Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/03/20

朝日新聞偏重が目につくメルケル首相訪日をドイツ連邦政府の写真から振り返る

先週の当コラムでは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が先週の3月9日から1泊2日という超強行軍の来日を果たしたことについて、首相来日前のドイツメディアの報道内容を中心にまとめました。(→往復23時間のフライトで日本滞在30時間弱!60歳のスーパーウーマン、メルケル独首相の確信犯的メッセージ

その並みいるドイツメディアの報道の中で、私が個人的に最も驚いたのは、「来日後のメルケル首相の講演の主催者に、ドイツ側があえて左寄りリベラルの朝日新聞を選んた」という内容でした。従軍慰安婦問題のみならず吉田調書でもミソを付け、ドイツでは「日本の保守主義者たちから袋叩きに遭っている」とまで報じられている朝日新聞を、ドイツの首相ひいてはドイツ政府が全面アシストするという話だけに、本当なのかと疑う気持ちと、実は確信犯なのではないかという気持ちが、心の中で半々というのが正直なところでした。

しかし、そんな私の漠然たる印象が動かぬ確信に変わったのは、コチラの記事を見た瞬間でした↓。

朝日新聞デジタル(2015年3月10日20時05分):メルケル独首相が帰国 女性リーダー10人と朝食会
http://www.asahi.com/articles/ASH3B55HWH3BUHBI01B.html

アシモ君との握手失敗で始まった日本訪問の全行事のうち、最後から2番目となったのがこのたくましそうな女性陣との朝食会でした。来日前のドイツメディアでは「指導的地位にある女性たちとの会合」(Treffen mit Frauen in Führungsposition)なる文言で予告されていたこの会合、実際にどのような人たちが参加するのか皆目見当がつかなかったのですが、この朝日新聞の記事には参加者として岩田喜美枝・21世紀職業財団会長、林文子・横浜市長、岡本直美・連合会長代行の三名が挙げられています。一見、”女子会”のような華麗な雰囲気がありますが(?)、この日本の女性陣とメルケル首相との意見交換というのがこの会の名目です。

たったこれだけの短い記事ですが、これは大きなヒントとなりました。というのも、この朝食会について、朝日以外に報じた日本メディアが全く無かったからです。つまり、これは朝日の独占ネタだったことになります。どうしてそのようなことが可能になるのか、上記写真についているそのキャプションを見れば理由は一目瞭然でした↓。

”東京都内で10日朝、日本の「女性リーダー」10人と朝食を共にし、意見を交わすドイツのメルケル首相(右奥)=ドイツ政府提供”とあります。ポイントはこの「ドイツ政府提供」という部分です。つまり、これはマスコミを一切入れない私的会合だった可能性が高いのです。どうりで会話の内容などの詳細が朝日以外の日本メディアはおろか、ドイツメディアにも全く漏れ伝わってこない訳です。中身を知っているのが実際に参加した日本の「女性リーダー」の方々とドイツ政府関係者しかいないのだから、当然です。

当初、何重にネット検索してもこの会合に関する報道が(日独ともに)全く引っかかってこなかった時点で、私はてっきり会合そのものが中止にでもなったのだろうかと気になっていました。しかし、現実に会合は開催されており、記事は当日夜になってようやく朝日新聞デジタルより配信されました。写真右下に小さくクレジットされている”Bundesregierung❘Denzel”とは「連邦政府❘デンツェル」の意味で、つまりこの写真はドイツ政府関係者御一行の中の誰か(デンツェルさん?)が会場内での様子を伝えるパチリと撮影し、それを朝日新聞にだけピラッと渡したものであると考えるのが自然です。大ネタから小ネタまで、朝日優遇をよくもまあここまで徹底したものです。

ちなみに、この会合に関しては、ドイツメディアの報道はほとんど見つからず、まして写真は皆無でした。その代わり、ドイツ連邦政府のメルケル首相公式ホームページというのがあり、その中にこれと全く同じ写真を見つけました↓。

Die Bundeskanzlerin (直訳すれば「ザ・女性首相」を意味するアンゲラ・メルケル首相公式ホームページ):Mediathek - Die Kanzlerin im Bild(女性首相フォトギャラリー)
http://www.bundeskanzlerin.de/Webs/BKin/DE/Mediathek/Einstieg/mediathek_einstieg_fotos_node.html;jsessionid=88ED13B0B5C106E983A5609FCC28B3E7.s4t2?cat=fotos


このサイト内には、写真シリーズ”Kanzlerin Merkel in Japan”(メルケル首相の日本旅行)と題し、朝日新聞以外では見ることの少ない朝日新聞本社訪問の際の写真、さらには他のどの媒体にも掲載がない首相公邸での安倍首相との夕食会の模様などが、このデンツェル氏のクレジット付で掲載されています。それでは、写真の一部を紹介しましょう↓。


