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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/06/12

これもアイルランド効果?「同性婚」で驚異の高視聴率を叩き出したドイツの国民的刑事ドラマ

先週は、同性婚の賛否を問うアイルランドの国民投票における賛成多数という結果とドイツの同性婚法制化に与えうる影響について、ドイツの報道を元にまとめました(→ドイツの同性婚法制化をめぐる報道で飛び出したアイルランドの国民投票の裏話)。これは元々、その前の週の記事(→日本の「方言禁止令」で思い出した10年前のドイツファッション界の帝王殺人事件)の執筆中に偶然流れてきた報道からインスパイアされたものでしたが、今回も再び似たようなことが起きました。先週の記事の執筆期間中、今度はドイツで毎週日曜夜に放送される超有名刑事モノ『Tatort』(タート・オルトと発音)のストーリー中に、いきなり同性婚の話題が出てきたのです。なお、『Tatort』とはドイツ語で「犯行現場」という意味で、日本でいうNHK第一に相当するドイツ公営第一放送(ARD)を中心に各地方局やオーストリア放送(ORF)などと共同制作する形で、1970年(昭和45年)11月29日から放送されている国民的長寿番組です。

ARD公式ページ - Tatort 2015年5月31日分- 「Erkläre Chimäre」(←「キメラを説明せよ」の意味)
http://www.daserste.de/unterhaltung/krimi/tatort/sendung/tatort-muenster-erklaere-chimaere-100.html



この5月31日オンエアの回は第949話だったというから、まずその長い歴史に脱帽です。今回はARDと西ドイツ放送(WDR)との共同制作で、舞台はミュンスターです。上写真にうつる男性コンビ、小太り金髪のティール刑事(右)とメガネ&ヒゲの監察医ベルネ教授(左)が協力して事件を解決するシリーズはこれまでだいたい年一回のサイクルで放送されており、東西ドイツ統一以降の全Tatortの視聴率ランキングの中でもトップファイブに2話もランクイン中という、近年ではダントツの一番人気となっています。

今回のストーリーをネタバレしない範囲で書くと、コンビの片割れの監察医がひょんなことから「ゲイ」「同性婚」を偽装しなくてはならない羽目に陥り、相方の刑事との結婚写真を勝手に合成してしまいます。それを見つけた刑事はは激高して嫌がりますが、その際に図らずも窒息しかけてしまい、監察医の即座の救命措置で命を救ってもらったものだから否応なく従うことに…。かくして、時には夫婦を装い、別の時はそれを隠し、辻褄合わせに四苦八苦する生活が始まる中、殺人事件が発生。「なんちゃって夫唱婦随(?)」の二人三脚で殺人事件の核心に迫っていくうちに、当人同士の雰囲気もだんだんそれっぽく変わってくる…という、コメディータッチが利きまくりのエピソードでした。被害者は酒の密売への関与が疑われるブラジル出身の青年、ストーリー後半には何と幹細胞移植の話まで出てくるという話のスケールの大きさに、最後までテレビに釘付けです!「ゲイ」は事件に多少関係してくるものの、デコボココンビの「同性婚」の方は全くのサイドストーリーでした。それでも、嫌がる刑事の右手薬指に監察医が強引に結婚指輪をねじ込むシーン(ドイツでは結婚指輪は右手にする人が多い)、事情を知らない刑事の父との辻褄合わせのシーン、窒息しかけた刑事に対する監察医のチョッとヤバ目に見える救急措置など、随所に同性愛ネタがちりばめられ、他のTatortだと間延びしてチャンネルを変えたくなってしまいがちな90分間が、それはもうあっという間に過ぎて行きました。この調子なら視聴率は凄いことになりそうだと確信する一方、日本でこの内容が放送されたらどうなるだろうかと想像しながら見ていました。

『Tatort』の放送枠は毎週日曜20時15分から90分間です。というと、日本のNHK大河ドラマを連想されるかもしれませんが、こちらは連続ドラマではなく各エピソードは毎回独立しています。制作を担当する地方局は回り持ちで、北ドイツ放送(NDR)ならハンブルグやハノーファー、ヘッセン放送(HR)ならフランクフルト、南西ドイツ放送(SWR)の場合はルードヴィッヒスハーフェン、ちなみに先週の日曜日の回はオーストリア放送(ORF)でウィーンといった具合に、週替わりで撮影地も出演者もゴッソリ変わるのが特徴なので、むしろ「火曜サスペンス劇場」「土曜ワイド劇場」の一時間半バージョンと考えた方が近いでしょうか。普段はだいたいドイツ全土視聴者数800万~1000万人の間、占拠率25~30%程度の数字をコンスタントに出す、高齢者層を中心に根強い人気を誇る番組です。それが、アイルランドの国民投票における同性婚賛成多数の報道が出てから最初の放送となった5月31日の回は、予想通りではありましたが、このような記録的数字を叩き出すことになりました↓。

視聴率調査会社Quotenmeterホームページ:2015年5月31日(日曜日)プライムタイムチェック
http://www.quotenmeter.de/n/78570/

