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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2015/01/09

ANA国際線シートプログラム『フィギュアスケート・グランプリファイナル2013』から紐解く町田樹選手の電撃引退

つい先々月、この目でしっかりとその演技を見届けたばかりの選手が、ものの一か月半で何と引退してしまうとは、当時誰が想像できたでしょうか。グランプリシリーズ六大会の五番目として今年はパリでなく例外的にボルドーで開催されたフランスのエリック・ボンパール杯については以前のコラムで何度か述べましたが、昨年末に引退を発表した町田樹選手にとって結果的に最後のグランプリ大会となったこのボルドー滞在は、「グランプリ大会→グランプリファイナル→全日本フィギュア→電撃引退」という、町田選手自身の脳裏にはおそらくかなり昔から周到に準備されていたであろう花道の一角だったのでしょう。彼にとってあのエリック・ボンパール杯が最初から「アマチュア競技歴の中で最後のグランプリ大会」と位置づけられていのだとすれば、当時の「必勝祈願の教会で道に迷った」という一連の報道もまた、今振り返れば額面通りの話ではなかったのかもしれません(→エリック・ボンパール杯観戦記(1)…ボルドー散策で町田選手が道に迷ったのはこの教会?!)。

さて、昨年12月に日本に帰国する機会がありました。ドイツから日本へのフライトは11時間程度かかりますが、全日空(ANA)を利用する場合の私の機内シートプログラム選定のルーチーンは「ベストヒットUSAからスタートしハリウッド映画から非ハリウッド映画へ流れる」というものでした。しかし、今回はこのルーチーンを大きく外れる事態となりました。というのは、ビデオ一覧の中にこのような新顔を発見したからです↓。


メニューから「ビデオ」を選び、その中の「スポーツ」を選択すると、上のような画面になります。その一番上に、並みいるゴルフ番組を抑えるかのように、『Grand Prix of Figure Skating Final 2013 in Fukuoka』の文字が見えるではありませんか!


こちらの番組は、五輪直前であった昨シーズン(2013/2014)の12月5日および6日にマリンメッセ福岡で開催されたフィギュアスケートのグランプリファイナルです。それも、女子やアイスダンスといった他のカテゴリーは一切差し置き、男子シングルのみを編集した内容となっています。それも、参加全6名の男子選手のショートプログラムおよびフリープログラムを滑走順はそのままに、その演技とキス&クライの得点表示の瞬間のみをつないで構成されています。さすがは羽生結弦選手の所属先でもあるANAだけのことはあると、思わずうなってしまいました(笑)。私もこれまでに搭乗した航空会社は多いとは思わないものの一つや二つではありませんでしたが、機内シートプログラムのスポーツといえばゴルフにサッカーと相場が決まっており、フィギュアスケートが出てきたのは今回が文句なくわが人生初の経験でした。となれば、このチャンスを逃さない手はありません(笑)。どのみち長いフライトですし、前後左右の乗客が不思議がるほどに、私はこの小さいスクリーンで延々と繰り返し隅々までじっくりと、6名12パターンの演技を堪能したのでありました。

ちなみに、少し復習になりますが、ちょうど一年一か月前に開催されたこの大会は、2014年ソチ五輪の代表選考会も兼ねていました。ソチ五輪で3枠を持つ日本男子でしたが、この前年に初の全日本王者となっていた若手急成長株の羽生結弦は盤石の第一代表候補、2010年五輪銅メダリストのみならず同年の世界王者でもあり抜群の戦績を誇る髙橋大輔選手が怪我に悩まされながらも実績面から二番手候補と考えられる中、三番手のポジションが大混迷を見せておりました。このシーズン限りの引退を表明していた元全日本王者・織田信成選手(当時26歳)、同じく元全日本王者・小塚崇彦選手(当時24歳)、この前年にグランプリ大会初優勝(2012年カップ・オブ・チャイナ)を果たしたばかりの「やや遅咲きの急成長株」こと町田樹選手(当時23歳)、同じく前年にグランプリ大会初制覇(2012年エリック・ボンパール杯、→番外編(1)…無良崇人くん、エリック・ボンパール杯優勝おめでとう!フィギュア日本男子、超激戦区の時代)を達成した無良崇人選手(当時22歳)の四つ巴との見方が優勢で、時の運次第で誰が上位に来るか誰にもわからないという、まさに熾烈極まりない「第三の男」争いの真っ只中にあったのがこの時期です。そのような状況下にあって、この福岡でのグランプリファイナルに自力でコマを進めたのは羽生・髙橋・町田の三選手のみであったため、五輪代表三枠目への道は町田選手が大きく一足リードしたように大会前は思われたのですが、髙橋大輔選手が怪我により棄権したことで織田信成選手が代替出場を果たしたことで、一気にこの大会は「ソチ五輪・第三の男」を占う激戦、もっとハッキリ言えば「町田vs織田」の前哨戦としての一騎打ちという様相まで帯びることになったのでした。


