2013/08/02
「下剋上の乱世」と化した最近の高校野球事情とは?
日本全国各地で大気の状態が不安定となり、豪雨や雷雨が続いているようです。毎年恒例の隅田川花火大会がその36回にも及ぶ歴史上初めて中止となったとの報道には大変驚きました。それでも、この原稿が掲載される頃には、あちこちで雨天順延に見舞われた高校野球の地方予選も全て終了し、8月8日より阪神甲子園球場で開催される第95回全国高等学校野球選手権大会の全代表校が決定しているのではないかと思われます。
既に決定している代表を見る限り、初出場校が例年にも増して多くなりそうで、フレッシュな顔ぶれの多い大会となるようです。今年は一時帰国の日程が合わず、地方大会をほとんど観戦できなかったのですが、例外的に観戦する機会を得た7月18日の神戸総合運動公園サブ球場での兵庫県大会はとても印象的だったので、振り返ってみたいと思います。
この日、実は「神戸国際大付属高校の二試合目」を見に行くつもりで予定を空けてあったのですが、大会が幕を開けたらエラいことになっておりました。本年4月の春の兵庫県大会優勝、さらに続けて臨んだ春の近畿大会で準優勝という、今夏の優勝候補の筆頭とも目された第一シードの神戸国際大付属高校が、この日の4日前に初戦敗退していたのです。敗れた相手は県立でノーシードの伊川谷高校、最終スコア2-3という僅差もさることながら、何といっても初回の2失点が最後まで響いたという試合展開が、何をか語らんや…です。初戦を勝利し勢いに乗っての二試合目だった相手に対し、近畿大会3試合でホームラン4本を含む打棒炸裂ながら夏は初戦となった優勝候補は、「初戦ならではの戦いにくさ」と「受けて立つ身の戦いにくさ」というダブルの落とし穴にはまったということでしょうか。
同日の試合である尼崎のジェイコム野球場の報徳学園-姫路戦との間でやや悩んだものの、「あの神戸国際大付をまさかの初戦敗退に追い込んだ県立高校の実力」とやらを是非この目で確認したいとの興味が勝り、私は意を決して総合運動公園に足を運んだのでした。
この日は伊川谷の試合を含めて2試合が行われたのですが、登場した4校とも県立高校でした。それも、「春夏通じて甲子園出場経験のない県立校」です。スタンドで次の試合を待つ2試合目の選手は、全員が手作りの愛情弁当(母親の作?父親が作った家庭もあるかもしれない)をパクついており、その光景は(私立有力名門校などでは多数派を占める)寮生活の子がいないという意味でも、元々数あるクラブ活動の一つでありそれ以上でもそれ以下でもない高校野球という意味でも、大会終盤の強豪同士での頂上決戦などではまずお目にかかることのない独特の雰囲気を醸しだしていました。まだ3回戦ではありましたが、”神戸国際大付を初戦敗退に追い込んだチーム”という枕詞のついた伊川谷高校の満を持しての登場に、予想以上の数のマスコミ記者が駆けつけていたのが、これまた大いに目を引きました。この4チームの中では、明らかに最も強そうだったのは伊川谷で、その秘訣は以下の4つに集約されているように思われました。
1) 親がただ者ではない!
まず、選手の親がみなデカい(対戦相手の明石のチームも同様で、選手が小さくても親がデカかったりする)。西神戸から明石にかけてのいわゆる”明舞地区”には、東京や名古屋ともまた異なる身体特徴の地域性があるのではないか…そんな仮説を立ててしまいたくなる体格の良さです。親の体格は子の将来性を占う一番の指標であり(特にプロのスカウトは母親の体格を重要視する傾向あり)、そういう意味での伊川谷には体格にも素質にも将来性を感じさせる選手が比較的多く、神戸国際大付のような強豪相手にも物怖じせずにド~ンとぶつかって実力を発揮できたことにつながったと推測されました。
2) 親のバックアップ力も野球知識も有名私立レベル
スタンドでの応援姿から垣間見る父母など家庭のバックアップ力も、チームの強さを占う指標になりますが、これまた有名私立名門チームと全く遜色ありませんでした。中でも、父兄の野球談議のコアっぷりが凄い!単なる「打て!」「勝て!」のレベルをとっくに超越し、敵味方問わず子供たちのプレーを真剣に語り合う姿は、かつて甲子園出場を立て続けていた頃の鳴門工(徳島)を彷彿とさせました。その上、彼らは連盟役員ともツーカーの仲で、球場内でのその”玄人っぽさ”はこの日の出場チームの中では突出していました。
もっとも、これには現代の高度情報化が大きく貢献している側面もあるかと思います。かつて、甲子園中継といえばラジオ中継しかなかった時代や、テレビが白黒だったりビデオが無かった時代を思えば、現代の情報化社会は人々の野球知識や野球経験における地方格差や経済格差を吸収してアマチュア野球界の裾野を広げる作用を果たしてきたのは間違いないでしょう。中でも、NHKの大リーグ中継の影響が随分と大きいようで、データ分析の手法や日米比較も含め、野球観のグローバリゼーション(?)もまた絶賛進行中という印象を受けました。
