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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/05/30

「安全で美味しい野菜の食べ放題」という強欲な難題に挑戦する農場直営レストランに思う

生活の場を日本からドイツに移した私が真っ先にカルチャーショックを受けたことの一つに、「生鮮食料品が安い」というのがあります。私の渡独当時のレートは今よりもやや円高(1ユーロあたり135円前後)だったと記憶していますが、それでも当時の1Lの牛乳が50円程度(無農薬だと90円程度)、500mlの地ビールも100円弱といった具合でした。さらに驚いたのは生野菜の価格の激安ぶりで、日本の倍ほどのカサのある巨大なレタスが70円とかで売られていたり、トマトが1個180円ではなく1キロ180円だったりするのをみて、それまでの日本での生活は一体何だったのだろうかとクラクラめまいがしたものでした。それがリーマンショック前頃に空前の円安ユーロ高の波が何度か襲ったり(2007円7月から年末までの間に数度の160円台後半、さらに2008年7月下旬~8月上旬にはついに170円超え→そして2008年秋に一気に急落→2012年の政権交代以降円安進行し今は140円前後で推移)、最近はドイツも好景気やエネルギー高に伴う物価上昇が続いており、円換算上の価格差はいくらか縮んできた感もあります。それでも、まだまだ日本における生鮮食料品や生活必需品のコストの割高感は残っており、特に消費税率アップ後はスーパーで値札を見るたびに食欲が減退して何も買えずに出てきてしまう私です。

欧州の他国と同様、ドイツには軽減税率があります。電化製品や衣料品などの贅沢品の税率は19%ですが、食料品や飲料に本・雑誌・新聞などの生活必需品の税率は7%です(ちなみにフランスの付加価値税TVAは2014年より贅沢品20%、生活必需品5.5%、さらに宿泊・運賃・外食が10%、医薬品・新聞・雑誌・定期興行が2.1%の4段階となっている)。その税率はどんな店で買い物しても必ずレシートに明記されており、税率19%のものはA、7%の品目はBと表示されます。

ここで、具体例を挙げてみましょう。下の写真は、2010年9月某日に近所のスーパーで買い物した商品です。代金は全部で16ユーロ80でした。(この頃の1ユーロ100円程度であり、日本円だと1700円弱ということになります)



さて、ここで問題です。上の写真の品目の中に、贅沢品の税率(19%)が適用されているものはいくつあるでしょうか?そして、それはどれでしょうか?正解はコチラです↓


(先程の答え:贅沢品の税率を適用されているのは「ミネラルウォーター」「ペットボトル」「乳酸菌飲料のヤクルト」の3つ!ドイツにも同様の乳酸菌飲料のアクチメルという有名な商品があってそちらは軽減税率が適用されているのは国内産業保護の観点だったのかもしれない。この買い物をした2010年9月の時点では、日系企業である我らがヤクルトは7個パックを3.59ユーロとただでさえ割高な値段をつけられているのみならず、税率でも不利な扱いを受けていたことになる。ちなみに、税率の適用範囲は随時変更になるようであり、現在のドイツではヤクルトも晴れて税率が7%になっている。なお、同じ写真内のテレビガイドは雑誌なので税率は7%。ミネラルウォーターが贅沢品扱いになっていることにはビックリで、一般人は水道水を飲めという意味なのか?また、ミネラルウォーターとペットボトルの代金は別に請求されており、飲み終えた空のペットボトルはドイツ全土のどこの店に持ち込んでも購入時に支払った代金がそっくりそのまま返金されるという独特のシステムになっている)

このレシートはたまたまA(税率19%)の品が多いものを取り上げましたが、基本的にスーパーで私が受け取るレシートを見るとほとんどB(税率7%)の文字しか並んでいなかったりするので、自分が普段19%の税率の買い物をすることがいかに少ないのかということに、毎回意外な驚きを感じます。つまり、よく日本のマスメディアで報道される「欧州の税率は20数パーセント。それに比べれば我が国の消費税率は世界的にみて低すぎる」などという理論は、一応嘘は言っていないものの、税込価格そのものの低さや軽減税率の適用範囲の広さをあえて無視した片手落ちの理論であり、”意図的な舌足らず”とも呼ぶべきものでしょう。日本のメディア人が欧州旅行の経験の皆無な人ばかりとはとても考えられず、そういう意味ではむしろ、この”大いなる説明不足”をわざと放置し、不都合な事実を説明せずに済まそうとしているのかも…これって、まさに当サイト頻出の「どこかで聞いたような構図」ですね。

