Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/05/29

日本の「方言禁止令」で思い出した10年前のドイツファッション界の帝王殺人事件

ドイツにいながらYahooニュースで日本の様子が分かるとは、大変便利な時代になったものです。しかし、このような記事に遭遇した日には、その内容のあまりの「日本っぽさ」に妙に脱力しつつも、これまたドイツの某有名事例が頭をよぎってしまい、先週の歯科談義(→高齢化社会の救世主?ドイツ発「耳なしパン」から学ぶ歯の健康の意味)に引き続き連想疲れに陥ってしまった…というのが、今週のお話です。

まず、私を限りなく脱力させたこちらの記事を以下にかいつまんで紹介しましょう↓。

NEWSポストセブン(2015年5月26日):芸能「有村架純が禁止令に違反か 沢口靖子や南野陽子も悩んだ方言」
http://www.news-postseven.com/archives/20150526_324661.html
・今季ヒット中の映画『ビリギャル』で映画初主演を果たした伊丹市出身の女優・有村架純が、上京後は公私ともに所属事務所から関西弁を禁止されている。
・しかし、今回の映画では名古屋弁を話す女子高生の役を演じ、4月の完成披露舞台挨拶で「関西弁と名古屋弁が混ざって変なイントネーションになり苦労した」と吐露。その特訓した名古屋弁も、「名古屋の人が聞いたら違和感がある」と、名古屋のテレビ局員の弁。
・過去には大阪出身の沢口靖子や伊丹市出身の南野陽子も訛りに苦労。
・実際の有村はバラエティでたびたび関西弁を使用、それがかえって可愛いと評判。


何だか、「禁止令」などと物々しい表題の割には、内容が大きくトーンダウンしており、結局何が言いたいのかわからない記事になっています。関西人が完璧な名古屋弁を話すのが困難であることは、普段の関西弁を禁止しようがしまいが関係ないはずです。そもそも、NHKのアナウンサーならともかく、俳優さんのプライベートにまで「方言禁止令」がどうして必要なのでしょうか。私自身がそれこそ、生まれてからこのかた「名古屋弁と関西弁とドイツ語のごちゃ混ぜ」で育ったのみならず、この10年ほどはドイツ語と英語とフランス語を三つ巴で使う異様な事態(笑)に陥っていることもあり、問題は”変なイントネーション”だけにとどまらず、最近は”日本語が咄嗟に出てこない”という、「アルツハイマーちゃうか?」と底知れぬ不安に見舞われる場面もちらほらで、この記事はとても他人事として読み流すことはできませんでした

そういえば、NHKのアナウンサー繋がりで思い出すのが、甲子園の高校野球解説です。NHKの甲子園解説者の場合、訛ることが許されているのは関西弁の話者のみだという話で、その他の地区から来た解説者は標準語を話さなくてはならないそうです。これが意外に大変で、少しでも不安があれば事前に「NHKアクセント辞典」というチョー分厚い辞書と首っ引きで確認に追われると、知人解説者から直接伺いました。今年も、「敦賀気比(つるがけひ)」のアクセントは「け」にかかるのか、それとも「ひ」の方か…という話題だけで宴席が大いに盛り上がっていました(ちなみにNHKは「ひ」にアクセントが正解。しかし、在阪他局は「け」の方を強調することが多く、正直言ってNHK版の方が違和感を覚えた。そもそもアクセントの正誤は一体誰が決めているのかと不思議に思う)。


さて、話は急にドイツに飛びます。「10年前」と「方言」とくれば、私には忘れられない思い出があります。今から10年と数か月前、就職活動準備と視察を兼ねた久しぶりのドイツ訪問の際、テレビから流れてきたショッキングな殺人事件の報道に接することになったのです。犠牲になったのは、当時のドイツでは知らぬ人はいなかった超有名ファッションデザイナー、ルドルフ・モースハマー (Rudolph Moshammer、享年64)。今年の1月14日でその事件からちょうど丸10年でしたが、ここで故人の略歴を簡単に紹介しましょう:(青字はWikipediaに記載のあるもの。赤字は筆者加筆の注釈)

