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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/10/25

祝クライマックスシリーズ大健闘!「カープファン急増」にみる日本の世相の大変遷

少し前の話になりますが、9月30日に出張先のホテルでNHKニュースにチャンネルを合わせたところ、このような真っ赤な画面のニュースが流れてきてビックリしました↓。


なんでも、首都圏の球場で広島カープのファンが増えているとかで、それも若年女性に人気だとか。そんな彼女たちはカープ女子と呼ばれているらしく、そんなカープ女子を取り上げたマンガが30万部の大ヒットとなっていることなども紹介されていました。

 


何を隠そうこの私、中学時代から筋金入りのカープファンです。といっても私、広島出身でもなんでもありません。このマンガのように可愛いハッピ姿でチアガールのような声援を送るタイプの「カープ女子」だったのでもありません。私の場合、ドイツから日本に来てカルチャーショックに打ちひしがれる中、初めて目にした日本のスポーツがそもそも甲子園の高校野球であり、47都道府県49代表のプレースタイルに「土地柄」とも呼ぶべきプレースタイルの相違があることに気づいたことから話は始まります。高校野球観戦歴を積むに従って、私が必然的にのめりこんでいくことになったのは、広島商や広陵などに見出される「広島野球」でした。

広島カープの球団歌の中に「勝ちにいくのが選ばれたものの運命(さだめ)」というフレーズがあります。これぞ、まさしく広島野球の神髄そのものと言ってもよいでしょう。大モノ打ち不在という絶対的不利な条件の中、自らよりも強い相手から勝利をもぎとろうとするのであれば、炸裂する足技に鉄壁の守備、黄金の投手陣、そして、相手の欠点を執拗に突いてミスを誘うような容赦ない戦略的プレーなども要求されてきます。これらはそもそも、(今よりもはるかに投高打低だった昔の)高校野球ワールドそのものという感じでですが、その中でも特に広島の野球は少年野球からプロに至るまでそのあたりが徹底されていたのが、他の都道府県との大きな違いでした。あの怪腕・江川卓さん(元・巨人)のいた作新学院(栃木)を破ったのも広島野球なら(1973年選抜・広島商)、後に一人もプロ入りしなかった面々がプロ級戦力のチームを撃破して全国制覇を果たしたのも広島野球(1988年選手権・広島商)でした。

そもそも、私がプロ野球というものに目を向けるようになるまでに、高校野球から遅れること2~3年(!)のタイムラグがあったため、その時点で「どこのファンになろうかしら」とセ・パ12球団のプレースタイルを一通り眺めたら、どう逆立ちしてもカープファン以外には成りようがなかった…それほど、当時の広島カープの野球は高校野球っぽかったのです。かつて、巨人ファンだらけだった我がクラスメート連中は、私の愛するカープのことを「セコい」だの「姑息」だの「チーム名が魚だなんてダサい」だのと、それはもう酷評していましたが、それが80年代~90年代前半頃までの圧倒的多数の人々の共通認識だったのかもしれません。そんなカープがその「広島スタイル」を決して捨てることなく、それをかえって武器としつつ、大砲揃いの金満球団や管理野球色の強かったエリート軍団を次々とコケさせてきたその姿に、私は野球というスポーツの奥深さと醍醐味を見出していたのだと思います。

 


しかし、そんな「セコい軍団」も、そのあと長い冬の時代に突入していきました。1991年を最後にリーグ優勝から完全に遠ざかったのみならず、1997年を最後に一度もAクラス無しという、万年Bクラスのチームへと転落していったのです。その背景には、ドラフト制度における逆指名の導入(と、それに伴う裏金の高騰)、FA制度に伴う有力選手の流出などがあります。現に、今もカープの平均年俸は12球団中11位なのだそうで、そのような金欠チームが今年晴れてクライマックスシリーズ(CS)進出、そして2位の阪神に勝利してCSファイナル進出を果たしたことは、まさに奇跡とも言える快挙です。

 


このNHKニュースによると、そんな人件費の低い若手選手中心のカープに対し、「ゆとり世代」「全入時代」「就職氷河期」「営業ノルマ」など、常にマイナスのイメージで語られてきた最近の若い世代が強い共感を示しているそうです。確かに、クライマックスシリーズの時の甲子園球場はカープファンで真っ赤でしたし、試合後の三宮駅はごった返すカープ女子で凄いことになっておりました。