確かに贅沢品のパソコンやカメラは日本の方がさすがに割安ですが、血糖値が微塵も上がらないものばかり安くても、人間は生きていくことはできません。現行の8%ですら重税感の漂う日本の食料品に、さらに消費税アップを求めるのは問題が大きいように思います。

ただ、食関連で日本の方が明らかに割安なものもあります。それは「外食」です。日本におけるワンコイン(500円)も珍しくない激戦状態とも言うべきランチ事情と比べると、ドイツでは特にウェイターが料理を運んでくるきちんとしたレストランの場合、例えランチでも1000円以下で食事ができる所はほとんどなく(←その代わり、量は死ぬほど多い!日本の倍は下らない分量が出てくるのに、量を半分にして価格も半分にしてくれというのは通用しない…涙)、例外は中華やタイ・ベトナムなどのアジア料理くらいでしょうか(だからこそドイツ人はアジア料理が大好き!)。ただでさえ税率が19%なうえにチップまで(義務でこそないものの)払わないといけない雰囲気を嫌うドイツ人も多く、そういう人たちはトルコのケバブ屋さんなどのチップ不要のテイクアウト型レストランを好みます。ドイツの外食産業の場合、店内で食べる場合は税率19%で計算されますが、同じメニューをテイクアウトした場合は税率7%となるのが特徴で(フランスのレストランもテイクアウトの場合は一律10%引きとなる)、あえてテイクアウトしてその辺の公園でピクニック気分でランチする人も結構います。さらにもっと安くあげようとするドイツ人の必殺技は、バゲットやサンドイッチを買っての立ち食い、というより、歩き食い(!)です。日本では行儀悪いとされる歩き食いですが、ドイツでもフランスでも非常に頻繁に見かける光景であり、決して行儀悪いことではないのでご注意を。この歩き食いの光景もまた、渡独直後に私が最も驚かされたカルチャーショックの一つでした。

さて、日本の特色とも言えそうな「比較的安い食加工産業」ですが、当然のごとくつきまとう疑問があります。「自炊は割高なのに、どうして外食だと割安にできるのか」、ということです。不作の時の価格高騰は手つかずなのに、豊作の時はとれ過ぎた野菜をブルドーザーで埋め戻してまで価格調整をするという話を、ドイツの友人に説明するとみんな怒ります(笑)。野菜のみならず肉の場合も、日本のスーパーでの価格はドイツの無農薬食材と比べてもまだ高いのですが(逆に魚は日本の方がやや安い)、特に価格差が大きいのは葉物野菜という印象です。となると、腹いっぱい野菜や肉魚を食べまくるバイキング形式のレストランにおける材料の仕入れ価格と、一般消費者向けの食材の小売価格とでは、果たして二重価格になっているのか、はたまた何らかのトリックがあるように推論せずにはいられません。

そのあたりの疑問に対して、一定の答えを呈示してくれたように感じられたレストランがありました。今回はこのレストランにつてご紹介しつつ考えてみます:


ここは、大阪伊勢丹の食堂街で見つけた食べ放題のレストラン「元気になる農場レストラン モクモク」です。
http://www.moku-moku.com/tyokueinew/osaka_tenpo.html
三重県の「伊賀の里モクモク手作りファーム」直営レストランで、三重県内に2店舗、愛知県内にも2店舗、滋賀に1店舗、さらに大阪では伊勢丹の他にあべのハルカス近鉄本店内にも系列レストラン「お日さまのえがお」があります。


前回の一時帰国中、大阪伊勢丹とあべのハルカスの系列レストランにそれぞれ一度ずつ、ランチを食べに行きました。いずれのお店もすごく並んでいましたが、整理券をもらっても来ない人がいたりするため、実際には30~40分程度並んだ末に、思ったよりも早く入店することができました。両店舗とも価格は共通でランチ(11:00~16:00)が1902円、ディナー(17:00~)が2572円ですが、大阪伊勢丹の方は三越伊勢丹の株主優待カードがある方は一割引きになります(割引は店頭小売販売のお会計にも適用されます)。なお、ランチのみ時間制限90分となっています。

