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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/04/04

ドイツn-tv『FUKUSHIMAの3年後』(3)…ドイツのメディアが教えてくれた楢葉町の苦悩とジレンマ

今週は下記の動画をご紹介するシリーズの最後、第3部をご紹介します。楢葉(ナラハ)町のことを「ナハラ」と呼んでいるのはこの回で、この楢葉町は元々サッカーのトレーニングセンターであり今は原発事故収束のための中継基地となっている「Jヴィレッジ」の所在地でもあります。1年半ほど前に「警戒区域」(全面立ち入り禁止)の指定を解除され「避難指示解除準備区域」(日中は出入り可能も宿泊は禁止)となった楢葉町には、夜間無人になることに伴う盗難の問題や治安の悪化といった、必ずしも歓迎できない新たな問題の発生もあったようです。さらに、避難指示解除が決まればかえって東京電力の提示する賠償額が低く抑えられる懸念もあり、住宅ローンを抱えた世帯には厳しい現実が待ち受けることになるでしょう。実際、提示された賠償額への不満から東京電力に対して訴訟を起こした住民もあるということを、ドイツのn-tvはこの第3部の中で大きく取り上げています。警戒区域とは異なり日中立ち入り自由という楢葉町がこのようなジレンマを抱えていることを、少なくとも私は日本のメディアであまり見聞きしたことがなかっただけに、はるか異国のドイツでクローズアップされた楢葉町民の叫びとも言うべきこの番組内容には、あらためて深く考えさせられました。

なお、以下の黒字の本文は全て番組音声の和訳であって筆者の意見ではないこと、筆者のつけた注釈や私見はカッコ内に赤字で記載して本文と明確に区別していることなどは、前回と同様です。登場人物について調べた参考サイトは、まとめて末尾に呈示してあります。

ドイツn-tv (2014年3月11日0:05~):「FUKUSHIMA 3 Jahre nach der Katastrophe」
http://www.n-tvnow.de/auslandsreport-spezial/fukushima-3-jahre-danach.php?container_id=155897&player=1&season=0
(日本からはリージョンの関係で視聴できないようなので、写真を補充した訂正稿を後日アップする予定だが、まずは本文のみ先に公開します)


【第3部】
日本では、放射能汚染された水がこうしている今もどんどん海に流れていっている。福島第一原発で働く人たちも私たちにそう語っていた。福島第一原発周辺の海域での漁業は本来は禁止されているが、その北側や南側では今も放射能に汚染された魚が収獲されている。私たちは東京(←築地)の魚市場にやって来た。水産業は日本にとっては重要産業だが、2011年には初めて輸出量が落ち込んだ。海外において日本の魚介類に対する放射能汚染が不安視されたためである。今ではその売上も回復してきて、魚市場には貝類もカニもマグロも何でも並んでいる。

n-tvのディレクター兼ニュースキャスターである女性記者、ナディア・クリーヴァルトさんが魚市場に登場

記者:「この魚は全部日本産のものですか?」
魚市場の男性:「そうです。長崎産です」
記者:「東北、福島地区の魚はありますか?」
魚市場の男性:「ないない」

この男性の話では、魚はどれも放射能測定がなされしており、特に北からくる魚はきちんと測定してしているという。東京の人たちの食欲は失われていない。ここには、汚染された魚に不安を示す人はまずいない。

私たちは再び福島地区に戻ってきました。道端には、ちょうど地面の土を剥いでいる最中の除染チームの姿があった。強く汚染された土を彼らはプラスチック袋に詰め込んでいたが、この後きっとどこかへ運び出すのだろう。

私たちは警戒区域との境界にほど近いいわき市にある事務所に、カナイ・ナオコ(金井直子)、弁護士、寺の住職の三人を訪ねた。三人とも、警戒区域内にある自宅を立ち去らねばならなかった。そして、三人で東京電力に対して訴訟を起こしている。(←この3人は原発被害訴訟の原告。このうちの2名、金井直子氏と宝鏡寺の住職・早川篤雄氏は、末尾の参考サイトに挙げた東洋経済の記事の中に登場する

カナイ:「私たちはみんな、原発事故によって自宅から避難せねばならなかった。ただ、その避難勧告には『念のために』(vorsichtshalber)という前置きがついていたので、原発に対する知識もなかったし、数日程度で戻れるものと考えていた。他の人もそうだったはず。それが、何か月たっても何年たっても私たちは家に帰れず、だんだん希望もしぼんでいった」

この家族写真は震災前に撮ったものだ。ナハラ町(←楢葉町の間違い)に建てた家に、一家4人が立っている写真だ。まさか、この家に家族が二度と戻れなくなるとは思いもよらなかった。

カナイ:「私たちに対して東京電力は、損害賠償申請のための質問票を送ってきたんですが、見てくださいよ、この分量!何百ページもあって、まるで本みたい。原発からの距離の近さなどの質問項目に応じて、東電が細かい賠償額を算定するのですが、こんな分厚い申請書、お年寄りや体の悪い人に書けるんでしょうか。そういう人は、これでは泣き寝入りですよ」