(さきほどの女子会ではなかった「女性リーダーの会」における別写真。先の写真とも見比べて興味を引いたのは、ここに招かれた日本の女性リーダーの方々が揃いも揃って黒髪であること。多少白髪混じりの方はいても、茶髪や金髪に染める日本女性はこの場に一人も現れなかったという事実の裏に、日本社会の構造の一端を見た思い。そういえば、メルケル首相の金髪は、白髪染めなどどうしているのか、別の興味も湧いてきた(笑)。なお、メルケル首相の左隣の男性は駐日ドイツ大使のハンス・カール・フォン・ヴェアテルン (Dr. Hans Carl von Werthern)氏)

(朝日新聞本社にて同紙のドイツ特集に目を通すメルケル首相)


(上の2枚と同様の写真は朝日新聞にも掲載されたが、ややアングルが異なる。この来日講演会についての日本の報道写真やニュース映像はメルケル首相をアップにすることで”朝日色”を薄めていたということが、このドイツ政府提供の遠景写真と比較するとよく分かる。なお、末尾参考サイトに示したリンク先によれば、この会の開催と参加者募集の告知あったのが今年の2月20日だったことから、今回の来日がかなり急に決まった日程であったこともうかがえる)


この安倍首相主催の夕食会の様子をとらえた一枚は、日独のどのメディアにも、首相官邸のホームページにも載っていない、貴重なお宝写真です。日独の錚々たる面々の前に置かれているのはお弁当スタイルの懐石かと見受けますが、弁当箱ののし紙の上に桜の枝が載っているのが、日本的な季節感を表現していてGOODじゃなかった、GUT(グート)!全員の手にはグラス製の御猪口があり、安倍首相が日本酒での乾杯の音頭をとる瞬間ではないかと思われます。個人的には、お食事のフタが空いて中身が見える写真もあればさらにグートだったのに…と思うのと、写真左上のドイツ側通訳であるドイツ大使館の女性翻訳官ベアーテ・フォン・デア・オステン(Beate von der Osten)さんがメルケル首相の後方に座っているものの食事にはありつけず、ペンを片手に仕事に徹しているところについ注目してしまいます。空きっ腹に美味そうな匂いがしてきたら、食欲を封印してきちんと仕事をこなすのは大変そうです。

他にもメルケル首相公式ホームページにはドイツ政府提供の写真のみならず、興味深い動画も目白押しです。機会と興味のある方は是非とものぞいてみていただければと思います。ちなみに、来日直前のメルケル首相が福島出身の日本人研究者とのインタビューで「日本もドイツと同様に脱原発の道を歩むべきだ」と述べたというニュースは日本でも流れていましたが、その元ネタは同じサイトに掲載された動画だったようです↓。

ドイツ首相公式ホームページ ポッドキャスト(2015年3月7日):Merkel setzt auf Zusammenarbeit mit Japan(メルケル首相が日本との共同作業を明言)
http://www.bundeskanzlerin.de/Webs/BKin/DE/Mediathek/Einstieg/mediathek_einstieg_podcasts_node.html?cat=videos&id=1340300

(2015年3月7日掲載動画。左の日本人男性はベルリン工科大学化学研究所・井上茂義教授。末尾参考サイトの朝日新聞提携ハフィントンポストの記事も参照のこと)

さて、最後の最後にさらに調子に乗って、来日中のメルケル首相の写真の全てにクレジットされている「デンツェルさん」の正体も披露してしまいましょう!この人物、調べてみたところ、ドイツ政府公認のオフィシャル・フォトグラファー、イェスコ・デンツェルさんと判明しました。下記のご自身のホームページ内のプロフィール欄をそのまま和訳して紹介します(引用部分は青字、筆者注は赤字):

Jesco Denzel Photographer (写真家イェスコ・デンツェル)- Vita(略歴)
http://www.jescodenzel.com/vita/
1972年ブレーメン生まれ(←ということは今年で43歳)。2001年にハンブルグ大学政治学部卒業(←29歳前後での大学卒業は、小学校から落第がありふれて大学でも途中で専攻変更を強いられることも珍しくない昔の厳しい教育制度や、2011年まで全男子に兵役義務があったドイツにおいては、さほど遅い方ではない)、さらにハノーファーでフォトジャーナリズムを学び、写真家としてディー・ターゲスツァイトゥング紙(TAZ)、フランクフルター・アルゲマイネ紙(FAZ)、シュピーゲル誌などで活躍。2005年よりフリーとなり、2010年からはドイツ政府のオフィシャル・フォトグラファー。現在はベルリンとハンブルグに在住、(仕事で使用可能な)言語:ドイツ語、英語、フランス語。基礎知識のみ(の言語):スペイン語。国内外で個展ないしグループ展示の経験あり。

