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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/06/20

祝・初戦突破!ブラジルW杯2014ドイツの快進撃を陰で支えるホルガー・ストロームベルグって誰?

先日の初戦でいきなり4-0の大差で強豪・ポルトガルを撃破したドイツですが、こちらは今や全土がすっかりサッカーモードとなっております。どこもかしこも国旗だらけですし、優勝チーム予想クイズやブラジル旅行懸賞クイズは序の口で、ブラジル関連の企画商品やドイツチームのファングッズがどこの店にも競うように並べられています。四年に一度の”W杯便乗商法”は今に始まった話ではなく、どの国がどのような盛り上がり方を見せようと勝手ですが、数週間前からこの調子だったのでW杯開幕前にはもうお腹いっぱいだった私は、これまではそのようなコーナーにあまり馴染めませんでした。しかし先月、移動中に駅のキオスクで発見したこちらの本は、そんな”W杯便乗商法”とは一線を画す凄い内容だったため、即買いした上にこの数週間すみずみまで熟読中です。ここまでハマるとは思わなかったというその内容は、日本の特にスポーツ関係者にとっても必読書といっても過言ではない濃厚さでしたので、今回その一部をご紹介させていただくことにしました。



いかにもサッカーづいたコーナーの中で、この本は目玉商品の扱いとして真ん中付近にドドーンと積み上げられていました。ちなみに、つい最近再びこちらの書店に立ち寄った際は、何と在庫がほとんど無くなっており、その売れ行きは絶好調のようです。その本の表紙が、コチラ↓です。


これは『Das Kochbuch der Nationalmannschaft』(ドイツ代表チームの料理本)という本です。パラパラと立ち読みした限りでは単なるお料理本かと思いきや、れっきとしたドイツサッカー連盟公認グッズです。周囲を有名サッカー選手に固められつつ、表紙の真ん中に堂々と写る人物こそ、ドイツ代表チーム専属コックかつドイツ随一のスター料理人でもあるHolger Stromberg(ホルガー・ストロームベルグ)氏です。

ストロームベルグ氏の名前を私はそれまで全く聞いたことがありませんでしたが、W杯が間近に迫るようになると、デバートやスーパーなどで無料で手に入る情報誌の表紙にことごとくこの人が載っていることに気付くようになりました↓。この頃の情報誌はストロームベルグ氏がドイツ代表に帯同して離独する直前の時期のインタビューを元に制作されていたため、氏へのインタビュー記事が集中したのでしょう。それにしても正に「ストロームベルグ祭り」です(笑)。これらの情報誌の中に、ストロームベルグ氏のプロフィールを発見しました。


(左が既出の本。真ん中が某スーパーの、右は大手デパートの無料情報誌。ともに店舗で扱う食材などの商品やお勧めレシピなどの紹介がメイン)

上写真における真ん中の雑誌にストロームベルグ氏のプロフイールが簡潔にまとまっていましたので、和訳して引用します(引用部分は青字):


ホルガー・ストロームベルグ氏とは…
ドイツ代表チームを男子サッカー及び女子サッカーの両方担当する専属コック。ルール地方のレストラン業を営む一族に生まれた42歳の彼は、22歳当時ミシュランガイドの星を史上最年少で獲得したコックとなった。7年前からはドイツサッカー連盟スタッフの一員となる。過去の著書に「Iss einfach gut」(直訳すれば『シンプルにおいしく食べよ』)あり。Deutscher Nachhaltigkeitspreis(ドイツ持続可能性大賞)の授賞式での料理もこれまで幾多担当。彼が重視するのは、「有機農法」「フェアトレード」の材料の使用、そして「旬の食材の地産地消」である。
ホームページ: www.holgerstromberg.de


プロフィールの写真を見て「まるでリック・アストリーのようだ」と思ったアナタ、きっと私と話が合います(笑)。あちらはレコード会社の茶坊主からの転身というシンデレラボーイで、どことなく垢抜けない風貌からは想像もつかない、耳に残る独特の低音の声質と抜群の歌唱力で、特にバブル期の日本のディスコシーンに欠かせない人でした。(末尾にリックの公式サイトのリンクあり…若い頃にビッグヒットを連発し、今も相変わらず活躍中というあたり、リックとストロームベルグ氏は共通しており、顔もいまだに似ていることが興味深い)

