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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/03/14

欧州版”REMEMBER FUKUSHIMA”の大合唱(1)…前哨戦となったドイツZDFとARDにみる「原子力」という単語の相違

この原稿が掲載される頃は、東日本大震災からちょうど3周年の週に相当します。これを書いているのがまだ「3・11」前なので、当日のドイツにおける日本関連の報道がどうなるのか今からビビり気味の私ですが、実は先月末頃から既にテレビでは前哨戦のようにどの局も競うように「FUKUSHIMA」の話題で盛り上がっておりました。

皮切りとなったのは2月26日オンエアの、それもオリンピック観戦疲れでホケ~ッとなっていたところにガツンと飛び込んできた、ZDF(ドイツ第二テレビ)のヨハネス・ハーノ記者による渾身のルポでした↓。

ドイツZDF放送『ZDF Zoom』より(2014年2月26日放送):”Täuschen, tricksen, drohen”(フクシマのごまかし、ペテン、脅迫)
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/beitrag/video/2097900/ZDFzoom-Taeuschen%2C-tricksen%2C-drohen-?flash=off
Drei Jahre sind vergangen seitdem in Fukushima vier Reaktorgebäude explodierten. Und immer wieder kommt es zu schweren Zwischenfällen. Autor Johannes Hano und sein Team fragen: Anlass zur Sorge?
(和訳:福島で四つの原子炉が爆発してから既に3年が経ち、その後も深刻な不測事態がたびたび繰り返されている。ヨハネス・ハーノのチームが問いかける:これは心配のタネか?)


(上記リンク先、ZDF Mediathek内)

在独邦人の方による上記動画の和訳が下記リンク先にありますので、参考にしていただければ幸いです。
http://kiyomizu5.blogspot.de/2014_02_01_archive.html

上記のZDFの番組に登場する主たる証言を抜粋すると、安倍首相が世界に高らかに宣言した「(福島第一原発の事故は)アンダー・コントロール」ではなく実際は「アウト・オブ・コントロールである」(京大原子炉実験所・小出裕章氏)、「原子力発電所(Atomkraftwerk)の周りに汚染水拡大を防ぐための防護壁を建設することに東電は反対した」(民主党・馬淵澄夫氏)、「原発ロビー(Atomlobby)の反撃が始まっている」(元内閣総理大臣・菅直人氏)、汚染水管理に難があり「海洋・河川の汚染が実際は深刻であるのに、政府は規制値そのものを引き上げることで汚染自体が無いかのように装っている」(京都大学・山敷庸亮氏)、「放射能の豊富な草を食べた牛に、それまでに見たことのない白斑が多発している」(飯館村の農家)、「日本政府は非人間的で、自分たちが人間として扱われていないことに怒りを感じる」(元双葉町長・井戸川克隆氏)、「東電は真実を話さないし、市場は無責任。次に事故が起きても結局は国民が尻拭い。銀行も投資家も責任を取らなくてよいからこそ、再稼働などというリスクの高いことが平気で言える」(新潟県知事・泉田裕彦氏)、「原発労働や除染作業に派遣される人材を集めるのにはヤクザが大きな役割を果たしており、労働者の多くはホームレスなどの社会的弱者である」(神父・今井誠二氏)…などがポイントかと思います。

さて、先週も述べたように、ドイツの公営放送にはZDFの他にARD(ドイツ第一チャンネル)という局もあります(→ZDF版ソチ五輪フィギュアスケート解説者の驚異的博識(4)…ソトニコワの金は「伊藤みどりの代理戦争」だった!)。ZDFが取り上げた渾身のフクシマ関連レポートに対抗意識を燃やした訳ではないでしょうが、4日遅れとなった3月2日には今度はARDが負けじとこのような特集を放送しました。

