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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/05/31

欧州の超有名ゲーム「MIKADO」に思う…ドイツの高齢化社会に求められる移民の資質と国民性

人間には誰しも得意なこととと不得意なことがある…というのは、自明のことです。それが個人としての資質である場合もあれば、集団としての特性の中でそう見えるケースもあります。ここでいう集団特性とは、たとえば「氏素性」だったり「生育歴」だったり、「地域柄」や「お国柄」だったり、「人種的要素」なども含まれます。ただし、特に最後に挙げた項目が往々にして”差別”と結びついてきた人類の長い歴史的経緯があるため、このことに言及するのはあまり好ましくないという空気が世界的にあります。あることに秀でていれば、別のことが恐ろしく苦手であることもある…ということの例として以前のコラムで取り上げた『東洋人が得意で西洋人が苦手な九九』というエピソードも、日本人同士で語るには何の問題もないのですが、(四則演算の苦手な人の多い)欧州ではやや微妙な話題だったりします。東洋系人種が『九九』をはじめとする四則演算に強いのは、単に「十進法の読み下し方式」という使用言語のトリックにしか過ぎない…という単純なオチに過ぎないものの、やはり先方から質問されるのでない限り、少なくともこちらからこの話題に言及することはまずありません。(→日本語とクロアチア語の思わぬ共通点…「数の簡潔性」と『九九』は東洋の誇る文化遺産?!

さて、このような微妙な話題は他にはないのかというと、実はもう一つある…それが今週のテーマです。以前のコラムでもチラリと登場した”MIKADO”について、ここで振り返ってみましょう。(→クロアチア土産の中に見出す日本(2)…MIKADOにSAPOROって?!キティちゃんボトルの水も登場!

 

MIKADOとは、ヨーロッパでは長い歴史を持つ遊びの一つで、爪楊枝を長くしたような細長い串状の竹製の棒を41本使用して、手先の器用さを競います。私もドイツで幼少時代を送っていた頃、よく放課後に誰かの家に集合して「大MIKADO大会」を開いたことを思い出します。当時使用していたMIKADOの現物はさすがにもう手元にないため、ン十年ぶりに新たにデパートで買い求めたのが、上下の写真の品です。

Amazon.de - Philos 6001 - Mikado Geschicklichkeitsspiel
http://www.amazon.de/Philos-Spiele-6001-Mikado-Geschicklichkeitsspiel/dp/B0006A3J52/ref=tag_dpp_lp_edpp_ttl_in
(ちなみに私が近所のデパートで買った時の値段は3.99ユーロ、約500円でした。ドイツの他の通販サイトも比較して見る限り、安いものは300円程度から、高いものは1300円程度と、まさにピンキリの様子)
 

 

木製のケースを開くと、中から竹の香りがプ~ンと芳しい限りです。尖った竹串の先端を触ってみると、えらくシャープでツンツンしており、これなら歯間のお掃除とか、煮物に火が通ったかの確認のためにジャカイモにブスブス刺してしまいそうで、その応用範囲は思ったより広そうです(笑)。なお、本来の用途であるゲームを楽しみたい場合は、まず中の竹棒を全部取り出し、束にして床に対して立てた状態で握り、その握った手を一気に放します。すると、棒が放射状に散らばってこのような感じになります↓。

 

ありゃりゃ、こりゃダメですね!全然放射状に折り重なってくれませんでした。というのも、おろしたての新品でまだ棒の表面がツルツルで摩擦が少なすぎるため、互いにはじきあってしまうようです。これが経年使用に伴い表面が摩耗してくると、いい感じで互いに引っかかりあって放射状に散らばってくれます。下記のWikipediaには、うまく散らばったMIKADOのゲーム開始直前の写真や、実際のプレーヤーの真剣な表情も見ることができますので、よろしければ参考にしてください。

Wikipedia英語版 - Mikado (game)
http://en.wikipedia.org/wiki/Mikado_%28game%29

さらに蛇足ながら、この41本の竹棒を束ねた様子が、こちらの欧州版グリコのポッキーである「MIKADO」の命名の由来となったのではないかと思われます↓。

 

 

