は及ばないと専門家は言う。


以上を読んでみて、食育と称して「米飯ドンブリおかわり○杯ノルマ」を吐きながら食べることを推奨する高校野球の世界に思いを馳せずにはいられませんでした。”体を大きくするため”という名目で(おかずの量はそのままに)コメばかりを何キロも偏食させる食事は、栄養バランスの観点からも医学的観点からもかつての「水を飲むな」に匹敵する暴論(宗教?)と当サイトでも口を酸っぱくして訴え続けているのですが(→高校野球界を席巻する不健康極まりない「白米偏向食」から裏読みする「伝統的和食」の一長一短)、その現場をドイツのBfRの専門家が一目でも見ようものなら、「日本の未来を背負う大切な若者を砒素中毒にする気か?麦を食え!いや、ヒエだ!アマランサスだ!」などと叫びだすのではないかと想像してしまいます(笑)。

ちなみに、上記記事の元ネタとなったBfRことドイツ連邦リスク評価研究所の公式発表は、以下のリンク先の2報゛です↓:

Bundesinstitut für Risikobewertung公式ホームページ2015年第14報(2015年6月11月発表):Reis und Reisprodukte enthalten viel anorganisches Arsen(コメとコメ加工品は無機砒素を多く含む)
http://www.bfr.bund.de/de/presseinformation/2015/14/reis_und_reisprodukte_enthalten_viel_anorganisches_arsen-194362.html

さらにその中のQ&Aコーナー(←PDF):
http://www.bfr.bund.de/cm/343/fragen-und-antworten-zu-arsengehalten-in-reis-und-reisprodukten.pdf

上記2報の内容は概ね、冒頭に引用した新聞記事にうまく網羅されています。ただし、この新聞記事では一つ、超重要事項が漏れています。それは、「食品内の砒素濃度にはまだ規制値が設定されていない」ということです。砒素の一時的な高用量摂取に伴う急性障害としては腹痛・嘔気・嘔吐・下痢・顔面浮腫が有名ですが、米飯の長期にわたる大食いの継続だけでは、このような急性障害に至る可能性はまず考えなくてよいでしょう。しかし、懸念されるのは低用量摂取が何十年もの長期間に渡って続く場合の慢性障害であり、そのリスクは皮膚変化・血管障害・神経障害・心疾患のみならず、不妊(reprduktionstoxisch)というのがあるのは今の日本にとって示唆的です。先のZDFの動画では医師で医療ジャーナリストのクリストファー・シュペヒト氏(下写真)が「砒素は人体に入ると、DNAの修復過程に組み込まれて発癌作用を示す。従って、体に入る砒素を少しでも少なくする努力が必要」と述べていますが、これが先程出てきた「合理的に達成しうる範囲でできるだけ低く抑える(as low as reasonably achievable)」から頭文字をとった「ALARAの原則」(ALARA-Prinzip)という概念です。これは元々ICRP(国債放射線防護委員会)の提唱する用語で、全ての放射性被曝に関する国際的原則であり、「放射能に安全な閾値はない…だから可能な限り避けられるものは避けよ」という先の福島第一原発事故の際の環境や食品からの放射性物質の取り込みについての基本原則でもあったはずでした(もっとも、こちらはALARAではなくアララな結果に終わりましたが)。


(ZDFの朝の情報番組の売れっ子医療コメンテーター、シュペヒト医師。難病治療の最先端のルポなどでも手腕発揮)

ちなみに、欧州連合では来る2016年1月1日よりついに、食品内の砒素濃度の規制値を新設する予定なのだそうです。その数値に関してもBfRは提言しており、目下のところ無機砒素濃度で精米0.2mg/kg、玄米0.25mg/kg、精米由来の米菓子0.25mg/kg、玄米由来の米菓子0.3mg/kgという数字が挙がっていますが、加工品の基準値がこれでは高すぎるので精米・白米の方に揃えるべきという議論も出ているので、今後まだ変動の余地がありそうです。なお、日本の農林水産省のホームページを見ると、2012年における日本のコメの無機砒素濃度は精米で平均0.12mg/kg(最大0.26)、玄米で平均0.21mg/kg(最大値0.59)とあり、これでは国際競争力という観点から課題があると言わざるを得ません(ちなみにタイのコメは砒素濃度が低い)。他方で、2004-2006年度の麦が平均0.009mg/kg(最大0.04)、同年度の大豆が平均0.008mg/kg(最大0.04)という、他の作物の数字を見てしまうと、コメ以外の国産穀物の量産体制の構築について今後もっと真剣に考えた方が良いのではないかと、私でなくても誰でも考えるのではないかと思います。

