2014/10/03
オクトーバー・フェスト大特集!ドイツの記事から知るビールの効能や欠点
猛暑の夏を過ぎ、ドイツ全土のビール党がジリジリと待ち構えていた楽しい秋がやってきました。この原稿が掲載される10月といえば、ドイツでは何と言ってもオクトーバー・フェストに尽きます!オクトーバー・フェストといえば200年以上の長き歴史を誇るビールの祭典ですが、実は意外や意外、近年のドイツではビールの消費が落ち込んできているそうで、入れ代わるようにノンアルコールビールが売上を伸ばしています。ノンアルコールビール大躍進の一番の理由は「車の運転に響かないから」という点にあると思われますが、それに加えて最近のドイツ人の健康志向の高まりや、他国に類を見ないドイツのノンアルコールビール自体の美味しさも重要なポイントではないかと思います。
ということで、今週は「オクトーバー・フェスト大特集」として、その名もズバリ「ビールに関する耳寄りな話」と題したシュトゥットガルトニュースというドイツのインターネットニュースの記事を紹介したいと思います。この記事はそもそも原文が一問一答式によくまとまっており、ビールの効能や負の影響、ひいてはグラスへの注ぎ方から種類の選び方まで、それこそ今年の秋の宴会から年末の忘年会に向けて大いに役立ちそうな豆知識(?)が並んでいます。ちょっと長いのですが、なかなかタメになりそうな内容なので、今回は特別に全文和訳します。なお、訳文は青字とし、これらは筆者の見解ではないことにご注意下さい:(原文はドイツ語、ナンバリング・和訳は筆者)
Stuttgarter-Nachrichten.de(シュトゥットガルトニュース)2014年9月22日:Wissenswertes über Bier "Weizen verursacht den größten Kater"(ビールに関する耳寄りな話「白ビールは二日酔いのもと」)
http://www.stuttgarter-nachrichten.de/inhalt.wissenswertes-ueber-bier-weizen-verursacht-den-groessten-kater.1d7a6353-7930-454b-9971-d5a0893f6c7d.html
タイトル「ビールって健康に良い?それともデブになる?きれいな泡ができるように注ぐにはどうしたらいいの?ビールにまつわるアナタの質問に私たちがバッチリ答えます!」
1) ビールって健康に良いの?
「はちみつを混ぜた暖かいビール」などと聞くとゲゲッと思うかもしれないが、実はこれこそ鼻水や不眠に効く民間療法だった。ただし、これらには科学的エビデンスはない。それでもホップ(ビールの原料となるツル植物)は、8世紀には既に薬草として認知されていた成分で、苦みの基であるのみならず、ビールの日持ちを良くする効果や、ビールの上面にしっかりした泡を形成する効果もある。ホップは自然療法の世界では古典的鎮静薬であるが、同時に抗菌作用も知られ、膿瘍や皮膚の創処置に外用剤として利用されてきた。さらに民間療法レベルでは、ホップの中の苦み成分に胃酸分泌促進作用があることから、食欲低下や消化不良に用いられている。
2) 理想的な泡の乗ったビールを注ぐ方法は?(Wie erhält man die perfekte Bierkrone?)
まず、ビールとの温度差を無くすため、グラスを冷水ですすいでおく。次に、炭酸が逃げすぎて泡が増えすぎないよう、注ぎ口の下にくっつけたグラスを傾けながらビールを受ける。ビールの泡がグラスの縁に達したら、注ぐのを中断して一旦注ぎ口からグラスを離す。しばし待った後、傾けていたグラスを真っ直ぐに戻し、ラストショット(最後のひと注ぎ)を追加する。かくして、泡がグラスのフチから綺麗に盛り上がった理想的なビールが出来あがる。
3) ビール飲むとデブになる?(Macht Bier dick?)
「ビールっ腹」という言葉は有名だが、ビールそのものがデブの元なのではない。ビール500mlには実は210キロカロリーしかなく、同量のリンゴジュースや低脂肪牛乳の250キロカロリーよりもむしろ低い。むしろ問題なのは、人がビールのカロリー単体で満腹感を得らないことである。必然的にツマミからもカロリーを摂ってしまうことになるのは、アルコールが食欲を亢進するからである。かくして、まともなお食事にビールが2リットル加われば、それだけでもうカロリーのお化けとなるのである。
4) ビールを飲むとハッピーになるってホント?(Macht Bier glücklich?)
