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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/12/06

駐独アメリカ大使をタジタジにさせたドイツZDFのインタビューの迫力

ジョン・F・ケネディ元大統領の衝撃的な暗殺から、今年の11月22日でちょうど50年なのだそうです。どうりで11月に入ってからつい最近に至るまで、ドイツのテレビ各局が連日「ケネディ暗殺の真相」といった内容の新旧のドキュメンタリー番組を競うように放送していたワケです。今でも人気の高いJFKですが、その動画にチラホラと映っていた当時まだあどけなかった愛娘のキャロラインさんが、今や駐日アメリカ大使というのも時代の流れを感じます。今年の11月19日に着任したばかりのキャロライン・ケネディ氏は御年56歳、その抜群の知名度と父親譲りの人気で、この10日には長崎訪問を予定しているなど早速注目を集めているようで、今後の日米間の架け橋としての活躍が大いに期待されるところです。

ちなみに、日本での知名度は全く低いと思いますが、実はドイツにも今夏着任したばかりのアメリカ大使がおります。しかし、着任早々華々しく活躍する日本のキャロライン大使と比較すると、この駐独アメリカ大使のジョン・B・エマーソン氏(John B. Emerson)は少し気の毒な感があります。というのも、このエマーソン大使が着任した8月26日といえば、例のスノーデン騒動の真っ最中であり、ドイツ国民のアメリカに対する不信感を通り越した怒りがフツフツと噴出していた頃だからです。ドイツ国内の通信・情報がアメリカNSA(国家安全保障局)による監視の対象となっていたという「NSA事件(NSA-Affäre)」、その中でも特に”ケータイ魔”(笑)の呼び声高いアンゲラ・メルケル独首相のケータイが盗聴されていたというニュースは、全世界の注目を集めました。

(国会でもプライベートでもやたらとケータイをいじっているというイメージが定着しているメルケル首相)

まさに「飛んで火に入る夏の着任」としか言いようのないタイミングでベルリンにやってきた21世紀の”ジョン”エマーソン大使ですが、奇しくも50年前の6月26日(暗殺されるわずか5か月前)に西ベルリンの大観衆の前で「Ich bin ein Berliner!」とのたまい拍手喝采を受けた前世紀の”ジョン”とは、同じ”ジョン”でも何かと差を感じずにはいられません。

日本人である私にとって、本来は駐独アメリカ大使が誰だろうがお気の毒だろうが関係ないはずですが、思わぬ形で注目せざるを得なくなったのは、ある日の早朝に観た朝の情報番組のためでした。、いつものようにテレビをつけながら朝食をとっていたら、ドイツの緑の党の議員がロシアのスノーデンと面会を果たして信書を受け取ってきた…というニュースと関連し、エマーソン駐独アメリカ大使がベルリンのZDFスタジオに呼ばれて生出演していたのです。ところが、日本人たる私の度胆を抜くことになったこの生インタビュー、とにかくアナウンサーの追及が凄いの一言です。
 