ドイツARD『Weltspiegel』より(2014年3月2日放送):”Japan: Der Tierretter von Fukushima”(福島の動物救護人)
http://www.ardmediathek.de/das-erste/weltspiegel/japan-der-tierretter-von-fukushima?documentId=19963718
Am 11. März ist es drei Jahre her, dass beim Tôhoku-Beben vor der Ostküste Japans und dem anschließenden Tsunami fast 20.000 Menschen starben und schließlich auch das Kernkraftwerk Fukushima außer Kontrolle geriet.
(東北の地震とそれに引き続く津波によって2万人の命が奪われ、ついにはフクシマの原子力発電所がコントロール不能となってから、この3月11日でちょうど3年が経つ)



(上記リンク先であるARD-Mediathek内。ちなみに右下の「UT」をクリックするとドイツ語字幕を出すことができる。左の画面内の男性が後述の松村直登さん)

さて、同じドイツの公共放送たるZDFとARDですが、フクシマを語るその報道の中にとある決定的な相違を見い出し、私はウーンと考え込んでしまいました。その該当部分を本文中で赤太字にしたことに皆様もお気づきになられたかもしれません。それはズバリ、原子力発電所のことをZDFはAtomkraftwerk、ARDはKernkraftwerkと、別の表現を用いていたことです。この表現の違いに関して、私にはちょっとした思い出があります。

私が渡独してすぐの頃、まだ日本の原発事故もなかったころ、そして私のドイツ語力もまだまだ錆びつき気味だった頃、周囲のドイツ人研究者が何かの雑談のついでにこのようなことを教えてくれました:

「ドイツでは、原子力のことをケルンクラフト(Kernkraft)と呼ぶ人は原発賛成派、アトムクラフト(Atomkraft)と呼ぶ人は原発反対派と考えてまず100%間違いない」
「マスコミが原子力発電所のことをアーカーヴェー(AKW :Atomkraftwerk)と呼べば、そのメディアは左寄り。カーカーヴェー(KKW:Kernkraftwerk)と呼べば右寄りと判断できる」

ここで説明を兼ねてちょっぴりドイツ語講座を。「ケルンクラフトヴェルク(Kernkraftwerk、KKW)」の「ケルン(Kern)」とは、直訳すれば「核」の意味であり、果物の種とかクルミの中身などにも用いられます。「クラフト(Kraft)」とは「ちから」のこと(英語でいえばpowerやstrength)、「ヴェルク(Werk)」とは英語のワーク(work)に相当し、仕事・作品・装置といった意味があります。Kraftwerkといえばドイツ語では「発電所」の意味になります。ここで音楽に詳しい方であれば、70年代から:現在に至るまで息の長い活躍で知られる「クラフトワーク(Kraftwerk)」というドイツのテクノ系バンドを思い浮かべられるかもしれません。特にオススメは1991年発表のリミックスアルバムで、チェルノブイリ事故を受けて昔の曲の歌詞を大幅に書き換えた「Radioaktivität」(放射能)や日本語歌詞の「Dentaku」(電卓)などの名曲が収録されており、私もいまだにiPodに入れて持ち歩いています↓。


話がそれてしまいました。今になって私が思い出すのは、あの東日本大震災の日、そしてそれに引き続く原発爆発の重大事故”FUKUSHIMA”を境に、周囲のドイツ人たちの口からは「カーカーヴェー」という言い回しがそれはもうパッタリと消え去ったということでした。1986年のチェルノブイリ事故で為政者のウソや詭弁などのパターンをフルコースで経験し、一度はすっかり懲りたはずの一般庶民が、のど元過ぎた苦しみを日本の震災直前まではかなり忘れていたのが、あの「フクシマ」の一連の映像を見た瞬間にかつての記憶を一気に取り戻したという感じでしょうか。当時、家の窓を閉め切って目張りをするのが大変だったとか、子供の頃に雨に濡れていたら親が発狂せんばかり怒ったとか、牛乳を捨てたとか、彼らの思い出話を聞くたびに「エエッ、そんなこともしてたですかぁ!?」と、当時のドイツを知らない私はいちいち腰を抜かしたものでした。

