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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/02/27

ドイツのカーニバルの背後に忍び寄る暗い影の正体

先週、ドイツはカーニバルで大いに盛り上がりました。カーニバルのことはドイツ語ではファスナハト(Fasnacht、別名:懺悔の火曜日)と言うのですが、ドイツではファスナハト当日よりもその前日のローゼンモンターク(Rosenmontag、別名:バラの月曜日)のパレードの方が一大イベントです。先週の月曜日であった2月16日、仮装した老若男女やブラスバンドの隊列が巨大なオブジェを先頭に町を練り歩くという、恒例の「ローゼモンタークスツーク(Rosenmontagszug)」(バラの月曜日の隊列)がドイツ各地で行われました。残念ながら私は現物を見に行く時間がなかったのですが、テレビをつけていたら各局が競うように有名どころの「ローゼンモンタークスツーク」を中継していたため、仕事の合間のテレビザッピングだけでも”行ってってきたような気分”を多少なりとも味わうことができました。

まず、マインツのパレードの様子からご紹介しましょう↓。真ん中の巨大なオブジェは自作の海賊船のような乗り物で、船上やその周囲には、海賊姿に仮装した地元の人々がいます。日本でも巨大オブジェの出てくる祇園祭りやねぶた祭り、だんじりやお神輿などがあるので、そのドイツ版と考えていただければイメージしやすいかもしれません。海賊船というのが今も昔も定番モチーフのなのは、扮装が比較的分かりやすいということが理由でしょうか?それにしても、凄い人出です。



巨大な顔のマスクや愉快な着ぐるみ人形なども、カーニバルではお馴染みです↓。それにしても、足元にはびっしりと紙吹雪が、まるで絨毯と化しています。



ここで、甲子園のアルプススタンドかと錯覚するような何だか懐かしい響きが聞こえてきました。ドイツのカーニバルには、素人ブラスバンドの隊列もお約束です。しかし、こちらのブラスバンドは何と、ガイコツ軍団です(笑)!それとも、聖飢魔Ⅱ?甲子園でもこのような仮装ブラスバンドがあったら面白いかもしれません↓。



さて、次はケルンを覗いてみましょう。今年の1月7日にフランスのパリで起きた新聞社襲撃テロ、シャルリー・エブド事件はまだ記憶に新しいところですが、このような時事テーマもドイツのローゼンモンタークスツークではいち早く採用され、今年はこのような巨大オブジェの登場がニュースを賑わしていました↓。


鉛筆が一本突っ立っており、そこに”Narrenfreiheit”の文字が見えます。”Narr”とは宮廷道化師のことで、”Narrenfreiheit”とは直訳すれば宮廷道化師の自由となります。独和辞典には「(道化師に与えられた)無礼御免の特権」とあります。英語では、fool’s licenseでしょうか。要するに、宮廷の権力者に仕える道化師は、権力者を風刺ないし批判するたびに処罰や処刑されていては仕事にならないのみならず、命がいくつあっても足りません。つまり、中世における最高級のユーモアとは、「いかなる自由な振る舞い言動をも容認する」という担保なくしては成立し難かったのでょう。ひるがえって、私たちの住む現代のユーモアはどうでしょう?世界中で紛争やテロがおさまるどころか激化の様相を呈し、それを糾弾すべきマスコミも御用メディアや自主規制がはびこるようでは、道化師も唇寒しの世界でしょうか。このような時代に今回のケルンが「シャルリー・エブド事件」を題材に選ぶこと自体、なかなか勇気があります。それにしても、カーニバルでこういう作品が出てくる時代になってしまったという現実に、あらためて複雑な思いを禁じえません。

なお、政治的メッセージという意味ではデュッセルドルフも負けていません↓。こちらはさらに直截的です。


写真右から左の順に、CHRISTEN(キリスト教徒)、MUSLIME(イスラム教徒)、JUDEN(ユダヤ教徒)、ATHEISTEN(無神論者)の4者が電車ゴッコよろしく、笑顔で行進しているような作品です。ここで挙げられた3つの宗教以外にも、世界には宗教はたくさんあると思うのですが、4番目がいきなり「無神論者」というところに思わずツッコミを入れたくなります。それとも単に、他宗教は「紙面の都合で割愛」でしょうか(笑)?

