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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/02/06

新春上海見聞録(2)…六か国語放送の中国中央電視台(CCTV)の驚異的な発信力

先々週のコラムでは「上海踩踏事件」(昨年大晦日の深夜に発生した上海外灘における雑踏事故)とそれを報じる中国のテレビ番組について紹介しましたが(→新春上海見聞録(1)…カウントダウンイベントでの惨劇「上海踩踏事件」の現地報道で学ぶ雑踏事故時の自衛手段)、この記事では触れなかったことがありました。それは、六か国語を駆使して外国語チャンネルを展開する中国中央電視台(CCTV)の国際的発信力についてです。CCTVといえば、私が住むドイツでもCCTV-NEWS(英語放送・ニュース専門チャンネル)、CCTV-Français(フランス語放送)、CCTV-9 Documentary(英語・ドキュメンタリー専門チャンネル)の3チャンネルが24時間、それも無料で(!)視聴可能です。それだけでも、日本における外国語放送の視聴環境とのあまりの相違に驚くばかりですが、今年滞在した上海のホテルではこの他に、同局のアラビア語放送とロシア語放送も見ることが可能で、あらためてCCTVという放送局ひいては中国という国の国際社会に対する発信力の高さをまざまざと見せつけられたのでした。

例えば、前々回とりあげた「上海踩踏事件」は、CCTVのフランス語放送では”BOUSCULADE MORTELLE”(致死的雑踏)という見出しとともに解説され…(↓)、


スペイン語放送では”ESTAMPIDA EN SHANGHAI”となり…(↓)、


英語放送では”SHANGHAI STAMPEDE”となって世界に配信された、といった具合です(↓)。


それぞれの外国語放送には、それぞれの言語をネイティブ並に操る中国人キャスターが起用されており、その人材の豊富さだけでもビックリですが、さらにはそれらの言語でのディスカッションも存分にこなす学者や識者を各局ともコメンテーターとして何人も揃えている事に、あらためて見ている方が恐れ入ってしまいます。かつて戦時中に「鬼畜米英」「適性言語の使用禁止」などと言いながら野球用語からですら英語を封印した歴史を持つ日本の場合、仮に人口が10倍だったとしても、果たして今の中国のような徹底した外国語戦略を打てるかどうか、考えざるを得ません。

なお、ここでCCTVについて少し勉強してみましょう。CCTVは1958年設立の北京電視台を前身として1978年に中央電視台となり現在に至る中国の国営放送です。ただし、国営放送といっても日本のNHKとは大違いで、受信料や国庫補助のしくみはなく、広告収入だけで成り立っているというのだから驚きです。それでいて、22の無料放送(免费频道)、18の有料放送(付费频道)、5つの海外専門放送(境外频道)の合計45チャンネルを抱えるこの中国最大どころか世界最大規模といっても過言でない放送局は、そのコンテンツを衛星放送やインターネット放送を通じて世界中に広く配信し続けて今に至っています。そして、この22の無料放送の中には先述の5つの外国語放送も含まれており、私もその中の3つの恩恵にあずかってタダで視聴させてもらえているのは、実にありがたい限りです(笑)。さらに残りの17チャンネルは全て中国語放送ですが、CCTVのホームページからライブストリームないし録画済み動画をオンデマンドの形で、こちらも無料で視聴することが可能です。専用のプラグインが必要なのと、回線が多少重いのが難点ではありますが、過去1週間の放送の録画もいつでも呼び出すことが可能で、こちらもフィギュアスケート中継などでたまにお世話になっています。

