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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/06/14

私が英語でつまづいた理由とは?…足を引っ張る『間違ったお友だち』の正体

日本にいても海外にいても、「フランス人は英語が苦手」とか「フランス人は英語が分かっていても、意地でも英語を話さない」といった、フランス人の英語に対する苦手意識ないし対抗意識を彷彿とさせる笑い話の類は実によく耳にします。しかし、「実はドイツ人も負けず劣らず英語が苦手」という話をすると、ドイツ以外の国の人々はみなさん意外そうな顔をします。もちろん、全然話せないひともいればペラペラな人もいるのはドイツも日本も同じなのですが、いかにも上手そうに英語をペラペラしゃべっているように見えるドイツ人が、実は心の中でかなりテンパッて心臓バクバクというケースが多々あるということを、私は渡独するまで知りませんでした。そして、それには理由がある…というのが今週のテーマです。

先週のコラムで、自分が英語を苦手になった経緯について、このように書きました(→私がクロアチア語にハマり始めた理由…次々見つかる日本語との思わぬ類似点!):

「…日本に帰国して英語の授業(←私のころは英会話とはかけ離れた”受験英語”しかなかった)が始まってからというもの、ドイツ語と英語が下手に「似て非なる」言語という紛らわしさも手伝い、授業にうまく適応できず、高校の頃にはすっかり英語嫌いになった…」

ここに挙げた、「似て非なる」というのが、その原因の全てと言っても過言ではないでしょう。とにかく英語とドイツ語は、ひたすら紛らわしいのです。英語とフランス語の方がまだマシな気もします。私自身、帰国直後の日本の中学時代、この「似て非なる」の罠に何度もひっかかっているのですが、その中でも最も派手にやらかしたのは、中学時代のこちらの英文和訳問題がテストに出た際のことでした↓:

”I gave her a gift.”

皆さまならどう訳しますか?Gift(ギフト)という単語は今やすっかり日本語化しており、「クリスマスギフト商戦」なんて言葉もあるくらいですから、まず間違うことはないですよね?正解は「私は彼女にプレゼントをあげた」となります。しかし、私は学校でただ一人、何の疑問もなくこの文をこのように訳したのです↓:

「私は彼女に毒を盛った」

あわわわわ~、淡いラブストーリーから一転、戦慄のホラー&サスペンスになってしまいました(笑)!採点した英語教師もブッ飛んだというわが迷訳、どうしてこんなことになってしまったのかというと、ドイツ語の「ギフト(Gift)」という単語が「毒」(英語でいうポイズンpoison、フランス語のプワゾンpoison)という意味だからです。当時の私には、この問題を間違えたことよりも、これを間違えたのが全校生徒中で私ただ一人だったという事の方がはるかにショックでした。ドイツに転校した直後に『九九』の威力で大いに目立った私も(→日本語とクロアチア語の思わぬ共通点…「数の簡潔性」と『九九』は東洋の誇る文化遺産?)、この「ギフト事件」でまたもや学校中にウワサがとどろいてしまい、どうも私は学校が変わるたびに派手にやらかす星のもとに生まれているようです(笑)。

ちなみに、ドイツ語の「ギフト」には贈り物という意味は一応無いことはないのですが、その意味で使われることはまずありません。「ギフト=毒」という単語はドイツ語ではあまりに基本単語中の基本単語すぎるので、私は英語の「ギフト」に遭遇した際、おそらく「こんなの辞書ひくまでもない」と思ってしまったのでしょう。結果として、堂々と自信満々に誤った答えを書くに至ったのです。

ドイツ語とドイツ語以外のヨーロッパ言語のと間には、このような「同じ綴りなのに意味が違う単語」の組み合わせが非常に多く、これらをドイツでは「ファルシェ・フロインデ(falsche Freunde)」と呼びます。「ファルシュ(falsch)」は「誤っている」「間違い」「偽り、ニセの」といった意味、「フロインデ(Freunde)」は「友」の複数なので、直訳すれば「間違った友」「ニセ友」でしょうか。ちなみに、日本語では「空似言葉」(そらにことば)というようで、こちらの方が「間違った友」つまり「友達と思って声をかけたら人違いだった」というその語源、つまり「他人の空似(そらに)」という元来の意味に忠実な気がします。