もっとも、デュッセルドルフといえば、ドイツでも断トツに外国人が多い都市として知られています。全人口58万8千人余のうち外国人人口は10万人以上(17.4%)で、トルコ人、イタリア人、ポーランド人、ギリシャ人、クロアチア人、セルビア人、ロシア人の順だそうです。日本人も5000人近く住んでおり(0.8%)、欧州随一の日本人コミュニティを形成しています。こういう街であれば、他のドイツの都市にも増して、異宗教かつ多民族の共存というのが重要なテーマであるのも納得できます。


これもデュッセルドルフのものです。最近、アフリカから難民をすし詰めに乗せたボートが地中海のイタリア・ランペドゥーサ(Lampedusa)島付近で遭難するケースが相次いで報道されています。2013年10月3日および同月11日に起きたランペドゥーサ難民船遭難事故では四百人近い難民が命を落としたのみならず、つい今月中旬にもボート4隻に分かれランペドゥーサ島を目指していたアフリカ難民210人以上が嵐で遭難、最終的に救助されたのがたった9名という、200名規模の死者を出す悲劇があったばかりです。

しかし、このデュッセルドルフのオブジェが言及しようとしているのは、この難民船遭難事故だけではないようです。それは、船体に書かれているこちらの文章から伺えます:

”DAS IST DER WAHRE UNTERGANG DES ABENDLANDES”

直訳すれば、「これぞ正真正銘の『西洋の没落』である」となります。ちなみに、”Der Untergang des Abendlandes”『西洋の没落』といえば、ドイツの哲学者オスワルド・シュペングラー(Oswald Spengler, 1880-1936)が第一次大戦直後に出した著作のタイトルとして有名です。

しかし、この船体に書かれた文章を見た今のドイツの人々が一様に連想するのは、前世紀の著作のタイトルよりもむしろ、最近ドイツ国内で勢力を伸ばしている反イスラム化運動「ペギーダ」(Pegida:”Patriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandes”の略称)の方ではないかと思います。

この団体名を和訳すると「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人」となります。先程のカーニバルでも出てきた”Abendland”という単語は西洋を指し、具体的にはabendが「夕方」「晩」でlandが「国」を意味します。となると、「夕方の国」たる西洋(ヨーロッパ)に対抗する反対語として「朝の国」かあるはずで、まさに”Morgenland”(東洋)という単語がこれにあたります。ただし注意が必要なのは、この場合の”Morgenland”は基本的に中東諸国を指す単語であり、我らが日本のある極東を含む概念でもなければ、日本を指す「日出ずる国」や「ひのもと」に対応する単語でもないということです。

さて、このペギーダという団体の歴史は驚くほど浅く、何と2014年10月11日にルッツ・バッハマンというドレスデン在住の41歳男性がフェイスブック上で結成したグループがその発端というから、フェイスブック恐るべしです。ちなみに、グループ結成の理由は「(イスラム国の戦闘であるところの)クルド勢力とイスラム勢力が10月10日にドレスデンの路上で衝突したことへの抗議」というものだそうです。それが、ドイツ国内のイスラム系移民の多さや政府の移民・難民に対する政策に対する不満などが重なり、昨年10月20日にドレスデン市内で彼らが主催する初めてデモ行進(団体側の呼称はデモではなく「夕方の散歩」を意味する”Abendspaziergang”)には350人が参加しました。それが、翌週以降はデモ参加者の数がネズミ算の如く驚異的な右肩上がりを見せ、今年の1月12日には実に2万5千人にまで膨れ上がるに至り、別の意味でドイツ国民を震え上がらせました。並行して別の都市でも、ペギーダに賛同する団体がその都市名の冒頭数文字に-gidaを組み合わせた名のもとに続々と誕生、その全国的な拡散はライプチヒのレギーダ(Legida)、ボンのボギーダ(Bogida)、ケルンのケギーダ(Kögida)、ベルリンのベルギーダ(Bärgida)、ミュンヘンのミュギーダ(Muegida)、ハノーファーのハギーダ(Hagida)、デュッセルドルフのデュギーダ(Dügida)という具合に、枚挙に暇がないほどです(下の写真は12月8日のデュッセルドルフのデュギーダを報道するテレビ番組から)。