また、日本の米加工品の砒素濃度がどうなっているのかも気になります。せんべいやあられなどのコメ菓子や、「コメ粉パン」などで目にすることも増えてきた米粉に関して、有害物質のデータを当原稿締切時点では見つけることができませんでした(見つかるようなら後日報告します)。果たして、今の日本で子供たちにこれらのコメ由来の菓子製品を与えて本当に問題はないのでしょうか?もっと悩ましいのは赤ちゃんの離乳食で、コメ由来のおかゆを離乳食とするのは日本では良いこととされているようですが、先週のドイツはそれをダメだと全土に警告したのですが…!癌化だの心臓病だの不妊だのと後から言われても困ります!

なお、ドイツではコメよりも米菓子の方が砒素濃度が高くなる原因は不明とありましたが、その加工そのものに濃度上昇を引き起こす工程があるのか、それとも主食用に提供できないクオリティーのコメが加工品に回っているのか、真相はいかなるものでしょうか?そのあたりも含め、今後の日独における調査ひいてはデータを、ひとりの消費者としても注目していきたいと思います。

それでは最後に、さきほどから紹介しているZDFの朝の番組で紹介された、「ご飯の砒素濃度を下げるおコメの炊き方」を皆様にご紹介して終わりにしたいと思います。この方法、皆様はどう思われますか?

1) (左上) コメを冷たい水でよく洗う(←冷たいところがポイント)
2) (右上) たっぷりの水を鍋に入れて米を炊く
3) (左下) 炊き上がったら残った茹で汁を捨てる(←これが重要!ここで砒素が出ていく)
4) (右下) 鍋の余熱で残った水分を飛ばし、出来上がり
5) (下) そして最後は、素敵なイケメン君に鍋ごとテラスに持ってきてもらい、「いただきます!」



最後のイケメンやテラスはご都合で適宜アレンジしていただいて(笑)、これで砒素の懸念もスッキリ解消!と言いたいところですが、日本ではおコメを炊く際、茹で汁が残るような炊き方をする習慣がない上に、砒素除去モードを搭載した炊飯器も無さそうなので(メーカーの開発力に期待!)、これで果たして日本人の口に合うのだろうかと私は考えてしまいました。それでも、先程問題提起した赤ちゃんのための離乳食に関しては、この炊き方は必殺ワザになりそうです。赤ちゃんの後の人生に悪影響を及ぼす有害物質をカットしたおかゆを与えることが可能になると期待されます。そして、大人は普段の白いおコメを雑穀米や麦飯に変えることも有効でしょう。小さいことからコツコツと始めたいところです。

今回の結論もまた論語に行きつくことになりました。「過ぎたるはなお及ばざるが如し」、色々な食べ物にチャレンジすることでリスクを分散したいと考えている方に、この記事がほんの少しでも参考になるようであったなら幸いです。


<参考サイト>

YouTube - Arsen in Reis und Reisprodukten - Volle Kanne ZDF
https://www.youtube.com/watch?v=nkTTWAajzPs
(2015年6月15日オンエアの該当コーナーのYouTube版。本文中のスクリーンショットはこの動画から採用)

東京衛研年報Ann. Rep. Tokyo Metr. Res. Lab. P.H., 51, 150-154, 2000(←PDF)
玄米と精米中のカドミウム,銅,ヒ素の含有濃度比較
http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/journal/2000/pdf/51-28.pdf

農林水産省(2014年2月21日公表、2014年4月22日更新):食品中に含まれるヒ素の実態調査
http://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_as/occurrence.html#rice
(コメの他、麦、大豆の他、各種野菜、果実、海藻の総砒素および無機砒素濃度が載っています。これを見ると、海藻の砒素濃度もバカにならないようで、特にひじきの食べ過ぎには要注意です)

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