この略歴を読みながらわが脳裏に真っ先に浮かんだのは、私自身が渡独して研究所に応募した際にも、この「(職業上使用可能な)言語」(Sprache)と「基礎知識のみ(の言語)」(Grundkenntnisse)について面接で問われたという個人的経験です。それまで日本で脳神経外科医として過ごしてきた長い年月においては、そもそも語学力をここまで詳しく問われること自体が皆無で、就職用の履歴書にそのような記載をするという発想すらなかったのが、今思えばお恥ずかしい限りです。現代の日本の就職活動では、この語学力に関する2項目を履歴書に記載することがどの程度一般化しているのか知りませんが、ドイツでは履歴書にこれらを書かないということはあり得ません。ちなみに、アカデミズムの世界に限らずドイツの求職者にはそもそも「母国語が3カ国語、使用可能言語が5~6か国語、基礎知識のみの言語なら両手でも収まらない」などという人がそれこそその辺にゴロゴロおり、「母国語1か国語しかできません」という人にはプライベートでもほとんどお目にかかったことがありません。グローバル化するとは、こういう人たちと競争するということであり、いずれ島国ニッポンにもグローバル化の波が襲いかかってくるでしょう。同じ能力であれば語学力の高い方が競争に有利であることは間違いなく、日本の外国語教育の方向性のみならず学校教育そのものの方向性も今後大いに問われることになるでしょう。

折角ですから、語学堪能なこのドイツのフォトグラファー様のご尊顔もついでに拝んじゃいましょう!右手にリモコンを握ってのセルフ撮影のようですが、見たところなかなかのイケメンさんのようです。今回のメルケル首相訪日中の専属フォトグラファーとしてのお仕事をさらなるステップアップの契機として、いずれ日本で個展など開催してくれればいいなぁ…と思うだけでなく、「基礎知識のみの言語」にいずれJapanisch(日本語)も加えていただくようなことになればもっと嬉しいかも…などと勝手な期待も込めつつ、これからも政治の中枢に肉迫する現場写真の数々を通して私たちに世界の動きを広く伝えていただきたいものです。デンツェル氏の今後の活躍に今後も大いに注目していきたいと思います。


<参考サイト>

TOKYOおでかけガイド(2015年2月20日):ドイツ・メルケル首相の講演会が3月9日(月)に東京で開催(参加無料・応募締切3/2)(以下に全文引用、青字で表示)
http://park.tachikawaonline.jp/news/festival/lecture/5965/
ドイツのメルケル首相が3月に来日するのを記念して講演会が2015年3月9日(月)に浜離宮朝日ホールで開催される。朝日新聞社と財団法人ベルリン日独センターの共催。参加無料。
メルケル首相は1954年ハンブルク生まれ。ライプツィヒ大学卒。2005年に女性としては初の首相に就任した。講演会では最近の国際情勢や日本との関係などについて話し、質疑応答も行われる予定とのこと。来日は2008年の北海道・洞爺湖サミット以来、7年ぶり。
開催時間は3月9日(月)11時予定(急に変更になる場合もあり)。申込みは下記サイトより必要事項を記入して申込む。締め切りは3月2日(月)まで。応募多数の場合は抽選の上、招待状を郵送する。


首相官邸公式ホームページ - 総理の一日(平成27年3月9日):日独首脳会談等
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201503/09germany.html
(安倍首相とメルケル首相のツーショット、儀杖隊による儀礼、日独首脳会談、覚書交換式、日独共同記者会見など9枚の写真が掲載されているが、夕食会の写真なし)

外務省公式ホームページ - ドイツ連邦共和国(平成27年3月9日):メルケル・ドイツ首相の訪日(根津美術館訪問,日独財界人による表敬,安倍総理大臣主催夕食会)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/c_see/de/page4_001034.html
(安倍首相とのツーショットや日独首脳会談、根津美術館訪問、日独財界人の表敬など5枚の写真があるが、夕食会は記述があるのみで写真はない)

THE HUFFINGTON POST in association with 朝日新聞(2015年3月8日):メルケル首相「日本もドイツのように脱原発すべき」 7年ぶりの訪日前にメッセージ
http://www.huffingtonpost.jp/2015/03/08/merkel-anti-nuclear-power_n_6825660.html
(ここでも朝日新聞の名が…!)

写真家イェスコ・デンツェル公式ホームページ
http://www.jescodenzel.com/offizieller-fotograf/
(トップページがオバマ大統領とメルケル首相のツーショット。他にも稀少かつ迫力ある写真が多いので、興味ある方は是非ホームページを直接見ていただきたい)
バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465