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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/03/06

目指すは「五度目の正直」!ドイツでも始まった五輪招致活動の前哨戦

2022年冬季五輪招致における北京(中国)とアルマトゥイ(カザフスタン)については、先々週およびその前の週のコラムで述べました(→上海新春見聞録(3)…すでにオリンピックモード全開!2022年冬季五輪招致にかける中国の「熱情」)(→フィギュアスケート四大陸選手権は2022年冬季五輪招致「BEIJING vs. ALMATY」の前哨戦だった?!)。すると、まるで私の原稿執筆をどこからか聞きつけてきたかのような抜群のタイミングで(笑)、ドイツのマスコミが2024年夏季オリンピック招致の話題を立て続けに報じ始めたものだから、私はあまりの偶然にテレビの前で絶句してしまったのでした。


上の写真は、2015年2月19日早朝のドイツZDFの情報番組「Morgenmagazin」からのものです。これが、既に1936年に夏季五輪開催経験があるドイツの首都ベルリンと、中世以来の自由ハンザ都市(Freie und Hansestadt)としても知られるドイツ第二の都市ハンブルグにおいて、2024年夏季五輪招致活動に関するイベントがそれぞれ行われたという第一報でした。アナウンサーの横の画面には、左に「WIR WOLLEN DIE SPIELE!BERLIN FÜR OLYMPIA (我らは五輪競技を切望する!ベルリンはオリンピックに賛成)」のコピーのあるペルリン五輪招致活動のロゴ、右には「Feuer und Flamme für Spiele in Hamburg (ハンブルグ五輪に火と炎を)」と書かれたハンブルグのロゴが見えます。この日のレポートはごく短いものでしたが、さらに翌日には両者の招致活動の特徴と現状をさらに掘り下げて解説する続報が登場しました↓。こちらについては、ZDFの動画サイトから引用しつつ紹介しましょう。(以下、引用部分は全て青字。赤字は筆者コメント。なお、理解しやすくするため、ベルリンのプールの写真は末尾にリンクを挙げた昨年10月29日のZDFニュースから、ハンブルグの五輪会場建設計画図は同じく末尾に挙げた昨年9月1日のZDFニュースからそれぞれ拝借しました)

ZDF Morgenmagazin(2015年2月20日) - ”Olympia 2024: Berlin vs. Hamburg” (2024年夏季五輪:ベルリンvsハンブルグ)
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/beitrag/video/2347090/Olympia-2024-Berlin-vs.-Hamburg?bc=sts;suc&flash=off
ドイツではここにきて、ベルリンとハンブルグで五輪招致活動がさかんになっている。ベルリンは過去に大きなスポーツ競技会を多く開催してきた実績や既存施設の充実を利点として主張、対するハンブルグは美しい景観と都心のウォーターフロント(エルベ川畔)を活用したコンパクトな大会開催が可能である点を強みとしている。

(上はベルリンの既存施設としてのオリンピックスタジアムとプールの写真。既存施設が多いため建設費用が抑えられ、「質素な」大会運営が可能と主張している)

(ハンブルグは、左上のようにエルベ川の中洲のど真ん中にメイン会場のスタジアム、さらにその真横にホールとプールと選手村、さらにその脇にボート・ヨット競技会場を計画しており、競技会場がコンパクトにまとまっていることをセールスポイントに挙げる。ただし、その会場は右上のように未だコンピューターグラフィックの世界にしか存在せず、莫大な建設費用が市の財政を直撃する可能性が懸念される)

しかし、オリンピック委員会はそういった大会のコンセプトよりも、市民の支持がどの程度あるのかを重視している。このため、DOSB(ドイツオリンピック体育連盟)は3月21日の最終的立候補都市決定の前の判断材料として、目下(アンケート等で)各都市での支持率を調査中である。


タイムスケジュールは次の通り。まず、今年の3月21日にDOSBが立候補都市をベルリンかハンブルグのどちらかに絞る決定を下す。選ばれた都市は、国際オリンピック委員会(IOC)への立候補申請の期限である本年9月15日よりも前に住民投票を行わなくてはならない。ここで多数を得られたあかつきには、晴れて正式申請の運びとなる。

ただし、両都市で実際にインタビューをすると、市民の声はかなり揺れている。これでは、市民への説得工作の方が先決であろう。(←ここで五輪招致反対デモの映像が短く差し込まれ、引き続き「五輪は金がかかりすぎるため、気持ちは半々」「五輪そのものは良くても、(最近の五輪にみられるような)莫大な浪費には反対」という街の声が紹介される)。どうやらハンブルグ(下写真左)もベルリン(下写真右)も、オリンピック・フィーバーというには程遠いようだ。