3) 選手も名門チーム出身者ぞろい
帰宅後、目を引いた主力選手を何人かインターネット検索してみたのですが、これまた驚いたことに、軒並み少年野球の名門チームの出身者がズラリでした。彼らが所属していたのは地元の少年野球チームばかりですが、そこからは主に近畿~中国~四国の名門私立高校へ選手を多数輩出しており、中には今年のセンバツで活躍した選手もいます。関東や九州などに進学するケースもあったり、過去の卒業生にはプロ野球選手が何にもを名を連ねています。そんなチームメイトや先輩の活躍が発奮材料にならないはずがありません。そんな中、自分の意思だったのか否かは置いておくとして、「私立へ進学せずに地元に残った有力チーム出身者」が伊川谷にコンスタントに入部してきている事実もまた、チーム全体の年月をかけてのレベルアップに貢献しているのではないかと思われるのでした。
4) 県立だろうが何だろうが、とにかく基本がしっかりできている
さすがに「既に2勝している者どうし」でもあったためなのか、この日に登場ののチームはいずれも基本プレーがしっかりしており、昔ならよくみられた「素っ頓狂なプレー」や「目を疑うような凡ミス」が全くといってよいほど発生しませんでした(伊川谷の試合は最終的には点差がついたが、敗れた方にも好プレーが多かった)。これもまた、高校が「県立」だろうが何だろうが、どちらかというと少年野球時代の指導が大きくモノを言っているように見受けました。つまり、少年野球での実りある基礎固めの指導が行き届いていれば、後に彼らが揃って県立に進んでさらに成長を積んだ時、「県立旋風」も「下剋上の波乱」も何ら不思議ではなくなるということです。
有力私立校の指導者から異口同音によく聞くのが、特に2008年のリーマンショック以降、中学生の野球選手が家庭の経済的事情のために私立進学を断念するケースが一気に増えたという話です。野球は元々とてもおカネがかかるスポーツであり、この県大会で私が見たチームの中にも、どうみても部費が明らかに不足している、つまり用具やウェアにおカネを回せていないケースが見受けられました。しかし、そんな低予算チームでも2勝3勝しているところをみると、どうやらおカネの多寡と勝敗が必ずしも一致しないようで、潤沢予算チームとの差をカバーする情報収集や理論収集のツールが昔と比べてインフラ整備されている現代という時代の恩恵を感じます。
なお、ある程度の実力を持つ選手であっても、家庭におカネが足りない場合、私立サイドが何らかの待遇を用意できなければ、必然的に地元公立校に進学する他ありません。従って、プロ野球出身の監督が指導している公立校などは、必然的に人気が高くなるそうです。しかも今年から、元プロ選手のアマチュア指導条件を大幅に緩和する「学生野球資格を回復する研修制度」が承認されたので、今後公立校でも指導者のさらなる充実が見込まれます。かつての高校野球では、「名門に胸を借りる格下チーム」は折角善戦していても結局はわずかなほころびから自滅していったケースが多かったものでしたが、今後はそう簡単に自滅しなさそうであるというのが、この兵庫県大会での一番の感想であり、日本の高校野球界は今大会に代表されるような「下剋上の乱世」の傾向にますます拍車がかかっていくであろうことは間違いないでしょう。今はまだ相手が勝手に名前負けしてくれるようなネームバリューを誇る強豪校も、今後はいつ寝首を掻かれるか分かったものではありません。
この日は圧巻のコールド勝ちで4回戦進出を果たした伊川谷高校ですが、監督さんが試合後にマスコミ取材を受けるその姿にはまだ初々しさが色濃く残り(笑)、それもまた神戸国際大付からもぎ取った金星の大きさをそのまま象徴しているように見えました。伊川谷はこの次となった4回戦で惜しくも敗退してしまいました。しかし、強豪私立ひしめく西東京大会で決勝進出を果たした都立日野高校が”都立旋風”を巻き起こしたように、そして、高校駅伝の名門としてその名を知られる県立西脇工業高校が今夏ついに春夏を通じて初となる甲子園切符を掴んだように、、この調子で実績を重ねていけば”伊川谷旋風”もそう遠くはないのかもしれません。この初々しいショットも、ひょっとしたら今のうちだけなのかも…そのうち貫禄ついちゃったりして(笑)…などと勝手に未来をあれこれ想像する私でありました。
<参考サイト>
スポニチアネックス - 元プロ、研修でアマ監督に…新制度承認、条件大幅緩和 (2013年6月18日)