ZDF Morgenmagazin(2013年11月26日):Emerson : USA wissen um deutschen Unmut(青字は筆者和訳、赤字は筆者の視聴当時のツッコミ)
http://www.zdf.de/ZDFmediathek/beitrag/video/2018626/Emerson:-USA-wissen-um-deutschen-Unmut?flash=off
Z:今日は、駐独アメリカ大使にスタジオにお越しいただきました。ジョン・B・エマーソンさんです。おはようございます。
E:おはようございます。
Z:ドイツの緑の党のシュトレーベレ(Hans-Christian Ströbele)議員が先日モスクワに行ってエドワード・スノーデンと会談し、ドイツ政府宛の手紙を持って帰ってきたのですが、どう思われましたか?
E:第一に、ドイツのどの連邦議会議員にも、当然のことながら旅行の自由もあれば、会いたい人に会って話したい話をする権利が保障されています。そして、彼がどうしてそうしたいと思ったのか、これも当然理解できます。これは彼の特権であり、そもそもドイツの議員が何をすべきで何をすべきでないかなど、私が発現すべきでないということなど、言うまでもありません。
Z:スノーデンは衆議院調査委員会(Bundestagsuntersuchungsausschuss)で証言したいと言っているようですが、これについてどのような不安をお持ちですか?
E:私が不安に思っているのは、別のことです。そのこと(スノーデンの証言)については、実際に起きていないうちは気にしていません。そのこと自体、随分先の未来の話でしょうし、あくまでも仮定の話にすぎないので、実際に起きたら起きたで、その時に対処することになるでしょう。
Z:何を不安がっているのですか?(Was beunruhigt Sie denn?)(←おっと、ジャブ開始!)
E:私が一番懸念しているのは、ドイツとアメリカがこの厳しい局面をいかに乗り越えて両国の非常に重要なパートナー関係や友好関係を守っていくかということです。両国間には目下交渉中の重要な自由貿易協定(Freihandelsabkommen:TPPのEU-米国間バージョンのようなもの、TAFTAとも)があり、これによりお互いの国に1万規模の雇用を創出できます。重要な経済上の提携事案もありますし、独米間は相互の人材交流プログラムも多いです。独米共同で取り組んでいる安全保障上のテーマも非常に多く、その中には「テロとの戦い」もあれば、「シリアやイランの化学兵器の扱い」も含まれます。そして、私が気にしているのは、いかにしてこれらの重要なテーマに取り組みながらも、他の問題を解決していくのかということです。
Z:大使、たった今あなたは「テロとの戦い」について述べられました。もちろんこれは重要なテーマです。では何故、あなた(の国)はメルケル首相を盗聴させたのですか?彼女は、本当に、テロとは何の関係もないではありませんか!(←いよいよ本丸に攻め込んだか!)
E:もちろんです(←目が泳ぎ始める)。私思うに、これは私はワシントンにも進言したのですが、今回のこの告発の件はドイツ国民にとても大きな怒りをもたらしたということを、私たちは念頭に置かねばなりません。そして、実際にアメリカ政府はこの事態をとても真剣に受け止めています。オバマ大統領は、秘密情報機関による情報収集に行き過ぎがなかったかどうかを調査するように命じました。そして、オバマ大統領はメルケル首相に、あなたの盗聴はしていないと言ったはずです。
Z:そうおっしゃいますが、今やメルケル首相が盗聴されていたこと自体は誰も疑う余地のないこと(公然の秘密)となっているではありませんか!どうしてこういう成り行きになったのか、説明していただけますか?
E:うーん、説明できません(←もうヤケクソ?)。私は、盗聴は実際はなかったのではないかと思っていますよ。だって、今のところまだ第三者によって実証されたワケではないでしょう?(←証拠がなければその事実はない、とか言い始めたら、形勢が苦しい証拠!)
私はあくまでも未来に集中します。多分、メルケル首相も同様に「未来に起きることに集中」しているはずです。.彼女は、両国間のこのとてつもなく重要な関係を、それも60年以上前からの長きにわたり強かったのみならず、さらに今後60年以上に渡ってもっと強くなっていくであろうこの関係を、もっと発展させていくべきだという趣旨の発言をこれまでしてきています。
友達を持つと、お互いに失望しあったりすることもたまにはある。そして、大事なことは、そのようなことを乗り越えようと必死に努力することです。
Z:大使どの、盗聴は無かったとお考えなのであれば、じゃあおたくの大使館の5階には一体何が設置されているのでしょう?私たち撮影クルーに一度公開していただけませんか?(←アメリカ大使館の5階部分とはペントハウスのようになっている屋上部分で、盗聴機器が隠されていると疑われた場所。相手の発言を逆手に取るアナウンサーのレトリックに大使の笑顔が完全に凍っている)