個人的には、このニュースの途中に差し込まれた五輪反対デモの映像そのものの方がよっぽど気になりました。放送中にクレジットはありませんでしたが、これはベルリンのオリンピック・スタジアムの前で行われた反対デモの様子だそうで、その内容はなかなか示唆的です↓。

市民の方々が手に持っている色とりどりのプラカードは、オリンピックが我が街に来たらどういうことになるかという内容のもので、彼らの主張によればオリンピックとはすなわち「黙れという意味である(反対意見の封殺)」「(連盟とスポンサーだけが)儲かるという意味である」「家賃が上がるという意味である」のだそうです。国民や市民の痛みを伴う負担増のもとに関係者やスポンサーたる大企業だけが稼ぎを懐に入れるという彼らの主張が本当であるならば、われらが2020年の東京五輪は実際のところどうなのか、日本であまりそのような論調がないだけにかえって気になったのでした。

ちなみに、ドイツでの両都市の支持率はどうなっているでしょうか。参考サイトに挙げた昨年10月29日のZDFの放送では、具体的な数字が以下のように紹介されていました。


左がハンブルグで53%、右がベルリンで48%とあります。ちなみに、この二ヶ月近く前となる昨年9月1日のニュースでは、支持率はハンブルグが73%でベルリンが52%と言っていました。これを見るに、ハンブルグの方がベルリンよりも市民の支持が高いという傾向は保たれるものの、両都市とも二ヶ月も経たぬ間に支持率を落としたことに変わりは無く、特にハンブルグの下がり方の激しさが目につきます。他方のベルリンも目下のところ新空港の建設が頓挫中であり、新たなる財政負担となるオリンピックに反対する声が支持を得やすい状況にあります。ドイツオリンピック体育連盟(DOSB)の会長ミヒャエル・ヴェスパー氏もそのあたりを斟酌してか、ハンブルグに期待を寄せているようで、2月20日にはさっそく早朝のハンブルグから生出演となりました。その放送における同氏の発言内容を、以下に要約しつつ箇条書きにして紹介します↓:

ZDF Morgenmagazin(2015年2月20日) - ”Olympia: Vesper macht Hamburg Mut”(五輪:ハンブルグにハッパをかけるDOSB会長のヴエスパー氏)
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/beitrag/video/2347040/Olympia-Vesper-macht-Hamburg-Mut?bc=sts;suc&flash=off

・(正式な住民投票に先立ち、両都市の市民を対象に現在アンケートが行われている最中であると話を振るアナウンサーに対し)五輪開催には開催都市の政治的サポート、財政的サポート、さらに市民の支持が必要。国民全体のアンケート調査では2/3から3/4がドイツでの五輪開催に賛同していると見積もられているが、肝心の立候補予定都市で市民の支持がなければ意味がない。このため、市民の意向を早めにつかみ、立候補都市の絞り込みの判断材料にしたい。
・(両都市の住民投票は9月とされているが、遅すぎではないかというアナウンサーの質問に対し)五輪招致の前の住民投票はなるべく申請期限(9月15日)のギリギリ直前に行う予定。というのは、投票があまりに早すぎて具体的情報(コストや建設計画など)が未確定の時期だと、否定的意見の方が強くなると思われるから。ベルリンでの住民投票は9月13日に予定されているが、ハンブルグの方はまだ未定。
・(仮にハンブルグが申請都市に決定したとして、国の首都でないと招致に不利ではないのかと、フランスのパリを引き合いに出して質問するアナウンサーに対し)ドイツはフランスと異なり一極集中の国ではない。バルセロナも首都ではなかったが五輪開催できた。既に立候補表明済みのボストンもアメリカの首都ではない。従って、ハンブルグのような「第二の都市」(the second city)でも全く問題ない。
・(2018年の冬季五輪招致でミュンヘンが敗れたように、今回ドイツの都市がまた敗れたら今後どうするのかという質問に対し)出る以上は勝つのが目標。2017年9月にリマ(ペルー)のIOC総会で開催都市が正式決定されるまでに、今の国際情勢がどう変化するかも想像がつかない。ただし、ドイツが一巡目で敗退する場合のシミュレーションは必要で、そうなればその次となる2028年五輪招致に再チャレンジするつもりである。ドイツはこれまで五輪招致レースで四連敗中であり、今回はまさに五度目の正直を狙う。最近IOCが提案している”2020年五輪アジェンダ(Olympische Agenda 2020)”(より透明性が高く、より簡素に、よりフレキシブルな五輪にするという改革案)の意向に沿った大会の担い手として、ドイツはIOCから高い評価を受けているものと考える


私がこのインタビューで意外に思ったのは、ドイツがミュンヘン五輪(1972年)を最後に五輪開催から遠ざかっているのみならず、五輪招致レースに四連敗中であるという内容でした。その四度の敗退の内訳をカンペも何も見ずにスラスラと年号入りで答えるヴェスパー氏、さすが本職です(笑)。ちなみに、その四連敗とは以下の通りです:

