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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/05/15

ドイツ終戦70周年(2)…ウィンクラー演説に聞き入るドイツの要人たちの姿に思う

ドイツ終戦70周年(2)…ウィンクラー演説に聞き入るドイツの要人たちの姿に思う

先週は、終戦70年の節目の5月8日を迎えるドイツのスタンスについて事前に紹介した現地報道の一つをご紹介しました(→ドイツ終戦70周年(1)…変わりゆく5月8日を今年のドイツはどう迎えるのか?)。そして、ついに迎えたこの記念すべき日、お茶の間の全国民の前で演説したのは、大統領でもなく首相でもなく、80年代の歴史修正主義論争における「アンチ歴史修正主義」の論客としてその名が知られる歴史学者のハインリッヒ・アウグスト・ウィンクラー氏でした。そして、その演説内容もさることながら、何よりも印象的だったのは、その歴史学者の演説を国家元首たるガウク大統領やメルケル首相などの要人が生徒の如く横一線に着席しながら拝聴するという、まるで学校の授業のような、日本ではとても考えられない構図でした。


(Odd Andersen撮影/AFP通信配信の写真から↑)右端の演壇の男性が演説中の歴史学者ウィンクラー氏。演壇に向かって並んで座り、中にはその長~い脚を組んだりしている男性三人と女性一人は、演壇に向かって右から左に連邦参議員議長(兼ヘッセン州首相)フォルカー・ブッフィエ(Volker Bouffier)、連邦大統領ヨアヒム・ガウク(Joachim Gauck)、連邦首相アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)、連邦憲法裁判所議長アンドレアス・フォスクーレ(Andreas Voßkuhle)の四氏です。ウィンクラー演説は全文がネットに公開されていますが、あまりにも長いので、この写真が使用されているターゲスシュピーゲル紙の記事を紹介するにとどめます。(青字は記事を筆者が和訳かつ要約したもの。赤字は本文にはない筆者注釈)

Der Tagesspiegel (2015年5月8日):Historiker Winkler:”Es lässt sich kein Schlussstrich ziehen”(歴史家ウィンクラー曰く「歴史問題に終止符は存在しない」)
http://www.tagesspiegel.de/politik/bundestag-gedenkt-dem-kriegsende-historiker-winkler-es-laesst-sich-kein-schlussstrich-ziehen/11750238.html
・5月8日の金曜日、歴史学者ハインリッヒ・アウグスト・ウィンクラーが連邦議会において40分に及ぶ演説を行った。
・ウィンクラー氏は2007年までベルリン・フンボルト大学でドイツ近現代史の教授を務めた76歳。
・「終戦イコール自分自身の解放でもあるというとに気付いていたドイツ国民は決して多数派ではない」、つまり、先の敗戦が実は自分自身の(ナチス体制からの)解放をも意味していたとドイツ国民が知ったのは、随分後になってからであると述べたウィンクラー氏は、80年代の歴史論争でナチスドイツの犯罪をソビエトのグーラグ(強制収容所:ソ連の管理課にあった政治犯用刑務所のこと)との対比を持ち出して過小評価しようとする歴史修正主義勢力と対決した経歴を持つ。
・後年ドイツが(1990年に)再統一を果たすことができたのも、ひとえにそれまでドイツがその歴史のダークな部分と向き合ってきたからである、「このような歴史を持つ国である以上、過去と向き合う作業には決して終止符が打たれることはない」と、ウィンクラー氏は言う。ドイツが過去に行ってきた虐殺(Massaker)は現代にも影響を折々に影響を及ぼし、そこから国際社会を守る道義的な責任も生まれるのだと言う。
・ロシアのクリミア併合は「国際法違反」であり、第二次世界大戦後に戦勝国側が取り決めた講和条約に違反しているとウィンクラー氏は言う。ドイツが仲裁に尽力していることは評価するが、他国への関心が薄れてもいけない。「ポーランドやバルト海沿岸諸国が、物事が自分たちの頭上を飛び越してモスクワとベルリンだけで決められ、そのツケだけを自分たちが払わされると感じるようなことがあってはならない」、とも言う。
・ウィンクラー演説の前後には、連邦議会議長ノルベルト・ランメルトと参院議長フォルカー・ブッフィエの両名も演説した。ブッフィエ氏は5月8日の意味を強調した上で、「(ドイツが歴史に対する責任を引き受けるのは)5月8日に限らず毎日でなければならない」と締めくくった。


なお、本文中に出てくる”敗戦イコール解放」ということに気付いていた国民は当時多くなかった”という一文は明らかに、「1945年はドイツ国民にとって、敗戦の年である以上に(ナチズムからの)解放の年となった」という1995年の有名なヴァイツゼッカー大統領演説を受けたものと思われます。さらに、”ダークな過去と向き合うことに終止符が打たれることは無い”という、この記事のタイトルにも採用された表現は、日本語に訳すなら「暗い歴史を清算することは不可能」の方がピッタリかもしれません。

それにしても今年のドイツの終戦記念日、大統領や首相が自ら談話を出すのではなく、あくまでも虚心坦懐、ひたすら聞き役に回ったということ、そして、そのような姿を内外のメディアに大々的に報じさせたこと自体、重くて消えない過去を抱える国としてはなかなか良いアイデアであったように思います。「政治家が歴史をこね繰り回したり、政争の道具にしてはいけません…まずは歴史専門家の話をちゃんと聞きましょうね」という、ドイツ国民の頭上をも通り越して近隣諸国、ひいては極東にまでも届けようというメッセージなのか、妙に勘ぐってしまいます。ロシアのみならずギリシャとの問題も抱え、目下難しい局面にあるドイツではありますが、今後も日本にとっては目が離せない、何かと参考になる存在であり続けることでしょう。
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