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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/03/22

異例の高さ!”早生まれ率”が示唆するフィギュアスケート選手の資質

3月17日に閉幕した世界フィギュアスケート選手権(ロンドン、オンタリオ州カナダ)は、日本選手の表彰台は女子シングルの浅田真央選手一人にとどまったものの、2014年のソチ冬季オリンピックにおける男女シングルの3枠獲得を無事に果たすことができました。さらに、間髪入れずに3月18日にはWBCの決勝トーナメント準決勝で侍ジャパンこと日本チームがプエルトリコに惜敗、そしてこの記事が掲載される日は、ちょうど春のセンバツこと第85回選抜高等学校野球大会の開幕日にあたります。まさに今年の3月は、スポーツ尽くしの春という趣があります。

しかし、スポーツ観戦三昧のさなか、私は急にあることが気になり始めました。ちょうど世界フィギュア真っただ中の頃、国際スケート連盟(ISU)のHPに掲載される各選手のバイオグラフィーをつらつらと眺めていたところ、男子シングルの日本代表に不思議な共通点があることに気付いたのです↓。

Yuzuru HANYU       Date of birth 07.12.1994
Daisuke TAKAHASHI  Date of birth 16.3.1986
Takahito MURA       Date of birth 11.2.1991

お気づきになりましたでしょうか。3人中2人が俗にいう「早生まれ」です。「早生まれ」とは、日本では小学校入学の年が4月1日と4月2日の間で区切られることから、「1月1日から4月1までに生まれること。また、その人」をさします。つまり、同じ学年の生徒の中にあっては、「早生まれ」の人々はもっとも誕生日の遅い、つまり相対的に「若い」人々ということになります。もっとも、羽生結弦選手のように12月生まれというのもまた、「早生まれ」でこそないもののそれに限りなく近い「若い」部類に入るため、ここで仮に「準早生まれ」と命名しましょう。

以上を踏まえて日本のフィギュアスケート界の強化選手の一覧を見ると、エラいことになっていることを発見しました。

公益財団法人 日本スケート連盟 強化選手一覧

フィギュアスケートの強化選手には「特別強化選手」「強化選手A」「強化選手B」などいくつかのカテゴリーがありますが、超トップクラスの選手であると思われる「特別強化選手」6名をためしに書き出してみると、以下の通りになります。

以上を誕生月別に数えると、12月生まれが1人、2月生まれが2人、3月生まれが3人です。つまり、全6名の日本のトップフィギュアスケーターは、全員が「早生まれ」ないし「準早生まれ」ということになるのです。

ちなみに、対象を男子シングルの「強化選手A」「強化選手B」にも広げてみると、以下の表の通りとなります。全21名中で1-3月生まれの「早生まれ率」は38.1%、「準早生まれ」も込みだと過半数(52.4%)となります。サンプル数が非常に少なく統計的な言及は難しいものの、4月~9月という”年度の前半”の生まれが少ないというトレンド(傾向)も見てとることは可能です。

さらに参考のため、女子シングルの強化選手でも同様の集計をしてみました。浅田真央選手や鈴木明子選手などのビッグネームの並ぶ「特別強化選手」4名に、さらに続く若い世代を中心とした「強化選手A・B」22名が加わります。合計で26名という人数は男子よりも5名多く、フィギュアスケートの競技人口の男女差ひいては女子スポーツの中でのその高い存在感がうかがい知れます。この全26名のうち、「早生まれ」は7名(26.9%)、「準早生まれ」も足すと9名(38.5%)となり、男子よりもその比率は少なくなっています。これまた少ないサンプル数ではあるものの、あまりに早生まれの多い男子に比べれば、その偏りは比較的少ないとみることもできます。(ペアやアイスダンスはさらにガクっと選手数が少ないため、今回の考察対象からは除外しています)

しかし、そもそも他のスポーツの「早生まれ率」はどれくらいなのでしょうか。今のフィギュアスケート男子シングルのトップクラスが「早生まれ選手の寡占」とも呼ぶべき状況になっているは、偶然の産物なのでしょうか?それとも必然?そのあたりを検証するためにも、まずはこの日本男子シングルの「早生まれ率」(38.1%)および「早生まれ・準早生まれ率」(52.4%)という2つの数字を念頭に置いた上で、次のデータをご覧いただきたいと思います。

