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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/12/20

「風邪をひいたら風呂に入れ!」…風邪対策と入浴法の日独差を検証する

読書の秋を通り越し、世の中はすっかり冷え込んで真冬に突入しております。「もういくつ寝るとクリスマス」というカウントダウンモードの雰囲気ですが、人々の一番の関心はやはり健康面です。私の場合、この季節になるたびに、「いかにして風邪を引かないようにするか」「風をひいたらどうするか」という話題における日独のお国柄の違いを目の当りにすることになるのです。

今私が読んでいる”Lesen Sie Mich Durch, Ich Bin Arzt”(「通読してみて下さい、私は医者です」の意味)という本はドイツの若いお医者さん(マルコ・モールという著者名は偽名とのこと)が書いたもので、なかなか面白い内容なのですが、その本の68ページに、日本人なら誰でも「エ~ッ?!」と叫んでしまいそうな驚きの一節が出てきます(引用部および和訳は緑字)。



“Als mein Wecker heute Morgen gegen 6.30 Uhr klingelte, lag ich jedenfalls schon lange wach, schweißnass, fiebrig und großzügig selbstmedikamentiert in der heißen Badewanne.
(朝の6時半に目覚まし時計が鳴ったとき、私はとっくに目が覚めており、発熱して汗ビッチョリ、しかも、しこたま薬を飲んだ状態で、熱~い風呂に浸かっておりました)

皆さまから「ちょっと待ったーっ!」の声が聞こえてきそうです。このお医者さんはこの時どうやらインフルエンザにかかったらしいのですが、発熱している人が熱い風呂だなんて、この著者、本当にお医者さん?日本人であれば誰もがそう考えることでしょう。

しかし、今も昔も、少なくともドイツにおいては、「風邪でも引かない限り風呂に入ることはない」という人が圧倒的に主流派です。基本的に彼らは朝シャン派(それも、毎日と限らない!従って職場には、何処からともなく流れる微妙なワッキーの香りが決して珍しくなく、世界でも最も臭わない民族とされる東洋人種たる日本人にとってはキツい局面多々あり…笑)。風呂場がそもそも日本のような「浴槽と洗い場」という構造ではなく、浴槽の外側では水を使う場所がないため、一度貯めたお湯に誰かが入ったら、そのお湯はその人が出る時には全部捨てないと次の人が入れません。そもそも、「家族全員が同じ日に入浴する」などということ自体、それ以前に「風呂で毎日体を洗う」などということ自体、この国では全くの想定外であるようです。そこにはエコの観点もあり、万一にもドイツ全土の全世帯が毎日風呂に入るなどということが起きようものならば、それこそ膨大な水の無駄遣いという、以前のコラムにも書いたドイツの国是(?)とも言うべき「エコとはすなわち節水のことなり!」という理念に反する、それはもう一大事となることは間違いありません。(→ドイツ流「GO!GO!省エネ」はひたすら節水(1)…「すすぎ水」の衝撃体験、→ドイツ流「GO!GO!省エネ」(2)…「プラスチック容器のゴミは洗う?洗わない?」、→ドイツ流「GO!GO!省エネ」(5)…欧州版リンス・イン・シャンプー「2in1」の威力と効能

しかし、滅多に風呂に入らないドイツ国民にも、唯一の例外があります。それは、風邪をひいた場合です。風邪を引いたり気管支炎や慢性副鼻腔炎(=いわゆる蓄膿。ドイツの国民病ともいうべき頻度の高さを誇る)になった時のための入浴剤はErkältungsbad(風邪用入浴剤)と呼ばれ、ドイツのドラッグストアやスーパーなどではどこでも競うように売られています。私もドイツで子供時代を過ごした頃は、風邪を引いた際、妙に毒々しい緑色の薬液を入れた熱~い風呂に放り込まれたものでした↓。


