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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/01/23

新春上海見聞録(1)…カウントダウンイベントでの惨劇「上海踩踏事件」の現地報道で学ぶ雑踏事故時の自衛手段

今年は阪神淡路大震災から20年の節目の年にあたります。震災が発生した5時46分に行われる黙祷行事が行われた神戸市中央区の東遊園地は、毎年12月のルミナリエの終点の会場としても知られていますが、この日は黙祷行事に参加する人々のために電鉄各社が早朝電車を増発して対応したそうです。先週紹介したHAT神戸のひとと防災未来センターには藤原紀香さんが登場、神戸市長田区の西神戸センター街で行われた震災復興フリーライブでは南野陽子さんが神戸復興のシンボル曲を朗読したそうです。

今でも阪神地区で仕事をする際の他地区との大きな違いは、20年前の震災の体験談がまるで昨日のことのように、話の流れでごく普通に飛び出すことです。しかも、その内容がこれまた十人十色、百人百ドラマとも言うべきもので、自宅の全壊は珍しくも何ともなく、震災直後に食べ物の確保にいかに苦労したかという話、大混乱の医療現場の様子、さらには身内に犠牲者が出たケースなど、6434人もの犠牲者を出した大震災がいかに多くの人々の後々の人生に強い影響と深い心の傷を残したのかが伝わってきます。「震災のとき、あなたはどこにいましたか?」というのは、見ず知らずの他人との距離を最も早く縮める効果のある質問かもしれません。「震災」を他の重大事件などに置き換えても良いかもしれませんが、それが劇的であればあるほど、体験談もまた映画やテレビのいかなる創作物をも凌駕するドラマチックなものとなります。しかも、どれ一つとして他人と同じ話のない、純粋なノンフィクションです。

私の場合、阪神淡路大震災の際は神戸におらず、地下鉄サリン事件の際は東京におらず、東日本大震災の際は日本におらず…といった具合で、もっぱら聞き役にまわってきました。しかし、ついに私も先の年末年始、大事件にあわやのニアミスを…!というのが今回のテーマです。

といっても、この事件、日本ではなく中国の上海の話です。さる大晦日の23時35分、毎年恒例の年越しカウントダウンイベントとして上海の風物詩になりつつライトアップショー「上海新年倒計時5D灯光秀」において、上海・外灘の陳毅広場に詰めかけた15万人大群衆の一部が階段から将棋倒しとなり、死者36人と負傷者47人を出すに至った、現地では「上海外灘跨年夜踩踏事件」ないし「上海踩踏事件」と呼ばれるアクシデントです。そして、私はこの事件発生当時、さすがに現地こそいなかったものの、上海で現地報道をつぶさに見ていたのでした。


この「踩」という字は日本にはない漢字で、「踏む」「踏みつける」という意味です。「踩踏事件」は日本語では「雑踏事故」と訳されるようです。ニュース映像の背景の大観衆の遠景を見ただけでも、さすがは日本の10倍以上の人口を擁する国だけあり、人混みのレベルが桁違いです。このような人の群れが自分の体の上に雪崩のように降りかかろうものなら、きっとひとたまりもないでしょう。まさにタイトルの通りの「踩踏惨劇」です。それにしても、慕林杉さんというこの女性キャスターがあまりにもべっぴんさんで、見とれてしまいました(笑)。

元日のニュースは夕方以降は既にこの事件一色でしたが、特に詳しく掘り下げて解説していたのは元日20時スタートのCCTVのニュース特集「東方時空」でした(下写真)。日本でいえばNHKニュース9の大越健介さんかテレビ朝日のニュースステーションの古館伊知郎さんに相当するかもしれない(?)張羽さんという名の男性キャスターは、一見すると日本の俳優の内藤剛志さんに顔や雰囲気が似ているのですが、メモ用紙の束を片手に上へ下へと忙しい身振り手振りで事件について説明するその姿は、まるで往年のやしきたかじんさんの「指し棒芸」の再来かと思うほどのダイナミックなもので、言葉はわからずとも見ているだけで事件の真相が理解できたような気になってしまうのでした(笑)。


上の字幕を日本の漢字に直すと、「今年灯光秀転場 多数市民不知情」となります。「灯光秀」というのが例のライトアップショーです。ここで重要なのは、例年は上海の外灘で行われてきたこのイベントが、今回は陳毅広場(上写真中央下方)から数百メートル北側に位置する外灘源(上写真でキャスターが掲げるメモ用紙の先の左上方)に会場が変更になっていたということです。この会場変更を市民の多くは「不知情」…つまり「なさけを知らない」のではなく「(会場変更という)事情を知らなかった」という事です。それにしても、私のような中国語を習ったことのない日本人にも字幕の意味が分かってしまうあたり、同じ漢字文化であることの強みとありがたみを感じます(笑)。

さて、前置きが長くなりましたが、私は実は昨年と今年の2年連続で上海での年越しを経験しました。もっとも、大晦日の外灘の人混みに果敢に挑戦する勇気はさすがに無く、今回もその前年と同様、滞在先のホテルでリモコン片手にカウントダウンショーや歌合戦に外国語放送などをザッピングするのが年末年始の楽しみとなっていました。

しかし、ライトアップショーにチャンネルを合わせた瞬間、何だか違和感がありました。昨年の「灯光秀」(左下写真)と今年の「灯光秀」(右下写真)の映像を以下に並べて比較してみましょう↓。