(1). 1992年冬季:ベルヒテスガーデン(Berchtesgarden)←1巡目で敗退、五輪はアルベールビルに決定。
(2). 2000年夏季:ベルリン(Berlin)←2巡目で敗退、五輪はシドニーに決定。
(3). 2012年夏季:ライプチヒ(Leipzig)←1次選考で敗退、五輪はロンドンに決定。
(4). 2018年冬季:ミュンヘン(München)←1巡目で過半数獲得の平昌に決定。

こうしてみると、たった一度の投票で一発クリアという圧勝を果たした平昌(韓国)の評価の高さにあらためて驚いてしまいます。その平昌が一転、今や「開催そのものが危ぶまれる危機」などと報道されるような事態に陥るとは、IOCも今頃頭を抱えていることでしょう。先のヴェスパー氏による「国際情勢がいつどのように変わるかわからない(ご時世にあって)、ドイツの評価は高いはず」という自信に満ちた発言は、このあたりの事情も言外に含んでいるのかもしれません。奇しくもトーマス・バッハというドイツ人がIOC会長となっている今、政治的にも経済的にも”比較的”安定している「欧州の大国ドイツ」として、三大会連続アジア開催(2018年平昌→2020年東京→2022年北京またはアルマトゥイ)の後を受ける2024年の五輪招致レースに十分勝算ありと判断しているヴェスパー氏ひいてはDOSBの腹の中が、何となく透けて見えるような気がしてきました。

少し歴史を振り返っても、ドイツ開催のオリンピックと言われて頭に浮かぶのは1936年ベルリン五輪におけるナチス政権下のバリバリのプロパガンダ色と、1972年ミュンヘン五輪の凄惨なテロ事件です。これだけインパクトの強すぎる過去があるというも何だか気の毒な限りです。映画ファンであれば、このミュンヘン五輪におけるパレスチナ武装組織によるイスラエル選手団の人質事件(結局選手11名殺害)をテーマとした2005年のスティーブン・スピルバーグ監督作品『ミュンヘン(Munich)』を思い出されるかもしれません。しかし、東西ドイツ統一や冷戦終結を経ても、さらには欧州連合の雄とも言える地位を確保しても、ミュンヘン五輪以降の五輪招致で一度も当選していないというのは一体どういうことなのかと、DOSBのお役人たちもようやくお尻に火がついたのでしょう。ここにきて急に五輪招致報道が増え、会長自ら早朝の生放送出演を厭わずというのも、3月21日の候補都市選定を見据えつつ悲願の五輪開催権獲得のために乗り出した積極的メディア戦略の一環なのでしょう。

最後に、先程のヴェスパー氏とのインタビューの最後を締めくくる女性アナウンサーのなかなかお茶目なセリフを紹介したいと思います。

”Mit Thomas Bach und/oder 'aller guten Dinge sind fùnf’ gehen wir die Spiele an”(「トーマス・バッハIOC会長」と「5度目の正直」ないしその合わせ技で、私たちは五輪をゲットしましょう!)

ここには、日本語でいう「三度目の正直」に相当する格言”Aller guten Dinge sind drei”のパロディとして、3を5に変えた「五度目の正直」という表現が出てきます。仮に今回またドイツが落選するようなら、次回のインタビューの結語は「六度目の正直」で決まりでしょうか?

今年の3月21日にドイツの候補都市が決定しても、まだその先には他国の開催都市との争いが待っています。果たして2017年にペルーのリマにおいて、晴れて「ああ栄冠はドイツに輝く」ことになるのかどうか(笑)、今後もドイツでの報道および世論の変動、ひいては世界情勢の変化にも注目していきたいと思いです。


<参考サイト>
ZDF Heute(2014年9月1日) - Berlin und Hamburg zeigen Olympia-Pläne(ベルリンとハンブルグが五輪開催計画を公表)
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/beitrag/video/2229452/Berlin-und-Hamburg-zeigen-Olympia-Plaene?bc=sts;suc&flash=off

ZDF Heute(2014年10月29日) - Olympiabewerbung für 2024 umstritten(2024年夏季五輪招致申請に議論の余地あり)
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/beitrag/video/2271238/Olympiabewerbung-fuer-2024-umstritten?bc=sts;suc&flash=off

Berliner Kurier(2015年3月3日) - Kritik am IOC Grüne gegen Olympia in Berlin(IOCへの批判、緑の党がベルリン五輪へ反対へ)
http://www.berliner-kurier.de/kiez-stadt/kritik-am-ioc-gruene-gegen-olympia-in-berlin,7169128,30021274.html
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