さて、ここで風邪の時の入浴について、まずは日本側の見解から見ていきましょう。こちらのホームページ↓がよくまとまっていますので、引用します(引用部分は青字)。

iGotit 「なるほど」をあなたに-”風邪のときはお風呂に入れない?その真偽と理由、入浴の注意点”
http://igot-it.com/ohuro-kaze-2530.html
風邪のときにはお風呂に入ってはいけない、と小さい頃に言われた記憶はありませんか?体が少し汚れても、風邪を引いてしまった固めに、お風呂に入ることを家族に許してもらえなかった、という経験がある方も多いかと思います。
風邪を引いている時にお風呂に入ると、さらに悪化するからということでそう言われてきました。なぜ悪化するかというと、入浴で体が温まると血管が拡がり、お風呂上がりに熱が反動で放たれて、湯冷めを起こすからというのが理由です。
しかし、お風呂の入り方によっては、逆に風邪を早く治すことも可能だと言われています。そこで、どのようにしたら風邪の時に入るお風呂が悪化を引き起こさないか、その入り方と注意点を紹介します。


詳しい内容は同サイトを見ていただくとして、その要点を箇条書きにして書き出します(青字。一部赤字は筆者強調):

・昔の日本の家はすきま風が多く、湯冷めしやすかった。今の家は緻密になってきたのでその限りではない。
・従って、お風呂で体を温めて代謝をよくすることは、風邪にも効果的。ただし、湯冷めさないことが大事。
・湯冷めさせないための三つのポイント:「40度以下の湯で20分以内」「部屋をあたためる」「風呂上りにすぐに体や髪を乾かし、すぐに布団に入る
・軽い風邪の場合は入浴による血行促進などによる改善が見込めるが、症状が重い場合や発熱を伴う場合は入浴は避けるべき。


ここで、唐突に思い出しました。大学時代に外部病院における某科の病院実習の際、学生指導を担当したS医師が雑談ついでに上の赤字の内容とは真逆のことを私たちに語りはじめたのです。

S医師 「キミたちに、絶対に風邪を引かない方法を教えてあげよう!ポイントは以下の通り。まず一つ目は、部屋を加湿すること。加湿器のないホテルの部屋とかの場合は、バスタブにお湯を張るだけでも効果的。二つ目は、風呂上りに必ず湯冷めさせてから布団に入ること!…(以下続く)」
一斉に反応する医学生一同 「先生!湯冷めさせたら風邪をひくのではありませんか?普通は湯冷めしないうちに布団に入りなさいと言いますよね?」
S医師 「そこがズバリ盲点なんだ!これはみんなが誤解している。湯冷めしないうちに布団に入って寝たら、どういうことになると思う?必ずと言ってもいいほど、睡眠中に布団を蹴っ飛ばしてしまい、かえって体が冷えることになるんだよ。きちんと湯冷めさせてからすぐに布団に入れば、そういうことは絶対に起きない。もっとも、冷め過ぎはダメだけどね」

大学時代の病院実習の記憶の中でも、この「絶対に風邪を引かない方法」は強い印象として残っています。特に、世間の常識の真逆をいく「湯冷めさせてから布団に入れ」は衝撃的でした。余談ですが、この話をしてくれたS医師は私たちが実習で訪れた当時、売れっ子トレンディ女優さんとの交際報道が出たばかりという、まさに渦中の有名人物だったということも、その印象を強めた一因かもしれません。

