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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/08/09

フランス映画HIROSHIMA MON AMOUR」の再公開、そして8月6日のイタリア報道が問いかけるもの

先月、パリを地下鉄で移動していた時のことでした。通路に突然現れたこの広告看板、それはもうデカデカと存在感を発揮していました。



背景は日の丸のようですが、『ヒロシマ・モナムール』って何?白黒映画のようですが、金髪女性の後ろに日本人男性の組み合わせは何?しかも、よく見たらこの男性、岡田英次さんではありませんか(←かつての田宮二郎主演の『白い巨頭』の内科教授役が有名か)。岡田英次さん、若い…!等々、いろいろな思いが一気に脳内を交錯し、人通り激しいメトロの通路の真ん中でしばらく看板に見入ってしまうのでありました。

看板の一番上には「7月17日より公開」とあります。ポンピドゥーセンター向いの映画館で上映しているとのことだったので、頑張って早めに用事を済ませたのち、早速足を運んでみました。


ありました!背後に例の看板が見えます。


よく見たら今は小津映画週間でもあるらしく、小津安二郎監督の名作を週末に日替わりで三本見ることができるとか。フランスにおける日本映画の人気の高さに、岩手放送のオラ君もビックリしている様子です(笑)。


説明文を見ると、この映画は「平和を題材にした映画の撮影のために来日したフランス人女優が、ロケ現場である広島で出会った日本人男性と(一夜の)恋に落ちる」という話のようです。一体、ヒロシマに対してどういう切り口でのぞんだ映画なのやら、そもそも言葉は何語なのか、ストーリーはどの程度期待できるのやら、何もかも全く見当もつきませんでしたが、意を決してチケットを購入することに…。

といっても、ここはフランス。フランス語ではHを発音しません。従って、チケット売り場ではこのような声が私の前に並ぶ人々から次々と挙がります。

「イロシマ・モナムール!」
「イロシマ、シルブプレ!」

あまりに皆が皆、イロシマと発音するため、しまいには「広島」が「色島」に思えてきました。いや、「一夜限りのオトナの恋物語」という意味では、むしろ「イロシマ・モナムール」の方がしっくり来るのではないかという説が(私の中だけですが)急遽浮上してきたりして、ひょっとしてフランス人監督はこのことも計算した上でこのタイトルを付けたのかと、穿った見方の一つもついついしたくなるのです(笑)。それでは、チケットを持ってGO!↓

 


そして、ここからは見た感想を。まず、この映画、全編フランス語でした。ごく一部に日本語のセリフがあるものの、その部分にはフランス語字幕が一切付かず、さらには日本語の看板にもほとんど説明が付かないため、フランス人にとっては理解しにくい所も多々あったかと思います。従って、驚くべきことに岡田英次さんのセリフは99%位フランス語という状況です。ただ、映像にみる岡田さんの口の動きと、岡田さんの声で発せられるセリフとがほとんどと言って良いほど合っておらず、これは明らかにアフレコの形跡が見てとれます。1950年代といえば、まだ日本からの海外渡航もままならないような時代であり、岡田さんもこの撮影では相当な苦労をされたのではないかと、そちらの方が気になってしまうのでした。それでも、この若き日の岡田さん、色々な意味でこれまた本当に日本人離れした「顔立ち」と「立ち振る舞い」、さらには特訓の成果を思わせる「セリフ回し」も見事なもので、古い白黒映画でも現代のフランス人に十分に伝わるほど、その存在感を存分に発揮していたと言えるでしょう。

この映画、ストーリーは確かに男女の刹那の情事とそれぞれが背負う過去の告白を中心に進行するのですが、そのストーリーの合間に広島への原子爆弾投下の模様およびその被害を受けた人々のアーカイブ映像がちりばめられており、その記録映画的な側面もまた無視できない強さで見る者の印象に残ります。そして、さらにこの映画が与える衝撃としては、1959年公開のこの映画が撮影されていたと思われる1950年代後半の広島の街並みが、今の広島とあまりにも異なっているということも強調したいところです。1980年代以降の広島しか見たことの無かった私にとって、かつての広島の商店街や舗装もまだされていない飲み屋街、今とはまるで別世界のような新広島駅など、景色そのものがそれはもう面影が無さすぎて、かえって新鮮に見えました。そして、その変遷の事実自体がこの映画の内包する別のメッセージひいては存在意義を浮かび上がらせているようにも実感するのでした。

さらに個人的なことを言えば、先月の一時帰国の際に仕事で立ち寄った広島の本通り商店街が、この映画において主人公の男女が語り合いながら歩く道筋として、何度も繰り返し登場してくるのが、独特のタイムトリップしたような錯覚を引き起こし、私はパリの映画館で思わず「あっ、本通り商店街!」とつぶやきながら前の座席にガバっと身を乗り出してしまい、周囲の客に不思議がられてしまうのでありました(笑)。

フランス人監督が撮ったフランス映画『イロシマ・モナムール』…それは、「色島」のようでありながら、実は「広島」だったり「廣島」だったりする、あらゆるシーンが折り重なるように時空を交錯する、そんな不思議な映画でした。ラブストーリーとしての新鮮味は正直言って薄いかもしれませんが、私たち日本人が実はあまりきちんと正視して来なかった貴重な原爆記録映画でもあり、高度成長前の我らが故郷から根こそぎ失われてしまった原風景を保存した歴史アーカイブとしても、是非一見をお勧めしたい映画です。

なお、その後にやってきた8月6日、私はイタリアにおりました。朝のニュースを何気なくつけたら、いきなり”ゴーン”というどこかで聞いたことのある鐘の音とともに、広島における記念式典の映像が目に飛び込んできました。

 
(ニュース映像の写真はいずれもイタリア国営放送Rai1から)

時期的なものもあるのでしょうが、それにしても欧州にいながら最近どうしてこうも広島づいているのかと、自分自身が一番驚いています。そして、世界中の人々にとっていまだに「HIROSHIMA」は高い関心があるということ、それも単に原爆だけの関心ではないという現実が、このイタリアのニュース映像からも伝わってきます。ひいては、初公開後54年を経た今頃になって、再公開中のフランス映画「HIROSHIMA MON AMOUR」における最頻出フレーズでもある”Tu n'a rien vu à Hiroshima”(君は広島で何も見て来なかった)が、今のこの時代に新たな意味を以て私たちに何かを問いかけ始めており、その意味の深さは映画公開時よりもさらに増しているようにさえ感じられるのです。


<参考サイト>

Wikipedia日本語版 - 二十四時間の情事 Hiroshima mon amour
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E5%8D%81%E5%9B%9B%E6%99%82%E9%96%93%E3%81%AE%E6%83%85%E4%BA%8B
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