Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/05/24

祝!ついにEU入り決定!…欧州連合の一員としてのクロアチアの前途

ここのところ妙にクロアチアづいていた当コラムですが、そこへ唐突にクロアチアのEU加盟の正式決定を伝える記事がYahooニュースに掲載され、何とタイムリーなことかと驚いたものでした。↓(青字は引用部分)

Yahooニュース2013年5月17日:「クロアチア、7月にEU加盟…28ヶ国体制に」(Yomiuri Onlineより)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130517-00000458-yom-int
【ベルリン=工藤武人】ドイツ連邦議会(下院)は16日、クロアチアの欧州連合(EU)への新規加盟条約を承認した。
 これにより、27加盟国で同条約の批准手続きが終了することになり、クロアチアの7月からのEU加盟が正式に決まった。
 EUは28か国体制に拡大する。
 ウェスターウェレ独外相は連邦議会による承認後、1990年代に旧ユーゴスラビア紛争を経験したクロアチアのEU加盟を「歴史的な決断」と評価した。


これに該当するドイツ連邦政府公式サイトの報告はコチラです。↓
Bundesregierung 2013年5月16日: EU-Erweiterung "Kroatien wird 28. EU-Mitglied"(EU拡大「クロアチアが28番目の欧州連合加盟国に」)
http://www.bundesregierung.de/Content/DE/Artikel/2013/05/2013-05-16-kroatien.html

1991年に旧ユーゴスラビア連邦から独立したクロアチアは、その後のセルビア人勢力とユーゴスラビア連邦軍との激しい内戦(クロアチア紛争)を経て、2003年2月21日にEU正規加盟の申請を開始、2004年に加盟候補国となり、2011年12月9日にEU加盟条約調印、2012年1月22日には国民投票で賛成多数…と、順調にEUへの道を歩んできておりました。その過程で、記憶に新しいキプロス問題などユーロ諸国の財政危機という逆風を幾度も受けつつも、残るは2013年7月1日に28番目のEU加盟国となるまでの間に他の加盟済の27ヶ国の批准を待つだけ…という状態だったのですが、ついにその最後の手続きとなるドイツによる批准が完了した…というのが、上記の2つのリンクの記事であります。キプロス問題が世界中で騒がれた際には、この調子でEUは拡張路線をばく進して果たして大丈夫なのかと、日本に限らず世界中のあちこちで懸念されましたが、上記のドイツ連邦政府のサイトの記述を見ると、ドイツの立場が明確に書かれている上に、私もそれまで知らなかったような事項が解説されており、以下に和訳して箇条書きにしてご紹介します:

1) 今回のクロアチアの加盟により、欧州連合28ヶ国の人口は5億500万人以上となる。
2) 元々ドイツにはクロアチア系人口が20万人おり、今回の加盟は彼らにとって故郷が近くなることを意味する。
3) EU加盟により、クロアチアには欧州連合の権利を受け継ぎ、クロアチア市民には連合市民としての全ての権利が与えられる。例えば、Freizügigkeit(住居移転の自由)、diplomatischer Schutz(外交上の保護)、Diskriminierungsverbot(差別待遇の禁止)、Petitionsrechte gegenüber den EU-Institutionen(欧州連合機関に対する請願権) など。
4) この加盟により、クロアチアと既存のEU加盟諸国との関係がこれまでにも増して深化していく。ドイツ首相アンゲラ・メルケルはクロアチアの加盟を一貫してずっと支持してきた。
5) 2004年にEU加盟候補国となって以来、クロアチアはEUとの間で幾多の折衝(改革遂行、目標設定等)を集中的に重ねてきた。


これらを読んで、私が本年1月にクロアチアを訪問した際、町中のクロアチア国旗の横に必ずといって良いほどEU旗が掛かっていたことがようやく納得できました。「あれ?クロアチア、もうEUに加盟してたっけ?」と当時は随分と頭が混乱したものでしたが、クロアチアの加盟は随分昔から既定路線だったということです。しかもこの文章、かなり短いのにもかかわらず重要なことがすべて網羅されています。

