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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/07/11

「デア・クライネ・ヤパーナー」(小さい日本人)というドイツメディアの衝撃発言とベルギーでの出来事

この原稿が掲載される頃といえば、W杯ブラジル大会は準決勝を終わりいよいよ大詰め、ちょうど三位決定戦を目前に控えているかと思います。主力選手のインフル騒ぎや監督のケータイ故障など大小の予期せぬトラブルに見舞われヨタヨタしつつも、ドイツは何とかベスト4進出を果たしました。原稿作成時点では準決勝の結果はまだわからないのですが、前回コラムでご紹介した”勝って強くなる炎のチーム”を意味する「トゥルニアー・マンシャフト」の名にふさわしい快進撃を、ドイツは今のところ見せてくれています(→祝・W杯サッカー準々決勝進出!ドイツ代表は「勝って強くなる炎のチーム」)。

さて、今回は、残念ながら一次リーグ敗退となった日本についての回想です。今大会の日本の初登場は、欧州時間で6月15日午前3時という丑三つ時(日本時間6月15日午前10時)に開始となった対コートジボワール戦でした。実はこの日、私はベルギーのブリュッセルにおりました。土曜深夜スタートのこの試合を、私は夜中にわざわざ起きてまで観戦するつもりは元々ありませんでした。しかし、その前の試合だったイングランド対イタリアが終了したと思われる深夜2時頃だっでしょうか、予想外の事態が発生しました。滞在先ホテルの窓の外が突然やけに騒がしくなったのです。

その騒音とは、イタリアの勝利を近くのスポーツバーで観戦したと思しき酔っ払いの飲んだくれ軍団(笑)が、交差点で挨拶するかのようにクラクションをガンガン鳴らしながら通り過ぎて行ったことによるものでした。彼らはイタリア国旗を体にぐるぐると巻きつけながら雄叫びを上げて大騒ぎしていましたが、その周囲にはイングランド国旗を見にまといつつ肩をガックリ落としてトボトボと駅の方へ向かって歩いていく若いニイチャンたちの姿もありました。サッカーの大きな国際大会の場合、田舎はそうでもないのですが、パリやブリュッセルなどの大都会では贔屓チームの勝利を祝う深夜のクラクションはどこでも黙認されるようです。このため、せっかくそれまでスヤスヤと寝ていた私は、イタリアファンの皆様にたたき起こされた形ですっかり目が覚めてしまい、仕方なくホテルのテレビのスイッチをつけたところ、このようなドイツ国営放送ARDの画面が目に飛び込んできたのでした。


会場となったレシフェ(Recife)という文字の上に、試合開始直前の日本チームの様子が映し出されています。まさにこれから出陣という日本代表の先頭にキャプテンの長谷部選手の背中が見えます。その奥には岡崎選手や香川選手など、サッカーに詳しくない私でも顔のわかる選手が次々と映し出されます。深夜の予定外の日本戦観戦は、他でもないイタリアファンの皆々様が容赦なくたたき起こしてくれたおかげです!イタリア、ありがとう(笑)!と、この時点で私は妙にご機嫌でありました。

しかし、その後がいけませんでした。ちょうどこの時のドイツARDは試合前の戦力分析を放送中で、ドイツ人のアナウンサー(写真左)とブラジル人男性のコメンテーター(同右)との間ではこのような強烈なやりとりがあったのです↓。

ドイツ人アナウンサー 「さて、君はコートジボワールと日本、どちらが勝つと思う?」
ブラジル人コメンテーター 「日本が勝つチャンスが十分にあると思う」(Ich glaube, Japan hat gute Chance zu gewinnen)
ドイツ人アナウンサー 「日本が勝つ?あの小さい日本人(デア・クライネ・ヤパーナーDer Kleine Japaner)が?」

「日本が勝つチャンスが十分にある」とブラジル人コメンテーターが述べた瞬間は、何とまあ嬉しいことを言ってくれちゃうのかと感激しました。しかし、それに引き続くアナウンサーの発言は、持ち上げた直後に思いっきり崖から突き落とすようなもので、私は眠気も一気に吹き飛ぶほどの衝撃で口がしばらくアングリしたままでした。デア・クライネ・ヤパーナー!体の小さい日本人がどうやってコートジボワールに勝てるというのか?という、若干微妙な響きを伴うそのアナウンサーの咄嗟の返答こそが、おそらく欧州メディアひいては欧州の人々の心の奥底を支配する偽らざるホンネだったのかもしれません。これに対するコメンテーターのフォローもあまり説得力がなく、悪い予感はさらにマックスに増幅されるばかりでした。