さて、話がそれてしまいました。ドイツ版リックじゃなかったホルガー・ストロームベルグ氏の本ですが、中身は前半部分がスポーツ栄養学総論のような内容、後半部分が代表チームを始めとするスポーツ愛好家向けレシピ集となっています。この前半部分が特に秀逸で、3度の食事から完食にドリンクやデザートの取り方まで、この本は具体例をふんだんに挙げながらかなりの紙面を割いて説明しています。栄養学の本は往々にして「何々を摂れ」「あれは摂るな」といった話が言いっ放しで具体的食材やレシピ説明が乏しくなりがちで、終いには「じゃあ、一体いつ何を食べろっていうのさ?!」などと読んでいる方が逆ギレて管を巻きそうなものが少なくありませんが、この本はそのあたりを実に丁寧に説明してくれており、しかもスポーツを多少たしなむだけのシロートとトップクラスのスポーツ選手とで異なるはずの必要なカロリーも栄養バランスも摂るべきタイミングも、きっちり分けて論じているところが実にありがたく、良質のスポーツ栄養学入門の教科書となりうる内容です。惜しむらくは、その内容がすべてドイツ語であり、日本語版が出る見込みが低そうなこと、そして、私がこのサイト内で全文和訳を掲載することは、著作権の都合上からも当サイトの字数制限の問題からも、そして私自身がそれほどヒマでないことからも、まず不可能であるということです。

ということで、ごく一部、とても重要な部分だけを抜粋してご紹介します。そして、この部分が過去の当サイト掲載記事(→高校野球界を席巻する不健康極まりない「白米偏向食」から裏読みする「伝統的和食」の一長一短)とも見事に符号する内容であることは注目に値します。(以下、引用は青字。和訳および強調は筆者)

<同書p13-14>
一般人に推奨される栄養配分: 炭水化物 40-45%、脂質30%、たんぱく質25-30%
トップアスリートに推奨される栄養配分: 炭水化物 50-60%、脂質25-30%、たんぱく質15-20%
ただし、「炭水化物」と言っても注意を要するのは、例えば全粒粉のパン(”複雑構造の炭水化物”=多糖類)を食べるとのチョコバー(”単純な炭水化物”=単糖類・二糖類など)を食べるのとでは、(仮にカロリー数が同じだったとしても)引き続いて身体におきる代謝性変化はまるて異なるということ。
「良質の炭水化物をたしなもう」
前述のように、私たちは仕事でも自由時間でもスポーツシーンにおいても、”単純な炭水化物”よりは”複雑構造の炭水化物”の方が腹持ちが長いことを知っている。したがって、”悪い炭水化物”とされる単糖類の多い食材はなるべく避ける努力をすべし。次の法則に従うこと:

・精製小麦粉から作られた白パンやケーキをやめて、ディンケル小麦や全粒粉などの黒っぽいパンにする
・白米をやめて玄米にする
・明るい色の麺をやめて全粒粉パスタにする
・チョコレートをやめてフルーツにする
・ポテトチップスをやめて野菜スティック(ニンジン・パプリカ・きゅうり)に変える


これらを守れば、血糖値のコントロールがしやすくなるのみならず、ビタミンやミネラルに食物繊維をタップリ摂ることもできる。これらを守ることで、君たちは次第に疲れたり眠くなりにくくなり、(運動や仕事の)能率が上がることに気付くだろう。肌のトラブルに悩む人ならば、肌がキレイになることに気付くだろう。これらの効能は、より多くの炭水化物(50-60%)を取るとされるスポーツ選手の場合の方が(一般人よりも)さらに強く明瞭に現れる。


ちなみに、上では「ディンケル小麦」と訳しましたが、ドイツならどこにでも売っている非常にポピュラーな伝統的黒パンの材料なのですが(といってもディンケルそのものは白っぽい)、どこを見ても何で調べてもディンケルの日本語訳が見つけられませんでした(英語はSpelt、フランス語はépeautre)。それにしても、白米をやめて玄米にせよとか、チョコの代わりにフルーツを、というのは用意に想像できましたが、ポテチの代わりにニンジンやパプリカのスティックなどというのは考えたこともなく、少なくとも私は読んだ瞬間に思わず目をひん剥いてしまいました(笑)。日本の高校野球に置き換えて考えてみると、成長期の青年に白米をドンブリ何杯というノルマが体に与えるビタミン・ミネラル・食物繊維等の相対的欠乏(およびそれを工業製品であるサプリで補った気になっていることの弊害)もさることながら、糖質過剰の清涼飲料水やスポーツドリンクの多用も問題であるように思われました。ただ、野菜全般の味の良さの割に価格の安いドイツと比べると(→「安全で美味しい野菜の食べ放題」という強欲な難題に挑戦する農場直営レストランに思う)、お菓子に代わりうるような美味しい野菜スティックを今の日本の高校野球の現場でしかるべき予算で提供することがそもそも可能なのかどうかは、別問題なのかもしれません。

なお、良質の炭水化物を探すヒントとして、初戦のポルトガル戦で3ゴールを挙げてヒーローになったトーマス・ミュラー選手の写真の隣に、GI指数の紹介があります。(数字が少ないほど、血糖値が緩やかに上がる。グルコースを100とした数値)


<p14>
GI値一覧
グルコース 100、炒めたジャガイモ・フライドポテト 95、はちみつ 85、コーンフレーク 85、ゆでたジャガイモ 85、小麦粉 70、チョコレート 70、レモネード 70、ディンケル小麦粉 65、皮付きのゆでたジャガイモ 65、バナナ60、ソバ 55、アルデンテのスパゲティ 45、アルデンテの全粒粉スパゲティ 40、生のニンジン 30、落花生 15、大豆、トマト 15。


この表で印象に残ったのは、「大豆やトマトは低GI値の炭水化物源としても使える」ということ(少なくともこれまで大豆やトマトを炭水化物だと思って食べてきたわけではない)、「ニンジンのGI値は予想以上に高い」(パスタに引けを取らない)、そしてやはり、「米が載っていない!」でしょうか。さすがは米を滅多に食べないドイツ、白米も玄米もまさかの”アウト・オブ・眼中”でしょうか?