まず、上記1)の「5億人規模」という人口サイズの大きさは、北米人口(アメリカ・カナダ・メキシコの合計)をも上回り、中国の1/3も超えてきたという点で注目に値します(EUを一つの国と仮定した場合、中国、インドに引き続き第3位に相当)。さらに、上記2)の「ドイツにおけるクロアチア系人口20万人」に関してはいろいろと思い当たることがあります。私が初めてドイツの研究所に赴任した2005年末のことした。まだ自分の正規に腰を落ち着ける家が決まらない間、私は研究者専用のドミトリーのような所に仮住まいしていたのですが、ここに何人かクロアチアからの研究者が先に住んでいたのです。その頃の私はまだ、クロアチアがどこにあるどういう国なのか全くと言って良いほど知識がありませんでしたが、そこへグッドタイミングで2006年6月にドイツ開催のワールドカップサッカーがあり、しかも日本のグループリーグでの対戦相手の中に何とそのクロアチアがいたのです。私がもらい物の「SAMURAI BLUE」のフラッグをぶら下げようかとバルコニーに出た瞬間、ちょうどそこに通りかかったのがクロアチアの身長2メートル位あろうかという若いにーちゃんで、この時は微妙な空気がサラ~っと流れた後、どちらからともなく苦笑しつつ「グーテンターク!」と挨拶をしたこと、そして後日、日本vsクロアチアが(幸か不幸か)0-0の引き分けに終わり、そのにーちゃんと再びすれ違った際、「いい試合だったね」と円満に語り合ったことを、今も鮮明に覚えています。

以前のコラムでも書いたように、数字の数え方が日本と同じ読み下し方式であるクロアチア語の効能なのか否かは分かりませんが(→日本語とクロアチア語の思わぬ共通点…「数の簡潔性」と『九九』は東洋の誇る文化遺産?!)、クロアチア人というのはドイツでは(特に理数系分野で)優秀な人たちというイメージがあるようです。最近も、私がよく買い物に行くドイツ大手の家電量販店にクロアチア人店員がいることを発見したばかりです。ドイツにいる20万人のクロアチア人の中には、不法入国等もいるのかもしれませんが、理数系研究者ないしシステムエンジニアとして活躍する人もいれば、「引き算の出来ない(笑)ドイツ人」に交じってその暗算力の高さで存在感を発揮する小売業界のカリスマ店員(?)などもいるのかもしれません。

逆もまた然り、です。クロアチアの首都ザグレブ市内を少しブラブラした記憶をたどってみると、あちこちにEUの先輩諸国の影が有形無形に見え隠れしております。それは、このような光景からもわかります↓。

これはザグレブ市内中心部にある「Erste Bank」(日本語直訳だと「第一銀行」の意味)の玄関です。この銀行は本社をウィーンに置くオーストリアのErste Groupに属し、174万人の顧客を抱える中央・東ヨーロッパ最大規模の銀行です。横の赤いS字のロゴは、貯金箱にコインを入れるイメージから考案されたという、ドイツでもおなじみのSparkasse(日本語訳だと「貯蓄銀行」の意味)と同じロゴであります(ドイツとオーストリアにはどちらもSparkasseがあり、ロゴのデザインも同一だが別組織。Erste BankはあくまでもオーストリアSparkasseグループの傘下にある)。元をただせばクロアチアはオーストリアやハンガリーの支配を受けた歴史があり、18世紀末以降はハプスブルグ家とのつながりが深かったり、一部オーストリア直轄領があったりした時代もあることから、オーストリアとの関係の深さも不思議ではありません。

 