この「空似言葉」ですが、英語圏でもfalse friends、フランス語圏でもfaux amis、スペイン語圏でもfalsos amigosと、いずれも「間違った友」となっているばかりでなく、さらにはクロアチア語でもロシア語でもチェコ語でも、なんとアラビア語でも「間違った友」という具合に世界の津々浦々で見事に一致しているのが興味深いところです。ドイツ人が英語で四苦八苦するのも、この”人違い”のお友だちを脳内で選り分けるという脳内作業の煩雑さで血圧や脈拍が上がってしまうから(笑)…という風に見えてきます。Wikipedia日本語版の「空似言葉」の項には、それこそ私が恥をかいた「ギフト問題」もしっかり収録されています↓。

Wikipedia日本語版- 空似言葉(そらにことば)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%BA%E4%BC%BC%E8%A8%80%E8%91%89

例)
英語・フランス語「rat」(ネズミ)とドイツ語「Rat」(助言)
英語「rock」(岩)とドイツ語「Rock」(スカート)
英語「gut」(腸)とドイツ語「gut」(良い)
など。

他にも、ここには書いていないものの、私が中学時代に苦労した「空似言葉」としては、

・英語「オールソー also」(~もまた、同様に)≠ドイツ語「アルゾー also」(従って、つまり)
 (英語でいう「so, then」に相当)
・英語「カインド kind」(親切な)≠ドイツ語「キント Kind」(子供)
 (では英語「チャイルド child」)
・英語「ウィル will」(…だろう)≠ドイツ語「スティル will」(…するつもり、しようとする)
 英語のwillは無意志の単純未来をあらわす用法がメイン(有意志の未来をあらわすこともある)のに対し、ドイツ語のwillは主に意思・意欲をあらわし、英語のwantに近くなる。英文和訳で何度これを間違えたことか…。

逆に、社会人になってから渡独した私が今でもよく遭遇する、生活に密着した「空似言葉」となると、コチラのような感じです↓:

・英語「etiquette エチケット」≠独語「エチケットEtikett」(ラベル、値札)
デパートで商品を買う客がいきなり「エチケットを外してくれ」と言ってきたら、日本のデパートガールはオロオロしてしまうことでしょう。しかし、何の非礼も無礼も被ることはありませんのでご安心を。値札(商品タグ)を外してくれ、という意味で、(上着や傘など)買ったその場ですぐ使用したい時に普通にでてくる表現です。しかし、最初に聞いたときは、さすがに私も目をひん剥いてしまいました(笑)。ちなみに、いわゆるエチケットは「エチケッテ Etiquette」というのですが、末尾がテからトに変わることで、まるで意味が変わってしまうのが恐ろしい。ちなみに、ジャムなどのビンの表面に貼ってある商品名シールもエチケットという。

・英語「menu」(メニュー)≠ドイツ語「Menü」フランス語「menu」(定食、コース料理)=英語「set meal」
「料理のメニュー」と「定食」は、フランスとドイツが連合軍を組んでイギリスと対峙する構図になっている単語の代表格。前者はドイツ語で「カルテ(Karte)」、フランス語が「キャルト(carte)」、後者がドイツ語「Menü」フランス語「menu」。ちなみに日本はイギリスと連合軍を組んでいるようなので、独仏のレストランに入ったら注意を要します。いわゆるメニューを持ってきて欲しいときは、ドイツでは「シュパイゼカルテ・ビッテ(Speisekarte, bitte)」、フランスなら「ラ・キャルト、シルブプレ(La carte, SVP)」でOK。

・英語「map」(地図)≠ドイツ語「マッペ Mappe」(書類入れ、フォルダー・ブリーフケース)
 ドイツ語のマッペに「地図」という意味が一切ないところがドイツ人泣かせ。イギリス人にとってもしばしば間違いの基となっている。地図はドイツ語では「ランドカルテLandkarte」、市街地図なら「シュタットプランStadtplan」です(この点はフランス語も同様で、carteとplanはドイツフランス連合軍)。ドイツ人に「マッペ取ってくれ」といわれたら、「サイズは?世界版?ヨーロッパ版?」なんて答えてはいけないのである。

・英語「concrete」(具体的な、固体の・コンクリートの)とドイツ語「konkret」(具体的な)
 両方とも「具体的な」を意味する点では同じだが、ドイツ語の「コンクリート」には英語や日本語でいう「コンクリート」の意味はなく、いわゆるコンクリートのことは「ベトン Beton」と言う。これもフランス語は「ベトン(béton)」と、独仏連合アゲインである。

