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Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/04/26

日独徹底比較!元素周期表とその涙ぐましい暗記術

日独徹底比較!元素周期表とその涙ぐましい暗記術

この原稿が掲載される日は、まさにチェルノブイリ原発事故から27年のメモリアルデーに相当します。例年、この日はドイツではチェルノブイリ関連ニュースや特番が新聞やテレビに溢れかえるのですが、日本ではどうでしょうか。思えば、先だっての3月11日もドイツでは福島関連の記事や番組がメディアを賑わせたものでしたが、日本ではどうだったのでしょうか。

さて、ポスト・チェルノブイリかつポスト・フクシマとなった今のご時世、ドイツの我が家には2011年以前にはなかったお気に入りの新アイテムが仲間入りしており、今回こちらにご紹介します↓。


こちらは、我が家の朝の定番である牛乳たっぷりのカフェオレです(チコリコーヒーで作っても美味)。これはかなり大きなマグカップで、容量は300ccを優に超え、目一杯入れたらお腹がチャプチャプになってしまいそうです。もっとも、よく見るとこれはただのマグカップではありません。内側には”Periodensystem der Elemente”(元素周期表)の文字が見えます。これは、ドイツ版「元素周期表マグカップ」で、私のすがすがしい一日は毎朝このマグカップでスタートしています(笑)。

2年前に東日本大震災が起きた際に私が度胆を抜かれたのは、日本からの映像もさることながら、震災直後のドイツのニュース専門チャンネル等の生放送に登場する原子力専門家や物理学者にジャーナリストの面々が日本の事情を解説する際、やたら登場する聞いたこともない放射性核種名の数々でした。

今の日本では知らない人のいなくなった感のある「セシウム」すら、2年前の私には耳慣れない言葉でしたが、2011年当時のドイツのメディアでは「ヨウ素」「ストロンチウム」「プルトニウム」のみならず「バリウム」「キセノン」「イットリウム」「アメリシウム」といった単語も、少なからぬ頻度で登場してきました。医療用のバリウムくらいなら知っているものの、他の元素名が出てくるたびに「イットリウムってなんやねん?」「アメリシウムってアメリカから来ているのか?」などといちいち調べるのも面倒だったのと、日本語や英語でしか知らなかった元素周期表をこの際ドイツ語で覚えるいい機会と思い、このマグカップをデパートで見かけた瞬間に「コレぞ今の私に必要なアイテム!」とばかりに即買いしたのでした。

これ以降しばらく、毎朝のニュースは元素周期表のお勉強タイムと化しました。例えば、上の写真の真ん中に「VII」なるローマ数字の下に黄色い枠内に「F」「Cl」「Br」「I」、赤字で「At」があります。このクラスは(ハロゲンランプでも知られる)ハロゲンと呼ばれる元素グループで、順にフッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンのことです。

ここで、ヨウ素「I」のひとつ右隣に移動すると、「VIII」の列内の「Xe」、つまりキセノンになります。震災以降、「アルファ線」「ベータ線」「ガンマ線」などといった単語がどこぞの科学者の集まりでなく一般の雑誌・新聞やドキュメンタリー番組などで登場することが決して珍しくなくなった感がありますが、この中の「ベータ線」は原子核から大きな運動エネルギーを持って飛び出した電子ないし陽電子のこと、さらに言えば放射性物質の「ベータ崩壊(ないしベータ壊変)」とはこのような原子核からの電子ないし陽電子の出入りに伴い質量数が変わらずに原子番号が1つだけ増減する現象を指します。電子放出の場合は「β-崩壊」と書かれ原子番号が一つ大きい元素へ、陽電子の場合は「β+崩壊」と書かれ原子番号が一つ小さい元素へと変化します。

さて、手元の元素周期表マグカップを改めて確認です。「I」の右隣が「Xe」であるのと同様に、「Cs」(セシウム)の右隣は「Ba」(バリウム)、「Sr」(ストロンチウム)の右隣が「Y」(イットリウム)、「Pu」(プルトニウム)の右隣が「Am」(アメリシウム)です。つまり、先ほどのべたドイツでかつて少なからぬ頻度で登場していた耳慣れない元素名の一群は、日本から(残念ながら)全世界へ放出された放射性物質とそのベータ壊変について語った文脈内にあったのだということです。字だけで説明されると煙に巻かれそうな話が、このマグカップ一つあるだけで日常の感覚で体感的に近い理解ができるようになったというのは、それだけ残念な時代になったということの裏返しであり、いささか複雑な心境でもあります。

ちなみに日本で「アルファ線」「ベータ線」と呼ばれるものをドイツの人はあまりアルファ・ベータとは呼ばず、「ヘリウム原子核線」「電子線」と呼ぶようです。例えば、「αを検出するガイガーカウンター」などと私が口にすると、必ずと言ってよいほど「それはヘリウム原子核のことだね」と毎回のように訂正が入ることから、これは学校教育において使用される用語の日独差をみているものと思われます。

用語にみられた日独差がもうひとつ見られるのが、暗記術です。日本では元素番号1番のH(水素)から20番までを順番に暗記するのに「水兵 リーベ 僕の船 七曲り シップス クラークか」(H, He, Li, Be, B, C, N, O, F, Ne, Na, Mg, Al, Si, P, S, Cl, Ar, K, Ca)という超有名な語呂合わせがあります。この中で、リーベとはドイツ語のLiebe(愛)のことと思われることから、多少はドイツと縁のある暗記法なのかと思いつつも、シップスは英語でクラークさんもイギリス人風の名前ですし、この語呂合わせを耳にするたびに、一体どんな状況を目に浮かべたら良いのかと戸惑いを禁じ得ないものでした。

