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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/04/11

フィギュアスケート世界選手権inさいたま…ドイツの新聞とテレビでみるドイツ選手の意外なホンネ

日本勢の活躍で大いに盛り上がる毎年恒例の世界フィギュアスケート選手権ですが、今年は3月26日から3月30日までの間、さいたま新都心にあるさいたまスーパーアリーナにて開催されました。日本のテレビは元々男子シングル及び女子シングルの人気が非常に高く、地上波で放送されたのもまたこの2種目とエキシビションだけだったようです。このあたりが、むしろペアやアイスダンスの方が人気のある欧州とはとても対照的です。中でもドイツの場合は、自国選手であるアリオナ・サフチェンコ/ロビン・ソルコヴィー組が優勝候補筆頭というペア競技に関する報道が最も熱心であり、公営放送ARDなどは今回ペアだけをストリーム配信、他の競技は完全無視という、日本ではあり得ない仕様になっていました(笑)。それもこれも、ドイツにおける男女シングルの選手層の薄さ、もっとはっきり言ってしまえば「ゲルマンDNA事情」に起因するものかと推察しますが、これについてはまた別の機会に検証してみたいと思います。

さて、7年ぶりの日本開催となった今回の世界選手権に関するドイツの報道をみて、私は驚いてしまいました。「おもてなしの国」日本で開催された大会ながら、どうやらドイツ選手に随分不評だったみたいなのです。日本のメディアがまるで取り上げなかった話が満載のフランクフルター・アルゲマイネ紙の記事を、ここに簡略化かつ和訳してご紹介したいと思います↓(以下、記事内容はすべて青字、強調は筆者。筆者注釈は括弧内に赤字):

フランクフルター・アルゲマイネ紙(2014年3月26日):Der Rosarote Panther strahlt wieder
http://www.faz.net/aktuell/sport/wintersport/eiskunstlauf-wm-der-rosarote-panther-strahlt-wieder-12864554.html
アリオナ・サフチェンコとロビン・ソルコヴィーは、逆境をものともせずにショートプログラムで首位に立った。この世界選手権で優勝すれば、過日のオリンピックでの失敗に対する慰めにもなるだろう。
・日本で行われた世界フィギュアスケート選手権ペアのショートプログラムで、アリオナ・サフチェンコ/ロビン・ソルコヴィー組(ドイツ・ケムニッツ)は79.02点で首位に立った。2位はメガン・デュアメル/エリック・ラドフォード組(カナダ、77.01点)、3位はソチ五輪銀メダルのクセニア・ストルボヴァ/フョードル・クリモフ組(ロシア76.15点)。ソチ五輪金メダルで前回世界フィギュア覇者でもあるタチアナ・ヴォロゾシャル/マキシム・トランコフ組は、客席で見ていただけだった。
・二人にとって五輪の銅メダルは敗北を意味していた。「日本の観衆は私たちを受け入れてくれたし、私たちは実力を発揮できて満足」とソルコヴィーは言う。しかし、全てのペア選手にとって、特に厳しかったのはスケジュール。本番のスタートが午前中であり、早朝の東京の宿舎から埼玉のリンクへのバス移動は過酷だった。「(早朝の)練習の後、(本番までの間ホテルに帰ることがままならないため)私は更衣室の床の上で仮眠した」と、34歳のソルコヴィーの弁。
・首都である東京周辺の交通事情は予見しにくく、ホテルまでの所用時間も最大で片道2時間もかかるとあっては、ほとんどの選手が競技会場に残って本番を迎えようとする。このため、主催者は会場内に12の仮眠ベッドを用意した。しかし、「Man kann nicht richtig abschalten」(これではオンオフの切り替えがきちんとできない)とサフチェンコは苦情をいう。
・それでも彼らのパーフォーマンスは、このような苦境にも邪魔されなかった。「ピンクパンサー」の演目のショートプログラムは、技術点ではカナダペアの後塵を拝したが、演技構成点では大きく上回った。
・そもそも、オリンピックイヤーに行う世界選手権自体、その負担の大きさゆえ選手からは批判的な声もあがっている。「シーズンのピークは、本来はオリンピックだけで十分」とサフチェンコは言う。もっとも、彼らは五輪後に14もの(テレビ等の)ショーに出演したが、まだまだ元気である。同じくドイツの二組目のペア、マイリン・ヴェンデ/ダニエル・ヴェンデ(夫婦)は13位に入り、16組で争われるフリーに進出した。25歳のマイリン曰く、「時差ボケが酷くて、昨日の練習の出来は最悪で、鬱になりそうだった。そういう点では、(ショートプログラム13位は上出来で)嬉しい」