そんなフクシマ直後となった2011年3月27日に行われたバーデンヴュルテンベルグ州の地方選挙で、アンゲラ・メルケル首相の所属政党でもあり原発推進派の政権与党CDUがまさかの惨敗、逆に緑の党は議席倍増となり、同州に左派連立政権が誕生しました。その結果、ドイツ史上初となる緑の党出身の州首相誕生という誰もがビックリの事態となり、これにビビッたメルケル首相が「脱原発」に大きく舵を切ることになったのです。自身が物理学者でもあるメルケル首相ですが、正式に「脱原発」を明言することになった一番の理由は、「そう言わないと選挙に勝てないから」、つまり「民意」のせいでした。地方選挙の一番の争点が脱原発となった典型事例でもあり、この緑の党出身の州首相は”FUKUSHIMA”に足を向けては寝られないだろうと当時言われていました。

それだけに、ARDが右派的表現とされる「ケルンクラフトヴェルク(Kernkraftwerk)」を今回の番組の冒頭部で続けて使用していることに、ZDFとの対抗軸としてのARD立ち位置を見る思いがしました(該当段落を和訳引用:緑字)。先週のフィギュアスケート解説の記事の中で私は「ドイツの人に聞くと、ARDはどちらかというと右寄り保守路線でやや硬め、ZDFは中道左派的スタンスで柔らかめとのこと」と書きましたが、まさにこのことを指しているのです。

番組総合司会:「隠者とか世捨て人とかは、中世にしかいないものだと思っていましたが、とんでもない!日本の福島原発(Kernkraftwerk Fukushima)の周囲の死の領域(Todeszone)には、信じられないことですが、松村直登という愛すべき陽気な日本人が、動物たちと一緒に住んでいる。3月11日の激しい地震と途方もない津波により、日本の東海岸では2万人の人々が命を奪われ、福島原発(Kernkraftwerk Fukushima)が全くコントロール不能に陥ったことを、皆さんは覚えていらっしゃることでしょう。生き延びた人はみな逃げ、一人だけが残った:それが松村さんです」

しかし、話はそれだけでは終わりませんでした。続くVTRの中では、今度は一転して「Atom-」入りの表現が多用されるようになります。全部で6ヶ所ある該当部分をこれまた引用して和訳しておきます(緑字)↓。

1) 動画1:39~
特派員によるナレーション:松村直登(注:福島の富岡町に一人で住む牛農家)も原発事故(Atom-Unfall)から避難した。しかし、被曝しているからとして、誰も彼を受け入れてくれなかった。

2) 動画 2:25~
ナレーション:福島第一原発という放射性の核の廃墟(die strahlende Atom-Ruine,)は、松村直登の地元と12キロしか離れていない。福島では10万人の人々が、そして富岡町だけでも1万6千人が、それぞれ家を追われた。ここの放射能はどれくらいだろうか?5~6μシーベルト/時である。これは、生活していくにはあまりにも高すぎる線量だ。

3) 動画4:00~
松村:ご存じですか?ここの地域は昔、私たちみんなが貧しかった。学校の制服も穴だらけで、母親たちがチャチャッと縫い付けて一丁上がりってやってた。そこに、原子力(Atomkraft.)がやってきて、突然私たちは全員が車を持つようになった。一台どころか、二台も三台も、なんてのもザラだった。原子力をまだ受け入れていない町では、みんなまだまだポンコツ車に乗っていたというのに。俺たちだけが急に豊かになった。

4) 4:24~
ナレーション:(その頃の)美しい人生は、もはや跡形も残らなかった、と松村直登は思っている。人々は原子力会社(AKW-Betreiber)の東京電力(TEPCO)と国家の両方から騙されている、そして、原子力(Atomkraft)が本当はどれほど危険であるのか、富岡町の人たちは誰も知らなかった…とも。隣人農家の牛舎には、悲惨な死を遂げた牛たちがたくさん溢れていた。動物を助けるために村に残った松村だが、さすがの彼にもこの動物たちを助けることはできなかった。