思い返せば、広島出身でもない私は中学でも高校でも「全校生徒の中でただ一人のカープファン」として常に肩身の狭い思いをしてきましたし、広島出身者も加わり多少の地方色も出てきたはずの大学においてもなお、相変わらず孤独な戦いを強いられ続けました。今のカープ人気を踏まえてあらためてあの当時を振り返ってみると、これはひょっとしたらバブル前夜からバブル絶頂期にかけての金満な世相と現代との相違を反映しているのかもしれません。結構強かったにもかかわらず、日本列島全体がブイブイとバブルに浮かれていた時代には見向きもされなかった地方球団が、四半世紀以上の時を越えた今、「派遣切り」などで生きていくのに精一杯という、「未来なき閉塞感」に押しつぶされそうな若者たちの心の支えとして彼らのシンパシーを一手に集めているという事実は、現代日本の不健全に歪みきった側面をそのまま浮き彫りにしている感があり、この数十年の日本の激動ぶりを象徴するかのようです。

 


ここで、昔を知らない若きカープファンの皆さまに、私個人の思い出話を少々:1991年10月24日の日本シリーズ第5戦といえば、広島カープが日本シリーズで勝った最後の試合でもあります。そして、私は実はこの試合を広島市民球場で観戦しています。学校が休みではなかったにもかかわらず、前日に夜行バスで広島入り、観戦後は当日の夜行バスで再び帰京という、「現地滞在14時間」の強行日程を無理やり組んでの広島入りでした。今のカープ人気からはとても考えられないような孤軍奮闘を普段から常に強いられてきた私が、広島入りした瞬間からカープファンに取り囲まれ、同じ価値観で野球談議が出来たということ自体が新鮮な驚きでも感激でもあり、それまでの東京の生活がウソか幻のような、あたかも長年離れていた故郷に久々に舞い戻って暖かく迎え入れられたかのような不思議な感覚でした。試合そのものは「川口-大野の黄金リレー」「3対0」というシブい勝利で、これで3勝2敗となり日本一に王手をかけたのでした。見知らぬファンの人たちと一緒に天満屋の前でバンザイをしてから慌ててバスセンターに駆け込んだことを、まるで昨日のことのように思い出します(笑)。そして、試合の興奮さめやらぬ翌日、おそるおそる登校した私が黙って紅葉まんじゅうを差し出した瞬間、先生やクラスメートは大笑い!「もう、予想通りすぎて!」「キミは期待を裏切らないネ~!」などと言われつつ、単位を落とされたりすることもなく、事なきを得てホッとしました。もっとも、その翌日から西武球場に場所を移してあっさり2連敗してカープの日本一は幻に終わり、さらにあれから22年間の長きに渡りカープがいまだに日本シリーズ進出すら一度も果たしていないという現実を思うと、0泊2日の強行軍でも広島市民球場に駆けつけたあの日の判断は正しかった、そして、あの試合にはそれだけの価値があったのだということを、今になって強く感じています。

 


カープは、原爆投下後の廃墟からの復興も含め、幾多の試練を乗り越えてきた広島市と常にその歩みを共にしてきました。前述のNHKニュースでは、深刻な経営難で球団存続の危機の中、1951年に広島市民が募金を酒樽に入れて球団解散の危機を免れた「樽預金」のエピソードも紹介されました。私がファンになったのはそのような時代からは随分と経った後のことではありますが、広島は今や私にとっては第3の故郷にも等しい存在であり、今後も「真の市民球団」としてのみならず「広島野球の具現者」としても、カープの活躍に注目したいと思います。昨今の高校野球では広島勢の全国制覇は珍しくもありませんので、そろそろ来年あたりは「23年ぶりのリーグ優勝」ひいては「25年ぶりの日本一」が現実味を帯びてくることを、心から期待しています。


<参考サイト>
Wikipedia日本語版 - 広島東洋カープ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BA%83%E5%B3%B6%E6%9D%B1%E6%B4%8B%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%97

YouTube - それ行けカープ
http://www.youtube.com/watch?v=0enznckaEcU
(是非聞いていただきたい名曲です!)
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