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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/07/19

フィギュアスケーターの人生設計を考える(3)…イタリア人コーチはストップウォッチがお好き?!

最近、フィギュアスケートに関する報道が日本の雑誌や新聞、ワイドショー番組などを賑やかにしています。フィギュアスケーターといえども芸能人ではなくアスリート、それ以前に一人の人間であり、その人生の選択、つまり生き様そのものがここまで話題を呼ぶということ自体、フィギュアスケートの日本における関心の高さをそのまま表しているのでしょう。日本でのその報道は、ドイツでいえばプライベートの華やかさで有名な元・テニス選手のボリス・ベッカー氏を思わせる過熱ぶりです。ドイツでは、今は芸能人になっておりプライベートもそれなりに話題性がある元・フィギュアスケート選手のタンヤ・シェフチェンコさんですら報道が少なく、まさにフィギュアスケート人気の日独差をそのまま見ている感じです(→フィギュアスケーターの人生設計を考える(1)…タンヤ・シェフチェンコ(ドイツ)の場合)。

もっとも、「子供が四人もいて、今のパートナーが二人目、それなのに正式な結婚歴が一度もない」という現フランス大統領が象徴する如く、男女が入籍しないまま子供を引き連れてくっついたり離れたりすることは欧州では日常茶飯事であります。世界中をもっと重大なニュースが連日駆け巡っている中、報道するメディアにとっても受け手の国民にとっても、そんな男女の話はありふれ過ぎていて、そもそもニュースにすらならないようです。

さて、今回はフィギュアスケーターの引退後の進路の王道とされる「コーチ」「指導者」について取り上げます。それも、ユニークな指導をしているイタリア人のアイスダンスのコーチです。

(2013年1月26日、ザグレブでの欧州フィギュアスケート選手権。アイスダンスのフリーダンスでのリンクサイド)

イタリア国旗のマークのついたジャンパーを来た男性陣の横で、中央の女性がなかなか厳しい表情でリンクを睨んでいます。このベージュのストールを身にまとった女性、元アイスダンスの選手で今はコーチとなっているバーバラ・フーザルポリ(Barbara Fusar-Poli)さんです。マウリツィオ・マルガリオ(Maurizio Margaglio)と組んでの2001年バンクーバー世界選手権での金メダルと、2002年ソルトレイクシティ五輪での銅メダルは、ともに「イタリアのフィギュアスケート界初」という枕詞がついた記念すべきメダル獲得でした。そして、ソルトレイクシティ五輪直後のアマチュア引退、2006年トリノ五輪でのアマチュア復帰(6位)を経て、今はアイスダンスの指導者として活躍中です。

ちょうど、教え子のシャルレーヌ・ギニャール(Charlène Guignard、23歳)/マルコ・ファッブリ(Marco Fabbri、当時24歳)のフリーダンス演技の真っ最中、フーザルポリさんがリンクサイドに置いてあった何かを慌てたように手繰り寄せた瞬間が目に留まりました。それが、コチラです↓。

 

彼女の左手に握られているもの…それは何と、以前私が「大食いロケの必需品」としても取り上げたことのある、ストップウォッチでした↓。(→大食いドクターのカバンの中身(3)…ストップウォッチ編(前)、→大食いドクターのカバンの中身(4)…ストップウォッチ編(後

どうやら彼女、ストレートラインステップにおける(ある箇所から別の箇所までの)所用時間を測っていたようです。そして、測り終えて数字の出たディスプレイを周囲の男性コーチ陣に誇らしげに見せながら、何やら興奮気味に喜んでいた姿がとても印象的でした。きっと、「ここからここまでを何秒以内で抜けること」という課題を、彼女は教え子の二人に課していたのではないでしょうか。そして、私もフィギュアスケート観戦歴はまだとても浅く、見た大会の数もまだ両手で数えられる程度ではありますが、少なくともこれまでリンクサイドのコーチが、それも本番中にストップウォッチをおもむろに出してきた姿を見たのは、私は今回が初めてでした。

