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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/02/21

祝・羽生結弦選手金メダル!ソチ五輪(2)…パトリック・チャンの敗因は「カナダの呪い」ならぬ「ZDFの呪い」?!

日本が大雪でエラいことになっているというニュースは、ドイツでも連日報じられております。本来ならばこの状況であればオリンピック報道どころではないはずですが、巨額な放映権料と放送枠の絡みもあるとかで、とても心配しています。雪による孤立や閉じ込めに合っている方々、食料や医薬品にありつけずにお困りの方々が、一刻も早く適切な救援活動により身の安全を確保されることを願ってやみません。そして、万が一の天変地異や想定外のテロなどがもしオリンピック開催期間中に起きた場合の報道機関の存在意義について、今回の一件が提起した問題の大きさをあらためて認識しています。

そんな中で恐縮ですが、今週は明るくいきたいと思います!フィギュアスケート男子シングルの羽生結弦選手(ANA)金メダルしいう朗報は感慨深いものがありました。以前当コラムにおいて、3・11の年に東北高校泉キャンパスを訪問した際の写真を掲載したことがありましたが(→3・11に寄せて(番外編)…羽ばたけ羽生結弦、「Athlete Field 21」から世界へ!)、あの時に記念撮影をした桜「静香」の横に、ついに桜「結弦」も植樹されることは確実でしょう。次回の訪問ではその「結弦桜」の前で記念撮影する気満々の私です。

なお、この快挙、海外ではどう報道されたのでしょうか。ニューヨークタイムズ紙のタイトルはズバリ、「ハニュウは二度コケたがそれでも金」(Hanyu Falls Twice, but Still Wins Gold)というものでした↓。

New York Times (2014年2月14日)- Olympics - “Hany Falls Twice, but Still Wins Gold”
http://www.nytimes.com/interactive/2014/02/14/sports/olympics/mens-figure-skating.html?_r=0
(金の羽生選手と銀のパトリック・チャン選手の飛んだ全てのジャンプについて、一部は連続写真を呈示しつつ、専門家の詳細な解説が添えられている。それぞれのジャンプの成功要因や失敗要因にまで言及しており、生で見てよくわからなかった羽生選手の3連続ジャンプの三つ目が認定されなかった理由など、これを読んでようやく納得。両者の差は結局はこの技術点の差がもたらした…という着眼点から書かれている記事)

次に、ドイツのFrankfurter Rundschau紙を見てみましょう。2月15日付のスポーツ面において、羽生選手の日本フィギュア界男子史上初の金字塔をかなりの紙面を割いて紹介しています↓。


(タイトル”Gold trotz Sturz”は「転んでも金」の意味。サブタイトルは「日本人のハニュウ・ユズル、その芸術的表現力のおかげで氷上の戦いを制す/エフゲニー・プルシェンコの回りは風が吹き荒れている」)

この記事の中では、プルシェンコの棄権に対する他国選手からの辛辣なコメントが紹介されているほか、ドイツフィギュア男子シングル選手としては26年振りのトップテン入りとなる8位入賞を果たしたペーター・リーバースについて、羽生選手と対比しつつ説明がなされています。先程のニューヨークタイムズ紙と異なり、このドイツの記事は金銀の差を分けたのは羽生選手の芸術的表現力の高さであるという見解に立っています。「世界ランク1位の羽生選手が幾多のミスにもかかわらずそのタイトルを辛うじて守りきった」という書き方からは、パトリックにも勝機があったということは全く感じられず、まして「パトリックがもっとコケたから勝てた」とも断じて言っておりません(笑)。つまり、羽生選手の優勝はドイツメディアの間では確実視されていたかのように読める内容なのです。

そして、この新聞記事が出る2日前、私も同じような印象を抱いていました。というのも、ドイツにおける男子シングルショートプログラムの地上波中継が、日本ではとても考えられない衝撃的な内容であったからです。どういうことか、時系列で説明したいと思います。

五輪会場のあるロシアのソチとドイツとの間には、3時間の時差があります。2月13日(木)の現地時間19時開始の男子シングルショートプログラムは、ドイツ時間では16時キッカリに開始予定というわけです。しかし、16時以降にドイツの地上波や衛星放送のチャンネルを合わせても一向にフィギュア中継はありませんでした。この時間帯は各種競技の金メダル授与式がまとめて行われるらしく、ドイツが銅メダルを獲得したフィギュアスケート・ペアや、ドイツの金メダルラッシュの立役者となったリュージュ団体のメダル授与セレモニー(必然的にドイツ国歌演奏も)が優先され、それに引き続いてのインタビューに時間をさくあまり、フィギュア男子シングルは中継すらしてもらえないのでした(涙)。これでは埒が明かないと判断した私は、遅ればせながらパソコンでロシアの放送局のストリーム配信によるフィギュアスケート中継を探し出し、地上波のオリンピック放送と見比べることにしました↓。