この無料放送の全22局を1から順に並べていくと、CCTV-1 综合(総合)、CCTV-2 财经(経済)、CCTV-3 综艺(総合芸術≒バラエティ)、CCTV-4 中文国际(中国語国際放送)、CCTV-5 体育(スポーツ)、CCTV-5+ 体育赛事(スポーツ競技会、ハイビジョン)、CCTV-6 电影(映画)、CCTV-7 军事・农业(軍事・農業)、CCTV-8 电视剧(テレビドラマ)、CCTV-9 纪录(ドキュメンタリー:中国語と英語あり)、CCTV-10 科教(科学・教育)、CCTV-11 戏曲(戯曲≒舞台)、CCTV-12 社会与法(社会と法律)、CCTV-13 新闻(ニュース)、CCTV-14 少儿(児童向け)、CCTV-15 音乐(音楽)、CCTV NEWS英语新闻(英語ニュース)、CCTV西班牙语国际(スペイン語国際)、法语国际(フランス語国際)、阿拉伯语国际(ロシア語国際)、俄语(ロシア語国際)、中国3D电视试验频道(3D試験放送)となります。これらの共通点は、全てアナログ放送であるということです。逆もまた真でありまして、先述の18の有料放送は全てデジタル放送なのだそうです。そう言われてみれば、ドイツの我が家のテレビはいまだにブラウン管ですが、ドイツやフランスの放送は全て16:9の横長画面で放送されている(上下にレターボックスと呼ばれる黒い帯が出る)のに対し、CCTVは画面いっぱいに4:3で映し出されているのも、ひょっとしたらアナログ制作の関係かもしれません(余談ながら、我が家のテレビでは韓国の国際放送であるアリランTVも4:3で映し出されるが、NHKワールドはレターボックスが出ている。これはこれで、別の意味で興味深い)。

さて、今回の上海滞在では新境地開拓がありました。それは、コチラです↓:


CCTVアラビア語放送を何気なくつけっ放しにしていたら突然始まった、その名も”KUNG-FU”(功夫)という、カンフー教材の番組です。お師匠さん役の中国人(男性の場合と女性の場合あり)が隣の生徒役の外国人(白人女性だったりアラブ系男性だったり色々なケースあり)およびカメラに向かって基本的な動きを解説し実演していくという、一回当たり15分の番組です。世界中のテレビの前の視聴者たちにその動きを見様見真似で実践してもらうことで、日頃の運動不足を解消してもらおうという、実に崇高な番組と言えましょう(笑)。老若男女を問わず誰にでもできるという意味では、日本でいうところの「みんなの体操」(NHK)のような存在といえばわかりやすいでしょうか。この番組はCCTVの外国語放送では毎日、それも一日に何回も放送されており、私もドイツでちょくちょく目にしてはいたものの、時間がなかったりテレビが小さかったりで、今まで熱心に見たことも真似したこともありませんでした。それが、今回の上海では多少ヒマがあったのと、ホテルの部屋が比較的広さに恵まれたこともあり、ついにカンフー・デビューを果たしてしまいました。


カンフーといえばブルース・リーでもおなじみの「ヌンチャク」が出てくるのはお約束ですが(上写真はフランス語放送から)、さすがにホテルにはヌンチャクは置いていなかったので(当たり前か?)、この時はテレビのリモコンで代用しました。しかし、背中でのリモコンの受け渡しは実はかなりキツく、どうみてもヌンチャクよりも難易度が上がってしまった感があります。それでも、このカンフー番組が提供する運動そのものは、激しすぎず軽すぎない有酸素運動としてもほどよい達成感があり、老若男女を問わぬ健康増進法として世界に発信するには大いに適したコンテンツであるように思われました。そして、最近は私もドイツの自宅でこのカンフー番組を見るだけではなく実践する機会がグッと増えました。といっても、ここでもヌンチャクでは無く、テレビのリモコン片手にテンパっているのは相変わらずですが…(笑)。