・英語「consequent」(結果として生ずる、必然の・当然な)≠ドイツ語「konsequent」(首尾一貫した、断固たる、とことん)
 こちらは「似て非なる」紛らわしさも三本の指に入るドイツ人泣かせの表現。英語だと「(自分の意思とは無関係に)論理上そうなるのが必然」「当然の帰結として」という意味で使われるのに対し、ドイツ語になると途端に「(流れに逆らってでも)自らの意思をとことんつらぬく」というゲルマン民族の頑固さ(?)が珍入してくる。テレビのインタビューで政治家がやたらとこの単語を連発するのも印象的(日本の政治家も最近「断固たる○×…!」「ブレない△◇…!」といった発言が多くなったようですね)。また、学術的なディスカッションでも頻出の単語なだけに、今でもたまにドイツ人研究者が英語プレゼン中にお隣のお友だちに「どっちだっけ?」と小声で確認していたりする(偽りのない友だちだと良いのですが…)。

・「actually」(実は、実際は)≠ドイツ語「aktuell」(時事的な、目下の)(=英語でいう「topical, up-to-date」)
これも学術関連のプレゼンなどでドイツ人が頻繁にハマるピットフォールとして有名。これと同様の紛らわしい表現に、「eventually」(結局は、ついに、ゆくゆくは)≠eventuell(場合によって、ひょっとすると)(=英語でいう「perhaps」)というのもある。これでプレゼン中に失語症になるドイツ人も!そんな彼らは、私が英語を投げ出したくなる気持ちを誰よりもよく理解してくれる(笑)。

・英語「アス ass」(尻、ケツ)≠ドイツ語「アス Ass」(エース)
 ドイツに来た早々、一番最初に面食らったのがこのAssという単語です。「こっ恥ずかしい!ドイツ空似言葉ランキング」なんてのがあれば、堂々の1位を射止めるのはこの単語で決まりでしょう。ハリウッド映画のセリフで「Asshole!」(クソったれ!)などと罵声が飛び交うシーンは珍しくありませんが、英語でassといえば「尻」「ケツ」「間抜け野郎」「抜け作」など、ロクな意味はありません。しかし、ドイツの「Ass」にはおケツといった下品な意味は皆無、それどころか全く対局にある言葉で、ズバリ日本語でいう「エース」(英語でいうace)の意味なのです。テニスのサービスエースもゴルフのホールインワンも「アス!(Ass)」ですし、「♬ハートのエースが出てこな~い~♪」のトランプの「エース」も野球のエースも、みんな「アス!(Ass)」です。最近まで錦織圭選手の快進撃で盛り上がっていた全仏オープンのテニス中継でも、この単語を絶叫するドイツのアナウンサーに毎回ギョギョッとさかなクンになってしまう私は、やはり日本人でした(笑)。ドイツでは「彼はうちの会社のアスAssだ」などと人を紹介するシーンも珍しくありませんが、アメリカやイギリスから来た転校生の坊ちゃんなどは、これを聞くたびにどんな想像をたくましくしてしまうのか、これまたちょっぴり気になるところです(笑)。

なお、「エース」はフランス語でも「アス (as)」といい、ドイツ語の「Ass」はそもそもフランス語起源なのだそうです。そして、英語の「おケツ」である「ass」の方が、なんとドイツ語の「アルシュ(Arsch)」(おケツ)が起源だというから、つくづく言語というのは面白いものです。

いかがでしたでしょうか。英語に取り組めば取り組むほど、次から次へと「間違ったお友だち」がそこら中から湧いてきます。テンパリすぎて発狂寸前のドイツ人の深き苦悩が、何年学んでもなかなか英語を話せないと揶揄される私たち日本人にも理解できる気がします!私の周囲では、ドイツ語話者の中に一人でもドイツ語のできない人が来たら、その瞬間に会話を全て英語に切り替えなくてはならないという暗黙のルールがあるのですが、会話の輪からイタリア人や中国人などのドイツ語を話せない先生たちが抜けたときの、あの「はぁ~~っっ…」という、ドイツ人一同が胸に手を当てながら思わず漏らす安堵の溜息を聞くたびに、彼らが何だかとても身近な存在に思えて仕方がない今日この頃であります。

 

(パリのビストロの前には、メニューの文字の下にコース料理の内訳が書いてある黒板がある。岩手放送のオラ君も食い気炸裂気味)

<参考サイト>
Englisch-hilfen.de ”False friends, Falsche Freunde"
http://www.englisch-hilfen.de/words/false_friends.htm

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