お店のコンセプトは「エコ」。木のお皿をメインに使用し、割り箸を使わない、廃棄物を減らすなどの環境への配慮がなされています。


ここのレストランの一番のセールスポイントは、何と言っても野菜の味が濃厚であることです。ドイツの野菜を食べるようになってからと言うもの、日本の野菜は水っぽくて味が薄いと感じてきた私は、それが軟水である日本の水質(ドイツは水道水ですら硬水)や土壌の相違(平野が少ない国に人口が過密な場合どうしても土地が痩せてくる)に由来するやむを得ない事情だとばかり思っていました。それがこのお店で初めて、日本の野菜も美味しいものは美味しいのだということを知り、「♪やればできるは魔法の合い言葉~」という済美高校(愛媛)の校歌が脳内に響き始めて止まりません(小泉元首相が2004年の所信表明演説で引用したあの歌です!)。その野菜の味は、以前私がコラムに取り上げた「MAREDO」のサラダバーでの感動を思いさせるものでもありました。そういえば、MAREDOもかなり「エコ」を意識したお店で、似たものを感じます。(→「エコロジー」と「持続可能性」が隠し味?!ドイツのステーキハウスMAREDOの徹底した環境意識


なお、このレストランの第二の強みは、自家製ソーセージです。本場ドイツにも負けないしっかりとした味があり、添加物も必要最小限にとどめているようです。ソーセージがパリっとしていることをドイツ語では「クナッキヒ」(knackig)と言いますが、まさにそんなクナッキヒなソーセージに日本で出逢うとは思いませんでした。



満腹になって帰る前に、店頭販売の野菜も買って帰りました。写真左のからし菜(マスタードグリーン)と右の水ナスはそれぞれ大阪近郊の農家さんからのもので、店内でも出てきた野菜でした。水ナスを生でマヨネーズだけで味わうというのは、いい年をした私の人生でも初の経験だったのですが、左のピリっとした味のからし菜とよくマッチする絶妙の味でした。上の写真のように、店頭販売価格はからし菜パックが143円、水ナス(2個入り)が248円です。これらがランチバイキングだといくら食べでも1902円ポッキリですので、野菜を食べまくれば食べまくるほど”元が取れたのではないか?”というおトク感を得ることができます。

しかし、裏を返せば、これこそまさに日本食に占める副菜のコスト高の象徴のように私には思えました。仮にこのバイキングを個人が一般家庭向け小売価格で買い揃え実現しようとしたら、家計は一気に火の車でしょう。日本では、「安全で美味しい野菜を腹いっぱい食べる」ということは、欲張りを通り越して強欲というレベルの贅沢なのかもしれません。1902円などという価格には絶対に収まらないことでしょう。しかし、近郊の農家の協力を得た農園直営バイキングだからこそ、これが可能になるのです。それは、三重・愛知・滋賀・大阪のみという、小規模出店であることによってのみ実現する性質のものであり、東京進出でもしようものなら一気に品質が落ちることが懸念されます。東京進出とはすなわち、大量生産・大量消費の世界への突入だからです。つくづく、儲けてナンボの資本主義の理屈を食の世界に持ち込むことの功罪について、深く考えざるを得ません。そして、食の安全はそもそも「地産地消」「手作り」「小規模」という部分にその本質があるという、それまですっかり忘れていた真実に、今更ながらハッと気付くのです。

さて、ここまで述べてきた「副菜のコスト高」が日本食の宿命だとするのなら、逆の発想でいけば、安価な日本食とはそもそも「主食(コメ)のコスト安」で支えられているという、裏の側面が見えてきます。そして、これがまた現代日本の抱える難題でもあるのです。これについては、別のお店を紹介しながら、次回あらためて考えてみたいと思います。


<参考サイト>
EU MAG 在日欧州連合代表部の公式ウェブマガジン「EUの付加価値税(VAT)について知りたい」
http://eumag.jp/question/f1012/
(日本の消費税にあたる付加価値税がEU加盟国別に詳しく記載されている。こうしてみると、生活に必要な食料品の税率を10%以上に設定している国はスカンジナビアの大福祉国家群ないし東欧の発展途上諸国に多く、EU全体としては明らかに少数派である。ここでは国ごとの物価格差については考慮されていないが、この一覧表を見ていると、一応は資本主義先進国に分類されている経済大国が必要最低限の物品や食品にまでも一律10%の消費税をかけようとすること自体、尋常ならざる話に思えてくる)

伊賀の里 モクモク手づくりファーム
http://www.moku-moku.com/

小泉内閣メールマガジン「らいおんは~と 小泉総理のメッセージ」2004年10月14日
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/yuseimineika/mm/041014mm-lion.html
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