今度は、ザグレブ市内のスーパーマーケットLidlです。こちらはドイツでも屈指のディスカウント・スーパーマーケットのチェーンで、ドイツに来たことのある人なら一度は目にしたことがあるのではないかというほど有名です。Lidlは2011年時点で22ヶ国に9500店舗を展開しており、そのうちドイツ国内3100店舗、クロアチア国内71店舗という、EUも顔負けの拡張路線を地で行っております。なお、他のドイツの小売チェーンでも、大手スーパーのREWE Groupがやはり東欧諸国への展開を強化(クロアチアではBillaの名で48店舗展開)、ドラッグストア大手のMüllerグループもまた全643店舗のうちクロアチアに14店舗を展開中、さらにホームセンターのOBIも東欧展開(ドイツに343店舗、クロアチアに3店舗展開)といった具合で、まだ未進出の大手資本もそのうち東欧市場の成長を見込んで乗り込んでくる可能性が高く、ドイツ巨大資本の東方進出はまさに現代の十字軍か民族大移動かという勢いです。国内での市場や消費が飽和気味のドイツにとって、クロアチアのEU入りはまさにドイツの経済成長の命綱という感じなのかもしれませんが、この調子ではそのうち東欧全体がドイツ資本に食い荒らされて草木も生えなくなりやしないかと、何だか日本のTPP議論のような話ですが、ちょっと心配です。クロアチアには同国資本のスーパーである「Konzum」もあるので、クロアチアブランドも踏ん張ってもらいたいものです。

 

もう一つ、クロアチアを歩いていて気になったのが、こちらです↑。これは普通の薬局の外観ですが、ここで注目していただきたいのは薬局そのものよりむしろ、ショーウィンドーの奥に見える薬のポスターの方です↓(拡大してみました)。

 

 

皆様は今年の花粉症の時期を無事に乗り越えられたでしょうか?例年、鼻水・鼻づまりに悩まれる方も多いかと思います。上の写真にある緑色のパッケージの薬は、ドイツの国民病(!)と言っても過言ではない慢性副鼻腔炎(いわゆる蓄膿)に効くとされる生薬由来の錠剤「Sinupret」です。ドイツの植物系生薬の売上ランキングで毎年第1位を誇り、特に花粉症の時期にはドイツ国内で爆発的な売れ行きを示すという、Bionorica社きってのヒット商品です。「Sinupret」は1933年設立のBionorica社の設立初期からのラインアップにも入っている歴史の長~い薬であり、その有効成分はEisenkraut(クマツヅラ)、Enzianwurzel(リンドウの根)、Holunderblüten(ニワトコの花)、Sauerampfer(スイバ)、Schlüsselblume(サクラソウ)という、西洋医学を学んだ立場から見ればこれの一体何がどう鼻粘膜に効くのかこちらが教えてほしいような薬ですが、ドイツには昔からこの手の生薬由来製剤やこれらを使用した伝統的治療法がかなり市民生活に浸透しており、ちょうどインドのアユルヴェーダや中国の東洋医学のような存在として、現代においても医薬系市場に多大なシェアを占めています。

それにしても、ドイツでよく見るのと同じ薬がクロアチアでも大々的に宣伝・販売されていることの方に、私はむしろ驚かずにはいられませんでした。この時は私自身が風邪をひいていたのですが、この薬局で購入した点鼻薬がこちらはジョンソン&ジョンソン社製品で、つくづく「EUに入る前から外資に席巻されているクロアチア」を実感したものでした。そして、上記4)にある通り、同国が「これからもEU加盟国との関係を深化していく」のだとすると、この傾向には今後ますます拍車がかかるでしょうし、これはもはや「EU」だけの問題でなく、世界中で展開中の「グローバリゼーション」という名の大波荒波のまっただ中にある某小国の、生き残りを賭けた攻防でもあるように思えてくるのです。

では、「経済規模のケタ違いな大国に飲み込まれて搾取され可能性がある」というのがEU入りのリスクならば、その代わりといっては何ですが、EU入りのメリットって何でしょう?EU加盟に際して何らかの返り討ちの可能な対抗手段がなかったら、それは単なる不平等条約であってとてもではないがやっていられない、というのが立場の弱い小国の論理だと思います。そういう観点でクロアチアの448万人の国民の気持ちになって考えてみると、上記3)に挙げられた「EU市民としての権利が漏れなく付与される」というのが、今後大きなカギを握るのではないかと思います。EU圏内での移住の自由はもちろんのこと、EU市民として待遇や差別に関して声を上げる権利も(少なくとも表向きは)与えられるというのは、国民にとって心強い武器となり得ます。

