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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/06/06

高校野球界を席巻する不健康極まりない「白米偏向食」から裏読みする「伝統的和食」の一長一短

昨年12月の無形文化遺産登録でも話題になった「和食」「日本食」といえば、みなさんはどのような内容の食事を思い浮かべますか?ご飯に味噌汁、豆腐や納豆に焼き魚?それとも、だし巻き卵、ほうれんそうの胡麻和え、きんぴらゴボウ?あまり報道されていませんが、実際のユネスコによる評価の原文によれば、無形文化遺産に認定されたのは「和食」の中でも特に「おせち料理」だったということは、以前のコラムでも述べた通りです(→WASHOKU(和食)を無形文化遺産に登録したUNESCO(ユネスコ)の真意とは?)。そして、ユネスコがそのホームページで授賞理由として「持続可能な(=環境に配慮)、自然を大切にする日本古来の食慣習」と評価した「和食」「日本食」とは、一体どのような食事を指すのでしょうか?古代日本から受け継がれた「玄米・麦・アワ・ヒエ」「海藻・ゴマ・豆腐・魚」などを中心とする食事のことでしょうか?日常的にそのような食事をしている人は、そもそも現代の日本にどれくらいいるものなのでしょうか?

ただ、前提条件として忘れてはならないことがあります。終戦からまもなく70年になろうかという今のご時世、日本人の体格や体質がそれまでと別民族かと思うほどに大いなる変遷を遂げたという厳然たる事実です。まず、平均身長が劇的に伸びました(1950年からの男子の平均身長は10cm以上の大幅アップ:詳しくは末尾の参考サイトの欄を参照のこと)。さらに特筆すべきは、顔立ちの変化です。昔の写真などと比較すると、現代の若き日本人はアゴが小さくなり目が大きくなったことにすぐ気付きます。アゴが小さくなったのは、日常的にやわらかいものを好んで食べるようになった結果でしょう。そして、手足が長くなり、西洋人体型のモデルのような人を街で見かけることも以前に比べて珍しくなくなりました。これは相対的に胴が短くなったということでもあり、腸が短くなったことも意味するはずです。これだけ短期間の間にここまでの劇的な生物学的変化が一つの民族の上に起きるということ自体、特に西洋諸国から見たら大いなる驚きのようで、数年前にドイツのクイズ番組で「日本人の足は戦後8センチほど長くなったが、それはどうしてか?」という出題があったことを思い出します(ちなみにその番組が用意した正解は「正座をしなくなったため」だったが、現実はそんなに単純な話ではないように私個人は思って観ていた)。

この生物学的変化自体、果たして食事内容が伝統的日本食からどんどん離れていったということの原因なのでしょうか、それとも結果なのでしょうか?「食の欧米化」という表現を私はハッキリ言って嫌いですが(欧と米とでは食文化はかなりかけ離れており、一緒にしてもらっちゃ困ると少なくとも欧は思っているはず)、その「食の欧米化」がなければ、今のダルビッシュ投手や田中マー君といったスポーツ選手の活躍はそもそも実現できたかどうか、オリンピックの金メダルもどうなったであろうか、想像してみればよいでしょう。

それでも、特に今の高校野球を取り巻く食育環境に関して言うなら、私は最近ほとほと絶句かつ絶望させられている…というのが今回のテーマです。以前から、高校野球の強豪チーム数校を訪問して部員さんたちが日々どのような食事をしているのかを実際に見せていただいたり、高校野球の監督の方々にその食事についての見解を伺ったことが幾度もあります。そこでとにかく驚かされたのが、高校球界の現場における食事の栄養バランスの見事な偏りっぷりでした。それはズバリ、「米飯過剰」「炭水化物過剰」「野菜の圧倒的不足」「プロテイン&サプリメント依存」といった内容に集約できます。その中でも特に論外と私が考えているのが、今週とりあげる「白米偏向食」です。

かつて学校の食堂や学生寮に部活の合宿所などは、それぞれ自前の厨房を持っているのが当たり前で、近所から来たパートのオバチャン達が新鮮な食材を汗水垂らして下ごしらえし、大きな鍋と格闘しつつ手作業で日々の食事を提供していたという、今思えば大変のどかな時代がありました。しかし、昨今のグローバル化全盛の世の中にあっては、どこの学校も効率化とコストカットの要請が厳しく、厨房業務のアウトソーシングが全国的に進み、その多くが給食専門企業からのデリバリーで成り立っているという時代になりました。従って必然的に、運ばれてくる食材の多くは冷凍ということになり、栄養素の破壊も心配です。

それでも、米飯だけは巨大な炊飯釜があれば自校で何とかなるので、「米だけは自前」というところも多いようです。そういうご時世のため、今どきの野球部の食事といえば「ドンブリメシ何杯」といったノルマが必ず設定され、それこそ「吐いてでも食え!」という大食い番組顔負けの世界となっており、西武で活躍する菊池雄星投手の話(彼は高校の頃はかなり食が細かったため寮の食事には苦労していた)は特に有名です。それでいて不思議なのは、米飯がおかわり自由である割に、副菜は一人あたり一人前しか提供されず、おかわりができないケースが多いことでした。