(左は羽生選手が6分間練習に登場した瞬間。右はリュージュ団体金メダルのドイツの4人のインタビュー光景)

このグループの6分間練習になった瞬間、右の地上波放送がいきなりソチのスタジオに切り替わりました。それまでのリュージュの話は唐突に終了し、ここからようやくフィギュアスケートの話題に切り替わりました。


といっても、ドイツのテレビ(右)が映し始めたのは現在進行形のソチのスケート会場ではなく、プルシェンコの棄権に至る経緯をまとめた短いドキュメンタリービデオでした↓。


(寝ているだけでも激痛というリハビリ時代の話や、金属のボルトや金具が写った生々しいレントゲン写真が登場)


(左は6分間練習中のブライアン・ジュベール選手の様子。右はプルシェンコの過去のインタビューが続く。この期に及んでもまだドイツのテレビはソチに切り替えず)


(左がプルシェンコと妻のツーショット。プルシェンコ自身はとっくの昔にフィギュァを辞めようと思っていたが、妻の助言で思いとどまり五輪出場にまで漕ぎつけた…しかし右の写真のシーンの如く棄権となった…という話でようやくVTR終了)

それがドイツの地上波、次の瞬間いきなりこちらの画面に切り替わったのです。さすがの私も心の準備ができておらず、ビックリ仰天しました↓。


これまでの画面と異なり、右上に「live」の文字が見えます。その下のKurzprogrammはショートプログラムの意味です。ここからいきなり生放送、羽生選手のショートの演技がドイツのお茶の間ジャックです(笑)。初めて見る人たちに「羽生選手とはどういう選手か」といった説明を本来はする必要があると思うのですが、その時間もないままいきなり画面が切り替わったため、アナウンサーも妙に早口です。


写真はトリプルアクセル成功の瞬間ですが、その前から(スピンが)6回転したかどうかだの、バックエントランスがどうの、アクセルに入る前の複雑な動きが点数をアップさせるだのと、息継ぐヒマもないほどにその説明は詰め込み気味で、聞いている人の消化不良が懸念されるところです(笑)。


最後のキメのポーズが決まった直後のZDFのアナウンサーの第一声は、

”Einfach irre, was der junge Bursche da aus Eis zaubert !”
(このボーズの氷上のマジックはとにかくブッ飛んでる!)

という、なかなか威勢の良いものでした。さらに、「仙台出身の19歳」「これまでの世界選手権での最高成績は3位だが、この出来なら表彰台まっしぐら」「ブライアン・オーサーに師事、トロントで練習している」といった説明から、「オーサーはサラエボ五輪銀メダリストで、この時の金はスコット・ハミルトン」という豆知識の披露も忘れず、さらには「彼の4回転ジャンプは空中でロウソクのように真っ直ぐで、それも2回転のように軽々と飛ぶ」「トリプルルッツ・トリプルトーループなんてこの男には全くの茶飯事で、まるで体にアフターバーナーでも埋め込まれているようだ」といった楽しい表現が盛りだくさんの賛辞が続きます。


そして、日本の皆さまもきっとご覧になったであろう、世界最高となった得点の出た瞬間。「ヨッシャー」という雄叫びを上げる羽生選手に、ZDFのアナウンサーも感心しきり。しかし次の瞬間、コチラにパッと切り替わりました↓。


アレレ、スタジオに戻ってる…?!そうです。この日のショートプログラム、これで終わりです!パトリックもハビエルも、ブライアンもダイスケも、な~んもありません。このあと映像はスキーのスロープスタイルに切り替わり、2度とフィギュアスケートに戻ってくることはありませんでした。つまり、ドイツの地上波は羽生選手の演技以外は全く放送しなかったということです。(ペーター・リーバースのショートの演技のみ、翌日のフリーの冒頭に放送)

そして翌日のフリーも終えてからは、パトリック・チャンの敗因としての「カナダの呪い」(英語ではCanadian curseという)なる単語が世界各国のメディアを席巻することになるのでありました↓。

