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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/02/28

ソチ五輪閉幕、失言オリンピック開幕?!(3)…「ヨナが金」発言の全文から読み解くカタリナ・ヴィットの真意と誤解

ソチ五輪のフィギュアスケート女子シングルは、ロシア期待の17歳、アデリーナ・ソトニコワが並み居る強豪選手を抑えて悲願の金メダルを獲得しました。今年のロシア選手権ではあのリプニツカヤを抑えて優勝、それに引き続く欧州選手権でもそのリプニツカヤに次いで2位という直近の実績から考えれば、優勝候補としてあまり事前に騒がれなかったのがむしろ不思議なほどの実力者であるだけに、(本人は実は出たかったようですが)団体戦に不参加だったことも含め、あるゆる風がソトニコワに有利に吹いていたようにも後から考えると思えてきます。われらが日本期待の浅田真央さんもまた、フリー演技では3回転半ジャンプや連続3回転ジャンプを含む驚異的な内容で十人ごぼう抜きの6位入賞を果たしてくれたのは嬉しかったですし、さらに他の上位選手陣のほとんどがほぼノーミスないし自己ベストに近い出来を披露したあたりは実に見応えがあり、ミスの多発した男子シングルとはまた一味異なったその展開はそれはそれでシビれるものがありました。しかし、日本ではその前日のショートプログラム直後、何と、元総理大臣ともあろうお方から「あの子は大事な時に必ず転ぶ」なる御発言が飛び出したとかで、日本のネットニュースを見た時は我が目を疑わずにはいられませんでした。

しかもその後、この失言騒動らさらにアイスダンスのリード兄弟へのさらなる失言(というよりもはや暴言)へと発展し、もはや失言オリンピックの様相を呈してきているようです。その上、「いやいや、全文を読めばその意図は異なった印象を受ける」「一部を切り取って伝えるマスコミに問題がある」といった論調まで登場してきているようです。とはいっても、どう取り繕っても失言は失言、妄言は妄言。私が参照した中では最も的を得ていると思われたのは以下のリンク先の記事で、この問題発言を取り巻く事情も含めた詳細な解説とともに、その紡ぎ出す言葉が軽い政治家というよくよく考えれば恐ろしい存在がありありと描写されており、一読の価値があります。

経済ニュースゼミ(2014年2月22日) ”森元総理の問題発言を冷静に分析した結果”
http://blog.livedoor.jp/columnistseiji/archives/51573581.html

このリンク先の著者である経済コラムニストの小笠原誠治さんは、「問題発言か否かを判断するには講演内容に当たってみるしかない」と考えて全文を探し出してお読みになったようです。そして、浅田さんに関する発言はもちろんのこと、それ以外にも看過しがたい問題発言がズラズラと並ぶその信じがたいような講演内容に「別の意味で驚いた」と書いています。その具体的な発言については、書いている著者もほとほと呆れ果てていることがよく伝わってきますが、是非ともリンク先をご参照いただければと思います。

さて、この「全文を見ないと発言の真意はわからない」のか否かという話は、私にとっては日本の元首相の発言よりはむしろ、ドイツの元オリンピックチャンピオンの発言の方に当てはまるように思います。というのも、日本語ネットニュースで以下のような報道を目にしたからです。