ちなみに、試合前の日本を好意的に評価してくれたこのブラジル人コメンテーターは、番組内に紹介が全く出てこなかったのですが、後日ルフトハンザのフライトに搭乗した際にその名前とプロフィールが判明しました。なぜなら、6月分の機内情報誌にこのような特集記事が大々的に組まれていたからです↓。


彼の名はジョヴァネ・エウベル(Giovane Elber)。1972年、ブラジル南部のロンドリナ生まれ。ロンドリナといえば、日本の高校野球界で活躍したブラジル人留学生の中にもここの出身者が多いことで知られていましたが、それもそのはず、何とこの都市は1930年に日本人およびドイツ人の移住者により建設されたのだそうです!道理で日本人も多く、野球もさかんな訳です!なお、この記事の中でエウベル氏は「ブラジル人といえば一時間遅刻してもへっちゃらなラテン気質と言われるが、ロンドリナだと1分遅れても連絡を入れるというくらい、そのメンタリティーはブラジルの他地区と異なっている」と発言しており、その歴史の中の日本とドイツという組み合わせを考えれば妙に納得できます。エウベル氏は流暢なドイツ語を話すのですが、ひょっとしたらロンドリナにいた若き時代からドイツと何らかの縁があったのかもしれません。なお、機内誌紹介のプロフィールによると、1990年よりACミラン、翌年よりグラスホッパー・チューリッヒ、1994年からは独ブンデスリーガのVfシュトゥットガルトおよびバイエルン・ミュンヘンで活躍したエウベル氏は、2006年の引退以降はブラジルに帰国し農園経営やストリートチルドレン支援活動の傍ら、ドイツとブラジルを頻繁に往復しながらメディア出演もこなしているとのことです。

エウベル氏のドイツ語は確かにペラペラで大いに結構なのですが、一つ困ったことがありました。ブラジルポルトガル語訛りがあまりに強烈なため、例えば日本を意味する「ヤーパン」(Japan)のことを「ヤップァォ~ン」という感じに発音することです。この「ヤップァォ~ン」という少し鼻にかかって間延びした発音だと、我らがサムライニッポンは何だかズッコケそうなほど頼りなさげなチームのように響いてしまいます(涙)。この「ヤップァォ~ン」連発の時点で既にイヤ~な予感がし始めた私でしたが、例の「デア・クライネ・ヤパーナー」はそこに追い打ちをかける衝撃に他なりませんでした。


試合が始まれば、その後の展開は皆様もご存じの通りです。前半で本田選手のゴールによる1点先制があったものの、後半のドログバ選手投入から2分で2点取られるという衝撃の逆転劇を許し、試合後のドイツメディアは「前半と後半で同じチームとは思えない」「前半しかプレーしていなかった」という日本への厳しい評価とは対照的に、「これぞ(サッカーの)マイスター!」「シェフの到来!」とばかりに、ディディエ・ドログバ選手への礼賛一色となるに至ったのでした。

ここで私は、この日の昼間の出来事を思い出していました。実はこのコートジボワール戦が行われる前の午前中、私はブリュッセル市内を地下鉄で移動しておりました。ヨーロッパの電車の多くは、ドアの開閉が日本のように自動ではありません。自分でレバーを操作したりするのはドイツでもフランスでもごく普通のことですが、ブリュッセルの地下鉄のドアのレバーはそれはもうあり得ないほど固くて重く、その開閉に私は毎度ながらえらく難儀していました。それが、コートジボワール戦を控えたこの日、たまたま同じ車両に乗り合わせていた乗客の中に、コートジボワールのオレンジ色のユニフォームを着た黒人の青年がいたのです。

欧州人にとっては中国人も韓国人も日本人も基本的に区別がつかないのが当たり前なので、このコートジボワール人男性が私をその日の母国の対戦相手の国民であると気づいていたかどうかは定かではありません。しかし、その私が地下鉄を降りようとしてレバーの前でたじろいでいたのをすかさず見て、この男性は親切にも私のためにわざわざドアを開けてくれたのでした。