副菜のおかわりが許されなのいのは、「体を大きくするにはとにかくコメを食うのが一番!」という、栄養学的に考えたらありえないような「コメ信仰」が現場の指導者にいまだに根強いためだとばかり思っていましたが、どうやらそれだけが理由でないということも後に明らかになりました。それは、日本はおかずのコストが高いということでした。

どこの野球部の運営においても、部員一人あたりの食費はあらかじめ決まっており、その食費と寮費(私立の場合はさらに学費)を含めた出費がそのまま部員の親へ家計負担としてのしかかってきます。かつては当たり前のようにまかり通っていた特待生制度が高野連の目の敵となった2008年以降、親の負担を抑えることは特に私立強豪校のチーム作りにとって死活問題となっています。よほどカネモチの子弟ばかり集めて強化ができるチームなら話は楽ですが(どことは敢えて申しませんが…笑)、毎年のドラフト会議を見ても分かるように、将来有望な選手はどちらかというと恵まれない家庭事情の中から生まれることが結構多いという側面もあります。そのような選手に、ただでさえ道具代や遠征費などのコストが他に比べて高くつくとされる野球という競技を続けさせようとするなら、食費の圧縮は無視できないポイントです(これもまた、某球団を震源地としたかつての「栄養費問題」の素地だったと思われる)。監督さんが自腹で補食を提供するケースも知っていますが、それをやると今度は監督一家の家計がピンチになってしまいます。となると、国際的に見た日本の食材価格の特徴として、(先週はあくまでもドイツとの比較でのコラムでしたが)「副菜となる食材が高い割にはコメ(と魚)が相対的に安い」という点は、実は着目に値します(→「安全で美味しい野菜の食べ放題」という強欲な難題に挑戦する農場直営レストランに思う)。限られた予算の中で部員を満腹にして体を大きくしようと思うのならば、(魚はともかく)米飯をお代わり自由にする野球部が増えるのは必然的な流れ、ということになります。

しかし、意外な展開が高校野球の世界に待ち受けていました。確かに体格は昔に比べて一回りも二回りも大きくなったものの、今度は体そのものが弱くなってきたのです。最近の野球部員たちの間で、熱中症様の動悸や息切れ、過呼吸発作(過換気症候群)が以前よりも増加し、試合中に足がつってタンカで退場するケースも激増しているというのです。このことについて監督・コーチ陣に聞くと、「俺たちの頃は水も飲ませてもらえなかった時代だったのに、熱中症になるヤツは滅多にいなかった。それが、今の子は…」「自分たちの現役時代には過呼吸なんて見たこともなかった。それが、今やザラすぎて…紙袋呼吸とかもう、手慣れたもんですよ!」「今の選手は、俺たちの頃のような練習メニューだと壊れてしまう」などと異口同音に返ってきます。指導者も、何かおかしいとは感じているのです。そして、それに対して私は毎度のように、白米過剰食によるビタミンB群やミネラルさらには微量元素の相対的不足、つまり栄養の偏りではないかと指摘するのですが、それに対する彼ら首脳陣の返答も、これまた異口同音に同じなのです:

「玄米とか、麦飯とか、雑穀米とかの方が良いのは分かっているんだが、それだと生徒が食べてくれない」

これは大変根深い問題だと思いました。今の高校生は子供の頃から白米の味に馴れきっており、玄米や麦飯など口に合わないから食べたがらないというのです。少し年配の監督さんの話を聞くと、家が貧しくて白米が食べられなかった話とか、イヤイヤながら麦飯や雑穀米を食べさせられた幼少時代の思い出がかなりあるようですが、それが彼らのためにはかえって良かったのでしょうか。現代の飽食とは対照的だったその粗食の時代そのものが、炎天下に水を飲まなくても倒れなかった彼らの世代の体力の源だったのではないかとさえ思えてきたものでした。


ちなみに、先月の一時帰国中、私は神戸の元町でたまたま「玄米カフェ」というお店の前を通りかかり、フラリと立ち寄ってみました。そこで出される日替わり定食は、まさにユネスコが泣いて喜びそうな「日本古来の伝統食」に限りなく近い内容でした(上写真)。おかずは海藻や大豆が中心で、黒ゴマもついてきます。左下のご飯(玄米2種類)は何と、食べ放題です。


玄米部分をアップにしてみました。左はもち米と小豆の入った赤飯風の玄米、右は大豆とアワやヒエのようなものを混ぜた玄米で、それぞれ無農薬や有機農法にこだわっているようです。

この食事の日以降、私の場合は腸の調子がえらく良くなりました。おそらく、食物繊維が豊富で毒物排出作用が強いという玄米ならではの特性が奏功した体調変化と思われます。さらに意外だったのは、この食事の後は何時間たってもなかなかお腹が空かなかったこと、そしてその間は妙に体が軽く感じられたことでした。それは、玄米食が白米食に比べて血糖値上昇がゆるやかで、急激なインスリン分泌レベルの乱高下が無いために膵臓に負担がかかりにくいということを意味すると思われ、肉をタップリ食べるのとは違う次元のスタミナの充実を実感させるものでした。