話は戻りますが、ドイツのシュテルンという雑誌に、風邪を引いた時の風呂(Erkältungsbad)についてのドイツ人医師の見解をまとめた記事があります。ドイツにおける風邪と風呂との相関についての考え方を知るには大変わかりやすくまとまっているので、要点を和訳してご紹介します(以下、緑字)。
Stern.de (2006年10月24日)- “Erkältungsbäder - Einfach abtauchen”
http://www.stern.de/gesundheit/gesundheitsnews/erkaeltungsbaeder-einfach-abtauchen-574441.html
・風邪の初期症状(足の冷え、鼻のムズムズ、のどのイガイガ)が出たら、速攻でお風呂に入ることをオススメする。
・教科書的にはお風呂の温度については「36~38度がよい」と書かれているが、それはハッキリ言って古臭い話で、根拠もない。パッケージに書いている温度よりも高くて全然オッケー。なぜなら、家の湯船は(温泉施設などの浴槽よりも)はるかに容積が小さく、全身を覆えないから、ぬるいお湯だとかえって肩や膝などがかえって冷えてしまう。むしろ、お湯がぬるすぎないことの方が重要。家庭での風呂はせいぜい3/4身浴であり、これなら湯温が少々高くても温まり過ぎることはまずない。
・ただし、高齢者や心血管系の病気のある者は、40度を超える湯温は避けた方がよいだろう。
・熱いのが苦手な人は、まずは少量のぬるま湯につかりつつ、そこに熱いお湯を足していくとうまくいく。それても(熱さが苦手で)湯温を上げられない場合は、風邪用入浴剤に入っているユーカリ油が有効であり、体をうまく温めてくれることでしょう。
・風邪用入浴剤に入っているメントールは冷感を誘う物質であるが、少量であれば鼻詰まりを解消する効果があるため、風邪には有効。
・入浴時間は20~30分、体がしっかり温まるまで。「カニのように真っ赤(krebsrot)」になってから風呂を出るべし。
・風呂を出たら、できればすぐにベッドに入ること。それも、前もって温めてあるベッドであればなお良し。とにかく、風呂を出てから動き回らないこと(開いていた毛穴が閉じて体が急に冷えるから)。
・最も重要なのは「よく体を休めること」「睡眠をタップリとること」「お茶またはハチミツ入りホットミルクを飲むこと」。風呂に入ることだけでは風邪対策には不十分である。


いかがでしょう。先ほどの日本語記事とも異なり、さらにはS医師の見解とも異なる、第3の見解とも言える内容です。「カニのように赤くなってから風呂を出るべし」は何だか体に負担がかかりそうですが、白人は皮膚が薄くて白いので、血行をほんの少し促進するだけで真っ赤なカニになるということの裏返しのような気もします(笑)。「ハチミツ入りホットミルク」というのもこれまたいかにもヨーロピアンな風邪対策ですが(日本の葛湯のような立ち位置か?)、私はまだ試したことがないので、次に風邪をひきそうになったあかつきには是非実践してみたいと思います。なお、この記事には出てきませんが、生姜湯(Ingwertee)もまたドイツでは風邪対策として大変好まれる飲料の一つです(特にノドの風邪に有効)。

ちなみに、お風呂の湯温に関して私の周囲の知人たちの話を聞く限り、確かに皆様かなり熱いお湯を好むようで、どうも発汗することを重要視している口ぶりです。どうりで彼らは北欧のサウナを好むワケです!ただし、ここで忘れてはいけないのが、ドイツと日本における住宅事情ないし気候の差です。ドイツの家は基本的にセントラルヒーティングで日本の家よりも格段に暖かく、必然的に湯冷めのリスクもまた日本に比べれば格段に低いということは間違いないでしょう。しかし、もっと重要なのは、ドイツの家の気密性の高さや暖房の利きがよすぎることによる、室内の空気の半端ない乾燥です。ただでさえ日本よりも乾燥しているヨーロッパの気候ですが、それでいて家に加湿器を置くという発想があまり見られず、そもそも加湿器の販売自体が日本ほどポピュラーではなく、家電屋さんでもほとんど扱いがありません(我が家では仕方なく、薬局で買ったぜんそく患者専用の小型の加湿器を冬場は使用しています)。家そのものは空気が乾燥している方が傷みにくくメンテナンスに有利であることもまた間違いないので、彼らは加湿器で壁がカビることなどを警戒しているのかもしれません。となると、タイル張りの浴室の中だけで思いっきり熱いお湯をバスタブに張るということには、ミストサウナともいうべき一種の閉ざされた加湿空間を創出するということに意味があり、そのまま風邪や気管支炎ないし蓄膿に罹患した患者に対して入浴が特に奨励されることの医学的根拠とも合致しているのだとみられます。

所変われば常識もかわります。日独の諸事情の相違もありますが、ここに紹介させていただいた色々な見解を是非参考にしていただいて、みなさま独自の「風邪撃退入浴法」を編み出していただければ幸いです。そして、風邪も寄せ付けぬ強く健康な体で2014年を迎えていただくことを願ってやみません。
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