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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/12/19

エリック・ボンパール杯(4)…ボルドーだからこそ図らずも見えてしまった選手の舞台裏の姿が面白すぎる!

今年のエリック・ボンパール杯が開催されたボルドー(フランス)のメリアデック・アイスリンクは、例年開催されるパリのベルシー・アリーナとは異なり、一階と三階が関係者専用のセキュリティーゾーンとなっていたという話、さらに大会前からチケットの売れ行きが芳しくなかったのか、最前列の席が楽々とゲットできてしまったという話は、以前のコラムで詳しく解説しました(→グランプリシリーズ・フランス大会発祥の地!ボルドー開催のエリック・ボンパール杯に行ってきます!)。これらの事情から、私のさほど数多いとは言えないスケート観戦歴において前例のない”最前列カブリ付き”の超ミーハー席(?)に図らずも陣取ることになった私は、これがセキュリティーゾーンに最も近い席でもあったことから、選手への花束やプレゼントを山のように準備している女性陣に囲まれて場違い感が半端なく逃げ出したいような事態こそ陥ったものの、新たな発見にも恵まれました。それは、このような”思わぬ副産物”を拝むことができたことでした↓。


水色の「ERIC BOMPARD」の看板がチラっと見える青いリンク壁の向こう側に、濃淡のオレンジ色に統一された壁とガラス扉があります。ガラス扉の向こうには、出番を待つ白いTシャツ姿の男子選手と向かい合う赤い上着の女性コーチの姿が見えます。テレビのフィギュアスケート中継では、関係者用スペースの廊下などで選手がiPodを聞きながらジャージ姿で本番の演技のチェックをする姿が映し出されることが多々ありますが、このメリアデック・アイスリンクではそれが何と客席から丸見えなのです!これはベルシーの客席では目にすることのできなかったお宝の光景であり、これを見ない手はありません。

上の写真をさらに詳しく見ると、スケートリンクは右側に拡がっており、ガラス扉にリンク壁の青い広告やジャッジにテクニカルコントローラーや司会の席が写りこんでいます。つまり、この席に座る観客は、普通なら右を向いて選手に声援を送ったり花束を投げたりします。ところが、私があまりに左ばかり見ていたため周囲から怪訝そうな目でみられていたのが、ある瞬間を境に私がおもむろにデジカメを取り出して左に向けていきなりバチャバチャと撮り始めた途端、周囲の方々もつられて一斉に左を向いてしまいました(笑)。

ちなみに、どうして急に写真を撮り始めたのかと言うと、ガラスの向こうに写る選手の奇妙キテレツな練習光景が大いに目を引いたからです。その選手こそ、先週のコラムでも出てきたフランスの男子シングル、シャフィック・ベセギエ選手でした(→エリック・ボンパール杯観戦記(3)…移民国家フランスのロールモデル?シャフィック・ベセギエが体現する世界)。


暗い会場で選手の早い動きを撮るには、私のデジカメはどうやら性能が足りなかったようです。どの写真もピンボケになってしまい、決定的な写真をお見せできないのが残念なのですが、上の写真で左下の端に写る丸い物体は実は床に転がった子供用ミニサッカーボールです(ガラスに写りこんでいる人物の足元に一部重なって見にくい)。シャフィック・ベセギエ選手、廊下を所せましとドリブルしながら駆けまわったり、シュートを撃ったりして遊んでいます。そして、もの凄くサッカーのリフティングが上手です!前回コラムで「(アルジェリア移民の)父親は彼にサッカーをしてもらいたいと願っていた」との記事を引用しましたが、背中に「FRANCE」の青い文字の入ったTシャツを着てリフティングに明け暮れるその姿を見れば、親がそう願うのもさもありなんという感じです。もっとも、サッカーというよりも平安貴族の蹴鞠(けまり)の方が雰囲気としては近いような気も…(笑)。

ガラス扉の向こうでは、女性コーチのアニック・デュモン(前回コラムでフランス2のインタビュアー役としても登場)もまた一緒になってエンジョイしているようでした。サッカーでいう「スローイン」のような投げ方で彼女が彼にボールを投げ、それを彼が足で受けてドリブルするシーンもあれば、二人で野球のキャッチボールのようにボールを投げ合ったりもしていました。あまりに楽しそうなので肝心のスケートリンクの方はそっちのけでしばらく見とれていた私でしたが、次の瞬間さらに目を疑う光景に出くわします。命名するなら「シャフィック流・縄跳び」でしょうか。縄を持ってきて普通に縄飛びを始めたシャフィック君、飛んでいる最中にアニックコーチに外からボールを投げ入れてもらうと、そのままボールをリフティングしながら縄飛びを続けるという、信じられない芸当を始めたのです!何と言う特殊能力!彼ならフィギュアスケートを引退した後も、大道芸人で十分食べていけそうです(笑)。「この人、何者?」と私が思って彼のことを調べ始めたのも、この「シャフィック流・サッカー縄飛び」を見て俄然興味が湧いたことがそもそもの発端でした。もっとも、この芸当がフィギュアスケートにどこがどう役立つのかは、見てもあまりよく分かりませんでしたが。


(左は一足前を歩くコーチのアニック・デュモン氏。右後方のシャフィック・ベセギエ選手は左脇にミニサッカーボール、左手に縄飛び用の縄を持っているのだが、ピントが合わず残念)