話は戻り、MIKADOにおいてプレーヤーは散らばった棒を一本ずつ手で丹念に取っていくのですが、取る際に周囲の棒をピクリとも動かすことが一切あってはならない…というのが、このゲームのルールです。もし、周囲の棒が微動でもしたら、そこで選手交替となります(従って、基本的には2名以上での遊びであり、多くても4人以下の方が面白い)。周囲から孤立するほどすっ飛んた棒は取りやすいので、ゲーム前半はそのような棒をひたすら取っていくのですが、それらを取り尽して次は棒が折り重なった「山」に着手するとなると、棒を取ること自体の難易度がグンと上がります。深く埋もれた棒は当然取りにくく、その前段階としてまずは「山」の表面を構成する棒を取っていくのですが、いかに周囲の棒を揺らしたり「山崩れ」を招くことなく進めていくかが勝敗のカギを握ります。

なお、既にお気づきかと思いますが、これらの棒には異なるパターンの色が塗られており、そのパターンに応じて異なる得点が付与されています。最終的には、各個人が獲得した棒の点数の合計を集計、最も多い人が勝ちとなります。この中でも最も得点の高い棒は、下の写真の一番上にある黒いシマシマのものであり、この棒の名が「ミカド(帝)」であることから、このゲームそのものの名が付けられたようです。

 

上の写真で、各棒の得点と本数は以下の通り:

Mikado: 皇帝(黒のシマシマ)      20点、全1本
Mandarin: 官僚(つながった青赤青)  10点、全5本
Bonze: 坊主(青・赤・青のシマ)     5点、全5本
Samurai: 武士(赤・緑・青のシマ)    3点、全15本
Kuli: 苦力(赤と青のシマ)        2点、全15本

以上、全41本、総得点170点を取り合うゲーム、それがMIKADOであります。

さて、大変前置きが長くなってしまいましたが、ここからが本題です。『九九』のエピソードに引き続いての過去の武勇伝になってしまうのがお恥ずかしい限りですが、私は小学校時代、このゲームで誰にも負けたことがありませんでした。子供はおろか、ドイツ人の大人と戦っても無敵無敗で、「日本のガキって何でこんなに手先が器用なんだ?!」と、ここでも『九九』以来のセンセーションを巻き起こしてしまったのですが(笑)、これまた決して私が人並み外れて手先が器用だったわけでも何でもなく、ただ単に私が「箸を使う民族の一員だから」という、ただそれだけの理由でしかありませんでした。要するに、ここでもまた、タネも仕掛けもあったわけです(笑)。しかし、今でこそ中華料理を筆頭に日本料理、ベトナム・タイ料理などのアジア料理店が街に溢れるようになったドイツでは、ドイツ人が箸を使う機会も随分と増えましたが、私の小学生当時といえば、そもそも私が同校史上初の東洋人生徒だったということからも、それこそMIKADOの竹串のようなスティック2本を用いてご飯を食べる民族自体が好奇の目で見られていたご時世でした。

「箸使い」のような手先の器用さが如実に表れる技能は、やはり子供の頃から積んでこそ骨身に着くというのは、楽器やスポーツなどの特殊技能の習得と同様の構図と考えられます。21世紀のドイツのアジア料理店に限らず、日本のレストランで危なっかしい箸使いで奮闘する海外からの観光客に遭遇したことのある方ならお察しかと思いますが、子供の頃からの長いキャリアを誇る者と、成人してから特訓を開始した者との間では、その技量差は”見る人が見れば一目瞭然”なのであります。

となると、前回のコラムでも述べた「外科系医師に移民が多い」という話も、ここにつながってきます。フランクフルター・アルゲマイネ紙の最近の記事による、目下ドイツは空前の移民ブームのさなかにあり、2012年だけでも108万人の移民がドイツに流入したそうです。彼らの多くは東欧諸国からの移民で、トップスリーはポーランド(17万6740人、2011年比+8%)、ルーマニア(11万6200人、同+23%)、ブルガリア(5万8500人、同+14%)と、さすがにEU加盟国が多くなっています。これは「居住移転の自由」というEU市民としての権利も背景にあろうことは、これからEU加盟を予定しているクロアチアについて言及した前回コラムと同様です(→祝!ついにEU入り決定!…欧州連合の一員としてのクロアチアの前途)。

Frankfurter Allgemeine Zeitung - Politik - "Einwanderung in Deutschland 2012 auf Rekordniveau"
http://www.faz.net/aktuell/politik/inland/statistisches-bundesamt-einwanderung-in-deutschland-2012-auf-rekordniveau-12175314.html