東スポWeb(2014年2月21日) ”カタリナ・ビットさん 「採点に落胆、ヨナが金」”(引用は青字、太字強調は筆者)
http://www.tokyo-sports.co.jp/sports/2014sochi/237070/
【ロシア・ソチ20日(日本時間21日)発】フィギュアスケート女子でバンクーバー五輪に続く連覇を狙ったキム・ヨナ(23、韓国)は銀メダル。ショートプログラム(SP)は首位だったが、フリーで地元ロシアのアデリナ・ソトニコワ(17)に逆転を許して涙した。
 ヨナが渾身の演技で現役最後の舞台を終えた。先にカロリナ・コストナー(27=イタリア)が圧巻の演技を見せ、ソトニコワが驚異的な得点を出した。重圧がかかる最終滑走だったが、雰囲気にのまれることなくタンゴの名曲を滑り切った。
 ただ、得点はソトニコワに及ばず、カタリナ・ビットさん(48=ドイツ)以来26年ぶりとなる史上3人目の連覇は果たせなかった。それでも、達成感はあった。感極まり、涙を流したヨナは「今は(最後の試合が)終わったな、と思うだけ。疲れましたね」と率直な感想を口にした。
 一方、ドイツ公共放送ARDで解説を担当したビットさんは「ヨナが金メダルを獲得すべきだったと思う。採点には落胆したし、正直怒りを感じる」と不満を表明。会見でも「ソトニコワの得点が正当だと思うか?」という質問も飛んだ。それでも、ヨナは「スコアはジャッジが付けるもの。私が何を言っても変わるわけではない。重要なのは参加すること。最後にここにいられて満足している」と淡々と答えた。
 ソチ五輪出場は自国開催となる18年平昌五輪に向け、後輩に道をつなぐ意味があった。すでに金メダルを手にしていたヨナにとって、今季はモチベーションとの闘いにもなった。これまで強気な顔を見せてきたが、最後は「これが最後になるのは間違いない。競技生活が終わることはうれしい」とほっとした表情だった。


この記事だけなら、「東スポだからなー(笑)」で済む話かもしれません。しかし、ロイター通信もまた、同じ日にこのような記事を掲載していたのだから、がぜん話は信憑性を帯びてきます↓。

ロイター(2014年2月21日) ”五輪=ソトニコワの金採点に疑問、ビットさん「理解できない」”
http://jp.reuters.com/article/wtSportsNews/idJPTYEA1K00X20140221
ソトニコワはコンビネーションジャンプの3回転フリップ─2回転トーループ─2回転ループの最後で着地に失敗しながらも、シーズンベストを18点以上更新。キム・ヨナ(韓国)は完璧なジャンプを披露しながらも5.48点の差でソトニコワに敗れた。ただし、ソトニコワはキム・ヨナよりも1つ多い、7つの3回転ジャンプに成功している。
1984年と88年の五輪で連覇したカタリナ・ビット(ドイツ)さんは、テレビ解説で「このジャッジは理解できない。信じられない」と発言。(以下略)
7位に入ったアシュリー・ワグナー(米国)は競技後、「ジャンプに失敗した人が成功した人よりも高い得点を挙げる競技は誰も見たくない。観客のためにクリアにしなければならない」と批判。「ジャッジは匿名であってはならないし、採点の責任を取るべき」と不満を表した。
母国に同種目初の金メダルをもたらしたソトニコワは、「スコアに疑問があるのであれば、それはジャッジに向けられるべき。わたしは自分のすべきことをしただけ」と話した。


これだけではちょっとわかりにくいので、先にドイツにおけるソチ五輪の放送がどういう仕組みになっていたかを説明したいと思います。ドイツには日本でいうNHKに相当する公営放送が2つあります。一つがARD(正式名称:ドイツ連邦共和国公営放送連合第1チャンネル)、そしてもう一つがZDF(同:ドイツ第2テレビ放送)です。オリンピック放送はこのARDとZDFが日替わりで地上波中継を担当しており、例えば前回の記事で「男子シングルのショートプログラムでは地上波中継があったのは羽生選手ただ一人」(→祝・羽生結弦選手金メダル!ソチ五輪(2)…パトリック・チャンの敗因は「カナダの呪い」ならぬ「ZDFの呪い」?!)と書きましたが、この男子ショートプログラムのあった2月13日はZDFが地上波放送を担当、その翌日のフリーはARDが担当、さらに今回の女子シングルはショートプログラムのあった2月19日がZDF、2月20日のフリーはARDといった具合でした。ただし、これはあくまでも地上波放送に限定した話であり、インターネットによるライブストリーム配信は毎日、ARD、ZDFの両局とも全種目行っております。中継のスタジオや機材はARDとZDFで共用とすることで一局当たりのコストを下げているとも言われており、他の競技種目ではゲスト解説者も共通なのが普通ですが、唯一の例外はフィギュアスケートで、地上波ではほとんど放送がない「超不人気競技」(特に男子シングルとアイスダンス)の扱いを受けている割には、インターネットのストリーム配信となるとは両局が同じ映像に対して別の実況者を立てて独自の解説を加えるという気合の入りようなのが、どう考えても不思議です。ドイツの五輪中継は、一般視聴者向けに競技ダイジェストやインタビュー・ドキュメンタリーを織り交ぜて俯瞰的に見せるのが地上波、コアなファン向けに各競技を掘り下げて全試合見せるのはネット配信というように、その棲み分けは徹底しており、テレビとインターネットにおける未来の役割分担の方向性を想像させるものでした。