http://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2013/06/18/kiji/K20130618006038940.html
既に決定している代表を見る限り、初出場校が例年にも増して多くなりそうで、フレッシュな顔ぶれの多い大会となるようです。今年は一時帰国の日程が合わず、地方大会をほとんど観戦できなかったのですが、例外的に観戦する機会を得た7月18日の神戸総合運動公園サブ球場での兵庫県大会はとても印象的だったので、振り返ってみたいと思います。
この日、実は「神戸国際大付属高校の二試合目」を見に行くつもりで予定を空けてあったのですが、大会が幕を開けたらエラいことになっておりました。本年4月の春の兵庫県大会優勝、さらに続けて臨んだ春の近畿大会で準優勝という、今夏の優勝候補の筆頭とも目された第一シードの神戸国際大付属高校が、この日の4日前に初戦敗退していたのです。敗れた相手は県立でノーシードの伊川谷高校、最終スコア2-3という僅差もさることながら、何といっても初回の2失点が最後まで響いたという試合展開が、何をか語らんや…です。初戦を勝利し勢いに乗っての二試合目だった相手に対し、近畿大会3試合でホームラン4本を含む打棒炸裂ながら夏は初戦となった優勝候補は、「初戦ならではの戦いにくさ」と「受けて立つ身の戦いにくさ」というダブルの落とし穴にはまったということでしょうか。
同日の試合である尼崎のジェイコム野球場の報徳学園-姫路戦との間でやや悩んだものの、「あの神戸国際大付をまさかの初戦敗退に追い込んだ県立高校の実力」とやらを是非この目で確認したいとの興味が勝り、私は意を決して総合運動公園に足を運んだのでした。
この日は伊川谷の試合を含めて2試合が行われたのですが、登場した4校とも県立高校でした。それも、「春夏通じて甲子園出場経験のない県立校」です。スタンドで次の試合を待つ2試合目の選手は、全員が手作りの愛情弁当(母親の作?父親が作った家庭もあるかもしれない)をパクついており、その光景は(私立有力名門校などでは多数派を占める)寮生活の子がいないという意味でも、元々数あるクラブ活動の一つでありそれ以上でもそれ以下でもない高校野球という意味でも、大会終盤の強豪同士での頂上決戦などではまずお目にかかることのない独特の雰囲気を醸しだしていました。まだ3回戦ではありましたが、”神戸国際大付を初戦敗退に追い込んだチーム”という枕詞のついた伊川谷高校の満を持しての登場に、予想以上の数のマスコミ記者が駆けつけていたのが、これまた大いに目を引きました。この4チームの中では、明らかに最も強そうだったのは伊川谷で、その秘訣は以下の4つに集約されているように思われました。
1) 親がただ者ではない!
まず、選手の親がみなデカい(対戦相手の明石のチームも同様で、選手が小さくても親がデカかったりする)。西神戸から明石にかけてのいわゆる”明舞地区”には、東京や名古屋ともまた異なる身体特徴の地域性があるのではないか…そんな仮説を立ててしまいたくなる体格の良さです。親の体格は子の将来性を占う一番の指標であり(特にプロのスカウトは母親の体格を重要視する傾向あり)、そういう意味での伊川谷には体格にも素質にも将来性を感じさせる選手が比較的多く、神戸国際大付のような強豪相手にも物怖じせずにド~ンとぶつかって実力を発揮できたことにつながったと推測されました。
2) 親のバックアップ力も野球知識も有名私立レベル
スタンドでの応援姿から垣間見る父母など家庭のバックアップ力も、チームの強さを占う指標になりますが、これまた有名私立名門チームと全く遜色ありませんでした。中でも、父兄の野球談議のコアっぷりが凄い!単なる「打て!」「勝て!」のレベルをとっくに超越し、敵味方問わず子供たちのプレーを真剣に語り合う姿は、かつて甲子園出場を立て続けていた頃の鳴門工(徳島)を彷彿とさせました。その上、彼らは連盟役員ともツーカーの仲で、球場内でのその”玄人っぽさ”はこの日の出場チームの中では突出していました。
もっとも、これには現代の高度情報化が大きく貢献している側面もあるかと思います。かつて、甲子園中継といえばラジオ中継しかなかった時代や、テレビが白黒だったりビデオが無かった時代を思えば、現代の情報化社会は人々の野球知識や野球経験における地方格差や経済格差を吸収してアマチュア野球界の裾野を広げる作用を果たしてきたのは間違いないでしょう。中でも、NHKの大リーグ中継の影響が随分と大きいようで、データ分析の手法や日米比較も含め、野球観のグローバリゼーション(?)もまた絶賛進行中という印象を受けました。