ということで、日本語版ネット検索でGI値一覧を調べると、軒並みドイツのこの本よりも数値が高いようで、さらに食材の順番も多少前後することがあるようです。その中で、白米はだいたい80台後半あたりのことが多く、コーンフレークより上、フライドポテトに近い位置に相当するようです。また、日本語サイトのGI値リストは基本的にジャガイモはジャガイモとして1つの数値しかないのに対し、炒めたのか茹でたのか、はたまた皮付きで茹でるのかに応じてGI値が大きく変わってくることを明らかにしたドイツのスター料理人のこの本は、さすがにジャガイモの本場の料理人としての矜持を感じさせます。

<p32>
いつ何を食べるか
・朝食:炭水化物を多めにとる(夜までの間のエネルギーとなるため)
・昼食:あらゆる栄養素をバランスよく、微量元素の豊富な食事をとる
・夕食:タンパク質を多めにとる(夜の睡眠時間に体の細胞修復のために必要となるため)


夜にドンブリ3杯の白御飯を吐きながら食べることがいかに逆効果か、ここでもわかります。この本にはまだまだ有用な記述がたくさんありますが、きりがないため今回はここまでにします。結局、結論はコチラの写真の通りでしょう↓。(これは別の雑誌から拝借)


”Es gibt keinen Masterplan für alle”というタイトルは、「全員に通用するマスタープランはない」という意味です。「万人に当てはまる理想の食事」というものがあると思う方がおかしいのです。これは、考えるまでもなく当たり前のことながら、つい忘れがちなことでもあります。人間の個体差、そして個別性というものを尊重することこそ、スター料理人の腕の見せ所でしょうか。人種も職業も生活環境も運動習慣も異なる人々にとって、食事とは「これを食べれば良い」「このサプリがあれば良い」などと言うような単純な話ではありません。しかし、制約の多い集団生活では、費用や効率が優先されるあまり、どうしても最大公約数的な内容を最大多数へ押しつけることになりがちです。

ゴールキーパーとそれ以外の選手は別メニューだったり、試合のある日の具体的なタイムスケジュール、試合開始までの間隔や時間帯に応じて提供される異なる個性的なドリンクのレシピ、独自のソースや常時4種類提供する名物ドレッシングなど、この本の内容はなかなか濃密で勉強になりました。単なる料理本としても、そのレシピはなかなか応用範囲の広いものが多く、最近は我が家でもドイツチームと同じドリンクやソースに料理等をさっそく真似したりと、自炊生活の楽しさが以前より数倍増したような気がします(←これらのレシピは本の中で詳細に写真入りで掲載されているが、長くなるため割愛)。この原稿が掲載される頃も、ストロームベルグ氏はブラジルの選手宿舎にて安全安心な食材の確保やその食材を最大限に生かす調理を自らの使命として、1990年以来となるドイツチーム悲願の優勝に向けて最善のコンディショニングに奮闘していることと思います。


ストロームベルグ氏の厨房でナイフ研ぎに挑戦するプリンス・ポルディこと、ルーカス・ポドルスキー選手がお茶目です。氏がチームによく溶け込んで受け入れられていることが、写真からもよく分かります。ドイツチームの勇姿をもしご覧になる機会があるようでしたら、ぜひその縁の下の力持ちであるこのスター料理人も一緒に思い起こしていただければ、試合観戦の楽しみも倍増するのではないかと思っています。


<参考サイト>
Deutscher Nachhaltigkeitspreis (ドイツ持続可能性大賞)公式ホームページ(英語版)
http://www.nachhaltigkeitspreis.de/sonstige/english-summary/?PHPSESSID=7uaene0u6g02na3tcg35ddnp27

Rick Astleyリック・アストリー公式サイト
http://www.rickastley.co.uk/
(どうでも良いけどすごく似ています、ドイツ代表専属コックとリック。年齢は6つ違い)

食品別GI値リスト
http://www.geocities.jp/ho_ney8_2/gi_list.html

ダイエットと料理レシピのコツ 食品別GI値(グリセミック・インデックス)
http://www.drrk.net/gi.html

糖尿病ネットワーク - 米を食べると糖尿病リスク上昇 「精白米は良くない」と研究者
http://www.dm-net.co.jp/calendar/2012/016996.php
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