AFP通信2014年2月18日:銀メダルのパトリック・チャン、「カナダの呪い」を否定(以下、引用部分は青字)
http://www.afpbb.com/articles/-/3008709?ctm_campaign=photo_topics
【2月18日 AFP】世界フィギュアスケート選手権で3度の優勝経験を持つカナダのパトリック・チャン(Patrick Chan)選手(23)は、ソチ冬季五輪で惜しくも金メダルを逃したものの、その理由を「カナダの呪い」のせいにすることはなかった。
 14日に行われた男子シングル・フリースケーティング(FS)では、チャンの直前に演技した羽生結弦(Yuzuru Hanyu)がミスを連発したため、表彰台のトップに立つ絶好のチャンスが訪れた。
 しかし、自国で開催された2010年バンクーバー冬季五輪で5位に終わったチャンは、自身もミスを連発。目の前のチャンスをつかむことができず、金メダルに4.47点及ばない合計275.62点で銀メダルという結果になった。チャンは、今大会から採用された団体戦でも銀メダルを獲得している。


なお、「カナダの呪い」については、上記AFPの記事内に簡潔な説明があるので、こちらも併せて引用します:

■「カナダの呪い」とは?
 カナダの男子フィギュアスケート選手が僅差で金メダルを逃したのは、過去30年間で5度目だ。
 1984年と1988年には現在羽生のコーチを務めるブライアン・オーサー(Brian Orser)が、1994年と1998年にはエルビス・ストイコ(Elvis Stojko)がそれぞれ銀メダルを獲得。「カナダの呪い」は、ここからささやかれるようになった。(中略)カナダの男子フィギュアスケート選手はこれまで、五輪で銀5つ、銅4つの計9個のメダルを獲得している。


この記事で挙げられたブライアン・オーサーとエルビス・ストイコには、「オリンピック2大会連続の銀メダル」という共通点があります(オーサーは1984年サラエボと1988年カルガリー、ストイコは1994年リレハンメルと1998年長野)。さらに、「前年の世界選手権覇者として迎えた五輪で2位に終わった」という共通項も見られます(オーサーは1987年の世界王者、ストイコは1994年・1995年・1997年の世界王者)。しかし、ここまで聞けば、コアなフィギュアスケートファンなら真っ先に思い浮かぶ人物がもう一人いるはずです。それが、あのカート・ブラウニング氏です。その個性的かつ独特のパーフォーマンスで世界中にその名が轟くプロスケーター兼振付師で、合計3度の五輪出場経験がありますが、何といっても世界選手権3連覇(1989~1991)という押しも押されもせぬ「現・世界王者」として臨んだ1992年のアルベールビル五輪でまさかの6位、さらには一度手放した世界王者の座を1993年に奪還して再度「現・世界王者」の肩書で臨んだ1994年のリレハンメル五輪でも5位に沈んだことは、上記のAFP記事の「カナダの呪い」にはどうやら含まれていないようです。しかし、「世界選手権3連覇中の現世界王者」といえば、まさにソチ五輪に臨む直前までのパトリック・チャンそのものです。優勝候補最右翼だったはずのパトリック・チャンの「まさかの銀」は、ブライアン・オーサー、カート・ブラウニング、エルビス・ストイコという偉大なカナダの先達のいずれのケースとも類似点が多く、「カナダの呪い」とまではいかなくても「ちょっと出来すぎた偶然」のような気がしてしまうのは、無理からぬことと思います。

今回のパトリック・チャンの敗因となった「ミスの多さ」は、必ずしも先達がもたらしたジンクスではないと本人も弁明しているようです。私もそれには賛成ですが、もっと別の要因が大きく作用しているのではないかと考えています。というのも、先ほどの「ドイツの放送局による露骨な羽生選手優遇」が何かのサインではないかと思うからです。

そもそも、どうしてドイツのZDFは並み居るトップ選手や自国のリーバース選手までも差し置いて、地上波で羽生選手ただ一人しか中継しなかったのでしょうか。何か判断の根拠があったはずです。おそらく、ソチ入りしてからの公式練習や団体戦、オンアイスにオフアイスの取材を重ねる過程で、例え誰もハッキリとは口にしなかったとしても、現場のメディア陣の間で「今回はハニュウだろう」という暗黙の空気が出来上がっていたのではないか…そして、パトリックはそれを薄々感づいていたのではないか…。これはあくまでも私の推測にすぎませんが、今大会でパトリックにかかった重圧とは、「カナダの呪い」よりはむしろ、「ZDFの呪い」とも呼んだ方がよいのかもしれない、そんな「現場の空気」だったのではないかと疑っています。周囲はみなハニュウが優勝すると思っている…となれば、いくら前年までに世界選手権3連覇の絶対王者といえども、心穏やかにはいかないでしょう。そして、その思い切った決断を一番わかりやすい露骨さで実践したドイツのZDFに、果たして何らかの思惑やウラがあったのか否か、いずれ解き明かされる日が来ることを期待しています。


(羽生選手、荒川先輩はオリンピックの2か月後位に植樹してたみたいですよ~!オラ君も楽しみにしています)
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