文部科学省のホームページによれば、世界の母語人口は中国語が1位で8億8500万人(世界の使用言語別人口の場合は1位で10億7500人)、英語は2位で4億人(同2位・5億1400万人)、スペイン語が3位で3億3200万人(同4位・4億2500人)、アラビア語が5位で2億人(同6位・2億5600万人)、ロシア語が7位で1億7000万人(同5位・2億7500万人)、フランス語が16位で7200万人(同10位・1億2900人)となっています。これを単純計算すると、CCTVが誇る六か国語放送のターゲットは母国語人口だけでも20億5900万人、使用言語人口では26億7400万人にものぼることになります。ロシア語やアラビア語は中国にとっては近隣国言語なのでしょうが、スペイン語の背後には中南米を、英語やフランス語の背後にはアフリカを見据えているであろうことは容易に想像できます。この6か国語だけでも世界の全人口の3人に1人以上をカバーしていることになり、あらためてCCTVが選んだ言語のチョイスの絶妙さの中に、中国の国を挙げての世界戦略の巧みさを垣間見る思いがします。ここでドイツ語を選ばなかったところにも、きっと意味はあるのでしょう(笑)。なお、我らが日本語は母語人口で9位の1億2500万人で、使用言語別では上位10位以内にランクインしていないのみならず、目下のところ少子高齢化のみならず急激な人口減少の局面にあるのはご存じの通りです。

(CCTVでも報じられた日本の人口減少のニュース)

特に昨今のテロ報道やその残念な結末を目の当りにして強く感じるのは、日本が本当に世界に理解される存在になりたいのであれば、外国語教育の強化は言うに及ばず、国内外の無料外国語放送の強化という環境面の改革の方が王道かもしれないということです。今の日本における放送網がNHKと民放を合わせて両手にも満たないという先進国にはあるまじき寡占、ニュース専門チャンネルやスポーツ専門チャンネルの不在、外国語放送を(スカパーなどの)有料放送の中に押し込めている鎖国的とも言える現状に関して、もっと危機感を持つ必要があるでしょう。少なくとも、言論の自由がないとされているはずの国の放送局が受信料もとらずに出来ることを、日本の放送局が出来ないというのは一体どういうことなのか、今回の上海での日々は私に際限なく問いかけてくるかのようでした。


(上は、世界中の正月の瞬間を映し出す恒例のニュース映像の中にどこをどう探しても日本が皆無で、これは露骨な日本外しかと疑いがもたげたその瞬間、辛うじて発見したCCTVロシア語版の中の東京のお正月の映像…という超お宝の証拠写真)


<参考サイト>

Wikipedia中国語版 - 中国中央电视台频道列表(CCTVチャンネル一覧)
http://zh.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E4%B8%AD%E5%A4%AE%E7%94%B5%E8%A7%86%E5%8F%B0%E9%A2%91%E9%81%93%E5%88%97%E8%A1%A8
(22の無料公共放送、18の有料放送の一覧はこちらから確認可能。なお、5つの域外放送とは海外のみで視聴可能なCCTVのチャンネルのことで、このWikipediaには2つしか記載がないが、残りの3つは日本の「スカパー!プレミアムサービス」および「ひかりTV」に入っている1998年7月放送開始のCCTV大富、2012年1月放送開始のCCTV Africa、2012年2月放送開始のCCTV Americaを指す。なお、大富とは元々はホテルオークラにも名を残す大倉財閥の大倉商事とフジテレビから取ったもの。この2社の共同出資により1998年2月に設立された株式会社大富だったが、何と1998年8月に大倉商事が倒産。以降は京セラ、アサツー・ディー・ケー、電通、ソニーが新たに出資、『在日中国人の為に中国の最新文化・時事情報等を提供すると共に、日本人の中国及び中国人への理解をより深め、日中友好関係構築の一翼を担うことを目指す。』という事業主旨に沿ってドキュメンタリーを中心とした日中二ヶ国語番組の制作を続けている)

株式会社大富ホームページ
http://www.cctvdf.com/j/

CCTV-Français(CCTVフランス語版):KUNG-FU
http://cctv.cntv.cn/lm/kungfu/index.shtml
(過去の放送回を動画視聴可能。音がかなり大きく再生されるため要注意)

文部科学省ホームページ
(1) 世界の母語人口(上位20言語)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/015/siryo/06032708/003/001.htm
(2) 世界の言語別使用人口
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/015/siryo/06032708/003/002.htm
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