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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/02/22

生放送・生演奏・生歌唱の豪華三点セット!ドイツの国民的歌番組で分かった日本の『ザ・ベストテン』の真骨頂

先週まで取り上げてきた『ザ・ベストテン』(TBS)は、1978年1月19日の放送開始の生放送の国民的歌番組でした。”木曜夜9時”の代名詞だったこの番組、日本の上位10曲のヒット曲を10位から1位まで順にお茶の間にライブで紹介していくという以上に、「今あの人はどこにいるのか?」という”スターの所在確認”の意味合いも強く、最高視聴率41.9%という、レギュラー音楽番組としては現在に至るまで未だに破られていないお化けのような記録を残しつつ、1989年9月28日にその11年8ヶ月にわたる歴史を閉じました。

この頃は、月曜20時枠の『ザ・トップテン』『歌のトップテン』(日本テレビ)、月曜22時枠『夜のヒットスタジオ』(1986年からは水曜21時にお引越しの『夜のヒットスタジオDX』)(いずれもフジテレビ)もあり、これらの番組の性質上どうしても出演者や演奏曲が重複し、中でも当時トップスターであった中森明菜さんはこれらの番組の常連であったことから、これら全部を律儀に見れば、ある時は明菜さんのマネージャーになったかのように、彼女の殺人的なスケジュールのかなりの部分を把握することも可能でしたし、時にはテレビ局のアシスタントディレクターやカメラ助手になったかのように、番組制作の舞台裏をちょろりと覗き見るような気分も味わうことが出来たものでした。つまり、生放送の即時性と時事性の中にも、番組に対する視聴者の期待はあったということです。

当時の日本のランキング形式の歌番組といえば、当然のように生放送でした。その中でも特に『ザ・ベストテン』は、スタッフが姿を隠しきれなかったり(時には堂々とカメラ前を横切るお方も)、歌手が段取りや歌詞を間違える、機器が作動しない等のハプニングが(他の番組に比べて)ほとんど茶飯事と言って良いほど多かったのもご愛嬌でした。そして、生放送独特の緊張感や現実感の奥からこぼれ出てくる数々のハプニングの中にさえ、視聴者が根源的な人間味を感じ取っていたからこそ、多くの人に愛されて日本の一時代を牽引する高視聴率番組と成り得たのではないかと思います。

そういう観点からも、『ザ・ベストテン 中森明菜 プレミアムボックス』(TBS・ユニバーサル)の中で展開される世界とは、日本の音楽番組における「”生放送・生演奏・生歌唱”の三点セットが揃い踏みした最後の時代の集大成」であったと言うことができます。そして、こんなことを考えるのも、つい最近「ドイツ版ザ・ベストテン」とも言うべき歴史的音楽番組のDVDを見る機会があったからです↓。

Amazon.de: Das Beste aus der ZDF Hitparade Folge 2

これは、日本の『ザ・ベストテン』に先立つこと丸9年(と1日)、まだドイツが東西に分かれていた頃の西ドイツで1969年1月18日に放送開始された『ZDF Hitparade』(ZDF:ドイツ第二テレビ放送)という音楽番組です。音楽ショーとしては、ゲスト招待の形式(キャスティング)にランキング形式と勝ち抜き形式を組み込むという奇妙キテレツなスタイルで、32年の長きに渡り国民的人気を博して2000年に放送を終了しました。分かりにくいので具体的に説明すると、まず第一回放送に14組の歌手を招待、楽曲を披露⇒放送後に視聴者がハガキ投票、ここから上位5組が選出される⇒翌月はこの5組は連続出場、その上さらに新たに9組の招待歌手が加わり楽曲披露⇒ここからまた視聴者投票でトップ5選出⇒翌月さらにこのトップ5+新入り9組…(以下同様)…という、あえて例えるなら『夜のヒットスタジオ』と『ザ・ベストテン』と『American Idol』をオイシイとこ取りしたような番組というべきでしょうか(ハガキ選出曲数や新入り招待数は後年多少の変動あり)。放送は年12回(月イチペース)と、日本のベストテンやヒットスタジオのように毎週ではないので、集計作業の負担もキャスティングの苦労も相対的には軽かったでしょうし、曲があっと言う間に消費されて飽きられるというリスクも少なくなります。また、日本では名物だった地方からの生中継や、まして海外からの衛星生中継などの(予算の嵩みそうな)企画は一切無く、全てベルリンのZDFスタジオに歌手を集めての放送だったことも、ベストテンとの相違点でした。

なお、上記DVD内の特典映像として、第一回放送分(1969年1月18日OA)がノーカットで収録されており、その冒頭で司会のディーター・トーマス・ヘック(Dieter Thomas Heck)が新番組のコンセプトを長々と説明するくだりがあるのですが、何だか日本の『ザ・ベストテン』のスタート時の久米宏さんかと勘違いしそうな内容だったことに驚いてしまった私は、以下にその該当部分を書き出してみることにしました↓(青字が書き出し部分):

“Wir möchten Ihnen zunächst ein kleines bisschen erklären. Punkt Nummer 1 wäre; wir fahren LIVE ! Das heißt, nur das Orchester, nur der Chor kommt vom Band. Alles andere kommt direkt  vom Original, vom unseren Interpreten !”
まず最初に少しだけ番組の仕組みを説明します。最も大事なことは、この番組はナマだということです!つまり、オケとコーラスだけがテープで、それ以外は全てオリジナル、つまりアーチストによるナマ歌です!