そして、ここが大切なのですが、カタリナ・ビットさん(旧東ドイツ代表、1984年サラエボ五輪および1988年カルガリー五輪で連続金メダル)はARD側のゲスト解説者です。それも、一人で解説しているのではなく、これまでもARDのフィギュアスケート中継の実況解説者を一貫して務めてきたダニエル・ワイス氏(Daniel Weiss)との掛け合いで番組が進行していきます。なお、ワイス氏もまた元フィギュアスケーターで、1991年及び1992年のドイツ男子シングルのチャンピオンでもあります(1989年欧州選手権5位、1989年世界選手権12位、五輪出場経験なし)。

さて、私は前述のロイターや東スポの記事のネタ元と思われるARDの生放送をリアルタイムで見ていました。それだけに、これらの記事もまた「一部の発言が切り取られることによる誤解」「発言の真意が伝わらない危険性」をそのまま地で行っているように読めてしまうのでした。「ヨナが金」という見出しこそは正に誤解の基で、少なくともこの放送でカタリナ・ビットさんは、「ヨナが金を獲ると思った」(が実際はそうならなかった)とは言っていますが、「ヨナが金を獲るべきだった」とは断じて言っていません。なお、そう言ったのはワイス氏の方です。この2つの文章、似ているようでその意味は大きく異なります。また、ワイス氏もビットさんも口をそろえて「ジャッジに納得できない」と言っていたのは事実ですが、ワイス氏が「キム・ヨナが金でないとおかしい」と力説してたのと比べてビットさんのトーンは弱く、「どちらかというと(銅メダルの)カロリーナ・コストナーの演技の方が自分は気に入った」と、あくまでも関心の中心をコストナー選手に置いて発言していました。

参考のために、ARDの生中継の際のワイス氏とビットさんの会話をそのまま和訳して書き出します(以下、ワイス氏の発言は緑字、ビットさんの発言は赤字、後出のスタジオ司会のアントワープ氏は紫字)。あとは読者の皆様に判断していただきたいと思います。少なくとも、ソトニコワの優勝を「疑惑の金メダル」と考えているようには感じられますでしょうか?

<アデリーナ・ソトニコワの得点か表示された瞬間>
ワイス:今日は一体何事が起きているのだろうか?女性陣は、何年もかけて特訓して磨いてきた実力をいかんなくこの本番の大舞台で発揮している!

<ソトニコワの次のグレイシー・ゴールドの素晴らしい演技が終了。ゴールド選手がリンクサイドに戻り、コーチらに迎えられる。リンクサイドで実況するワイス氏が、ARDソチスタジオにいるビットさんにコメントを求めたところ↓>


ワイス:それにしても女性陣のパーフォーマンスの素晴らしさにはボクは感動しきりです。カタリナ、君もかい?
ビットさん:全くです。私たちが見ているのはとてもレベルの高い争いで、こう言っちゃダニエル、あなたには申し訳ないかもしれないけれど、こないだの男子とはちょいと違うわね!男子の時はえらくミスが多かったし、選手は滑り終えたらもうヘロヘロで体を引きずるようにリンクから引き揚げてきた感じだったけど、女子なんて皆そのまま引き続きもう一本プログラムを滑れそうな勢いよね。
だけど、ホンネを言わせてもらうなら、.さっきのカロリーナ(・コストナー)がアデリーナ(・ソトニコワ)よりも8点低いってのが私はいまだに心に引っかかっているの。折角いい演技を見せたばかりのグレイシー(・ゴールド)のことを無視するつもりはないけれど、カロリーナの演技は私にとって表現や描写がすごく強く訴えかけてきて、ホントに鳥肌(Gänsehaut)が立ったのよ!だから、カロリーナの演技構成点があまり伸びなかった理由がとにかく理解できない!