E:大使館の5階には、私のオフイスがあります。しかし、私たちが大使館の屋上に電子機器を密かに搭載しているのではないかとか、あまり相手のことを過度に詮索するのはよくないと思います。大使館Botschaftという言葉には「コミュニケーション」という意味もある。つまり私たちの大使館はコミュニケーション機関でもあるのです。だからこそ、私は今日ここ(ZDFスタジオ)にいるのです。
私たちの大使館はテレビアンテナや衛星放送のパラボラアンテナも設置していますし、暗号化したメッセージを本国アメリカに送信しています。私たちが持っている機材は、おたくの放送局のこの建物にもあるでしょうし、世界中にある他のどの国の大使館も設置しているものと大差ないはずです。だから、私は(他国のことも)詮索する気はありませんし、(ZDF取材クルーへの5階部分開放の可否の)答えはノーです。
Z:うーん、残念!(Ach, schade!)(←ダメ元で聞いてみたが引っかからなかった…笑)
E:それでも、ナイストライだね!(Nice Try though!)(←悪ノリしたガキをたしなめるような手の仕草。大使のちょっぴりお茶目な素顔が垣間見えた瞬間)
Z:大使は昨日、ドイツの国民や政治のリアクションはよく理解しているとおっしゃいました。大使は、(具体的にドイツを逆なでしたのは)一体何だと思っていますか。メルケル首相が盗聴されたことですか?
E:(お茶目な会話から一転、眉間にシワ寄せ真面目モードに突入)このNSAスキャンダルは、私が渡独する前から既に問題になっていました。私がアメリカ上院で演説したときも、真っ先に会場から挙がった質問はこのテーマでした。ドイツ着任直前に現地メディアにも言ったのですが、私の使命とはすなわち独米間でグラついてしまったお互いの信頼を取り戻すことに全力を注ぐことだと思っています。最近の相次ぐ報道でこの私の使命はますます重要に、そしてますます困難を伴うものになりました(←マスコミにささやかな嫌味をかますことも忘れない)。そして、私は任期中のすべての力とエネルギーを、このテーマに注ぐつもりです。
Z:大使、今後はドイツの政治家があなたの大使館から監視されないと、ここで約束していただけますか?(←う~ん、「未来に集中する」という言葉の逆手を取って、未来の確約を迫ってくるとは!)
E:私が確約できることといえば、ワシントンで今後(独米)高官同士の話し合いが行われるということです。先の水曜日には、独米の情報機関や国家安全保障コンサルタント、さらにオバマ大統領とメルケル首相も交えてホワイトハウスで話し合いがあり(←テレビ会議か?)、今後の協調方法のみならず、独米両国の国民に危害を与えようとする者からそれぞれの国民を守るためにお互いできることは何でもするが、同時に人間のプライバシーの権利についてもちゃんと尊重するというような両国間関係を構築するということを話し合いました。このような話し合いは今後も続けられるでしょう。オバマ大統領も私たちの情報収集機関に再調査を命じましたし、来る12月中旬~下旬には多分、何らかの結果報告が聞けることでしょう。
Z:ということは、今後の盗聴の可能性を完全には否定されませんでしたね!それでも、今日ZDF Morgenmagazinのスタジオにお越しいただいたことに感謝いたします。ジョン・B・エマーソン駐独アメリカ大使、ありがとうございました。
E:ありがとうございました。
(←長すぎるほど長かった7分半がやっと終わったという感じかな?)



この壮絶な舌戦、いかがでしょう?動画というのは元々雄弁なもので、たとえ言語が分からなくても、それぞれの表情や動作、言葉のトーンの強弱などからも、十分その雰囲気は伝わってきます。この映像で先ず何よりも衝撃を受けたのは、駐独アメリカ大使がそれはもうコテンパンにやられている姿が何の遠慮もなくお茶の間に流れているという、日本ではとても考えられない現実でした。あまり触れたくないテーマにガンガン踏み込まれて途中から完全に目が泳いでしまう大使、それでも追求の手を緩めずにしつこく食い下がるドイツのアナウンサーの逞しさ、それぞれの緊張感を持った丁々発止…。朝からコーヒーを飲む手をハタと止めてしまうほど、この映像の衝撃は私にとっては大きかったのでした。