3) 選手も名門チーム出身者ぞろい
帰宅後、目を引いた主力選手を何人かインターネット検索してみたのですが、これまた驚いたことに、軒並み少年野球の名門チームの出身者がズラリでした。彼らが所属していたのは地元の少年野球チームばかりですが、そこからは主に近畿~中国~四国の名門私立高校へ選手を多数輩出しており、中には今年のセンバツで活躍した選手もいます。関東や九州などに進学するケースもあったり、過去の卒業生にはプロ野球選手が何にもを名を連ねています。そんなチームメイトや先輩の活躍が発奮材料にならないはずがありません。そんな中、自分の意思だったのか否かは置いておくとして、「私立へ進学せずに地元に残った有力チーム出身者」が伊川谷にコンスタントに入部してきている事実もまた、チーム全体の年月をかけてのレベルアップに貢献しているのではないかと思われるのでした。
4) 県立だろうが何だろうが、とにかく基本がしっかりできている
さすがに「既に2勝している者どうし」でもあったためなのか、この日に登場ののチームはいずれも基本プレーがしっかりしており、昔ならよくみられた「素っ頓狂なプレー」や「目を疑うような凡ミス」が全くといってよいほど発生しませんでした(伊川谷の試合は最終的には点差がついたが、敗れた方にも好プレーが多かった)。これもまた、高校が「県立」だろうが何だろうが、どちらかというと少年野球時代の指導が大きくモノを言っているように見受けました。つまり、少年野球での実りある基礎固めの指導が行き届いていれば、後に彼らが揃って県立に進んでさらに成長を積んだ時、「県立旋風」も「下剋上の波乱」も何ら不思議ではなくなるということです。
有力私立校の指導者から異口同音によく聞くのが、特に2008年のリーマンショック以降、中学生の野球選手が家庭の経済的事情のために私立進学を断念するケースが一気に増えたという話です。野球は元々とてもおカネがかかるスポーツであり、この県大会で私が見たチームの中にも、どうみても部費が明らかに不足している、つまり用具やウェアにおカネを回せていないケースが見受けられました。しかし、そんな低予算チームでも2勝3勝しているところをみると、どうやらおカネの多寡と勝敗が必ずしも一致しないようで、潤沢予算チームとの差をカバーする情報収集や理論収集のツールが昔と比べてインフラ整備されている現代という時代の恩恵を感じます。
なお、ある程度の実力を持つ選手であっても、家庭におカネが足りない場合、私立サイドが何らかの待遇を用意できなければ、必然的に地元公立校に進学する他ありません。従って、プロ野球出身の監督が指導している公立校などは、必然的に人気が高くなるそうです。しかも今年から、元プロ選手のアマチュア指導条件を大幅に緩和する「学生野球資格を回復する研修制度」が承認されたので、今後公立校でも指導者のさらなる充実が見込まれます。かつての高校野球では、「名門に胸を借りる格下チーム」は折角善戦していても結局はわずかなほころびから自滅していったケースが多かったものでしたが、今後はそう簡単に自滅しなさそうであるというのが、この兵庫県大会での一番の感想であり、日本の高校野球界は今大会に代表されるような「下剋上の乱世」の傾向にますます拍車がかかっていくであろうことは間違いないでしょう。今はまだ相手が勝手に名前負けしてくれるようなネームバリューを誇る強豪校も、今後はいつ寝首を掻かれるか分かったものではありません。
この日は圧巻のコールド勝ちで4回戦進出を果たした伊川谷高校ですが、監督さんが試合後にマスコミ取材を受けるその姿にはまだ初々しさが色濃く残り(笑)、それもまた神戸国際大付からもぎ取った金星の大きさをそのまま象徴しているように見えました。伊川谷はこの次となった4回戦で惜しくも敗退してしまいました。しかし、強豪私立ひしめく西東京大会で決勝進出を果たした都立日野高校が”都立旋風”を巻き起こしたように、そして、高校駅伝の名門としてその名を知られる県立西脇工業高校が今夏ついに春夏を通じて初となる甲子園切符を掴んだように、、この調子で実績を重ねていけば”伊川谷旋風”もそう遠くはないのかもしれません。この初々しいショットも、ひょっとしたら今のうちだけなのかも…そのうち貫禄ついちゃったりして(笑)…などと勝手に未来をあれこれ想像する私でありました。
<参考サイト>
スポニチアネックス - 元プロ、研修でアマ監督に…新制度承認、条件大幅緩和 (2013年6月18日)
http://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2013/06/18/kiji/K20130618006038940.html