しかし、ここまで運動が広がり、一部に極右勢力やネオナチの関与が報じられるようになると、一気にドイツ国民に警戒感に火が着きました。メルケル首相みずから新年挨拶で全国民に「ペギーダに参加しないように」と呼びかけ、全国各地で今度は「なんとかギーダ」のデモの至近距離で反ペギーダ運動が展開されるなど、キナ臭くなってきたところに、ペギーダ設立者の男性の「難民への差別発言」、さらにはこの男性がふざけてヒトラーに扮した「ヒトラー写真」がありました。この「ヒトラー写真騒動」で決定的に潮目が変わり、この男性は1月21日に代表辞任に追い込まれます。そして、驚異的な盛り上がりを見せた「ペギーダ」も一気に縮小していくのでした。

ここまでの流れをふまえると、デュッセルドルフのパレードで出てきた「難民を載せた遭難船の沈没こそが、西洋の没落そのものである」というメッセージが何を意味するのか、より深く理解が可能となります。宗教も文化も異なる多様な移民・難民の力なくして今のドイツの繁栄はあり得ないということは、多くのドイツ人が否応なく認めざるを得ない現実だからです。もっともこれについては”内心は複雑…”という人も決して少なくなく、そのようなドイツ人の心の深層にうごめく漠然とした不安こそ、ペギーダ勢力の最大の推進力でもあるのでしょう。

最後に、今年のドイツのお祭り気分に暗い影を落とすことになった、大変残念な出来事にも言及しておきます。ドイツ北部のブラウンシュワイグにてローゼンモンターク前日の日曜日に予定されていた名物の仮装パレードが、事前にイスラム系テロの予告があったため挙行直前の土壇場で中止となったのです↓。


ブラウンシュワイグのカーニバルといえば北ドイツ最大級の規模を誇る有名な行事だけに、中止決定の瞬間の(写真左上の)既に仮装済みの地元住民の方々の落胆はいかばかりかと、察して余りあるものがあります。このニュースが流れた日、通常なら月曜日に行われるブラウンシュワイグ版ペギーダ類似運動「ブラギーダ」は初めて日曜開催となり、カーニバルが吹っ飛んでしまった腹いせも手伝ったのか320人が集まりました。しかし、それに対抗する反対運動のデモもまた1000人以上もの人を集め、両者が鉢合わせての舌戦もあったようです。このように反対運動の方がはるかに多く人が集まったということ自体は、先の大戦の反省や反ナチズムを徹底してきたこれまでのドイツの真骨頂なのかもしれません。しかし、翌日の月曜日に開催されたドレスデンの本家ペギーダの方は参加人数が2週連続で増加となる4800名を集め、あらためてこの運動がいかに直近のイスラム勢力のテロ事情に左右されやすいかを実感し、今後の展開が懸念されます。

このような時代が果たしていつまで続くのか…それとも今回の一件は近い将来、浮かれてカーニバルなどしている場合ではないような暗黒時代に突入する、ほんの序章に過ぎないのか…。まさかこのようなことを考えさせられるとは思いもよらなかった、今年のドイツのカーニバル週間だったのでありました。


<参考サイト>

ネットdeデュッセル 住まいと暮らし
http://www.netdesumai.de/%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84-%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E8%AA%9E/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%95%E5%B8%82/

ツァイト紙(2013年10月6日):Flüchtlinge schildern Weg zur Katastrophe vor Lampedusa
http://www.zeit.de/gesellschaft/zeitgeschehen/2013-10/lampedusa-libyen-eritrea

南ドイツ新聞(2013年12月30日):Flüchtlingspolitik nach dem Lampedusa-Bootsunglück Katastrophe ohne Ende
http://www.sueddeutsche.de/politik/fluechtlingspolitik-nach-dem-lampedusa-bootsunglueck-katastrophe-ohne-ende-1.1852969http://www.sueddeutsche.de/politik/fluechtlingspolitik-nach-dem-lampedusa-bootsunglueck-katastrophe-ohne-ende-1.1852969

フォーカス・オンライン(2015年2月11日):200 Flüchtlinge nach Bootsunglück im Meer vermisst
http://www.focus.de/panorama/welt/bei-lampedusa-200-fluechtlinge-nach-bootsunglueck-im-meer-vermisst_id_4468149.html

Wikipediaドイツ語版 - Patriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandes (PEGIDA)
https://de.wikipedia.org/wiki/Patriotische_Europ%C3%A4er_gegen_die_Islamisierung_des_Abendlandes#cite_note-bragida-22-Feb-126

フランクフルターアルゲマイネ新聞(2014年12月7日:„Pegida“-Demonstrationen Die neue Wut aus dem Osten
http://www.faz.net/aktuell/politik/inland/pegida-bewegung-gegen-islamisierung-des-abendlandes-13306852.html
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