しかし、良いことばかりではありません。玄米食の最大の欠点は、「よく噛まないと消化が悪い」ということです。このお店の方の話では、炊き方を工夫すればいくぶん消化を良くすることは可能とのことですが、その炊き方は簡単ではないようです。そのため、お店では炊いた玄米のパック売りも行われていました。炊き方にコツがあって誰にでも簡単に真似できないというのは、例の「STAP騒動」を思わせるようなストーリー(笑)ですが、それでも白米に比べたらまだまだ消化しにくいことに変わりはなく、噛む回数を普段よりかなり増やさないと食べきれないのです。これでは、ただでさえアゴが小さくなってきている昨今の若き日本人にとって、アゴが疲れてとても5分や10分で食事が終わらず、タイトな練習スケジュールに追われて「5分でメシ食え」の高校球児にはハードルが高そうです。私も玄米をお代わりさせてもらいつつ美味しく完食しましたが、食事時間が一時間位タップリかかってしまいました。もっとも、よく噛むということそれ自体は、健康増進の観点からも本来は推奨されるべきことであります。

「日本古来の伝統食って何?」のファイナルアンサー(笑)のようなこの玄米菜食を食べているうちに、もう一つ重大な欠点に気付きました。繊維の多い食材は、味が入りにくいということです。言い換えるなら、良く言えば「薄味で健康的」、悪く言えば「味がハッキリしない」となります。薄味好きの人なら慣れればきっとクセになる美味しさだと確信しますが、子供の頃から合成調味料テンコ盛りの味付けの濃い食事を好んできた人の場合、往々にして味覚が鈍感化していますので、果たしてこの味に物足りなさを感じずにリピーターになることができるのかどうか大いに疑問です。

話はさらに飛びますが、日本からドイツに戻る機内で、ANAのシートプログラムの中にあった山田洋二監督の『小さいおうち』を観ました。今年のベルリナーレこと第64回ベルリン国際映画祭で主演女優の黒木華さんが銀熊賞を獲得したことがドイツでは大々的に報じられており、興味を持って見始めたは良いものの、途中で以下のようなセリフが出てきた瞬間、私はハッと考えてしまうのでした↓。


「We eat seaweed and tofu, they eat steaks this thick with butter」
(我々日本人はひじきと豆腐を食べているのに対し、ヤツらアメリカ人はこんなに分厚いステーキにバターを載せて食べているのだ)

ラサール石井さん扮するおもちゃ会社社長のセリフの中に、この手のセリフが2度登場します。いずれも、「アメリカ人と日本人では体格からして違う。そんなアメリカと戦争しても勝てっこない」という文脈のセリフでした。

ここでいう「ひじきと豆腐」とは、これまでに述べてきた「伝統的和食」の象徴に他なりません。この映画の中で2度も強調されている「バターを載せたステーキ」のアメリカに対する「ひじきと豆腐」の日本との対比は、そのままアメリカ人に長らく引けを取ってきた日本人の体格やパワーの違いの対比であり、とりもなおさず戦後急速に大きくなった日本人のフィジカルに対する「食のアメリカ化」の貢献という意外な恩恵に気付かせるものだったのです。歴史的にも、日本人の身長は動物性タンパク摂取量と正の相関で連動してきたといいます。つまり、甲子園やその先の世界で活躍すべく、早く体を大きくパワフルにしたいと考える高校野球選手ないしその関係者にとっては、今さら「伝統的和食」に回帰するということは非現実的であると結論せざるを得ないのです。

じゃあ、一体何を食べればいいのさ!と思ったスポーツ関係者の皆様、ご安心下さい。そのあたりについては先日、とても面白い文献を発見したので、来週あらためてご紹介したいと思います。


<参考サイト>
日本人の平均身長・平均体重の推移
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2182.html
(1950年から2007年にかけての日本人の身長は、男性160.3→171.5cm、女性148.9→158.3と、男女ともにほぼ10cm伸びているが、それ以降は横ばい。体重は男性は肥満増加、女性はスリム化。さらに古代にまでさかのぼると、現代を除いて日本人の身長が最も高かったのは、弥生時代から古墳時代まで。古墳時代以降は一貫して身長がどんどん小さくなっていった。どうやら、日本人の身長は動物性タンパク摂取量と連動しているらしいとの考察あり)
→海外では「米を食う民族は小さい」が定説とされている。日本国内だけでも歴史的にこれだけのデータが揃っているのにもかかわらず、どうしていまだに高校野球の監督たちが「動物性タンパクを増やせ」ではなく「米を食え」となるのか、不思議でならない。

女子栄養大学 「胚芽米のすべて」
http://www.eiyo.ac.jp/haigamai/
(玄米、胚芽精米、精白米の違いについて詳しい。また、食品があふれかえっている現代の飽食時代の方がむしろ、ビタミン・ミネラル・微量元素の欠乏が深刻であるというパラドックスについても詳しく説明されている)

Wikipedia日本語版-「小さいおうち」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E3%81%95%E3%81%84%E3%81%8A%E3%81%86%E3%81%A1
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