髙橋選手の代替出場ということで必然的に一番滑走となった織田信成選手は、ショートプログラムで会心の演技を披露し、80.94点を叩き出して3位に着けました。対照的に、町田樹選手はジャンプの失敗などが響き、得点は65.66点と、何とショート最下位に沈んでしまいました。「町田樹史上最高プログラム」と称された「エデンの東」でしたが(左上写真)、得点表示の瞬間の町田選手の表情は、隣に座るアンソニー・リュウ氏ともども、暗いものでした。

しかし、翌日の町田選手は前日とは別人でした。一日でこうも変われるのかと思うほどの一世一代の演技で、演技直後には本人も涙で思わず顔を押さえるような素晴らしい演技となりました。間違いなくこの演技こそが、彼の五輪への道における最大のターニングポイントとなった「潮の分かれ目」だったと言えるでしょう。

この前年のグランプリファイナルでは初出場で最下位、ちなみに昨年のグランプリファイナルも最下位と、町田選手は元々グランプリファイナルとの相性があまり良くなかったのかもしれません。しかし、五輪シーズンであるこの年の町田選手は、上のビデオの「火の鳥」のフリー演技により、ショート6位から大きく盛り返して4位に入ったのでした。ここで踏ん張らなければ「五輪第3枠争い」から大きく脱落しかねなかっただけに、はねのけた精神的プレッシャーの大きさはいかばかりだったかと、このビデオを何度も見返しながら想像して余りあるものがありました。


こちらが、フリーの得点が出た瞬間です(上写真)。本人もさることながら、隣に座るコーチのアンソニー・リュウ氏に見えるかすかな安堵の表情が全てを物語っています。

もっとも、代替出場だった織田信成選手はこの大会で町田選手をも上回る3位に入りました。これにより、「第三の男」を巡る仁義なき戦いは結局のところ、この2週間後となる全日本フィギュアに持ち越されることになりました。そして、その結果がどうなったかは、すでに日本中の皆様がご存じの通りであります。

ちなみに、この年の年末の全日本フィギュアで2位に入りソチ五輪の切符を手にした町田選手は、帯同できるコーチの人数制限に伴い、アンソニー・リュウ氏(下写真左端)および秦安曇コーチ(下写真右端)との師弟関係を大会直後に解消しました。


(下写真は全日本のショートプログラムの直前、上写真が得点掲示直後。リュウ氏はフリー後のキス&クライには登場しないため、これが2人の並ぶ最後のシーンとなった)


町田選手の軌跡と引退の決断を知った上でビデオを振り返ると、町田選手のソチ五輪代表への道は、それまで厳しかったところから急に拓けたかと思ったら、そこから何度も不意打ちのようにバタンと閉ざされかけ、そのたびに不死鳥の如く舞い上がっては体当たりで突破してきた茨の道だったのだろうと想像できます。ほんの1年前まで横にいたアンソニー・リュウ・コーチとの電撃的な別れもまた、今思えば今年の電撃引退の布石だった可能性もあり、このANA国際便シートプログラムで見られる彼らのツーショットもまた、別な視点を与えてくれる実に貴重な映像資料です。もしANA国際線に搭乗の機会がある方がいらっしゃるなら、このビデオを是非見ていただきたいと、私からもANAになり代わって(笑)強くオススメいたします(ANAの国際線サービスを見ると、2015年1月の時点でグランプリファイナルはまだ上映されているようです)。

最後に蛇足ではありますが、仮説を一つ。私は昨年のエリック・ボンパール杯からの帰路でパリまでは町田選手と同じ飛行機でしたが、パリのシャルル・ド・ゴール空港で分かれる形となりまし。その際、彼は日本帰国のためANA便に乗り換えたように見えました。あの時の私の見立てがもし正しいなら、彼はひょっとしたら帰り道のANAパリ~成田便の中で、このビデオの中の自分の姿を何度も何度も繰り返し見ていたかもしれません。それこそ、つい先日の私のように、周囲の乗客に奇異の目で見られていた可能性すらあることでしょう(だって本人だもの…笑)。そして、あの日のプレッシャーに打ち克った自分の演技を脳内に何度も刷り込みながら、来るべき全日本フィギュアとその直後の引退までのシナリオ、さらにはその後の人生設計にも思いを馳せつつ、11時間程度のパリ~成田間の空の旅を満喫したのではないでしょうか?もっとも、これはあくまでも私のあやふやな目撃情報に基づく単なる仮説に過ぎませんが…。

いずれにしても、アマチュアのフィギュアスケート競技から離れ、大学院での研究生活に邁進しようという町田樹さんの今後の人生に幸多かれと祈っています。


<参考サイト>
ANA国際線サービス:エンターテインメント 映画・ビデオ
http://www.ana.co.jp/int/inflight/guide/movie/

YouTube -  Tatsuki Machida SP(no commentary)+Interview 2013 Japanese Nationals
https://www.youtube.com/watch?v=Vx6V2CzQFBg
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