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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/10/11

「エコロジー」と「持続可能性」が隠し味?!ドイツのステーキハウスMAREDOの徹底した環境意識

海外のステーキハウスとして日本で有名なお店といえば、アメリカのシズラー(SIZZLER)あたりでしょうか。ステーキにシーフードにサラダバーといったラインアップのシズラーにも似たステーキハウスとして、ドイツにはMAREDOというお店があります。日本ではおそらく知名度がほとんどゼロなのではないかと思われますが、このお店はドイツ全土に58店舗、オーストリアに2店舗を展開するドイツ随一の有名大手レストランチェーンであります。


たくましい牛のロゴがオラ君の食欲をそそります。夏のランチタイムだったためかお客さんはほとんど外のテラスに着席しており、店内はガランとしていました。そんな広々とした店内にはこのようなサラダバーがあります↓。日替わりランチが1000円程度と、ランチタイムにはお値打ちメニューがかなりあり、その味もなかなかオススメです。

着席してメイン料理を注文したら、早速サラダバーへGO!ただしこのサラダバー、残念ながらおかわり自由ではありません(安いランチだからかな?)。そのかわり、中くらいのサイズの深皿に一杯限り、どんなに山盛りにうず高く積み上げてもOK!ということで、”ケチが服着て歩いている(笑)”とヨーロッパ中から揶揄されるドイツ人のこと、み~んな「祝!世界遺産登録」の富士山のように、これでもかと言わんばかり、こんもりとサラダを盛るのでありました。

 
(オラ君の盛り方はやや控えめ…富士山というよりはハワイのキラウェア火山…ただいま溶岩流出中…といったところでしょうか?)

そうこうしているうちに、頼んでいたメインの肉料理が到着しました!


ドイツ名物のホワイトアスパラにフィレステーキ150g、さらにつけあわせのベイクドポテトです。ベイクドポテトにスプーンが縦に刺さっているのは、日本人からみたら「縁起でもない!」と思うかもしれませんが、仏壇も供え膳の風習もないドイツでは別に縁起悪くも何ともありませんので、悪しからず。ちなみに、ベイクドポテトのことをスペイン語では「パパアサダ(Papa Asada)」というらしいことを、私はこの店で初めて知りました(ドイツ語では普通はバックカルトッフェルですが、このMAREDOという店ではパパアサダと呼ぶ)。以降、MAREDOでベークドポテトを注文するたびに、思わず浅田真央選手を中京大リンクに送り迎えしていた彼女のお父さんのエピソードを連想して勝手にジーンときてしまうのは、少なくともドイツでは私だけみたいです(笑)。

美味しいオイシイとパクパク食べ始めた私の机の脇に、よく見たら何か冊子が挟まっています。手に取ると、これはMAREDOの全店舗に共通のもので、MAREDO社全体の取り組みや意気込み(?)について紹介する備え付けのパンフレットでありました。フンフンと口を動かしつつ視線だけ冊子に注ぎながら何気なく読み始めたのですが、その「環境意識」のあまりの徹底ぶりに目が釘づけとなり、気付いたら食事そっちのけでいつの間にか丸ごと熟読してしまいました。かなり興味深い内容なので、今回はその内容の全文をここに和訳してご紹介したいと思います。

まずはMAREDOで扱う肉と魚に関する説明から:(以下、青字は冊子本文和訳、太字は筆者強調)
 


『Ökologie und Nachhaltigkeit (生態系と持続可能性)』
<牛肉> 当店の牛肉は、世界最良の牧場のみに限定して仕入れています:つまり、アルゼンチン、ウルグアイ、チリそしてブラジル南部です。この牛たちが育つパンパス(Pampa:南米の大草原)は、理想的な気候条件を満たしており、しかも人の手が一切加わったことのない自然発生のステップ(温帯内陸の乾燥草原)であります。
<魚> 魚は人類にとって健康的とされ人気も高い栄養源であります。しかし、漁業技術の発展に伴う世界的な乱獲のため、私たちは考えを改めねばならぬ時期にきています。持続可能な漁業および養殖によってしか、海はその健全さを保てません。2011年夏以降、MAREDOの各店舗のマグロは”ポール・アンド・ライン法(一本釣り)”(Pole-&-Line-Verfahren)で捕獲されたもの以外は提供しておりません。同時に、白身魚は自然食品(Bio)ラベルの白身魚にMSCラベルつきフィッシュフライも提供開始しております。
<持続可能性> 「持続可能性」とは、現在を生きる私たちの世代のみならず未来を生きる若い世代にとっても、極めて重要なことであると当店は考えています。「持続可能性」を実現するためには、個人がそれぞれに努力をするやり方では限界があり、むしろ法人企業による商売の枠組みの中でしっかり取り組むしかありません


むむむ、最高の牛肉を送り出す世界最良の牧場は、但馬にも松阪にもなかったか…。「人の手が一切加わっていない自然」に価値を置く国から見れば、「いかに人の手をかけて付加価値を上げるかを問われる日本」の価値観とのあまりに真逆の方向性からしても、日本クオリティというものの世界における立ち位置に思わぬ黄色信号を突き付けられている気がして焦ってきました。さらに、ページをさかのぼって、同社の考える商品の品質全般についての見解を拝聴してみましょう:
 


