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Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/05/08

ドイツ終戦70周年(1)…変わりゆく5月8日を今年のドイツはどう迎えるのか?

ドイツ終戦70周年(1)…変わりゆく5月8日を今年のドイツはどう迎えるのか?

この原稿が掲載される5月8日といえば、ドイツはドえらいことになっているはずです。というのも、70年前のこの日こそ、第二次世界大戦のヨーロッパにおける終戦日だからです。既に先月末頃から各メディアが関連記事を続々と報じ、あちこちで「終戦」「ホロコースト」「解放」といった単語が躍っていますが、何せ終戦70周年の区切りの年だけに、当日のドイツがどのような雰囲気になるのか、同じ大戦の敗戦国である日本にとっても気になるところです。

ということで今回の当コラムでは、今年の5月8日を迎えるに相応しいこちらの解説記事を紹介したいと思います。この記事は、ドイツにおける5月8日の意味とその変遷、そして今年のこの日の予定が比較的よくまとまっています。以下に、同記事を和訳して要約を紹介します↓。

Mitteldeutsche Zeitung(中部ドイツ新聞)(2015年5月5日):Deutsche Geschichte - Warum der 8. Mai kein Feiertag ist(ドイツの歴史:終戦記念日の5月8日はどうして祝日でないのか)
(以下、同記事からの内容の要約は青字、本文中にない内容の筆者注釈は赤字で区別している)
http://www.mz-web.de/politik/deutsche-geschichte-warum-der-8--mai-kein-feiertag-ist,20642162,30618896.html
・かつて、5月8日のドイツといえば1995年には時の連邦大統領ローマン・ヘルツォーク(Roman Herzog)が仏・米・英・露の首脳をベルリンに迎えたり、1985年にはヴァイツゼッカー大統領(Richard von Weizsäcker)の「1945年はドイツ国民にとって、敗戦の年である以上に(ナチズムからの)解放の年となった」という有名な演説があったりした。
・では今年はというと、「5月8日」は国家的行事とはならない。衆参両院議会合同での記念行事は、通常審議に入る前の一時間に限定される。今年、この一時間の枠で演説するのは政治家ではなく、(歴史修正主義批判の論客の代表格としてドイツでは有名な)歴史家のハインリッヒ・アウグスト・ウィンクラー(Heinrich August Winkler)だ。
・ドイツ周辺の西側諸国では祝日となっていることも多い「5月8日」だが、旧西ドイツでは祝日だった事はこれまでない。なお、旧東ドイツではこの日は1950年から1966年まで「解放の日(der Tag der Befreiung」として祝日だったが、週休二日制の導入とともに廃止され、その後は1985年の終戦40周年の際に休日となったきりである。1990年の東西ドイツ統一以降、「5月8日」はその時々の政治情勢の影響を映す鏡となった。ドイツ統一後5年弱である1995年にヘルツォーク大統領が旧・連合国の首脳を前に演説した内容は、(ドイツ統一に反対しないでくれてありがとう…という)「各方面への謝辞」の意味合いが強かった。
・ヨアヒム・ガウク大統領(Joachim Gauck)と同様、アンゲラ・メルケル首相(Angela Merkel)、そしてフランク・ワルター・シュタインマイヤー外相(Frank Walter Steinmeier)にとっての今年の終戦記念日は、目下のところこじれにこじれているロシアとの関係で手一杯である。今年の5月8日、ガウク大統領はドイツのブランデンブルグの戦没者墓地訪問、シュタインマイヤー外相はボルゴグラード(旧・スターリングラード)訪問、メルケル首相は(時差の関係で5月8日ではなく5月9日が戦勝記念日である)ロシアのモスクワで行われる戦勝記念式典には参加せず、その翌日にモスクワを訪問、プーチン大統領と一緒に(ケンカではなく!)献花をする予定。ウクライナと戦争しているロシアへの配慮という観点からは、他のスケジュールは選択のしようがないのではないか?
・終戦50周年だった1995年5月、ドイツのシュピーゲル誌は表紙に『Bewältigte Vergangenheit』(清算された過去)の二語しかない版を刊行したのだが、実際はそんなに単純な話だったためしがない事は、当時も今も変わっていない。そのあたりを、今週の金曜日の連邦議会でハインリッヒ・アウグスト・ウィンクラー氏はきっとドイツ全土の国民に説明してくれることだろう。「どうしてこのような”過去”がいつまでも”現代”を凌駕し続けるのか」について。



(上記記事に付属のDPA配信写真:ドイツ元帥で国防軍最高司令官だったウィルヘルム・カイテル(1882-1946)が1945年5月8日に降伏文書に署名するシーン。机上の帽子に杖と、署名の為に外したと思われる裏返しの右手袋が印象的なカット。なお、カイテル氏はこの翌年、ニュールンベルグ裁判を経て絞首刑となった)

以上の記事を読んで、ドイツにとっての5月8日は、単にフランスやイギリス、ベルギーなどの近接する戦勝国のみならず、ウクライナ問題で新たな展開を迎えている対露関係までも視野に入れ、各方面に目一杯気を使わなくてはならない日であるようで、日本とはまた質の違う外交の難しさを伺わせます。そして、この日に全国民の前での講演という大役に抜擢された歴史学者のウィンクラー氏に、必然的に興味が湧いてきます。

ちなみにWikipediaドイツ語版によれば、ハインリッヒ・アウグスト・ウィンクラー氏は1938年12月生まれの76歳。1944年まで東プロイセン、以後は南ドイツで育ち、大学以降の専攻は歴史・哲学・公法・政治学など。ウィンクラー氏が有名になったのは、何と言っても1986年に西ドイツで大論争を巻き起こした”Historikerstreit”(歴史論争)。「ナチス犯罪の過小評価」や「自虐史観からの脱却」といった歴史修正主義的立場をとる学者の講演録を1986年6月6日付紙面で掲載したフランクフルター・アルゲマイネに対し、以降の読者投稿欄上で非難が殺到、さらにそれに対する反論も重なるなど、喧々諤々のディベートが紙面上にとどまらず全メディアを巻き込んで約1年続きました。その際に登場した「アンチ歴史修正主義」の論客の一人として、ウィンクラー氏は比較的若手の部類に属しておりました。したがって、既に鬼籍に入っている方も多い中にあり、今年に入ってからもドイツ現代史の通史的な歴史書を続々刊行中という、今も若々しくピンピンした人物であります。

そもそも、ウィンクラー氏が5月8日の連邦議会の講演者として抜擢されたこと自体を見るにつけ、その話の方向性から結論まであらかた想像できてしまいます。とは言っても、その内容次第では今年の日本の終戦70周年談話の評価にも絡んでくる可能性が大いにあります。ひとまずは今週の金曜日の氏の演説内容を、はるか極東の日本からではありますが注目しておきたいと思っています。


<参考サイト>

Wikipediaドイツ語版:Heinrich August Winkler
http://de.wikipedia.org/wiki/Heinrich_August_Winkler

Wikipediaドイツ語版:Historikerstreit
http://de.wikipedia.org/wiki/Historikerstreit
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