明らかに背景の建物が違います。もっとも、お茶の間でお茶などズズッとすすりながらミカンとリモコンを片手にゆったり見ていれば気付く変化であっても、すでに現地に行ってしまっている人の場合、あるはずのライトアップがなされていない外灘を見た瞬間に血の気が引いてパニックに陥ってしまうとしても無理はありません。そして、現地の人々の中には、手持ちのスマホを駆使したのか(?)会場変更を察知した人も少なからずいたようです。そして、その観客が真の会場である外灘源へと急遽移動しようとしたことで、狭い階段を登る者と下る者が交錯することになり、人々が将棋倒しとなり事件発生に至ったというのが、現地の公式発表による見立てです。

上の字幕で「36人遇難」とあるのは、36人の死者が出たという意味です。日本には「遭難」という単語はありますが、それは必ずしも死亡を意味しません。それに、「難に遭遇する」という表現が日本だと「遭難」なのが中国では「遇難」となり、「殺される」「事故で死ぬ」の意味になるとは、妙に興味をそそられます。

さて、このような悲劇のあった日に上海にいたということも何かの縁かもしれません。ということで、人が多少は減ったであろう数日後を狙って、私は外灘の事件現場である陳毅広場に足を運ぶことにしました。写真の銅像が陳毅さんです↓。しかし、銅像前の広場はいまだに人、人、人です。確かに事件直後に比べればこれでもかなり減ったのでしょうが、2~3日すれば人がガクッと減るだろうという私の見立ては大甘だったようです。

銅像前は犠牲者の追悼のための献花スペースとなっており、警察が物々しく人の立ち入りを制限しています。しかし、花束を持っていれば誰でも献花スペースに入れるようでした。グルリと取り巻くフェンスの外側では、大勢の人々がその献花の様子をじっと眺めています。今回の36人の犠牲者は平均年齢22.7歳、男性11名(12~37歳)、女性25名(18~26歳)という構成であり、前途ある若年者の多さのみならず、女性が多いということも大いに目を引きます。犠牲者の死因の多くは圧迫による窒息であったという報道からも、若年者ないし女性の骨格では人の波による容赦ない圧迫に耐えられなかったのだろうと推測されます。そして、そのような将棋倒しの群衆に対抗する方法として、中国のテレビはご丁寧にも映像付でこのような解説がありました↓。


「踩踏発生時如何自救?」という字幕が見えます。このような事件が発生した際にいかにして自分の身を守るか、という意味で間違いないでしょう。その下の字幕は、日本の漢字に直すと「護住胸前空間 防窒息」となります。このようなアクシデントに際して個人でできる対処法として、上のように自らの手首を他方の手でしっかり握り、胸郭の前方に呼吸運動のためのスペース「胸前空間」を確保することで「防窒息」、つまり窒息を防ぐよう呼びかけています。もっとも、人口13億の半端ない圧迫力が一個人の胸郭に加わるようなことになれば、いくらこのような防御策を取ったとしても腕ごとへし折られて終わってしまいそうで、果たしてこれで防護になるのかという気もします。となると、真の対処法は「人混みの中にはなるべく行かないこと」に尽きるでしょう。実際、この事件を受けて中国当局は当面の間、人の集まりそうなイベントを全て中止することに決定していました。安全確保をできる体制を十分に整えることができてから再開するのだそうです。果たして今年末の上海で「灯光秀」が開催できるのか否か、当局は具体的にどのような対処方法で挑むことになるのか、日本にとってもきっと参考になるでしょうし、世界中の注目もそこに集まることでしょう。

ちなみに、この放送では対処法として同時に、「下に落ちているものを拾うな」とも言っていました。これは事件当時、近隣ファッションビル「外灘18号」(旧・チャタード銀行上海支店、右下写真)からアメリカドルに似たクーポン券(左下写真)がばら撒かれていたという話に絡んだものだと思われました↓。


左上の字幕で、”警方”は警察側、”美金”は米ドル、”无关”は無関係という意味です。つまりこれは、「ばら撒かれた米ドル札に似たクーポン券は事件とは無関係である」という内容の警察発表を報じたものです。クーポン券が撒かれたのは事故発生から数十分後だったため事故原因ではない、というのがその理由です。ただし、このクーポン券が本当に無関係だったのか事態の深刻化に多少なりとも関与したのかどうかは横に置くとして、例えホンモノの紙幣が撒かれることがあったとしても、今回のような雑踏事故に巻き込まれて落命したくなければ、「下に落ちたものはむやみに拾わない」という教訓自体の正しさは疑う余地がありません。加えて、貴重品を落としやすいような構造のバッグなどを手回り品として使用しないといった工夫も自衛手段として重要でしょう。

ここが事件現場となった階段です。岩手放送のオラ君もすっかり顔が引きつっていますが、当日の悲劇へと思いを馳せながら足元の一段一段をなぞるように心に焼き付け、無念にも犠牲となった未来ある若者たちに心から冥福を祈りつつ外灘を後にしました。この事件は日本ではあまり大きく報道されなかったのか、知らない人がかなり多いようですが、少なくとも私は命のある限り、今後も大晦日の23時35分が来るたびに今回の上海での見聞を思い出すことでしょう。


<参考サイト>

YouTube -SMG上海电视台官方频道 SMG Shanghai TV Official Channel:「2015上海新年倒计时5D灯光秀 shanghai new year’s eve 5D lights show」
https://www.youtube.com/watch?v=eN3hQjwgd9I
(当日の外灘源でのカウントダウン・ライトアップショーの様子。上海のテレビ局がYouTube公式チャンネルを持っていることも驚きだが、自局の番組を無料試聴可能にしているのは度量が広いのか著作権意識が薄いのかわからないが、少なくとも海外に対するPR戦略として効果抜群であることは間違いない)
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