『Qualität und Nachhaltigkeit (品質と持続可能性)』
妥協なき品質!当店が考える「品質」とは、商品を「最大限に自然のまま」に保つことです。従って、何年も前からの当社の一貫した方針として、当店メニューからは一切の人工添加物を排除しています:人工調味料、着色料、保存剤、人工香料、遺伝子組み換えの添加物…これらは一切使用しておりません。このことによって当店は、レストランチェーン業界の中でも先導的な役割を背負っているのであります。
当店はさらに納入業者に対しても、紅藻(アイルランド産海藻の一種)やクエン酸に酵母抽出物といった30種類以上にわたる、現時点でその安全性がまだ十分に証明されていない成分についても使用禁止を指示しています。
このように、MAREDOが独自に採用している自社基準は、法で定められている基準よりもはるかに厳しいものです。この非常に難関な自社基準を実現するために、過去から現在に至るまで当社は納入業者ともども、粘り強くその信念を貫くことを求められてまいりました。
この他に、MAREDOの高い品質を保証しているものとして、当社商品のトレーサビリティ(追跡可能であること)、HACCP証明(hazard analysis and critical control points:総合衛生管理製造過程、通称ハサップ:食品衛生管理に際し最終製品を検査するのではなく製造全行程で必要な検査を行うこと)、さらには納入業者に義務づけている作物のサンプル検査などがあります。この結果、ドイツ全土規模の品質調査や抜き打ちテストにより除草剤や殺虫剤を一切使用していないと判明している農作物のみが、当店にサラダや調理用野菜として納入されています。
当社のさらなる目標として、有機農法作物(Bioerzeugnisse:化学肥料や農薬、添加物などの人工物を一切使用しない)の取り扱いをさらに増やすことが挙げられます。国際的に展開する当社であれば当然のこと、MAREDOのお客様がドイツのどこの店舗でもいつでも同品質のメニューを味わうことができるよう、(有機農法の)作物を十分量確保できるかどうか確認しつつ進めていく必要があります。
現時点では、有機農法のコーヒーの提供はテスト段階、有機農法のジャガイモもテスト中、卵は全てFreilandhaltung(鶏舎に閉じ込めるのではなく放し飼いで育てられたニワトリ)の卵に切り替え予定(サラダバーの卵は既に切り替え済み)です。サラダや調理用野菜に関しても、有機農法作物の比率を今後大幅に引き上げていく予定です。


いかがでしょうか。日本のレストランチェーンにも、自社の取り組みを冊子にしてメニューに挟んで紹介しているお店があるかと思いますが、そこにはここまで徹底的に「有機農法(ドイツ語では”ビオ”と言う)」「無農薬」「無添加」といった文言が並んでいるでしょうか?「魚は一本釣りのみ」「卵は放し飼いの鶏からのみ」となると、日本人からみれば縄文・弥生時代の理屈のようですが、「人の手が一切入っていない」「品質とは最大限に自然のままを保つこと」となると、もはや「手つかずの自然」を信仰する原始宗教の世界に突入でしょうか(手つかずの自然⇒必然的に南米⇒いずれはアフリカに行きつくのか?)。

それにしても、曲がりなりにもMAREDOは大手のレストランチェーンであり、その会社が「国の基準よりはるかに厳しい自社基準を独自採用」「現時点で安全性が証明されていないものは使用しない」などと宣言したら、今の日本では「風評被害」のそしりを免れないでしょう。ドイツ国民は元々慎重で神経質なところが他の欧州の国民よりも強い印象がありますが、特に飲食物に関しては彼らは「味」や「見た目」よりも品質ないし実質にうるさく、製造工程に不気味な人工物が入っていないかどうかを異様に気にする人の比率が高いため、無農薬や無添加をうたったビオ食品を選ぶ傾向もまた強く、そのことがそのまま国を挙げたビオ製品の供給能力を高めることにつながっているようにも見受けます。

もっとも、ドイツのビオ商品にも偽装問題はしょっちゅう勃発しております。そのたびにテレビや新聞は朝から晩まで上へ下への大騒ぎ…というのも、日本の産地偽装問題と似ています。ただ、ドイツの放送局では自ら複数のスーパーから特定食材を調達して比較したり、同じ品目を製造会社別に抜き打ち検査の結果を比較するような番組が(偽装事件の有無にかかわらず)かなり頻繁に放送されており、しかも高視聴率をあげています(このような番組は日本ではスポンサーの機嫌を損ねるとしてハナから企画すらされないでしょう)。首相から一般市民まで「経済よりも人間が大事」「食の安全を犠牲にしてまで経済発展する必要はない」といった表現をよく口にするドイツですが、それが本心かどうかはともかく、これがドイツ国民の(表向きの)総意としては「鉄板の正論」と位置づけられているようで、たまに逆のことを言って袋叩きにあっている右派の政治家とかを見かけるたびに、ここに異論をはさむといかに勝ち目がないかという事に、いち日本人としては毎度のように驚かされます。

ドイツで生活していると、日本にいるよりもはるかに容易かつ手ごろな価格で無農薬・無添加・化学肥料不使用といった自然農法食品を手にいれることができるのですが、それもこれも、このいささか心配性で気難しい国民性の恩恵とも言えるかもしれません。MAREDOのパンフレットはまさに、そんなドイツのお国事情を見事にちりばめた「ドイツのホンネ」の代弁者なのかもしれません。


(左上:パパアサダ、左下:自慢のサラダバー、右上:同じく人気のスープバー、右下:これまた人気のトウモロコシ。この店の野菜は最小限のソースで十分に引き立つほどしっかりと味があり、肉料理や魚料理の素材のうまみともよく調和がとれています)


<参考サイト>
MAREDO 店舗一覧(ドイツ語)
http://www.maredo.de/restaurants/standorte.html

YouTube - Papa's Asada with Good Lookin' Cookin' (パパアサダのグリルによる作り方紹介)(英語)
http://www.youtube.com/watch?v=3mhUumap6Lg
(不思議なことに、外食でパパアサダを食べるたびに、自宅でもマネして作りたくなります。そんな方にはこの動画をオススメします。先日これを参考にしてマネして作ったところ、ジャガイモ自慢の国ドイツだけあって実に美味しく仕上がりました)

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