日本野球機構オフィシャルサイト:WORLD BASEBALL CLASSIC 日本代表候補選手(全28名)

つい最近、残念ながらプエルトリコに敗退して3連覇の夢を断たれた侍ジャパンの28名ですが、上記の日本野球機構のサイトに掲載されている誕生日データを集計してみました。いかがでしょうか。見事なまでに4~7月近辺に誕生日が集中しています。年度後半では11月生まれがあのマー君こと田中将大投手(楽天)を筆頭に5名いますが、1~3月生まれの「早生まれ」は3月生まれの阿部慎之介選手(巨人)ただ1人です!「早生まれ率」は3.6%、「早生まれ・準早生まれ率」は10.7%となり、少なくともフィギュアスケート男子とは全く比較にならない程に、野球界における「早生まれ率」の低さ、4月~7月生まれの多さは歴然としているというよりほかにありません。

ちなみに、今年のWBCではたまたま極端な結果が出ましたが、もともとはこの傾向は実はプロ野球よりも高校野球において顕著です。高校野球は少年野球時代の実績が大きくものを言うので、そもそも少年野球の時期の男児は4月生まれと翌3月生まれとでは丸1歳分に近い体格差がある以上、この「早生まれ不利」「4月~7月生まれ偏重」の傾向が強く統計に表れてくるのも理解できます。今はちょうど春の選抜大会も開催されている頃かと思いますが、出場する選手の誕生日は大会後の大会雑誌発売までは把握できないのと、近年は個人情報保護の観点から大会雑誌の選手名鑑に誕生日が掲載されないケース(個人あるいは学校側の判断での掲載拒否)が増え、データを揃えることが難しくなってきたので、データの揃っている昔の大会(2008年夏の甲子園)の出場選手データを提示したいと思います↓。

第90回全国高等学校野球選手権大会(記念大会のため55校990名出場)

グラフで見ると一目瞭然で、7月以降が定規で引いたかのように一直線の右肩下がりになっているのは注目に値します。ちなみに、出場選手中の「早生まれ率」は10.9% (1-3月生まれが108名)、「早生まれ・準早生まれ率」は16.9% (12-3月生まれが167名)です。

ちなみに、この年は私は高校サッカーの出場選手でも統計を取っておりました↓。(48校1200名出場)

高校サッカーの世界でもまた、高校野球と同じ傾向が見られることがわかります。ここでの「早生まれ率」は13.8%、「早生まれ・準早生まれ率」は19.0%、「4月~7月生まれ率」は48.8%です。野球の場合は4月~7月が平らでそこから下がっていったのですが、こちらのサッカーは4月をピークに絵に描いたような出来すぎなほどの右肩下がりのグラフになっているのが、実に不思議なような、それでいて妙に納得してしまうものでした。高校サッカーもきっと、「少年サッカー」の存在感の大きさや「体格の大きい子が有利」という側面が野球並に存在する世界なのではないだろうかと、サッカーをまるで知らない私ではありますが、これらのデータからは解釈することができます。

となると、フィギュアスケートの場合は、野球やサッカーの逆をいく解釈をすれば良いのかもしれません。特に男子シングルの場合、まず「体格が小さい」それも「細身で低身長」ということが強さの秘訣となっているように思われます。それもそのはず、ジャンプを飛ぶのにおデブちゃんでは不利なのは間違いないでしょうし、大柄な人は細かい動作や機敏さ、手先の器用さや繊細な感覚などで劣ってくる傾向があるのは、全世界共通です。今年の世界フィギュアの男子選手の表彰台に上った選手たちの身長を挙げると、金メダルのパトリック・チャン(カナダ)が173cm、銀メダルのデニス・テン(カザフスタン)は168cm、銅メダルのハビエル・フェルナンデス(スペイン)もまた173cmと、欧米男性の平均と比べると皆さん明らかに小柄です(ちなみにパトリック・チャンは中国系、デニス・テンは韓国系)。そして、それこそが、彼らのしなやかで滑らかなスケーティングであったり、情感豊かな表現力の源泉そのものであるという側面もあるのではないかと思います。日本代表選手の場合も、公式発表では羽生結弦選手が171cm、高橋大輔選手が165cm、無良崇人選手が169cmとありますが、テレビ画面に大写しされるその力強いジャンプやステップを見ている限り、そんな数字よりも数段大きく見えることに、これまた誰も異論はないのではないでしょうか。