グラス一杯のビールは脳から幸福感をもたらす内因性ホルモンを分泌させ、気分を高める効果がある。この幸福のホルモンの正式名は「エンドルフィン」といい、脳の報酬系の2つの領域、つまり前脳の一部である側坐核(nucleus accumbens)と前頭葉の一部である眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex)に働きかける。前者は脳内報酬系の活性化に、後者は感情のプロセスと行動抑制に関わっている。エンドルフィンの分泌が多くなればなるほど、人は幸せを感じやすくなる。この作用はアルコール中毒患者の人で特に顕著とされている。つまり、アルコール消費量と正比例して陶酔感が増すのは、あくまでもアルコール依存症の人だけである。
5) 1日何杯のビールなら許される?(Wie viel Bier am Tag ist erlaubt?)
バーデン・ヴュルテンベルグ州のアルコール依存症調査によれば、健康に支障を来さないアルコール量は女性では1日あたり20g、男性は40g/日とされている。アルコール量20gといえば、ワインでいえば250ml、ビールだと500mlに相当する。さらに、アルコールを全く飲まない日(日本で言うところの休肝日)を週に1~2日は必ず設けるべきである。
6) 缶ビールより瓶ビールの方が良いってホント?(Ist Bier aus Flaschen besser?)
ビールをダメにするのは、光、酸素、高温の3つ。ビールの発酵過程で含まれる物質がこれらに弱いことがその理由であり、これは缶でも瓶でも変わらない。しかし、一部の専門家はビールの容器こそが実は決定的に重要と考えている。例えば、缶は遮光効果には優れるが、温度変化には弱い。PET容器だと、ガラス瓶よりも光を通し易く、ガスも通過してしまう。これが瓶容器となると、昔から重要とされてきたのは瓶の色である:緑のガラス瓶は茶色い瓶よりも紫外線を通し易く、いわゆる「光の味 Lichtgeschmack」といわれる味の劣化を引き起こすとされた。「光の味」の原因物質は、ホップ由来の苦み物質が(光により)硫黄を含む物質に変化してできる。しかし、現代では製造工程の中で「光の味」を防ぐ方法が開発されている(ため、瓶でないと絶対ダメということではなくなった)。
7) 二日酔いを起こしやすいビールの種類は?(Welches Bier bereitet den größten Kater?)
アルコールに起因する頭痛を避けたいなら、白ビール(Weizenbier)は避けるべきである。ミュンスター大学の研究によると、白ビールの方がピルスナータイプやエクスポートタイプのビール(注:この両者は下面発酵ビール)よりも二日酔いを起こしやすかったという。これは、白ビールなどの上面発酵ビールに含まれるフーゼル油(Fuselöl)に起因する。この物質は体内で代謝され、心臓の機能を低下させたり脳の酸素欠乏を招く毒素に変わるのだ。
以上です。いかがでしたでしょうか。次に風邪を引いたら、ぜひ温めたビールにハチミツを入れてみたいと思います。ビールっ腹の秘密、多幸性につながる脳内ホルモン分泌…。「白パンよりも黒パン」ではありませんが、ここでもまた「白」ビールが悪者になってしまうことなどは興味深いです。(→祝・初戦突破!ブラジルW杯2014ドイツの快進撃を陰で支えるホルガー・ストロームベルグって誰?、→ドイツといえはライ麦パン?W杯期間限定商品「フスバルブロート」(サッカーパン)にすっかりハマる!)
