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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/09/12

祝・全米準優勝!錦織圭選手の大ブレイクでよみがえる開星(島根)の思い出

今週火曜日の早朝、全米オープンテニスの決勝戦を前に、日本は「錦織フィーバー」に沸いていました。出社前にスポーツバーやパブリックビューイングに立ち寄られた方や、慌ててWOWWOWと契約された方もいらっしゃることでしょう。テニスの四大大会の決勝戦に日本人が進出するのは史上初の快挙だけに、日本全土が全米オープンテニスに熱い視線を注ぐのも、甲子園に浜風が吹く位に自然なことでした。

一部報道で既にご存じの方も多いかと思いますが、錦織圭選手は島根の開星中学校の卒業生です。島根の開星といえば松江市内にある私立学校で、高校は今夏の甲子園にも登場した野球の強豪でもあります。今年の甲子園での開星といえば、初戦の相手が何と後に優勝することになる大阪桐蔭という恐るべきクジ運でしたが、そんなバリバリの優勝候補にもひるむことなくカウンターパンチで初回に4得点、最終的にも10安打6得点を挙げて相手を大いに苦しめたのですが、わずかに1点及ばず初戦敗退となりました。相手がわずか4安打で7得点を挙げることができた背景には、度重なるワイルドピッチにエラーという「自滅」の他に、2度にわたるランナー三塁のケースで取られた2度のボークという「厄災」(?)も重なっており、もしこの試合を開星が獲っていれば、後の錦織選手の活躍も加わって「2014年は開星旋風!」と語り継がれるような一年になっていたかもしれず、そう考えるとつくづく勝負の世界は紙一重だと思わずにはいられませんでした。

ちなみに、錦織圭選手と開星とのつながりを私が知ったのは、今から3年前の夏の甲子園の大会期間中のことでした。当時の開星は、後にソフトバンクに入団することになる「島根のジャイアン」こと白根尚貴投手を擁して2年連続の甲子園出場を果たし、”超重量級エース”(公式発表では体重98キロも実際は105キロ)として全国区の人気を誇る白根投手の完封で初戦を突破したばかりでした。下の写真は、2戦目となる日大三(→これまた後に大会優勝を果たした!)との対戦前日のチーム練習を見るために萩谷運動公園を訪れた際のものです。この前年に監督による「腹切り発言」があったという話題性も手伝い、かなりの取材陣が押しかけていました。↓:


野球に詳しい方であれば、上の写真の左から3番目の白根選手はもちろん、左から2人目のポロシャツ姿の男性が栗山英樹さんであることに気付かれたかもしれません。この翌年に北海道日本ハムファイターズの監督となる栗山さんは、当時は熱闘甲子園のキャスターを務めており、大人数のカメラクルーを引き連れつつも開星の練習風景に熱い視線を注いでいました。


(右端が、カメラの前でインタビューに応じる白根尚貴選手)

この取材タイムの間、金網の手前で私はある人物と大いに話が盛り上がっていました。その人物とは、現在の開星中学及び高校の校長かつ学校法人大多和学園の理事長を務める、大多和聡宏氏です↓。

学校法人大多和学園 開星中学校・高等学校ホームページ「理事長・校長からのメッセージ」
http://www.kaisei.matsue.shimane.jp/school/principal.html


この時、開星の卒業生の話題になり、大多和先生が熱く語り始めたのが錦織圭選手の話でした。杉原洋(元・千葉ロッテ→NOMOベースボールクラブ→横浜)でもなく、梶谷隆幸(現・横浜ベイスターズ)でもなく、錦織圭という名前が真っ先に出てきた衝撃を今でも思い出します。錦織選手は中学二年生の途中からアメリカへテニス留学したため、開星中学こそ卒業しましたが、開星高校の卒業生ではありません。さらに2011年当時、錦織圭選手は既に有名ではありましたが今年ほどブレイクしていた訳ではなく、世界ランクもまだ40番台だった頃でしたが、開星関係者は一貫して多大なる期待を寄せつつ見守ってきたようでした。



ここで決勝戦の報道から振り返ってみましょう。錦織選手が178cm68kg、チリッチ選手が198cm82kgというこちらのテレビ画面もまた、多くを物語っています。テレビでは「チリッチの方が身長が20cm大きい」ことを大きく論じていましたが、ここから算出される錦織選手のBMIが21.5であって、チリッチ選手のBMIである20.9を上回っていることは語られませんでした。この「身長では負けていてもBMIは上回っている」という構図こそまさに、今年の夏の大阪桐蔭と開星の対決そのものであり、ここでも不思議な因縁を感じます。(→出場49代表のBMIランキングの変遷から占う今年の甲子園の優勝旗の行方