Wikipediaドイツ語版 - Rudolph Moshammer
http://de.wikipedia.org/wiki/Rudolph_Moshammer
・1940年9月27日ミュンヘン生まれ。愛称はMosi (モーズィー)。
・父は保険会社の部長だったが、ルドルフの生後間もなく職を追われアル中となり、母エルゼ(1908-1993)は幼いルドルフを連れてそんな父から逃げるように転居、残された父はホームレスとなり一年後に死去
・学校で小売業専攻、卒業後は1960年代より服飾販売およびデザインに従事。1968年に独立、母と共に設立したブティック「Carnaval de Venise」(ベニスのカーニバル)が大成功。オートクチュールにこそ所属しなかったが、顧客には王侯貴族から政治家、芸能人までビッグネームが多数名を連ねる。
・本業のブティック経営のみならず、自らのキャラクターを前面に出した精力的なメディア出演でも知られる。憧れのバイエルン王ルードヴィッヒ2世に似せて黒く高く結い上げた髪型、傍には必ず飼い犬のヨークシャーテリアのデイジーちゃん、移動はロールスロイス、という3つがトレードマーク。
・ドイツの国民的刑事ドラマシリーズ「Tatort」(←「犯行現場」の意味、日本でいう「相棒」シリーズのような長寿番組)(1995)、映画「666 – Traue keinem, mit dem Du schläfst!」(←「666 - 一緒に寝るヤツを信用するな!」の意味、脚本&監督は日系ドイツ人のライナー・マツタニ)(2002)などに出演歴あり。2001年には地元バンドとのコラボでユーロビジョン・ソングコンテストの予選にも出場。
社会活動でも大きく貢献したことで知られる。父親の一件もあり、特にホームレス支援に力を入れていた。自分名義の基金「Licht für Obdachlose」(ホームレスのための光)を設立、ホームレスを販売員とするストリート新聞「BISS (Bürger in sozialen Schwierigkeiten)」(←日本や英国の「ビッグイシュー」に相当)の販売員の後見人(代父)となり、断酒施設の支援、私費を投じての炊き出し、取り壊し寸前だったミュンヘン市内最古の旅館兼食堂「Hundskugel」の買い取りと再建(1983年)など(ただし2011年に旅館兼食堂としては営業終了、現在は国際協力を行う法人の事務所となっている)。
ホモセクシュアルであった。2005年1月13日の夜にミュンヘン駅前で声をかけて家に招いた25歳のイラク人男性との間で金銭報酬をめぐって揉めたことを原因に、未明に絞殺されたとされる。事件そのものよりも、加害者が事件翌日に早速スピード逮捕されたことの方が話題となったが、これは加害者に前科(暴行および性犯罪)があり、その時に連邦刑事局(BKA)が採取して保管していたDNA分析結果と今回の殺害現場の証拠が一致したため。この事件が、連邦刑事局によるDNAプローブ採取をどの程度以上の犯罪に対してデータベース化してよいものか(←なんでもかんでもデータ保存すると監視社会になってしまうという懸念から)という観点から、国会などでも大論争を巻き起こした。



上の写真は、下記参考サイトのリンク先記事1)から引用しました(撮影:アーベントツァイトゥング社)。左から2人目がモースハマー氏で、右手にストリート新聞「BISS」を三部、左手にヨークシャーテリアのデイジーちゃんを抱えています。右から2番目のスーツ姿がビシッと似合う男性は何とホームレスで「BISS」の販売員のティボール・アダメッチ氏(Tibor Adamec)で、77歳となった今も健在とのこと。この写真は、21年前にモースハマー氏が後見人となった際のものですが、同時期にモースハマー氏が後見人となった他のホームレス2名は既に亡くなったそうです。

それにしても、この写真のアダメッチ氏、とてもホームレスには見えません。モースハマー氏が生前に強調していた「Obdachlosigkeit ist nie selbstverschuldet (ホームレスとは自らの責任でなるものではない)」という信条が俄然真実味を帯びてきます。モースハマー氏に対しては、その死因が死因なだけに、擁護意見ばかりではないのですが、社会的弱者に対しての様々な支援やミュンヘンの古典的建造物を現代化の波から守る活動などにおいて、このファッション界の帝王は今も一目を置かれる存在で有り続けています。そういえば、当時のモースハマー氏の葬儀はドイツ全土に中継され、ほとんど国葬の様相を呈しており、ルドルフ2世も真っ青の帝王扱いに私は大いに驚いたものでした↓。