ワイス:ボクも全く君に同感だよ、カタリナ。カロリーナの演技構成は実に素晴らしい。
ビットさん:あら、そう?.
ワイス:そうだよ、だからボクはさっき言ったじゃないか!ソトニコワの演技構成点はとっても高い、そしてそれはきっと、ほんのちょっとしたホーム・ボーナスかもしれないってね!

<グレイシー・ゴールドに次いでアシュレー・ワグナー、さらにその後に最終演技者としてキム・ヨナが登場したところ↓>


ワイス:フィギュアスケート界の女王の登場です。前回五輪の覇者、スーパースターのキム・ヨナです。この滑走は歴史に残るものになるかもしれません。五輪2連覇を過去に達成したのはソニヤ・ヘニーとカタリナ・ビットの2人しかいないからです。次の五輪開催地である韓国が全土を挙げて注目しています。昨日のショートプログラムは韓国での視聴率が80%台だったそうです。母国からのプレシャーは極めて大きいだけに、彼女は昨日の抽選会で最終滑走を引き当てたときはガックリきていました。なぜなら、この瞬間を迎えるまで、エラく長い時間待たなければならなかったからです。それでは韓国代表のキム・ヨナに、グッドラック!(演技中のコメントは略)

<キム・ヨナの演技終了直後>
ワイス:これは金メダルいったでしょう、間違いなく!キム・ヨナというこの魅力的な女性はピアゾラのタンゴの演技で以て、この四分間ボクたちをブエノスアイレスの路地裏にいざなった。視聴者の皆さん、これが氷上の芸術的滑走(Eiskunstlaufen=フィギュアスケートの直訳)というものです!その動きやジェスチャーのすべてが完璧でした。ぶっちゃけたことを言わせてもらうなら、これが金メダルにならないのなら、ボクはガッカリする。ソトニコワとのショートプログラムでの点差は0.28点しかない。ヨナはこの五輪後に引退することを明らかにしているけど、彼女はまだ23歳と若い。ピョンチャン(平昌)だって余裕で参加できそうなものなのに。ただ、母国のプレッシャーはものすごく大きくて、母国でみんなが彼女の氷上の一挙手一投足に注目しているってんだから、ビックリしちゃうよね。
(ここでスローモーションVTRが流れる)
彼女は試合で氷上に登場するたびに表彰台に、それもたいがいは一番てっぺんに上ってきた。この試合で彼女が勝つには、149,68点が必要である。彼女の演技は、羽根が風にたなびくような軽やかなものだった。彼女自身は「メダルをとることは私にとっては重要だけど、何色のメダルかどうかにはこだわらない」と言っていたが、.この演技なら彼女が手にするのは金メダルだとボクは確信している。緊張の一瞬です!

<キム・ヨナのフリー得点発表、144.19点と表示された瞬間↓>


ワイス:足りません!わずかに及びませんでした!正直言ってボクはどエラくガッカリしている!キム・ヨナは銀に終わったが、それでもこれが歴史的であることにかわりはないのは、ロシア女子初の金メダル獲得だからです。昨日アイスホッケーが準々決勝で敗退してヘコんでいたロシア人にとって、これは結果オーライといったところでしょうか。今日、偉大な勝者となったアデリーナ・ソトニコワに、私たちは心から祝福の言葉を贈りたいと思います。ボク自身のホンネを言えば、ヨナの演技が完璧だったたけに、ほんのチョッピリこの結果には失望しているけど。ソトニコワが金、キム・ヨナが2位、そしてコストナーがイタリア人としては初めて銅メダル獲得です。ドイツのナタリー・ワインツィールは18位でした。さて、カタリナ・ビットがどんなコメントを寄せるか、ボクはワクワクです!

