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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/04/19

「早生まれはどこへ行った?プロジェクト」第二弾…東京大学医学部医学科卒業生編

ここのところ、当コラムは「早生まれを探せ!特集」の状態となっております。野球やサッカーなどの人気スポーツで4月~7月生まれが圧倒的に幅を利かせている裏で、早生まれはどうやらフィギュアスケート界(男子シングル)に多いという話(→異例の高さ!”早生まれ率”が示唆するフィギュアスケート選手の資質)、そしてさらなる早生まれたちの進路となっている可能性として「ジャニーズ事務所所属タレント稼業」という世界が挙げられそうであること(→早生まれはどこへ行った?プロジェクト」第一弾…ジャニーズ事務所所属タレント編)…というのが先週までの内容でした。

さて、今週取り上げるのはコチラです↓。これは、どのような人間集団のグラフでしょうか?

正解は、「1980年~1990年の11年間に東京大学医学部医学科を卒業した1105人」の誕生月別人数です。まず目を引くのは、7月・8月の生まれが多いこと、6月生まれが少ないこと、そして、たった28日(うるう年なら29日)しかない2月に生まれた人がかなり存在感が大きいことでしょうか。この1100人を超える人間集団に占める4月~6月生まれは23.1%なのに対し、いわゆる早生まれである1月~3月生まれは24.3%を占めています。

しかし、このデータを読むには、少し注意が必要です。そもそも、1月生まれから12月生まれまでの月別出生数が月ごとにバラつき無く一定であるとは限らないからです。例えば、このグラフで「東大医学部卒には6月生まれが少ない」と言おうとしても、「そもそも6月生まれの子供の数は他の月の生まれの子と比べて少ない」という事実がもしあれば、それは母集団のサイズの差の問題となってしまい、意味を持たなくなります。

ということで急遽、厚生労働省の「人口動態統計」を確認してみました:   
総務省 統計局ホームページ 第2章 人口/世帯
http://www.stat.go.jp/data/chouki/02.htm
(上のリンク先で「2-28 月別出生数及び死亡数」をクリックするとエクセルファイルがダウンロードされます)

上のサイトからダウンロードされる資料は、日本全国における誕生月別の出生数です。最古データが何と1900年(明治33年)という、もはやだれも存命でない世代からのスタートという気合の入りようで、調査は5年毎、最新データは今のところ2000年(平成12年)となっています。途中で戦争がらみで1945年データが欠損、代わりに1947年データが掲載されているところも、終戦前後の混乱を推察させるものとなっています。

さて、この資料にズラッと並んだ数字を見て、ナルホドと思わざるを得ませんでした。昔は、1月~3月生まれとして登録された子供が異常なほど多く、6月生まれが1月生まれの半数強しかいなかった時代が、明治の時代から終戦後まで長く続いていたのです。最も目に余る年が1915(大正4)年で、この時は1月生まれが6月生まれの実に2.1倍にもなっていました。

この「1月が最多」「6月が最少」というパターンは1965(昭和40)年にみられるのが最後で、それ以降はしばらく「1月が最多」は続くものの、他の月との出生数のバラつきもどんどん縮小していきます↓。

そして、1980(昭和60)年には、ついに画期的なターニングポイントが訪れます。調査開始以来トップの座を譲ったことのない「1月生まれ」がついに首位陥落となったのです。それも、一気に3人(ならぬ3か月?)に抜かれ4位転落です。入れ替わりにトップスリーに躍り出たのは、「7月」「8月」「9月」で、たまに首位交代しつつもこの3か月と5月と1月が比較的多めの月となって今に至っています。ちなみに、ビリ争い常連月は「2月」「11月」「4月」の三つ巴の戦い(?)となっており、それに続くのが「6月」です。ここで思い出していただきたいのが、1985年以降の出生数では「4月」「6月」は一貫してビリ争いをしているにもかかわらず、21世紀にもなっていまだに高校野球やサッカーなどで「4月」「6月」に生まれた選手が相対的に多い状態が続いていることです。となるとこれは、前回記事でも引用したドイツ・シュピーゲル紙の記事が指摘する「誕生月によるアクセスチャンスの不公平」という、人材育成上の問題点がここにも表れているということなのかもしれません。