(下記参考サイト2)より。2005年1月22日の葬式の模様。モースハマー氏の亡骸を載せた最前列の車が、ミュンヘンの目抜き通りに面する故人経営のブティック「ベニスのカーニバル」の前を通る瞬間)

さて、私が久しぶりにドイツに辿り着いたのは2004年の年末で、当時モースハマー氏はまだ健在でした。ある日、何気なくテレビをつけたところ、ちょうどモースハマー氏がテレビの通販チャンネルにワンコのデイジーちゃんと一緒に生出演していました。私の目にはその第一印象は「塩沢ときさんに似ているな~」だったように思いますが、後に知った社会貢献などの活動からみる氏のドイツでの立ち位置はむしろ、「ドイツ版・黒柳徹子さん」と言った方がピッタリかもしれません。ちなみにこの番組では、たしか御自身のデザインしたネックレスとイアリングのセットを販売中で、この時のモースハマー氏の電話をかけてきた視聴者に対するそれはもう親しげで巧みな話術は圧巻の一言で、隣のデイジーちゃんともども人懐っこく、庶民的な性格もよく表れていました。

ただし、この人物、さすがはミュンヘンに生まれ育っただけのことはあり、強烈なバイエルン訛りです。大学の授業を最後に長らくドイツ語に接してこなかった私にとっては、あまりにも標準語からかけ離れた聞き取りづらいものだったため、この人は外国からの移民なのではないかと勝手に思いこんでいました。というのも、この「モースハマー(Mos-hammer)」という名前を「モシャマー(Mo-shammer)」と、区切る箇所を間違えて、アラブ系の苗字かと勘違いしてしまったからです。何となく、モハンメド(Mohammed)に綴りが近いように見えませんか?かくして私は、今聞けば典型的なバイエルン方言とわかる言葉を話す生粋のドイツ人デザイナーを、完璧にアラブ商人と信じこんでしまったのでした。いまだに、この時の話をドイツ人に説明するたびにバカ受け必至で、恰好の飲み会ネタを毎度のように提供しております(笑)。

それにしても、日本のモードの世界ではオネエ言葉こそあれ、モースハマー氏のような田舎方言丸出しの人が果たしていただろうか?そう考えると、あらためて今回の日本の「方言禁止令」の記事にとどまらない「アクセントへの過剰反応」という名の自主規制の風潮に対し、独特の息苦しさを感じずにはいられません。この調子だと、「関西弁だけが例外」の世界すら、いずれは徹底矯正の波に飲まれてしまいそうです。生まれ育った土地の言葉やアクセントを個性として受け入れる心の大らかさのみならず、人の価値をその志と行いで評価することの大切さを教えてくれたドイツファッション界の帝王、ルドルフ・モースハマー氏を偲び、死後10年というこの記念の年にあらためて心から御冥福をお祈りしたいと思います。


(下記参考サイト1)より引用。モースハマー母子の霊廟の写真。なお、飼い犬のデイジーちゃんもご飼い主の1年遅れとなる2006年10月24日に13歳で他界)


<参考サイト>
1) Abendzeitung (2015年1月14日):Zum Todestag des Münchner Modezars - Moshammer: Ein goldenes Herz, das Spuren hinterlässt(ミュンヘンが生んだファッション界の帝王モースハマーの命日によせて:今に軌跡を残す黄金の心)
http://www.abendzeitung-muenchen.de/inhalt.zum-todestag-des-muenchner-modezars-moshammer-ein-goldenes-herz-das-spuren-hinterlaesst.df33c44a-16d5-4a91-b3fc-c88be63ba12c.html

2) Die Welt (2015年1月14日):Als ein Stricher Rudolph Moshammer erdrosselte(行きずりの男がルドルフ・モースハマーを絞殺した時)
http://www.welt.de/regionales/bayern/article136333812/Als-ein-Stricher-Rudolph-Moshammer-erdrosselte.html
バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483