この記事は私にとっては、文字通り一行読み進むごとにいちいち「エエ~っ!」と驚かなくてはならない内容でした。競技に出場しない五輪金メダリストの二人が観客として来日していたこと、選手宿舎(←注:末尾の参考サイトにあるISUリンク先によると、新宿の京王プラザホテルらしい)からリンク(さいたまスーパーアリーナ)までバス移動で最大2時間、大会本部が用意した12のベッドでは16組32名のペアの休養にはとても足りず、更衣室の床で寝る選手までいたこと(男性のソルコヴィーが床に寝たのは女性のサフチェンコにベッドを譲ったのか、サフチェンコもまた床に寝たのか、そこまでは記載がなく不明)、ドル箱競技である男女シングルを夕方に持ってくるためにペアの試合開始を午前に組んだであろうこと(アイスダンスも同様)、この過酷なスケジュールがよりによってヨーロッパから日本へ移動してきた選手にとってはさらにムチを打つようなものであったことなど、日本語メディアだけ見ていたら気付かなかったような内容のオンパレードです。そもそも、どうしてそんなにリンクから離れているホテルを選手宿舎にせねばならなかったのか。「おもてなし」を喧伝する国に対し、フランクフルター・アルゲマイネ紙の記者の記述は辛口を通り越して、もはや嫌味タップリという感じです。最初に「日本の観客は私たちを受け入れてくれた」と持ち上げておいて、後半でここまで落とすか!と、私は記事を何度も読み返すたびに口がアングリの状態でした。

さらに、話の裏を取ろうと色々と調べていたところ、こちらの日本のアイスダンス選手のブログの中に正に上記記事内容の一つを裏付ける記述を発見しました。主催者側が用意したカーテンで仕切られた個室の中の12個のベッドがどういうものなのか、写真付きで紹介されています:

華麗なるアイスダンス キャシー・リード&クリス・リード オフィシャルブログ(2014年3月24日):「埼玉スーパーアリーナ」(引用は青字。強調は筆者)
http://ameblo.jp/reed-icedance-blog/entry-11803822755.html
(キャシー:)テルからリンクまで
渋滞がなくても40分はかかります
渋滞がすごい時で
1時間15分から1時間半かかります
だから
ホテルからリンクへの往復に時間がかかるので
試合中はほとんど
リンクにいるしかありません
そこで・・・
やはり日本スケート連盟ですね!
選手のことを考えてくださって
通路に個室のベッドを
たくさん設置してくださいました!
クリス: ちょっと病院のような雰囲気があるかも知れないけど
それぞれの個室は
綺麗に設置されているんだ
キャシー: 私は早速寝てみました!
すごく楽です!エアー・ウィーヴです!


うーん、さすがは我らが日本のキャシー&クリス、何と言っても心が優しい!「選手のことを考えてくださって」「ベッドをたくさん設置してくださいました」「それぞれの個室は綺麗」「すごく楽!エアヴィーヴ!」など、どこまでもポジティブシンキングです!まあ、彼らは渋滞が酷ければ電車でも移動できるほどに日本生活に慣れている人たちであり、ドイツから来たばかりの時差ボケのキツい人たちに同じようなフットワークを要求すること自体が無理というものでしょう。消費税アップ直前かつ年度末という時期にあって、渋滞に巻き込まれたバス移動の時間がドイツ紙によると最大2時間、キャシー&クリスによると最大1時間15~30分と差があるのも、かの国が大袈裟に言っているのか、心優しいキャシー&クリスが少なめに申告してくれているのか、色々と想像を巡らせてしまいます。

なお、オリンピックのときにも当サイトで紹介した(→ソチ五輪閉幕、失言オリンピック開幕?!(3)…「ヨナが金」発言の全文から読み解くカタリナ・ヴィットの真意と誤解)ドイツARD版ネット中継のフィギュァスケート動画には、ペアのフリースケーティングがアップロードされており、日本からでも視聴することができます:

ドイツARD Sportschau:Die WM im Eiskunstlaufen aus Saitama(埼玉のフィギュアスケート世界選手権より)
http://www.ardmediathek.de/das-erste/sportschau/die-wm-im-eiskunstlaufen-aus-saitama?documentId=20440126

この動画の1時間8分45秒頃より、アリオナ・サフチェンコがインタビュアーからの質問に一生懸命日本語で答えるシーンがあります。何やら手にメモ書きしたものを読んでおり、ARD専属解説者のダニエル・ワイス氏が通訳できずに苦笑しながら、「アリオナは何か日本語を手に書いており、事前に随分と仕込んだみたいだ。私には意味が分からないが、きっと何か良いことを言っているに違いない!」と苦し紛れの説明で場をつないでいました。


このように和やかな雰囲気でスタートしたこのインタビューですが、次第に暗雲が立ち込めてきたのは、アナウンサーが「日本開催の世界選手権はどうだったか?」「日本の観客のサポートを感じましたか?」など、やたらと日本礼賛の押し売りのような質問を連発するようになったあたりからでした。そもそも、「世界選手権でドイツ史上初となる5度目の優勝」「世界選手権10回出場のうち8回の表彰台」という輝かしい偉業には触れもせず、オリンピックでの失望から1か月余りの間にここまで立て直してきた苦労についても素通りし、一生懸命に日本語を手に書いて準備してきたドイツ人を前にして、「日本の印象」ばかりを質問する失礼さには、日本人である私もちょっとビックリです。二人そろって何度もアナウンサーに聞き返しても、なかなか質問の意図を理解できなかったのも無理はありません。これは彼らやアナウンサーの英語力以前の問題であり、ARD解説者のダニエル・ワイス氏も「まあ、この手の会話なんて、いちいち全部訳す必要もない」と、呆れつつもバッサリ斬って終わりでした。ここ最近のドイツメディアで日本に関する論調がどんどん厳しくなっている中、「日本開催でよかった」「日本がイチバン」「観客が最高」といった返答しかしようのない質問ばかりしている様子が放映されることで、いずれ世界の視線が今までのようなものではなくなっていくのではないかと懸念されます。

なお、サフチェンコ・ソルコヴィー組のうちロビン・ソルコヴィーは今大会を最後に引退、アリオナ・サフチェンコはパートナーを代えて競技を続行するという説が有力です。ペア解消後も二人のそれぞれの人生の発展を心から願うとともに、次こそ日本は彼らの顰蹙を買う事のないきちんとした「おもてなし」を、と感じたフィギュア観戦でした。


<参考サイト>

ISU World Figure Skating Championships 2014 ANNOUNCEMENT
http://isuprod.blob.core.windows.net/media/90917/wc2014_announcement.pdf
(メディアが大宮やさいたま新都心のホテルを押さえているのに、選手は京王プラザホテルのみということを、このサイトで知った。せめてさいたま新都心のホテルは選手仮眠室用に確保するという手はなかったのか)

ドイツARD Morgenmagazin:Funfter Titel fur Savchenko und Szolkowy(サフチェンコ・ソルコヴィー組、5度目の世界タイトル)(動画)
http://www.ardmediathek.de/das-erste/morgenmagazin/fuenfter-titel-fuer-savchenko-und-szolkowy?documentId=20417656

Frankfurter Allgemeine Zeitung(2014年3月27日):Der gemeinsame Weg endet auf dem WM-Thron(世界選手権優勝を花道に二人は別々の道を歩む)
http://www.faz.net/aktuell/sport/wintersport/eiskunstlauf-savchenko-szolkowy-holen-wieder-wm-titel-12866281.html
(この記事の末尾に、国際スケート連盟のチンクワンタ会長の驚愕の改革案について説明あり。定年を2年先延ばしにした75歳の会長は、フィギュアスケートではショートプログラム廃止と採点システムの簡素化を目指す。「100年前と同じことをしていてはいけない」というその改革理由には、伝統や競技の独自性を大事にするという発想がまるで欠けており、各方面からの反発必至か。スピードスケートでも、ソチでのオランダ旋風に何をか思ったのか、個人競技での1か国当たりの選手数を減らす意向とのこと)
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