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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/01/17

忘れ去られた無形文化遺産「クロアチアのジンジャーブレッド」よりも深い「ドイツのレープクーヘン」の悲哀

ズバリ白状しますと、先週のコラムは、昨年12月4日の昼間(日本時間では同日夜)に飛び込んできた「和食」のユネスコ(UNESCO)無形文化遺産登録を伝える第一報を見て興味を持ち即座にリサーチを開始して作成した、正月用ストック原稿の中の一つでした。

朝日新聞デジタル(2013年12月5日00時15分)”ユネスコ無形文化遺産に「和食」登録決定 国内22件目”
http://www.asahi.com/articles/TKY201312040527.html
・アゼルバイジャンで4日に開催されたユネスコ無形文化遺産の政府間委員会で「和食 日本人の伝統的な食文化」の登録が正式決定
・国内からの登録は22件目
・「和食」のアピールポイントは「新鮮で多様な食材と持ち味の尊重」「栄養バランスに優れた健康的な食生活」「自然の美しさや季節の移ろいの表現」「正月行事などの年中行事との密接な関わり」
・これまでに登録されている「食」の無形文化遺産は以下の4つ:
  「メキシコの伝統料理」「トルコのケシケキの伝統」「フランスの美食術」「地中海料理」


しかし、日本のメディアがテレビも新聞も「和食」フィーバーに湧いている間、人知れずさらに11件の無形文化遺産がユネスコの同委員会で追加登録されていたこと(12月4日先行登録の3件と合わせ計14件)は、当時ほとんど報道を見かけませんでした。それも、その追加登録の11件の中に(てっきり和食と競合するのかと思っていた)「韓国キムチ文化」もまた入ったというのだから、全くノーマークだった私は隙を突かれて大変驚いたのでした。

朝日新聞デジタル(2013年12月5日23時43分)”キムチがユネスコ文化遺産入り 風習・文化も評価”
http://www.asahi.com/articles/TKY201312050416.html
・ユネスコ無形文化遺産の政府間委員会で5日、「和食」に続き、韓国の「キムチ作りの文化」も登録
・料理としてのキムチだけでなく、キムチを漬ける風習が分かち合いや自然との共生の大切さを示すとして評価
・食関連の無形文化遺産は昨年まで「フランスの美食術」など4件が登録されていた
・今回、「和食」「キムチ」の他に「グルジアワイン」「トルココーヒー」の計4件が加わった


上記2件の報道のタイムラグはほぼ丸1日あります。それにしても、私が油断してユネスコのホームページのチェックをサボっていた昨年12月5日のほんの23時間28分そこらの間に、飲食関連の無形文化遺産が倍増していたのには、あらためてギャフンと言わされました(笑)。そして、上記の記事内容が正しいとすると、これで飲食関連の無形文化遺産は合計8件になったはずです。

しかし、ここには見落とされている可哀そうなヤツがいます。ヤツは、日本の大手マスメディアのみならず、内閣府の文書においても無視されているという気の毒なことになっています。それがコチラです↓:



この写真に見覚えがあると思われた方、鋭いです!これは私が昨年1月のフィギュアスケート欧州選手権の観戦の際に見つけたクロアチア名産のハート型ジンジャーフレッドです(→クロアチア土産の中に見出す日本(2)…MIKADOにSAPOROって?!キティちゃんボトルの水も登場!)。ハート型で色とりどりの凝ったデコレーションが施されていることで有名なクロアチアのジンジャーフレッドは、現地ではLicitarと呼ばれており、基本的には本体部分も装飾部分も全て食材で作られている、お菓子の一種です。「北クロアチアのジンジャーフレッド工芸」として、2010年の12月にユネスコの無形文化遺産に登録されました。

2010年:「クロアチアのジンジャーブレッド」”Gingerbread craft from Northern Croatia”(クロアチア)
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011&RL=00356
The tradition of gingerbread making appeared in certain European monasteries during the Middle Ages and came to Croatia where it became a craft. Gingerbread craftspeople, who also made honey and candles, worked in the area of Northern Croatia. The process of making gingerbread requires skill and speed. The recipe is the same for all makers, utilizing flour, sugar, water and baking soda – plus the obligatory spices. The gingerbread is shaped into moulds, baked, dried and painted with edible colours. Each craftsperson decorates gingerbread in a specific way, often with pictures, small mirrors and verses or messages. The gingerbread heart is the most common motif, and is frequently prepared for marriages, decorated with the newlyweds’ names and wedding date. Each gingerbread maker operates within a certain area without interfering with that of another craftsperson. The craft has been passed on from one generation to another for centuries, initially to men, but now to both men and women. Gingerbread has become one of the most recognizable symbols of Croatian identity. Today, gingerbread makers are essential participants in local festivities, events and gatherings, providing the local people with a sense of identity and continuity.