日本ではあまり見ないような長身で、しかもユニフォームの下にはムッキムキの筋肉がのぞいています。「このような体格の人々がいる国に、日本はホンマに勝てるんかいな?」と、私でなくても考えたことでしょう。「メルスィー」とお礼を述べて下車した私でしたが、この国を敵に回したら恐ろしそうだという思いが、その後のサッカー観戦にも強く影響したように思います。

さて、デア・クライネ・ヤパーナーと言われてしまったわが日本チームですが、本当にそんなにチビなのでしょうか?ということで、公開情報を基に調べてみました。以下に、今回のW杯のチーム別平均身長ランキングをご紹介します(単位はcm)。(データは末尾にリンク先を記したホームページのデータを基に筆者が独自集計)

1位     ドイツ(185.35)
2位     ボスニア・ヘルツェゴヴィナ(185.04)
3位     ギリシャ(184.65)
4位     ベルギー(184.48)
5位     クロアチア(184.39)
6位     韓国(183.65)
7位     イラン(183.52)
8位     イングランド(183.17)
9位     アメリカ(182.96)
10位    スイス(182.78)
11位    ブラジル(182.26)
12位    アルジェリア(182.22)
13位    イタリア(182.13)
14位    ナイジェリア(181.96)
15位タイ  オランダ、ロシア(181.87)
17位タイ  コートジボワール、ポルトガル(181.83)
19位    コロンビア(181.70)
 -全体の平均(181.68)-
20位    フランス(181.65)
21位    オーストラリア(181.26)
22位    ウルグアイ(181.22)
23位    アルゼンチン(181.09)
24位    カメルーン(180.70)
25位    コスタリカ(180.61)
26位    スペイン(179.78)
27位    ホンジュラス(179.61)
28位    ガーナ(179.43)
29位    エクアドル(178.91)
30位タイ  日本メキシコ(178.00)
32位    チリ(175.78)

この平均身長ランキングをじっくり眺めると、色々なことが見えてきます。まず、平均身長が断トツのトップであるドイツがブービータイの日本に向かって「デア・クライネ・ヤパーナー」と言い放つのも、全くごもっともな話でした(笑)。また、ランキング上位が欧州のチームで固められていること(上記・青字)、中でもトップ5のうち2つが旧ユーゴスラビアという衝撃、さらに中南米チームが軒並みランキング下位に集中していること(同・赤字)も明瞭な傾向として見られます。他にも不思議なのは、下位にいる日本とは遺伝的にそうかけ離れている訳ではなさそうな韓国があまりにも対照的なほど上位にいること、同じ欧州でも南欧のイタリア・ポルトガル・フランスなどは相対的に小さいことです。中でも、前回覇者のスペインがビリから6番目という驚くべきポジションにいるということは、衝撃の一次リーグ敗退の一因だった可能性はないのでしょうか。他にも、ぶっちぎりのビリであるチリと、日本と並ぶブービータイのメキシコが揃って決勝トーナメント進出を果たしたことも、日本の今後進むべき方向を考える上では興味深いです。そういえば、一次リーグ敗退直後に日本代表の次期監督としてメキシコ人候補の名前が早々と挙がっていたようですが、それは上記ランキングのデータの延長戦上にある話なのか否か、ついつい想像してしまいます。

私が今回のW杯に関して集計したデータの中には、他にも興味深いものがまだまだあります。それについては、次回あらためて詳しく紹介したいと思います。


(左下にはブリュッセルの交差点でクラクションを鳴らして走り去るイタリアファンの車。右上には歩道をイングランド国旗を身にまとって歩く二人の人物の姿あり)


<参考サイト>

2014 FIFA World Cup Brasil - Teams
http://www.fifa.com/worldcup/teams/index.html

Sports Navi  - 2014 FIFAワールドカップ ブラジル大会 出場国一覧
http://www.spnavi2014.com/team/

Betclic -Soccer - World Championship 2014 Players
http://stats.betradar.com/s4/?clientid=141&language=en#2_1,3_4,22_7,5_7528,9_players,6_4691,174_238704
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