さらには、錦織選手が体作りのために管理栄養士までつけて改善したという食事内容も、なかなか興味深いものでした。その報道からは、かつて当コラムでも取り上げたサッカードイツ代表専属コックのホルガー・ストロームベルグ氏を思い出しました。(→祝・初戦突破!ブラジルW杯2014ドイツの快進撃を陰で支えるホルガー・ストロームベルグって誰?


「体重を増やしたい」という錦織選手の要望に対し、管理栄養士は「食事回数を増やすこと」を提案したようです。一度の食事量を減らして回数を増やす方が、総カロリーのアップのみならず栄養の体への吸収効率も上がるのは自明のことです。これは私も常日頃、高校野球関係者に繰り返し提案してきたことですが、さすがに「一日七食」を実践するのは高校野球レベルでは費用面も含めハードルが高いと思われます。

さらに、栄養バランスという観点でも、錦織選手の食事内容は示唆的です。以下の写真で真っ先に目につくのは、食卓が色彩に溢れていることです。食卓の色を増やせとは、前述のホルガー・ストロームベルグ氏もその著書内で書いています。下の食事写真を見ると、色とりどりの緑黄色野菜や肉がバランスよく鮮やかに食卓に並んでいるのみならず、その横の米飯がよく見れば純粋な白米ではなく、何か混ぜてあることが分かります(解像度の関係で分かりにくいが、胚芽米ないし玄米や雑穀を混ぜているように見える)。間違っても、「白米を毎食ドンブリ3杯お代わりがノルマ」「オカズは一人前のみでお代わり無し」などという内容ではなさそうです。


過熱した野菜や脂溶性のビタミンを豊富に摂るという観点からは、下のような「チャーハン」も推奨されるでしょう。そのチャーハンの横に野菜料理がもう一品あることも、炭水化物過剰になりがちな高校球界においてアスリートが本来必要とする栄養素を考える上で重要なヒントとなるでしょう。




こちらもなかなか色彩に溢れ、食欲をそそります。錦織選手の好物は「おもち」ということですが、単に炭水化物として摂るのではなく、きなこやフルーツと合わせたりぜんざい風にするなど、多元的な栄養素の摂取と選手の嗜好との両立を図っているあたりはさすがです。

なお、ここに登場した管理栄養士は確か、ソチ五輪で女子スキージャンプの高梨沙羅選手にも帯同していた、「ウィダーインゼリー」のウィダートレーニングラボ所属ではなかったかと記憶しています。プロレベルのトップアスリートにとっては食事もまたお仕事の一環なので、そこに潤沢な人件費を惜しげもなく投入するのは不思議ではありません。しかし、アマチュアでこのレベルを実現するのは簡単ではないでしょう。甲子園のベンチ内で選手がウィダーインゼリーをチューチューと吸っている光景はよく見かけますが、普段の食事に関しても管理栄養士を介入させるとなると、かなり財力のあるチームでないとまず無理です。

そう考えると、島根の開星高校が2011年3月にそれまであった調理科を廃止してしまい、普通科のみになったことは、実に残念という以上にもったいない話だったようにも思います。進学により一層力を入れようという意図だったのかもしれませんが、各方面のスポーツ界を支えるアスリートの学び舎でもある開星であればこそ、様々なスポーツのジャンルに応じたきめこまやかな食事指導を可能にする管理栄養士の育成というコンセプトは、五輪を控えた日本にとっても着眼点としては狙い目ではないかと思われます。それ以前に、そもそも食事とは人間形成の根幹でもあります。次に大多和先生に会う機会があれば、提案してみようかしら…。錦織選手の活躍の報に接したこのタイミングだからか、ついつい開星ひいては島根へと思いを馳せつつそんなことを考えてしまう今日この頃です。


<参考サイト>

開星中学校・開星高等学校 学校概要:略史
http://www.kaisei.matsue.shimane.jp/school/history.html


スポーツナビ・プロ野球:「甲子園を沸かせた“ジャイアン”白根の現在 鷹詞〜たかことば〜」
http://sportsnavi.yahoo.co.jp/sports/baseball/npb/2014/columndtl/201408140001-spnavi?page=1
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