ということで、今週は「オクトーバー・フェスト大特集」として、その名もズバリ「ビールに関する耳寄りな話」と題したシュトゥットガルトニュースというドイツのインターネットニュースの記事を紹介したいと思います。この記事はそもそも原文が一問一答式によくまとまっており、ビールの効能や負の影響、ひいてはグラスへの注ぎ方から種類の選び方まで、それこそ今年の秋の宴会から年末の忘年会に向けて大いに役立ちそうな豆知識(?)が並んでいます。ちょっと長いのですが、なかなかタメになりそうな内容なので、今回は特別に全文和訳します。なお、訳文は青字とし、これらは筆者の見解ではないことにご注意下さい:(原文はドイツ語、ナンバリング・和訳は筆者)
Stuttgarter-Nachrichten.de(シュトゥットガルトニュース)2014年9月22日:Wissenswertes über Bier "Weizen verursacht den größten Kater"(ビールに関する耳寄りな話「白ビールは二日酔いのもと」)
http://www.stuttgarter-nachrichten.de/inhalt.wissenswertes-ueber-bier-weizen-verursacht-den-groessten-kater.1d7a6353-7930-454b-9971-d5a0893f6c7d.html
タイトル「ビールって健康に良い?それともデブになる?きれいな泡ができるように注ぐにはどうしたらいいの?ビールにまつわるアナタの質問に私たちがバッチリ答えます!」
1) ビールって健康に良いの?
「はちみつを混ぜた暖かいビール」などと聞くとゲゲッと思うかもしれないが、実はこれこそ鼻水や不眠に効く民間療法だった。ただし、これらには科学的エビデンスはない。それでもホップ(ビールの原料となるツル植物)は、8世紀には既に薬草として認知されていた成分で、苦みの基であるのみならず、ビールの日持ちを良くする効果や、ビールの上面にしっかりした泡を形成する効果もある。ホップは自然療法の世界では古典的鎮静薬であるが、同時に抗菌作用も知られ、膿瘍や皮膚の創処置に外用剤として利用されてきた。さらに民間療法レベルでは、ホップの中の苦み成分に胃酸分泌促進作用があることから、食欲低下や消化不良に用いられている。
2) 理想的な泡の乗ったビールを注ぐ方法は?(Wie erhält man die perfekte Bierkrone?)
まず、ビールとの温度差を無くすため、グラスを冷水ですすいでおく。次に、炭酸が逃げすぎて泡が増えすぎないよう、注ぎ口の下にくっつけたグラスを傾けながらビールを受ける。ビールの泡がグラスの縁に達したら、注ぐのを中断して一旦注ぎ口からグラスを離す。しばし待った後、傾けていたグラスを真っ直ぐに戻し、ラストショット(最後のひと注ぎ)を追加する。かくして、泡がグラスのフチから綺麗に盛り上がった理想的なビールが出来あがる。
3) ビール飲むとデブになる?(Macht Bier dick?)
「ビールっ腹」という言葉は有名だが、ビールそのものがデブの元なのではない。ビール500mlには実は210キロカロリーしかなく、同量のリンゴジュースや低脂肪牛乳の250キロカロリーよりもむしろ低い。むしろ問題なのは、人がビールのカロリー単体で満腹感を得らないことである。必然的にツマミからもカロリーを摂ってしまうことになるのは、アルコールが食欲を亢進するからである。かくして、まともなお食事にビールが2リットル加われば、それだけでもうカロリーのお化けとなるのである。
4) ビールを飲むとハッピーになるってホント?(Macht Bier glücklich?)
グラス一杯のビールは脳から幸福感をもたらす内因性ホルモンを分泌させ、気分を高める効果がある。この幸福のホルモンの正式名は「エンドルフィン」といい、脳の報酬系の2つの領域、つまり前脳の一部である側坐核(nucleus accumbens)と前頭葉の一部である眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex)に働きかける。前者は脳内報酬系の活性化に、後者は感情のプロセスと行動抑制に関わっている。エンドルフィンの分泌が多くなればなるほど、人は幸せを感じやすくなる。この作用はアルコール中毒患者の人で特に顕著とされている。つまり、アルコール消費量と正比例して陶酔感が増すのは、あくまでもアルコール依存症の人だけである。
5) 1日何杯のビールなら許される?(Wie viel Bier am Tag ist erlaubt?)