寺(←楢葉町にあった宝鏡寺)の住職であるハヤカワ・トクオ(早川篤雄)もこの訴訟の原告の一人である。福島第一原発の建設が始まった頃から足掛け四十年以上、彼は原子力と戦い続けてきた。

ハヤカワ:「私の望みは、故郷を返してほしい、その一点だけです。でも、それはもう現実問題として不可能になってしまった。こうなってしまった以上、東京電力は私たちが他の土地で新しい人生を始めるに足るお金を払うべきであるし、我々の子供たちの世代の健康と人生に責任を持つべきである」

ハヤカワ氏は今住んでいる避難先のアパートに、自分の寺にあった仏像を持ってきた。現地に置いていると盗難にあう恐れがあるため、アパートの押入れの収納ケースの中に保管している。

ハヤカワ:「(仏様を)このような場所に押し込めねばならぬとは、神仏への冒涜。仏様に申し開きの言葉もない」

ナハラ町(楢葉町)のホウキョウジ(宝鏡寺)に一時帰還する時は祈祷をするが、あまり長時間滞在することはできない(←楢葉町は2012年8月10日に警戒区域指定を解除され、日中に限り行き来が自由にできる「避難指示解除準備区域」に区分された)。寺には六百年以上の歴史があったが、今や目に見えない放射能のせいで信者が立ち寄ることすら叶わない。

カナイ・ナオコ(金井直子)もこの日、避難区域内の自宅に一時帰宅した。この家の隅々には、二度と戻れない日々の思い出が詰まっている。

カナイ:「私たちは、理想的な場所に理想的な家を建てた。私も仕事が順調であり、子供たちはここで健やかに成長した。生活には何の心配もなかった」

壁には、震災の有った年の三月のカレンダーがそのまま手つかずになっている(←余談ながら、このカレンダーに「楢葉町」の文字が映しだされたことにより、番組中で連呼されていた「ナハラ」なる町名が実は「ナラハ」の間違いであることにようやく気づいた私でした…笑)。震災当日は、次男の卒業式だった。その翌日は夫と長男が仕事に出勤し、彼女自身は家にいた。そして、朝の8時のことだった。

カナイ:「いきなり警報音が鳴り響き、全(楢葉)町民が避難するようにと告げられた。私はどうしたら良いのか頭が混乱してしまい、携帯電話で夫に連絡をとったのだが、つながらなかった」

彼女は夫と子供にあてた手書きのメモを壁に貼り、そのままいわきへと避難した。この日を境に、彼女の人生は大きく変わった。変わらずに残ったものといえば、住宅ローンだけだ。

カナイ:「この家の住宅ローンがあと20年分ほど残っている」

東京電力から返答のあった賠償額は、結局のところ損害総額のたった40%の金額に過ぎなかった。だから、彼女は東電を訴えることにしたのだ。

私たち(←ドイツ人たる報道スタッフ)は数日でこの地域を立ち去ることができる立場にある。しかし、私たちがここで出逢った人々たちはどうだろう?牛農家のヨシザワ・マサミ、裁判原告のカナイ・ナオコ、勇気ある原発労働者のサニー、そして、福島の子供たちは?

以上で番組終了。地上波でのオンエア時は、番組VTRに引き続きクリーヴァルト記者本人がスタジオ生出演、現地ルポの模様を語った


上の字幕は「放射能汚染された環境における生活」の意味


上の写真は、既に脱原発の方針を表明しているドイツにおいて、現在まだ稼働中である原発8機を表示したもの。脱原発どころか原発再稼働をもくろむ日本が目下のところ原発ゼロであるという現実と比べて、対照的である。なお、n-tvは一貫して原子力発電所のことをAKWと表記していることに注目。原発賛成派メディアはKKWと表記するということは、こちらのコラムを参照のこと:→欧州版”REMEMBER FUKUSHIMA”の大合唱(1)…前哨戦となったドイツZDFとARDにみる「原子力」という単語の相違


<参考サイト>

東洋経済オンライン(2013年6月02日):「あのJヴィレッジは?福島原発20キロ圏内の今 一部立ち入り緩和も、広野・楢葉・富岡町の苦悩続く」
(このn-tvの番組に登場する原発被害訴訟の原告のうち2人がこの東洋経済の記事にも登場)
http://toyokeizai.net/articles/-/14120
http://toyokeizai.net/articles/-/14120?page=2
http://toyokeizai.net/articles/-/14120?page=3
(番組内に登場する楢葉町のカナイ・ナオコこと金井直子さんの記述あり。3ページ目には番組にも登場したご自宅が紹介されている)
http://toyokeizai.net/articles/-/14120?page=4
(「反原発活動40年、僧侶の無念」の段落に、番組内に登場の宝鏡寺の早川篤雄住職に関する記述あり)

楢葉町ホームページ 楢葉町長挨拶
http://www.town.naraha.lg.jp/outline/aisatu.html
(「避難指示解除準備区域」への指定についてはあるも、住民帰還の期限については明言されていない模様)
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