もう一つ注目すべき点といえば、無線イヤホンを駆使した同時通訳によるリアルタイム吹き替えというスタイルでしょうか。この番組は生放送ですが、たとえ録画であったとしても、外国人出演者へのインタビューが放送される場合はドイツではほぼ例外なくこの形をとります。日本では字幕表示の方が好まれるので、ドイツに来て間もない頃はとにかく違和感を感じたものでした。

これは映画などでも同様です。ドイツのテレビに登場するハリウッド映画もゴジラも名探偵コナンも、み~んなドイツ語に吹き替えられています(特にコナンの屁理屈などは、ドイツ語の方が似合っているかも!)。作品を原語で聞きたい人もいるだろうに、音声多重とか無いのか!と思ったら、無いのです(笑)。その理由もまたはっきりしています。ドイツ語は、「書くと長い」言語だからです。ハリーポッターの独訳本が毎度オリジナルの倍近い厚さになることからも、ドイツ語は字幕にすると「読むヒマがない」ので、誰も字幕版を見たがらないのです。このような事情もあり、吹き替え専門の声優さんの市場が大きいというのもドイツの特徴で、特定のスターの声は必ず特定のドイツ人声優が担当する一対一の対応となっています。ブルース・ウィリスやジュリア・ロバーツといったハリウッド俳優のファンなのに本人の声を聞いたことがないという笑い話も珍しくなく、たまに「○○(ハリウッドスター)の声で知られた△△さん(ドイツ人声優)が亡くなりました」などという、日本では耳慣れないような不思議な訃報が流れてきます。強いて日本での類似例を挙げるとしたら、ルパン三世の声で知られた声優の山田康雄さんが亡くなられた際、「クリント・イーストウッドの吹き替えでも有名だった」と報じられたこと位しか思い浮かびません。日本でのブルース・ウィリスの声は誰が担当しているのかと問われても、即答できる人はほとんどいないでしょう。しかも日本の場合ビデオとテレビの間でも、そして同じテレビでも放送局毎に吹き替え声優が異なることが珍しくなく、一対一にはなっていないようです。

話がそれましたが、今回のNSA事件のような「互いの国益をかけた仁義なきぶつかり合い」がテーマとなると、アメリカ人を相手にアナウンサーが母語でない英語でインタビューするというのは、相手の土俵に乗ってしまうことを意味しかねません。今回のアナウンサーが驚くほどの反射神経で巧妙に展開した相手のスキを突くレトリックも、ここまで鋭くはなくなってしまうでしょうし、逆に思わぬ言質を取られかねないなど、リスクを伴います。翻訳はあくまでもプロに任せたてインタビュアーは議論そのものに全神経を集中した方が、中身のある会話を引き出すことができることでしょう。

そういう観点で振り返ってみると、日本のテレビで英語圏の人物のインタビューが流れる場合、インタビュアーもまた英語で質問していることが多いように思われます。それも、誰とは言いませんが、アナウンサー自身が(米英駐在で磨いた?)英語力を視聴者にアピールする意図も透けて見えるような気が(笑)…といっては言い過ぎでしょうか?国民の怒りを代弁し、国益をかけてぶつかり合うようなインタビューなど、そもそも日本のマスコミに期待する方がおかしいというもので、それだけにドイツのマスメディアの骨っぽさに改めて感心しすぎてコーヒーこぼしそうになった朝のひとコマでした。


<参考サイト>
Wikipedia  - John B Emerson
http://de.wikipedia.org/wiki/John_B._Emerson#cite_note-10
http://en.wikipedia.org/wiki/United_States_Ambassador_to_Germany

Spiegel Online - Freihandelsgespräche EU-USA:Weitermachen um jeden Preis(2013年11月11日)
http://www.spiegel.de/wirtschaft/soziales/freihandelsabkommen-usa-und-eu-setzen-gespraeche-fort-a-932836.html
欧米間自由貿易協定についての説明と、これがスノーデン騒動で頓挫した様子が書かれている。コメント欄をみると、この自由貿易協定に対するドイツ人の人々の根深い警戒感と猜疑心の強さに驚かされる。

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