この中でも、ドイツが特に移民を必要としている分野が、医療・介護です。日本同様の社会の高齢化を問題として抱えるドイツでは、「Pflegebedürftige」(要介護者)の数は1999年には202万人だったのがズンズン右肩上がりの増加を示し、2020年には290万人に達しようかと予測されています。増大する需要に対し、看護・介護職の供給源としてこれまで貢献してきたのは、拡大を続けるEU諸国の中でも特に東欧(ポーランド・チェコ・スロバキア・ハンガリー)からの移民でした。しかし、これでは全く人手が追いついていないらしく、今度はEU未加盟諸国(ボスニア・セルビア・記事作成時点ではクロアチアもここに入る)からの移民強化、ひいては非欧州諸国の中国やフィリピンからの移民を大幅増員してドイツの高齢化社会を乗り切ろう…そんな話になっているようです↓:

Focus ONLINE - Pflegekräfte aus China: Kulturschock am Krankenbett (2013年4月4日)
http://www.focus.de/finanzen/versicherungen/krankenversicherung/tid-30422/tausende-offene-stellen-arbeitsagentur-fischt-in-asien-nach-pflegekraeften_aid_953501.html

上記記事内で興味深かったのは、アジア人特有の語学能力の問題(「東欧諸国と比してアジア諸国の人々はドイツ語の習得がより難しい」)と、アジアとヨーロッパにおける性格や社会慣習の相違(「アジアの人々には自己決断の習慣が元々乏しい」「ドイツ人は上司から命令されることを相互不信の証と考えるのでに対し、アジア人は命令されたがる」)という指摘で、これは日本にとっても決して他人事ではないように思えます。

なお、ドイツでは介護に限らず、医療現場においても人員不足の事態は深刻です。(特に地方の)病院の勤務医や看護師は慢性的に不足し、専門技能を持つ海外からの移民に頼らざるを得ない実情があります。EUができる以前から、ドイツにおける医師・看護師の供給源として伝統的に多いのは南欧諸国(ルーマニア・ギリシャ・クロアチア・セルビア・アルバニア等)ならびに東欧諸国(ポーランド・ロシア)とされており、私の渡独以降見聞きしてきた経験とだいたい一致します。

Deutsche Welle - Ausländische Ärzte in Deutschland (2013年1月15日)
http://www.dw.de/ausl%C3%A4ndische-%C3%A4rzte-in-deutschland/a-16508388

例えば、私の専門分野である脳神経外科に関する限り、この業界は元々ビッグスターに移民が珍しくありません。20世紀最高の脳外科医かつ「マイクロサージャリーの父」の呼称を誇るM. Gazi Yaşargilはトルコ人(ドイツの大学医学部卒→スイス・チューリヒ大教授→アメリカ・アーカンサス医科学大学教授)、主にドイツで活躍したMadjid Samiiはイラン人(ドイツの大学医学部卒→ドイツ・ハノーファー医科大学教授→国際神経科学研究所設立)と、ドイツと縁の深い世界的脳外科医が揃いも揃ってアジア系移民というのは興味深いところです。他にも、脳腫瘍の化学療法で使用されるオンマヤ・チューブの発明者として知られるAyub K. Ommayaはパキスタン人(パキスタンの医大卒→イギリス・オックスフォード大学院卒→アメリカNIHで活躍、ジョージワシントン大教授)、オーストラリアきっての有名脳外科医Charles Teoは中国・シンガポール系オーストラリア人二世、日本でも有名な「ゴッドハンド」(神の手)の異名をとる日本人脳外科医の福島孝徳先生は「お箸の国」(笑)の出身(東京大学医学部卒→ドイツ留学歴あり→48歳で渡米→アメリカ・デューク大教授)…ざっと思い浮かべただけでも、中東・インド・東アジアの存在感が大きいのは、これらの国の国民性や生活習慣などの中に、脳神経外科医という職業上問われる資質との相性の良さが背後にある可能性が十分推察されます。

以上、MIKADOというゲームはどうやら日本人には圧倒的に有利らしい…という話から派生し、ドイツの生命線とされる「移民」、さらにはその資質を活用する「移民社会」について少し考えてみました。日本も、ドイツほど割り切って考えるかはさておき、「ハンパなき高齢化社会の到来」に向けてのシミュレーションは早急に必要な段階に入っているかと思っています。

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