翻って、日本の少年野球や少年サッカーの場合、共産圏並に整った育成システムがあり、「体格の大きい子」や「パワーの強い子」から先にそのレールにズンズン乗って進学・就職まで果たしていくことが、日本の教育界ひいては産業界の構造に見事なまでに組み込まれています。そして、メジャースポーツがその育成システムを全国津々浦々に網羅して「デカい子」やら「ノッポの子」らを根こそぎ刈り取っていく中、そのルートと最も縁の薄い存在であったはずの「早生まれ軍団」が、そのままフィギュアスケートの男子シングルにおける強さの資質としてドンピシャリのストライクゾーンに位置しているのではないかと、フィギュアスケートの強化選手一覧をしげしげと眺めながら考えておりました。そして、この全国展開する「デカい子・パワフルな子」の育成システムが効きすぎていることが、そのままペアの男子選手の深刻な人材難の直接かつ主たる原因なのではないか、ひいてはアイスダンスの不振にも繋がっているのではないか…そんな気もしてくるのです。

ちなみに、今回はデータを出しませんでしたが、女子の場合はこのような「生まれ月による偏り」がどの競技でも少ない傾向にあります。その理由としては、第一に女性の早熟性(小学校高学年辺りで男子を抜くほどの成長をしながらも、比較的早く身長の伸びが止まる)により、早生まれ・遅生まれに起因する体格差が比較的早く吸収され、男子ほどにはその戦績に反映されにくいこと、そして第二に何よりも、男子の世界に色濃い「刈り取りシステム」が大規模に機能するほどのドル箱スポーツがないことが大きいと思います(女子フィギュアはドル箱人気こそあり、野辺山合宿のような幼少期からの育成システムもあるが、いかんせんリンク環境や指導者の少なさ・偏在、費用面などの制約が大きく、誰にでも気軽にできる競技でないため、日本全国津々浦々からの人材発掘に結びつかない)。「猫も杓子もコレ!」というような一人勝ちの競技がないからこそ人材が分散されるのであり、人材が広く分散できればこそ、真に真に競技に真摯なもの、真に才能のあるもの、ひいては真に強いものが前に出ていけることになります。

なでしこジャパンがドイツ開催のワールドカップサッカーで優勝したのは2011年のことでした。2012年のロンドン五輪では銀メダルも獲得しました。当時、「どうして日本の女性は強いのか?」と周囲のドイツ人によく聞かれたものです。そのたびに私は冗談っぽく「オンナの世界には野球が無いからじゃ!」と答えていました。「日本では、有望な男性アスリートの卵を野球界が根こそぎ奪っていって、あとは草木も生えない、他のスポーツが育たないんだよ~ん」などと、多少誇張気味のリップサービスではありましたが、野球を全く知らない人だらけのドイツでは「野球ってどんだけ凄いスポーツなのか?」と、皆が大きな目をパチクリして喜んでくれたものでした。しかし、今回の「早生まれ」データを見ているうちに、これは冗談では済まされない話なのではないかという気がしてきました。

そもそも、人間の最終的な身長や体格は遺伝や生育環境で決まってくるものであり、早生まれであるか遅生まれであるかなどとは本来何の関係もないはずです。それなのに、先のグラフに挙げた野球やサッカーのように、「4月生まれ」と「3月生まれ」で圧倒的な差が生まれてしまうのは、適材適所の人材育成がこのシステムでは機能しにくい死角があること、つまり早生まれ人口からの才能の掘り起しがうまくいっていないことの表れでもあると解釈せざるをえないのです。

それでは、海外ではどうなのでしょうか?「早生まれ」って海外にもあるのでしょうか?それについては来週に続きます。

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