バーデン・ヴュルテンベルグ州のアルコール依存症調査によれば、健康に支障を来さないアルコール量は女性では1日あたり20g、男性は40g/日とされている。アルコール量20gといえば、ワインでいえば250ml、ビールだと500mlに相当する。さらに、アルコールを全く飲まない日(日本で言うところの休肝日)を週に1~2日は必ず設けるべきである。
6) 缶ビールより瓶ビールの方が良いってホント?(Ist Bier aus Flaschen besser?)
ビールをダメにするのは、光、酸素、高温の3つ。ビールの発酵過程で含まれる物質がこれらに弱いことがその理由であり、これは缶でも瓶でも変わらない。しかし、一部の専門家はビールの容器こそが実は決定的に重要と考えている。例えば、缶は遮光効果には優れるが、温度変化には弱い。PET容器だと、ガラス瓶よりも光を通し易く、ガスも通過してしまう。これが瓶容器となると、昔から重要とされてきたのは瓶の色である:緑のガラス瓶は茶色い瓶よりも紫外線を通し易く、いわゆる「光の味 Lichtgeschmack」といわれる味の劣化を引き起こすとされた。「光の味」の原因物質は、ホップ由来の苦み物質が(光により)硫黄を含む物質に変化してできる。しかし、現代では製造工程の中で「光の味」を防ぐ方法が開発されている(ため、瓶でないと絶対ダメということではなくなった)。
7) 二日酔いを起こしやすいビールの種類は?(Welches Bier bereitet den größten Kater?)
アルコールに起因する頭痛を避けたいなら、白ビール(Weizenbier)は避けるべきである。ミュンスター大学の研究によると、白ビールの方がピルスナータイプやエクスポートタイプのビール(注:この両者は下面発酵ビール)よりも二日酔いを起こしやすかったという。これは、白ビールなどの上面発酵ビールに含まれるフーゼル油(Fuselöl)に起因する。この物質は体内で代謝され、心臓の機能を低下させたり脳の酸素欠乏を招く毒素に変わるのだ。
以上です。いかがでしたでしょうか。次に風邪を引いたら、ぜひ温めたビールにハチミツを入れてみたいと思います。ビールっ腹の秘密、多幸性につながる脳内ホルモン分泌…。「白パンよりも黒パン」ではありませんが、ここでもまた「白」ビールが悪者になってしまうことなどは興味深いです。(→祝・初戦突破!ブラジルW杯2014ドイツの快進撃を陰で支えるホルガー・ストロームベルグって誰?、→ドイツといえはライ麦パン?W杯期間限定商品「フスバルブロート」(サッカーパン)にすっかりハマる!)
この記事の中では「ビアクローネBierkrone」という単語が頻繁に出てきます。ビアがビール、クローネが王冠の意味ですので、瓶ビールの話も登場するため、ビールのフタとなる王冠のことを指していると日本人なら思いがちですが、実はこれはビールの泡のことなんですね。上の写真はミュンヘンのホーフブロイハウスにおける岩手放送のオラ君(未成年)ですが、王冠がだいぶ縮んでしまっているようです(笑)。
なお、上記記事では二日酔いの原因物質としてフーゼル油が登場しますが、医学的には二日酔いの原因物質はむしろアルコールの分解過程で生じるアセトアルデヒドとされています。日本人はこれを分解するアセトアルデヒド分解酵素が欧米人よりも少ないという話も有名です。そういえば最近は、甲子園球場で高校野球を観戦する白人集団も珍しくなくなりました。今年も、ビールを十杯位お代わりしても顔色一つ変えないアメリカ人集団に遭遇しましたが、甲子園球場における一杯700円の生ビール十杯分のコストを考えると、私ならしゃぶしゃぶ食べ放題の方がよっぽどマシと思ってしまうため、真似する気は到底ありません(笑)。ドイツでの周囲の人たちを見ても、白人の人は酒に強い人が日本では考えられないほど多く、これがかえってアルコール依存症の多さに結びついているのだそうです。
最近ではスーパーなどで輸入ビールを見ることも珍しくなくなりました。お値段が張るのが残念ですが、機会があればぜひ黒ビールを肴にドイツの白ソーセージなど試していただければ幸いです。