「ジンジャーフレッド」ではなく「ジンジャーフレッド工芸」が登録対象となると、これは食関連ではないというツッコミも聞こえてきそうですが、それを言いだしたらキリがありません。例えば、2013年登録のケースでみると、「キムチ文化」は「キムチ」そのものを含むのか否か、「古式ゆかりのグルジアワインの伝統的製法」は良くても「グルジアワイン」そのものは無形文化遺産に値しないのか、「トルコのコーヒー文化」は良くても「トルココーヒー」そのものはダメなのか…といった話になってきます。となると、今も食すことができる形で製造されているものであれば、基本的にその食べ物自体も登録対象に含まれていると見なすべきではないかと個人的には思います。

それにしても、このクロアチアのジンジャーフレッドを巡る現状を見るにつけ、子供時代をドイツで過ごした私としては色々と思うところがあります。そもそも、クロアチアのLicitarに相当する有名なジンジャーフレッドはドイツではレープクーヘン(Lebkuchen)と呼ばれていますが、このドイツのジンジャーフレッド文化は、クロアチアよりも長い歴史と伝統を誇っているのです(ドイツのレープクーヘンは13世紀発祥、クロアチアのLicitarは16世紀に発祥)。クリスマスの時期になれば、ドイツのどこのクリスマスマーケットでも下の写真のような売店を見ない日はありません。レープクーヘンといえば、グリム童話「ヘンゼルとグレーテル」に登場する「お菓子でできている魔女の家」の建築材料ズバリそのものでもあり、まさに「子供の夢」の具現化としても世界的に知られています。今の時代だと圧倒的に人気が高いのは何といってもハート型レープクーヘンですが、たまに動物の形のものや長靴型のもの、時にはグリム童話から抜け出してきたかのような家型のものも見かけたりします。私も子供の頃、よく親にせがんで買ってもらってパクついた記憶があります。手の込んだデコレーションとそのデザインの洗練度ではクロアチアに負けるかもしれませんが、ドイツのレープクーヘン文化もまた国民生活に深く根差したものであるだけに、2010年の無形文化遺産登録の際にドイツも「クロアチアとダブル受賞!」となる喜びにあずかれなかったことを、多少不思議に、そして非常に残念に思いました。そして、一応はスイーツのジャンルに入るはずのジンジャーフレッドが、日本では「食関連の無形文化遺産」の中に全くカウントされず、内閣府にまで無視されてしまうという厳しい現実に、ドイツのレープクーヘンともども、その悲哀に満ちたつぶやきが聞こえてくるかのようです。

 
(いろいろな文章が書かれているドイツのハート型レープクーヘン。店によっては、恋人の名前やメッセージなどを注文に応じて入れてくれるオーダーメードサービスもある)

さて、「クロアチアのジンジャーフレッド」の影に隠れたドイツの悲哀は、これ以外にもあるということが、今回のユネスコ無形文化遺産に関するリサーチの中で新たに浮上してきました。これについては次回に稿を改めたいと思います。最後に、飲食物に関連するユネスコ無形文化遺産全9件の解説リンクを以下に列記しておきます。興味を持たれた方はぜひご参照いただき、もし機会があるようなら是非ともその味を体験していただければと思います。


<飲食関連のユネスコ無形文化遺産(登録順)>

2010年:「メキシコ料理」”Traditional Mexican cuisine - ancestral, ongoing community culture, the Michoacán paradigm”(メキシコ)
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011&RL=00400

2010年:「フランス料理」”Gastronomic meal of the French”(フランス)
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011&RL=00437

2010年:「クロアチアのジンジャーブレッド工芸」”Gingerbread craft from Northern Croatia”(クロアチア)
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011&RL=00356

2011年:「トルコのケシュケキ」”Ceremonial Keşkek tradition”(トルコ)
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011&RL=00388

2013年:「古式グルジアワイン製法」”Ancient Georgian traditional Qvevri wine-making method”(グルジア)
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011&RL=00870

2013年:「地中海料理」”Mediterranean diet”(キプロス・クロアチア・スペイン・ギリシャ・イタリア・モロッコ・ポルトガルの7か国)
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011&RL=00884
(2010年にイタリア・スペイン・ギリシャ・モロッコの4か国で登録されたていたが、2013年にさらにキプロス・クロアチア・ポルトガルの3ヶ国を加えて再登録された)

2013年:「伝統的文化としての和食、特におせち料理」”Washoku, traditional dietary cultures of the Japanese, notably for the celebration of New Year”(日本)
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011&RL=00869

2013年:「トルコのコーヒー文化」”Turkish coffee culture and tradition”
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011&RL=00645

2013年:「韓国のキムチ文化」”Kimjang, making and sharing kimchi in the Republic of Korea”
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011&RL=00881


<参考サイト>

無形文化遺産・全リスト(2008年~2013年、全327件)
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011

内閣府配布資料(2012年4月24日):既に代表一覧表に記載されている食の分野の無形文化遺産
http://www8.cao.go.jp/syokuiku/more/conference/evaluation3/2nd/pdf/s4-7.pdf#search=%27%E3%82%B1%E3%82%B7%E3%82%B1%E3%82%AD%27
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