近年、ドイツの医学部附属病院やクリニックで教授・指導教官一覧などを見ていると、ここは本当にドイツなのかと疑うほどにギリシャ系と思われる苗字のオンパレードだったりすることが増えているような気がします。「ミュラー」「マイヤー」「シュミット」はいずこへやら(笑)…?!「パパなんとか」みたいな響きの、Wham!のジョージ・マイケルの本名かと見紛うような名前に最近慣れてきました(ちなみにジョージ・マイケルはギリシャ系で本名Georgius Panayatiou)。他にも、ルーマニアやハンガリーから来た、かなり東欧訛りのきついドクターにお目にかかることも珍しくなく、毎度のように「移民社会ドイツ」の現実を眺めております。東欧の人は(ドイツ人と異なり…と言っては失礼か?)手先が器用で繊細な感覚の持ち主が多いので、医師の場合は外科系で出世するケースが多い印象があります。

クロアチアもまた、勤勉で優秀な人がとても多いことで知られている国なので、EU加盟に伴い彼らの医師免許・歯科医師免許・弁護士資格といったあらゆる国家資格がそのままEUライセンスとして通用するようになることの威力は計り知れず、今後の欧州の知的労働部門の一大勢力となっていく可能性も今から十分に想像できます。従って、汚職防止や犯罪撲滅に取り組む過程でよほどのヘマさえしなければ、クロアチアの前途は比較的明るいのではないかという気がしています。

昨年末にはフランスのル・モンド紙において、フランス国内で歯科医師登録された者のうち、海外で歯科医師資格を取得したケースが4分の1弱を占めるという内容の記事が掲載され、こちらでも話題になりました(しかも医学や薬学系も似た比率であり、この比率が年々増加傾向にあるとも報じられている)。そんな話を見聞きするたびに、日本で一生懸命勉強して獲得した医師免許が、この広い世界の中で日本ただ一ヶ国においてしか有効ではないという現実が、ものすごい徒労感となってわが身を襲ってきます。あまりの羨ましさに、「こんなことなら日本もEUに入れて欲しい」と、たまに周囲に毒づいてウケを取ってみたりする今日この頃です(笑)。


<参考サイト>
Müller公式サイト:ミュラー店舗一覧(ドイツ語)
http://www.mueller.de/unternehmen/mueller-in-europa.html

Lidlクロアチア公式サイト:EU加盟記念セールCMスポット(クロアチア語)
http://www.lidl.hr/cps/rde/xchg/lidl_hr/hs.xsl/32498.htm
上記の動画サイトの一連のCMスポットがなかなか面白い。各動画の最後に登場する
”Dobrodošli u uniju niskih cijena”
というキャッチコピーは、直訳すれば(欧州連合ならぬ)「安売り連合へようこそ」の意味。
今はまだ周辺諸国に比して物価が高いとされるクロアチアだが、EU加盟後に暮らしやすい国に変われるかどうかも注目したいところ。

Le Monde 2012年12月5日: ”A Toulon, le Portugal forme les médecins français”(フランス語)
http://www.lemonde.fr/enseignement-superieur/article/2012/12/05/a-toulon-le-portugal-forme-les-medecins-francais_1800199_1473692.html
ここに紹介されている事例は、南フランスのツーロン市郊外(マルセイユから40キロ程東)にあるポルトガルの私立大学のフランス校のケース。この大学の歯学部を卒業するとポルトガルの歯科医師免許が取得でき、この免許があれば「EUルール」に則りフランスでも歯科診療行為が可能である。フランスの大学歯学部入学に際しての人数制限や厳しいとされる試験競争を経なくても、フランスの歯科医師と同等の資格が(高額の学費と引き換えに比較的容易に)獲得できてしまうという現象を、「ツーロンではポルトガルがフランスの医師を養成している」というタイトルで皮肉っぽく問題提起している。日本ではこのような専門職の免許同等原則を取り決めた国は基本的にないものの、今後のTPPのなりゆき次第ではアメリカの弁護士の大量流入時代の到来が囁かれていることをふと思い出す。

バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469