上記リンク先によると、この回はドイツ全土視聴者数1301万人(うち14~49歳が414万人)、占拠率37.2%(14~49歳では31.8%)でした。これは、国民があまりテレビを見ないドイツという国にとっては「W杯サッカー」にも匹敵するかなり驚異的な数字で、東西ドイツ統一(1990年)により視聴率の算出方法が変わった1992年以降の同番組の視聴率ランキングでいうと、視聴者数では歴代3位、占拠率でも歴代3位という快挙です。しかも、ARDという放送局は(同じ公営放送ZDFとは対極の)右寄りのお堅いメディアで高齢者向け番組が多いというのがドイツでの立ち位置であり、今回のように若年層で予想外に視聴率が伸びたことも驚きをもって報じられています。それ以前に、いくらアイルランドの国民投票直後という絶好のタイミングとはいえ、そんなゴリゴリ保守のメディアが同性婚のドラマをゴールデンタイムにドカーンと投入すること自体がほとんど奇跡で(笑)、それこそ各メディアが放送前から大々的に取り上げまくっていたので、”アイルランド効果”が数字を少なからず押し上げたことは間違いなさそうです。

さらに別の視点で見てみましょう。この本年5月31日オンエアの回の撮影期間は昨年10月15日~11月14日、つまりクランクアップから6か月半でのオンエアだったようです。他のTatortシリーズについても調べると、クランクアップからオンエアまでの期間はだいたい半年~1年の間におさまり、最も多いのが8ヶ月~10ヶ月というケースです(←『元祖!大食い王決定戦』のクランクアップからオンエアまでがだいたい2ヶ月程度だったことを考えると、えらく長いように感じてしまいますが、ドラマの世界はまた違うでしょうし、日本とドイツの違いもありそうです)。それが、今回の同性婚エピソードのインターバルは極めて短い部類に入るようです。今回の高視聴率は、うまく時流を見極め、満を持してアイルランドの国民投票にオンエアをぶつけてきた放送局の戦略勝ちという側面もあるかもしれません。万が一、同性婚法案の雲行きが怪しくなるようであれば、ストーリー後半に出てくる「幹細胞移植」を前面に出して勝負する手もあったでしょう。とはいっても、相手が医学の進歩という不確定要素だけに、画期的なニュースにうまくぶつけるのは相当難しそうですが。

それにしても、今のこの21世紀という世の中、「同性婚」というテーマが日本のマスコミ用語でいうところの「数字」をここまで持っているのかと、今回は私に限らず多くのドイツの人々も驚いたようです。随分前から、アメリカのテレビドラマなどでレズビアンやゲイがストーリー展開の中で重要なカギを握る話がたくさんあり、さすがはアメリカ、と思って見ていましたが、ドイツもかなり時代に追いついてきたということでしょうか。

日本のテレビドラマの場合、脇役をレズやゲイとして設定するケースはこれまでも珍しくはありませんでしたが、主役級が同性婚してしまうようなドラマはかつてあったでしょうか?かくなる上は、例えば『相棒』(テレビ朝日系)で言えば、2代目相棒だった神戸君と鑑識課の米沢さんを結婚させて、大河内さんが嫉妬でキリキリするというような展開を是非とも期待したいところです(笑)。ものすごく楽しいエピソードになりそうなだけでなく、驚異的な視聴率が稼げるのではないかと勝手に想像しますが、日本の保守的価値観の方々の猛クレームも凄そうなので(笑)、なかなか容易ではなさそうです。それでも、今回のドイツのドラマの大成功を見る限り、日本でもLGBT(レズ・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)をきちんと正面から取り扱う番組が増えることは時代の必然であり、それも報道やバラエティではなく、ドラマの分野にもっともっと頑張ってもらいたいと期待しています。


<参考サイト>
フランクフルター・アルゲマイネ(2014年9月22日):Rekordquote beim „Tatort“ Die meisten Zuschauer seit „Stoevers Fall“ (「Tatortで歴史的視聴率」という内容)
http://www.faz.net/aktuell/feuilleton/medien/rekordquote-beim-tatort-die-meisten-zuschauer-seit-stoevers-fall-13166674.html
(昨年9月時点での過去の『Tatort』シリーズの歴代高視聴率トップ5について列記した記事。もちろん今回のエピソードは入っていないが、数字としてはこのランキングの3位に割って入る形になる。なお、東西ドイツ統一以降の史上最高視聴率を叩き出したのは、北ドイツ放送NDR制作でハンブルグが舞台の1992年7月5日オンエア「Stoevers Fall」という回で、視聴者数1580万人、占拠率52.8%。)

ディー・ヴェルト(2014年9月14日):Diese "Tatort"-Folgen erreichten die besten Quoten
http://www.welt.de/vermischtes/article132498735/Diese-Tatort-Folgen-erreichten-die-besten-Quoten.html
(東西ドイツ統一以前は視聴率算出方法が違っていたとのことであくまでも参考記録ながら、過去のTatortは特に1970年代が現代とは比較にならないほど高視聴率だったという、日本における昭和の時代のテレビの歴史ともダブる話。史上最高の視聴者数を叩き出したのは、1978年元日オンエアの「Rot – rot – tot」の2656万人で、その時の占拠率は65%。史上最高の占拠率は1978年2月12日オンエアの「Zürcher Früchte」の69%だが、この時の視聴者数は3位相当の2491万人。東西ドイツ統一前の西ドイツのみという、総人口が今よりも少ないにもかかわらず視聴者数が現代の2倍前後というところに驚かされる。高度成長を経てテレビが各家庭に行き渡るだけの経済力の向上があり、それでいてテレビ以外の娯楽の選択肢がまだはるかに少なかった時代ゆえの金字塔なのではないかと思われる)

ドラマTatortファンサイトより:2015年5月31日放送Tatort第949話「Erkläre Chimäre」(ARD/WDR)
http://tatort-fans.de/tatort-folge-949-erklaere-chimaere/

Wikipediaドイツ語版 - Liste der Tatort-Folgen(過去の放送タイトル一覧)
http://de.wikipedia.org/wiki/Liste_der_Tatort-Folgen
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