5) 動画5:15~
ナレーション:海、険しく切り立った崖、何メートルもの高波、なだらかな丘、モミの木、草地…。福島とは元々は風光明媚な場所である。しかし、ここにも震災は深い傷跡を残した。お役所連中はこの不幸をできれば無かったことにしたいのだ。予算をタップリかけて彼らは道路や家々に田畑を除染したが、そのほとんどは無駄だった。かくしてプラスチックの袋の中にかき集めた放射性廃棄物(Atom-Muell)が朽ち果てていく。広い空の下、地平線のかなたまで、放射能を帯びたゴミでビッチリ埋めつくされている。

6) 動画6:08~
ナレーション:ここの地に住む人間にとっては、故郷というものの意味するところは大きい。ほとんどの家族は20世代ないしそれ以上にわたって福島で生活してきた。(そんな村に)残ったのは松村直登ただ一人である。核の廃墟(Atom-Ruine)が間近にあるゴーストタウン・富岡町を、彼は住処(すみか)とするつもりなのだ。

いかがでしょうか。ZDFは最初から最後まで「ケルン」を一切使用せず番組を制作しているのに対し、ARDの動画は冒頭部の一般論のみ「ケルン」派だったのが、途中から見事に左巻きに「転向」(?)しています。この言葉の選定に、日本で苦しい状況に置かれた被災者の方たちに対するARDの配慮が感じられます。一人でフクシマに住み続ける農家の松村氏が主語になり、政府や東電に物申す発言主となった段階で、「もはやカーカーヴェーどころではない」となったのではないかと想像します。そして、ゴリゴリ保守の旗頭のようなARDが、その建前としてのスタンスをその7分弱の動画の途中からひたすら曲げて見せることで、「反原発」「脱原発」よりもさらに踏み込んだ「反・非人間性」というメッセージをその行間から強く発しているように思えてきます。そもそも「核」とはあらゆる面で「非人間性」の極致であり、前述のハーノ記者のZDFのドキュメンタリーの場合はそのあたりを30分かけて丁寧に主張しているのに対し、決して負けていないARDの短的な表現もまた、手法としては効果的だったと言えるでしょう。

なお、ARDの動画の最後に司会者がこのようなことを言っています:

司会:俄かには信じられないかもしれませんが、この住処を飛び出して、松村直登は3月に何とヨーロッパに講演旅行にやってきます!フランス、ドイツ、そしてスイスを回る予定です。詳しい予定はweltspiegel.deのホームページをご参照ください。

何と、松村さん、欧州講演旅行だそうです!牛や犬猫たちはお留守番かな?そういえば先日、ふとフランスのニュース番組を着けたら松村さんが出演していて驚いてしまったのですが、これなら納得です。フランスやドイツでの講演会の模様をいずれARD他のメディアで目にすることを、楽しみに待ちたいと思います。


<参考サイト>
Wikipediaドイツ語版 - Landtagswahl in Baden Württemberg 2011(2011年バーデン・ヴュルテンベルグ州議会選挙)
http://de.wikipedia.org/wiki/Landtagswahl_in_Baden-W%C3%BCrttemberg_2011

ドイツBR(ARD傘下のバイエルン放送)2014年3月10日放送:”Fukushima: Die Katastrophe dauert an”(フクシマ:カタストロフィーはまだ続いている)←本文内のARD動画の続編のようです。
http://www.ardmediathek.de/br-fernsehen/capriccio/fukushima-die-katastrophe-dauert-an?documentId=20042346
Im März 2011 ereignete sich eine grauenvolle Nuklearkatastrophe. Die BR-Doku "Fukushima - Nichts ist wie es war" zeigt, wie sich das Leben für die Betroffenen verändert hat. Der Film zeigt die emotionalen Folgen dieses Unglücks.
(2011年3月には恐ろしい核事故が発生しました。バイエルン放送ドキュメンタリー「フクシマ-昔のままのものは何もない」は、事故が被災者の人生にどのような変化をもたらしたかをお見せします。そして、被災者の受けた(生活上の変化のみならず)感情の変化についても焦点を当てます)
こちらの続編には邦訳が、こちらのリンク先にありました↓:
http://kiyomizu5.blogspot.de/2014_03_01_archive.html
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