ただ、以前からこのコラムをお読みいただいている方であれば、ストップウォッチが(大食いロケのみならず)野球観戦においても必需品であることを既にご存じかと思います。

この原稿が掲載される頃は、第85回全国高等学校野球選手権大会への出場をかけて、全国各地での地区大会が盛り上がり始めている頃かと思います。登場する打者や走者が塁間を駆け抜ける秒数でその足の速さを、あるいはキャッチャーの二塁への送球の秒数でその肩の強さを、スカウトたちは数値化して資料を作成します。今もきっと全国の地方球場のネット裏では、各プロ球団のスカウトや大学・社会人野球関係者などがカバンの中にストップウォッチをしのばせては、前掲のフーザルポリさんのように慌てて手繰り寄せ、スイッチをカチャカチャやっているのではないかと想像します。

なお、かつて2010年にドイツのシュトゥットガルトでヨーロッパ野球選手権大会(2年に一回開催)を観戦したことがあるのですが、この際にも下のような光景を目撃したことがありました。

一塁コーチャーズボックスの男性、右手にこれまたストップウォッチを握っています。しかもこの男性、これまたイタリアチームのコーチなのです!イタリアのコーチはよほどストップウォッチが好きと見えます(笑)。

(ちなみにこの試合、オランダとの決勝戦である。この試合で勝利し優勝。ちなみに、2012年までに過去32回開催されたヨーロッパ野球選手権大会のうち、イタリアとオランダによる決勝対決は実に25回!その内訳は今の所、イタリアの9勝16敗)

日本でも、ベンチにいるコーチやスタンドにいる関係者がストップウオッチを持って計測している姿は珍しくはありませんが、フィールド内の一塁コーチがおもむろにストップウオッチを出して計測する姿は見たことがありません。しかも、このイタリア人コーチ、測定結果を毎回一塁ランナーに伝言しに行ったりしていたのが、これまた印象的でした(↑)。

多分、フィギュアスケートのフーザルポリさんにしろ、このイタリア野球のコーチにしろ、奇遇にもストップウォッチという共通点が見られた背景には、感覚的な領域を指導することのそもそもの困難さに対し、「データ」「数値」を用いてその指導に説得力を持たせようという彼らなりの創意工夫があるのだと思います。教え子の方にも、「もっとああしろ」「もっとこうしろ」と曖昧なことを言われるよりは、実際に数値を見せられつつ自分の感覚にフィードバックをかけていく方が、実際の技能向上を実感しやすい、という側面もあるのでしょう。

そういえば、イタリア人スケーターのカロリーナ・コストナー選手もまた、自身の演技終了後のキスアンドクライで、次の競技者の演技が始まろうが会場の片づけが始まろうが、延々とドイツ人コーチと喧々諤々のディスカッションを繰り広げているのを、私は何度も目撃しています。さらに私の周囲でも、「プライベートではアバウトな割に、仕事ではヘリクツっぽさが半端ない!」というイタリア人研究者が多いことからも、ひょっとしてイタリア人共通の感覚も何か関係しているのかもしれません。

(2011年11月4日、中国・上海のカップ・オブ・チャイナ。ショートプログラム終了後なかなか席を立たないコストナー選手とコーチのミヒャエル・フート氏)

(2013年1月25日、ザグレブでの欧州選手権。ショートプログラム終了後、すでに次の演技者の演技が始まっているが、ここでも議論白熱でまるで席を立つ気配のない二人。ちなみにコストナーはドイツ語ペラペラである)

それにしても、野球とフィギュアスケートという、一見してまるで別次元の、それはもうかけ離れていると思われた競技の間でこのような共通点が出てくること自体、私にとっては新鮮な驚きでしたし、これこそが多種多様なスポーツを観戦することの面白さなのでしょう。まずは次回、私もフィギュアスケート観戦に野球仕様のストップウォッチ転用して「フーザルポリごっこ」などしちゃおうかしら、などと妄想しております(笑)。

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