前回コラムでも紹介したように、ほとんど13歳に近かったという信じられないほど高いスケート開始年齢からトップクラスにまで上り詰めたシャフィック・ベセギエ選手の抜群の運動神経は、この一連の舞台裏でのアップの光景でお釣りがくるほどに理解できました。しかし、さらに私が感動したのは、こちらのシーンです↓。


これは、シャフィック・ベセギエ選手が一旦それまでの練習を全て止めて、ガラス越しの本番リンクに視線を送っているシーンです。この写真の直前には、彼は視線の先に登場する選手に向かってわざわざ拍手まで送っています。普通、出番を待つ選手はアップの間は自分のことに集中し、他の選手の情報はなるべく耳に入れないようにするものではないかと思うのですが、このケースはそうではなかったのも、視線の先の相手がコチラの選手だったからなのでしょう↓。


その視線の先にいたのは、同じフランスのフローラン・アモディオ選手でした。元々二人は年齢も近く、フランス国外に自身の起源をもつという共通点もあります。そして、二人はおそらくプライベートでも仲が良いのでしょう。それをうかがわせたのが、前日のショートプログラムでのワンシーンでした。グランプリシリーズ大会のショートプログラムでは選手は世界ランク下位から上位の順に登場することになっており、今大会ではベセギエ選手が4番滑走、アモディオ選手が5番滑走でした。そして、演技を終えてリンクを引き揚げるベセギエ選手は、入れ替わりでこれから氷上に滑り出そうとするアモディオ選手に近づくと、すれ違いざまにその背中にそっと手を触れたのです。

結果を先に言うなら、このショートプログラムでベセギエ選手は4回転連続ジャンプも含めたノーミスの会心の演技で自己最高得点を更新して5位につけたのに対し、アモディオ選手は二本のジャンプ失敗が響き自己最高を15点近く下回る9位に終わりました。となると、この演技直前の相手に対するすれ違いざまのボディータッチは、ベセギエ選手がアモディオ選手の不振を以前から知っていたゆえの激励ではなかったかと、後からではありますが推測が成り立ちます。フィギュアスケートの男子シングルのような個人競技は基本的には自分との戦いであり、他人に構う余裕など無いのが普通かと思いますが、そんな中でもしベセギエ選手が自分自身がうまくいったというその運気をアモディオ選手にも分けてあげようとしたのであれば、それはそれで凄いことだと思います。

翌日のフリープログラムは前日のショートプログラムの下位から上位の順の滑走となります。したがって、ショート5位のベセギエ選手と9位のアモディオ選手とでは滑走グループが異なるため、氷上での接点はありません。しかし、ガラス扉の反対側でアップにいそしんでいたベセギエ選手が、アモディオ選手の登場の瞬間にわざわざ自分の練習を中断してまでも彼の演技を見守るという、普通ならあまりお目にかかることのない貴重な光景は、私にとってはこのベルシーでの大会観戦の一番のハイライトだったかもしれません。それもこれも、両選手の心のやさしさと、深く強い絆が成せるワザだったのでしょう。

結局、フローラン・アモディオ選手は不調から脱することはできず、フリー・総合ともに11位(最下位)に沈み、現フランス王者の実力の片鱗も見せることは叶いませんでした。そして、その彼を見守った後に登場したシャフィック・ベセギエ選手もまた、フリーの出来は芳しくなく、終わってみればフリー・総合ともに9位でした↓。


(フリー終了直後、頭を押さえてうつむくシャフィック・ベセギエ選手)

しかし、試合が終われば、すっかりオフモードです。衣装から普段着に着替えたベセギエ選手、いつの間にか一般ピープルに混じって通路で観戦していました。そして、その横にはあの元五輪銅メダリストでテレビ解説者のフィリップ・キャンデロロ氏の姿が…!男子最終滑走のデニス・テン選手の演技の間もずっと、キャンデロロ氏は大きな身振り手振りで延々とシャフィック君に何かを力説していました。シャフィック君の方は、何だか不思議な笑みをたたえながらウンウンと聞き役に徹しているようでしたが(笑)↓、この会話でさらなる飛躍の手がかりを掴んだのでしょうか?今後の活躍に期待が膨らみます。


奇しくもこの原稿が掲載される頃といえば、フランス・イタリア・スイスの3ヶ国の国境に至近のムジェーヴという村でフランスフィギュアスケート選手権(Championnat de France Elite)か行われているはずです(12月18日~21日)。男子シングルはアモディオvsベセギエの一騎打ちとなっている可能性が高いですが、当コラムに登場した他のカテゴリーの選手の活躍も気になります。さらにその後には、来年の欧州選手権(ストックホルム、2015年1月26日~2月1日)および世界選手権(上海、2015年3月23日~29日)も控えています。試合や選手の思わぬ裏側を垣間見ることができて収獲の多かった今回のエリック・ボンパール杯でしたが、これをさらに上回るような新鮮な発見に満ちたフィギュアスケート観戦の機会がもし今後も得られた場合は、またこのサイトで紹介できればと思います。


<参考サイト>
FFSG (Fédération Française des Sports de Glace)フランススケート連盟公式ホームページ
http://ffsg.org/CHAMPIONNAT-DE-FRANCE-ELITE
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