ところが、ドイツにもこの手の暗記術があるのですが、当たり前ながらみなさん誰一人「水兵リーベ」とは覚えておりません(笑)。そもそも、元素番号1~20という覚え方ではなく、タテの列毎に覚えていく語呂合わせ術の方が発達しているようです。試験でそういう聞かれ方をすることが多いのか、これに関してはいろいろと暗記術の本やホームページも充実していますが、「水兵リーベ」のような横のつながりは、あまりいいのがないと周囲の知人は言っていました。

ちなみに、さきほど挙げたハロゲン(F, Cl, Br, I, At)で見てみましょう。日本では確か「ふっくら ブラジャー」で始まる語呂合わせが全国的に流布していたかと思いますが、私が学生の頃は、続きを「私(I)に当てて(At)」とするか「私(I)にアタック(At)」とするかで、東西格差があったかと記憶しています(どっちがどっちかは忘れましたが)。『試験に出る英単語』なる当時の受験界のベストセラー本を「シケタン」と呼ぶのが西日本、「でるタン」と呼ぶのが東日本だったように、当時は他にもいろいろと東西間の相違があり、大学時代はこれをネタに飲み会で三杯はいけるというくらい、爆笑ネタに事欠かなかったものでした。

なお、このハロゲンの暗記法は、ドイツ版は古典的には

Fluor, Chlor, Brom und Iod - schon sind alle Mäuse tot
(フッ素・塩素・臭素・ヨウ素-ネズミはみんなイチコロ)

などという、詩的に韻を踏んだというだけで、暗記術にすらなっていないようなものもありますが、最近では

Für Claudia Brauch Ich Atemschutz. (クラウディアのために私はマスクが必要…臭いということ)
Fette Claudia Bricht Jeden Ast. (デブのクラウディアはどんな枝でもバキバキ折る…怪力ということ)

というのもあり、クラウディアさんにとってはかなり酷な言われようです。

色っぽいのも一応あり、第一族元素の列にある水素(H)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)の語呂合わせは

Heiße Liebe Nachts Kann Räuber beim Cusehn Freuen. (アツい夜にコソ泥が覗き見でウホウホ)

というのが日本での「ふっくらブラジャー」並の知名度があるみたいです。他にももっと過激でここには到底書けない代物もあるようで、やはりリチウム(Li)が入ると「リーベ」となる点が日独共通のようです(笑)。

最後に、ドイツ語版「水兵リーベ」、つまり元素3番以降を横方向に覚えていく暗記法をネットで発見したので、以下に挙げておきます↓。日本の皆さんから見て、ドイツ版の出来栄えはいかがでしょうか?

<元素番号3~10>(Li, Be, B, C, N, O, F, Ne)
Liebe Berta, Bitte Comme Nicht Ohne Französisches gligé .
(ベルタよ、来るときはフランス製ネグリジェを忘れずに)

<元素番号11~18>(Na, Mg, Al, Si, P, S, Cl, Ar)
Nach Meinung Aller Sind Professoren Schon Cleine Ar... !
(みんなの一致した意見によると、教授連中はみんなちょっとしたクソったれ)

<元素番号19~30>(K, Ca, Sc, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Ku, Zn)
Keiner cann schöne Titten von christlichen Männern fernhalten.  Comisch Nicht?  Kultureller Zwang.
(キリスト教の野郎どもからキレイなオッパイを遠ざけておくことは何びとにも不可能だ。おかしくないか?これぞ文化の強迫ってやつだ)

ここにきて、日独間の共通点がもう一つはっきり見えてきました。受験生というのは古今東西、フラストレーションが溜まりに溜まりまくっているということです(笑)!愛欲色ネタ、禁止用語ネタ…世界中の若者たちが束の間に脳内で膨らんだあらゆる妄想に身を泳がせつつ、覚えるべき膨大な内容を前にジタバタと悪戦苦闘している姿が目に浮かびます。そんな中にあって、我らが日本の「水兵リーベ」がいかに芸術的とも言える簡潔さでまとまっているかは、ドイツの人に説明してもみんなが大いに驚くような離れ業であり、その背景には日本語という言語の世界に類を見ないコンパクト性があります。たかが「水兵リーベ」と思われるかもしれませんが、一事が万事、この手の積み重ねがひいては日本の学術的なレベル(特に理数系)を押し上げる推進力となって今に至っていると、私ははるか昔からずっと考えていました。この「言語の簡潔性が学問のレベルを上げる」というのは、実体験に基づく私の持論でもあるのですが、これについては長くなりそうなので次週に具体例を挙げて説明したいと思います。



<参考サイト>
Yahoo Clever (ドイツ版ヤフー知恵袋)「元素周期表の最初の20コの覚え方」
http://de.answers.yahoo.com/question/index?qid=20081208025114AAScJW8

Die Ratgeber Community - gutefrage.net 「元素周期表 暗記術」
http://www.gutefrage.net/frage/periodensystem-eselsbruecken

ChemieOnline Forum - Chemie - Periodensystem
http://www.chemieonline.de/forum/archive/index.php/t-17148.html

 

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