<コーチと抱き合うソトニコワの画像から、ソチのスタジオに画面が切り替わる。ビット(下写真右)と司会のミヒャエル・アントワープス(Michael Antwerps、下写真左)がソファーに2人で座ってモニターをのぞきこんでいる>


司会のアントワープス:うん、ボクもワクワクだね。カタリナ、君はさっきから興奮しっぱなしだろう?
ビット:いや、えっと、アタシえらく気が立ってる!でもね、天地神明に誓って、私はアデリーナから何かを剥奪しようと思っているワケではないの。アデリーナは本当に素晴らしいパーフォーマンスを見せてくれた。ただ、テレビの前でフツーに座って観て、見たままに感じている(素人の)視聴者に(この順位の理由を)明瞭に説明できないと思っただけよ。
上位の3人とも、パーフォーマンスにおけるプログラム構成要素はみんな卓越していた。いまどきのフィギュアの採点って、それこそコンピューターを3台並べないと何が起きているのかわからないって世界なの。プログラムの構成要素をレベル分類して、さらに基礎点が何点の、+3点だの-3点だのと入れていく。でも、フィギュアスケートってそういうこと以外の何かもあると思うの。そして、今晩私が見て鳥肌が立ったのは、カロリーナ・コストナーの演技と、キム・ヨナの演技。私は絶対彼女がオリンピック覇者になると思ったのに…。私は本当にガッカリしたし、ちょっと怒っている(ich war wirklich enttäuscht und ein bisschen sauer)。いやいや、とんでもない、アデリーナの金メダルは彼女にふさわしいものであって、誰もそのことにケチをつけるべきでは断じてない。ただ、私には理解できない。

司会のアントワープス:シーッッ!そりゃそうだ。.まあ、落ち着いてってば!ここで私たちは引き続き、別の競技の金メダルを讃えたいと思います。
<ここでハーフパイプ・フリースタイル金メダリストのメアリー・ボーマンの話題とVTRに移る>
ビット:ハァ~っっ(←別の話題の間も一人でため息をつく。アントワープス氏が失笑)
アントワープス:さて、この後は夜のニュースに引き続き、不穏な情勢が続くウクライナについての特集があります。そして明日もオリンピックは.当スタジオからARDが放送しますのでお楽しみに。そしてカタリナ、深呼吸しよう(durchatmen)!
ビット:イヤっっ、あたし、イヤっ!
アントワープス:それではソチからさようなら!また明日!(ご立腹のビットを冷ますように息を吹きかける)フーッッ!
ビット:(しばしの沈黙の後)イヤ、やっぱり私には… (ここで音声が切れ、音楽が流れて放送終了)



どうでしょう。以上が当日の放送のほぼ全容です。本文中のビットさんの発言「私は本当にガッカリしたし、ちょっと怒っている(ich war wirklich enttäuscht und ein bisschen sauer)」という部分が切り取られ、大々的に世界に配信されたことがここからわかります。

この会話を最初から読んでいくと、「彼女がオリンピック覇者になると思っていたのに」の「彼女」が誰を指すかのも解釈が分かれるかもしれません。どうやら、実況のワイス氏は個人的にもキム・ヨナの熱烈な大ファンのようで、その個人的な評価が「キム・ヨナ>>コストナー>ソトニコワ」であるのに対し、解説のビットさんが重視するのは「一人の成熟したオンナ」ということが反映された演技のようで、その年齢順からも「コストナー(27歳)≧キム・ヨナ(23歳)>ソトニコワ(17歳)」といったあたりがホンネであるように読めます(後述)。ただし、結果としてソトニコワが金メダルを取ったという審判の判断自体に対しては、そのプログラムにおける技術点の差が反映されたものとして、ふたりとも(個人的感情としては納得がいかないと連発しているものの)客観的にみた最終結果としては問題ないし、心からソトニコワを祝福する、との立場を終始貫いています。「失望している」「納得いかない」という私見を連発する際にも、直前に予防線を張るかのように毎回「正直言うと」「ぶっちゃけ」をあらわす”ehrlich gesagt”という表現をはさんで逃げを打っていること、「神に誓って、断じて、アデリナ(の金)にケチをつけるつもりはない」と何度もフォローをかませていることなどから、「ヨナが金とビットが言った」「ビットが採点に怒っている」というヘッドラインが大きく世界を駆け巡ってしまうことは、ビットさんもワイス氏も”正直なところ”一番避けたかった事なのではないかと思うのです。

なお、ビットさんが「一人のオンナ」「セクシー」という要素を評価基準の一つとしていることを端的の表す発言が、「ビット騒動」の女子フリーから遅れること2日後のエキシビションの解説の最中に飛び出しました。またもやワイス&ビットのコンビが担当していたその解説の中で、この2日間にあらゆるメディアから問い合わせを受け、インターネットの報道や意見にも色々と目を通し、たくさん議論を重ねたと彼らは告白していました。

