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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2014/01/10

WASHOKU(和食)を無形文化遺産に登録したUNESCO(ユネスコ)の真意とは?

明けましておめでとうございます。今年のお正月を、皆様はどのように過ごされましたでしょうか?年末の記事で取り上げた『あまちゃん』のテーマソングを大晦日の紅白歌合戦で堪能された方もいらっしゃることと思います。私はというと、今年のお正月は国外で迎えたのですが、宿泊先が日系ホテルであったために三が日の朝食会場に「おせち」と「おとそ」が登場し、日本的なお正月を満喫することができました。


正面玄関の正月飾りに「おせち」と「おとそ」が揃い踏みすると、それだけでどんな外国も一気に日本の雰囲気を帯びてくるところに、伝統文化の威力を感じます。

ここでハタと思い起こすのが、昨年12月に舞い込んできたこちらのニュースです。

日経新聞(2013年12月5日):「和食」を無形文化遺産に登録決定 ユネスコ(青字は下記リンクからの引用)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0304Y_U3A201C1000000/
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は4日、アゼルバイジャンのバクーで開いた政府間委員会で、日本政府が推薦した「和食 日本人の伝統的な食文化」を無形文化遺産に登録することを決定した。日本からの登録は歌舞伎や能楽などに続き22件目。
 食関連の無形文化遺産では「フランスの美食術」「地中海料理」「メキシコの伝統料理」などがすでに登録されており、和食は5件目となる。
 日本政府は昨年3月、東京電力福島第1原子力発電所の事故で風評被害を受けた日本食の信頼回復を図り、震災復興の象徴にしようと「和食」の登録を提案。事前審査をするユネスコの補助機関が10月、和食の新規登録を求める「記載」勧告をしていた。


この日経新聞に限らず、他の日本の大手メディアのどのニュースを見ても、今回の登録内容は「和食」「日本の伝統的な食文化」としか記載されていません。この記載では、「フランス料理」「地中海料理」「メキシコ料理」と並んでの「日本料理」といった、漠然としたジャンルを想定しているような印象を受けます。この場合、世界中のどの大都市の街角にも濫立している感すらある日本料理店の、(その真贋を問わないナンチャッテ系も含む)「日本(風?)料理」も含まれるのでしょうか。そして、今回の登録におけるUNESCO(ユネスコ)の真意はどこにあるのでしょうか?

これらを知るには、肝心のUNESCOのホームページを見るのが一番手っ取り早いはずです。ということで、今回登録された「和食」の記述を探してみたら、こちらにありました↓:

”Washoku, traditional dietary cultures of the Japanese, notably for the celebration of New Year
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011&RL=00869

まず、タイトルからして驚きました。直訳するなら、「和食、伝統的な日本の食文化、その中でも特に正月料理」となっています。まさに、冒頭の写真にでてきた「おせち料理」や「おとそ」といった、日本独特の正月料理の慣習が評価対象として特筆されているのですが、このことをどのメディアも全く報じていません。ついでに本文も引用します。