以上の統計を踏まえた上で、最後に次のデータをご覧いただきたいと思います。こちらも東大医学部医学科OBの誕生月別統計ですが、前述のように誕生月別出生数の偏りが大きかった世代を除外するために、1991年~1995年卒業の5学年に対象を絞ってデータを取り直しました。すると、このような、ちょっと意外な結果が出てきたのです↓。

真っ先に目に飛び込んでくるのが、この世代ではもはや最多月ではなくなったはずの「1月生まれ」の突出、ひいては早生まれの多さです。子供が若干少ない部類のはずの「4月」「6月」が多いこと、さらに3月生まれの多さも目を引きます。なお、ここでは4月~6月生まれは全体の27.3%、1月~3月生まれは全体の25.9%となっており、早生まれ比率が高めの人間集団であること言っても良いでしょう。

私は一応卒業生でもあり、この統計でも12月生まれの所に入っております。個人的実感としても、この「東大医学部医学科に早生まれが多い」という現象に対する解釈には、一応の心当たりがあります。

東大医学部医学科…という以前に、東京大学理科三類という難関を受験することは、どんな人にとっても人生の一大冒険と言って良いはずです。人によっては大博打でさえあるかもしれません。理科二類から来るケースもありますが、これはこれで進学振り分け(通称・進フリ)で抜群の好成績を挙げる必要があり、そのためには大学生活の最初の二年は遊びたい誘惑を振り切りストイックな生活が必要で、下手したら大学受験よりキツい二年間とも言えるかもしれません。一般論としても、人生の大いなるリスクや苦難にチャレンジする場合、「自分には失うものがない」と思える「若さ」は最大の追い風です。そういう意味でも、わずか数か月であっても、早生まれによる誕生日の遅れは正に天の恵みです。

私の同期も早生まれや12月生まれが異様に多い学年でした。早生まれの場合、一浪しても現役世代より数か月(人によっては数日?)しか年齢が上でなかったり、「生まれた年」そのものは同じだったりします。従って、医師になった時点での年齢も遅生まれの人よりは若く、経歴上のロスが少ないというのも、これまた大きな武器です。例えば、”手習い”としての要素が強い外科系各科、”アタマの柔らかさ”が勝負の基礎系各科などでは、研修スタートないし入局の時点での「(いろんな意味での)若さ」が実はその後のキャリアを大きく左右します。特に外科系は一人前になるまでに8年だの10年だのと気の長いことを言う科が多く、あまり年齢が高い人が入局すると、結局は外科医としての実働年数が大幅に短くなってしまうのです。そういう事情もあり、浪人・再受験・社会人入学などで医学部卒業時点の年齢が高い卒業生は、そもそも外科系に行こうとすること自体が稀で(大半は内科やマイナー科目の臨床科に落ち着く傾向)、それでも外科系に行った人はやはり体力面での苦労を強いられたり、人生設計に悩んだ末に、結局は他科に転向していった人も周囲には少なくありませんでした。

なお、このグラフで4月~6月生まれが比較的多く、しかも8月あたりまで右肩下がりの直線に近い相関を示しているのは、やはり受験勉強というものが「長い時間と労力をかけて準備した者に有利」という性質を持っていることの表れではないかと考えます。野球やサッカーにおいてはこの誕生月ゾーンは「体が大きい」「パワーがある」「経験値が高い」といった点で有利だったのが、受験勉強もまたある一面において「体力勝負」なのだという解釈も可能でしょう。そして、その点では不利なはずの早生まれも、短い時間で高い到達点という「容量のよさ」は特筆すべきものがありますし、恐れを知らない「若さ」「思い切り」などにも裏打ちされ、この人間集団の一角を占拠するに至ったのだと思います。最近は東大バッシングも新聞や雑誌でよく目にするようになったのはとても残念に思いますが、東京大学医学部医学科に学んだ面々は、少なくともこの誕生月データを見る限りは、世間で言われているほどの偏った人間集団ではないように思われました。むしろ、在学中はまるで気付かなかったそのバランスの良さに、今頃ではありますが驚いてしまいました(偏りという意味では野球の方がよっぽど凄い)。不器用でとっつきにくさもありますが、金太郎飴のような均一性とはまるで正反対の強烈な個性派集団であったこともまた間違いなく、どうやらその秘訣はこの「早生まれ率」の高さもあったのではないか…今頃になってそう思うと同時に、早生まれ探しの旅を今後も気長に続けていこうと考えています。

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