カロリーナ・コストナーがエキシビションに登場した時のことでした。曲目はリムスキー・コルサコフ作曲のシェヘラザードで、中東のお姫様風の青い衣装でのその演技は、黒い衣装でしっとりと演じたフリーのボレロとはかなり印象の異なったものでした。当初はこのシェヘラザードが今季のフリー演目だったそうですが、本人が違和感を感じて急遽昨季のフリーだったボレロに戻して五輪に間に合わせたのだそうです。このエキシビションのシェヘラザードを見終えたビットさんは、開口一番こう発言しました:

ビット:ダニエル、カロリーナがフリーの演目を変更したことを私は嬉しく思っている。シェヘラザードはとてもステキなプログラムだけど、ステキなプログラムというだけなら他にもいくらでもある。でも、ボレロの方がカロリーナ本人の個性を引き立てる効果が高い。彼女がボレロに戻した判断は、彼女が自分の第六感というかフィーリングを信じたということなのかな、いずれにしてもそれは良かったと思う。
そして何よりもあのボレロにより、多少のセックスアピールをもった一人のオンナがようやく氷上に登場してくれたということが、私のもっとも気に入ったところであって…。
(Und was mir gefallen hat, endlich war da auch eine Frau auf dem Eis die ein bisschen Sexappeal gezeigt hat, gerade im Bolero,)


ここにきての「オンナのセックスアピール」発言に、さすがは氷上で「カルメン対決」を演じたカタリナ・ビットとうなったのは私だけではないでしょう。1988年のカルガリーオリンピックで優勝候補とされた東ドイツのカタリナ・ビットとアメリカのデビ・トーマスは、2人とも奇しくも同じオペラの「カルメン」(ビゼー)をフリースケーティングに採用しました。ビットさん本人のインタビューによると、デビ・トーマスが演じたのは割とスポーティーなカルメンだったのに対し、自分のカルメンは男を誘って翻弄する悪女の表現に重点があり、本人の言葉を借りるなら「私はどちらかというとメロドラマの女王タイプだった」とのことでした。しかも、当時は東西冷戦が背景にあり、「資本主義のアメリカ」と「共産主義の東ドイツ」の代理戦争の側面もあったといいます。そして、ビットさんは当時、このカルメンの名演技で一世を風靡したことにより、「社会主義のもっとも美しい顔」(das schönste Gesicht der Sozialismus)という呼称が世界的に定着することになったのもまた、ご存じの通りです。



「私はカロリーナ・コストナーとキム・ヨナの演技には鳥肌が立った」とビットさんが繰り返せば繰り返すほど、「ソトニコワの演技には私は鳥肌が立たなかった」という意味に聞こえてテレビの前で何だか複雑な気持ちになってしまった私は、単なる考え過ぎでしょうか。そして、上記のビットさんの「色気ある女性としての表現」を待望する発言から、「17歳のガキに円熟した大人の女性の表現などできるものか」(リプニツカヤなら15歳のガキ?)という理屈が透けて見えた時、図らずも私は今回のアデリーナ・ソトニコワの金メダル獲得に、私たち日本人にとってはとても他人事と思えないような別の意味が浮かび上がってくることにハタと気付いたのですが、これについては来週あらためて別の角度から論じたいと思います。


<参考サイト>

ARD Sportschau - Olympische Winterspiele Sotschi 2014 (オリンピック放送ARD担当分の放映日程)
http://ard.br.de/olympia-sotschi-2014/ard-programm/olympia-im-ersten-120-stunden-olympia-an-acht-tagen-100.html

Handelsblatt (2014年2月6日) Olympia im TV “ARD und ZDF berichten so ausführlich wie nie”
http://www.handelsblatt.com/sport/olympia2014/olympia-im-tv-ard-und-zdf-berichten-so-ausfuehrlich-wie-nie-/9444288.html

Wikipediaドイツ語版- Daniel Weiss (フィギュアスケーター)
http://de.wikipedia.org/wiki/Daniel_Weiss_%28Eiskunstl%C3%A4ufer%29
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