Washoku is a social practice based on a set of skills, knowledge, practice and traditions related to the production, processing, preparation and consumption of food. It is associated with an essential spirit of respect for nature that is closely related to the sustainable use of natural resources. The basic knowledge and the social and cultural characteristics associated with Washoku are typically seen during New Year celebrations. The Japanese make various preparations to welcome the deities of the incoming year, pounding rice cakes and preparing special meals and beautifully decorated dishes using fresh ingredients, each of which has a symbolic meaning. These dishes are served on special tableware and shared by family members or collectively among communities. The practice favours the consumption of various natural, locally sourced ingredients such as rice, fish, vegetables and edible wild plants. The basic knowledge and skills related to Washoku, such as the proper seasoning of home cooking, are passed down in the home at shared mealtimes. Grassroots groups, schoolteachers and cooking instructors also play a role in transmitting the knowledge and skills by means of formal and non-formal education or through practice.
(和訳)和食とは、その技能・知識・実践・伝統を以て食材の生産・加工・調理・消費を進めていく社会的慣行である。その根本的な精神は自然への畏敬であり、持続可能な自然界の資源活用に関連している。和食といえば、基礎知識としても日本社会や日本文化の特徴としても知られているのは、新年を祝う際に登場する典型的な正月料理である。新しい年の神々を迎え入れるために、日本人は多種多様の準備をする。例えば、餅つきや、新鮮な食材を美しく盛り付けた料理の準備などであるが、これらには全てシンボリックな意味がある。これらの料理は特別な器に用意され、家族のメンバーあるいは地域の人々にふるまわれる。実際によく使用されるのは、米や魚に野菜に野生植物といった、その地元ならではの自然食材である。家庭料理の基本的味付けといった、和食に欠かせない知識や技能もまた、一般家庭の食卓に代々受け継がれている。一般市民の同好会、学校の家庭科教師、料理学校の指導者などもまた、それが公的であるか私的であるかを問わず、この和食の知識や技能を広く伝えていくことに貢献している。


ここでも、日本における料理そのものが評価されているというよりは、「持続可能な(=環境に配慮)、自然を大切にする日本古来の食慣習」が評価されているのであり、その代表例として挙げられているのが「おせち料理」であるという内容に解釈できます。しかし、どこをどう読んでも、今の日本を席巻している食材の大量廃棄であったり、「大食いブーム」「グルメブーム」といった自然への畏敬と相容れない先進国型飽食文化を評価しているようにはとても解釈できません。そして、このUNESCOのメッセージを全く無視した形で「日本の和食が世界に認められた!」と喧伝するメディアの背後に、その意図が透けて見えてしまうのです。

なお、日本の全てのメディアが「食関連の無形文化遺産登録は今回の和食が5件目」と報じていますが、これ以外に、日本のメディアが報じない「食関連の無形文化遺産」が実はもう一つ存在します。しかし、これまたどこのメディアも取り上げてくれてはいません。これについては、UNESCOに関する別の疑問点と絡めて次回に稿を改めたいと思います。

話は変わりますが、今の私は「お餅」と聞いただけで、いつぞやの中森明菜さんのベストテンDVDに登場して鏡割りで活躍した故・宮史郎さんの勇姿が条件反射的に浮かんでくるようになってしまいました(笑)(→「ザ・ベストテン中森明菜DVD」で気づいたこと(2)…「カビだらけの餅」が象徴する時代の加速度的変遷)。それはともかく、上記のUNESCOの説明に出てくる日本のおせち料理の「シンボリックな意味」といえば、実に豊富で驚かされます。その昔、「レンコンは穴があるので見通しがよくなる」「数の子は卵が多いので子宝に恵まれる」「黒豆を食べてまめに(勤勉に、あるいは健康に)なる」「昆布巻やから、よろコブ」など、母親が重箱の横でウンチクを延々と垂れるためになかなか箸をつけさせてもらえなかった子供時代のお正月をついつい思い浮かべてしまいます。なお、おせち料理の食材の意味については、こちらのサイトがよくまとまっているのでご参考にどうぞ↓。

RICOH Communication Club おじさんのうんちく 『おせち料理のウンチク、めでたい食材の採用理由など』
http://www.rcc.ricoh-japan.co.jp/rcc/breaktime/untiku/081222.html

私たちが世界に誇りつつ発信すべきものは何かというと、関連産業の金儲けの道具としてのWASHOKUという名のブランドではなく、はるかに遠き時代から民間伝承でこの現代にまで伝わってきた慣行や伝統を大切にするWASHOKUという名の心ではないかと、何の因果か知らんがUNESCOに教えられたこのお正月だったのでありました。



<参考サイト>

無形文化遺産・全リスト(2008年~2013年、全317件)
http://www.unesco.org/culture/ich/index.php?lg=en&pg=00011
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