“Denn heute stellen wir Ihnen zum ersten Mal insgesamt 14 Titel vor.  Wir haben den Schallplattenfachhandel befragt, die Musikboxaufsteller, und lass noch dieses eigentlich auf SIE befragt, denn wir haben die Hitparaden angeschaut, die bestehenden Hitparaden. Sie sollen aus diesem 14 Titeln ihre Liebling auswählen, denn die Hitparaden machen nicht wir, sondern SIE !”
今日、初回なのでまずは14曲をご紹介します。私たちは事前にレコード店に聞き、ジュークボックス設置者にも聞き、さらには他の既存のヒットチャートも見たという意味では皆さんにも事前に聞いていることになります。そして、この14曲の中から、皆さんが気に入った曲を選んで下さい。この番組を作るのは私たちではなく、アナタなのです!


(”ドイツの久米宏”こと司会のDieter Thomas Heckが「アナタです!」と叫んでいるところ。右はカラオケテープの操作を担当する技術スタッフのアーヘム君)

どうでしょうか。『ザ・ベストテン』を知っている日本人にとっては、どこかで聞いたようなセリフばかりではありませんか?『ザ・ベストテン』のランキング四要素といえば「レコード売り上げ」「有線放送チャート」「ラジオ」「ハガキ」でしたが、有線放送をジュークボックスに置き換えれば、このうちラジオ以外が見事に重複します。また、「この番組を作るのは、私たちではなくアナタです!」に至っては、「当番組は皆様のハガキが命です!」と叫んでいた久米宏さんの姿さえオーバーラップしてきます。

その名も『ザ・ベストテン』(新潮社)という、元『ザ・ベストテン』のデイレクター及びプロデューサーをつとめた山田修爾さんの書籍には、番組開始前の企画段階で、ランキング方式にするかキャスティング方式にするかでスタッフ内が大モメにモメたとあります。さらに、見る側(視聴者)・出る側(出演者)・作る側(制作者)の「三位一体の番組制作」を心がけたという記述も出てきます。しかし、遡ること9年のドイツの音楽番組で、しかもあの超がつくほど保守的なことで有名なドイツ人の発想として、この『ザ・ベストテン』のコンセプトが日本よりも先に出てきていたというのは、ちょっと意外でもあり、純粋に感心するに値します。

しかし、実はもっと驚いたのは、冒頭の説明部分で司会者が「伴奏はカラオケですよ~ん!」と、あまりにもあっけらかんと宣言してしまったことでした。当時も今も、歌手が歌番組でナマ歌を披露することは非常に稀で、ドイツではそれだけで大いに有難がられるほどの付加価値があるのですが、80年代中半あたりまでは日本でも歌番組では当たり前だった「生バンド演奏」「生コーラス」を天下のZDFが採用できないほど、「生演奏」のハードルは高いのでしょうか。

考えられることとしては、生バンド・生コーラスを採用すると、音を拾うマイクの数も劇的に増加、ミキサーのチャンネル数も激増、エフェクトの掛け方は星の数、アンプの配置に四苦八苦、音響やセット配置にも影響、楽器トラブルや回線接続などに頭を悩まし、音声や技術などスタッフの人件費もアップ…などなど、少し考えただけでも「カラオケにして、その分、歌とセットにエネルギーも予算も専念しましょう」なるツルの一声が企画会議室に響いたとしても無理からぬことと思います。それだけに、ナマ歌・生バンドにこだわり続けた『ザ・ベストテン』の”生きた音同士の掛け合い”への執着というか、”ナマものとしての音楽”に対する哲学というかド根性というか、そのあまりの本気度に、21世紀の今頃になって、しかもドイツで(笑)、ハッと気づかされたのでした。

ただ、最近の日本の歌番組を見ていると、そんな”生きた音”に対するド根性はどこへやらで、「口パク」「カラオケ」全盛となっているように見えるのが少し残念です。毎年恒例の大晦日の紅白歌合戦(NHK)ですら、従来の生バンド演奏が消え、昨年末はその演奏の全てが「カラオケ」であったという報道は衝撃で、長い歴史と潤沢な予算を持つ紅白ですら「音」そのものから既に大きく乖離して「ホールパッケージとしての音楽商品」に取扱業務をシフトせざるを得なくなっているというところに、時代の流れを感じます。

ZAKZAK – 芸能 - NHK紅白、知られざる舞台裏…巨額制作費、ほぼカラオケ、金爆トーク封印

この記事によると、昨年の紅白では、最新のLED映像技術駆使の演出あるいはアフリカの砂漠や米国からの生中継などで巨額の制作費がかさみ、その割を食う形で生バンド演奏が犠牲になったとのことです。この記事に出てくる「三原綱木とザ・ニューブリード」といえば『夜のヒットスタジオ』でもお馴染みだったバンドですが、どうやら日本独特であるらしき音楽シーンの真骨頂たる「生演奏」の専門家集団の一つとして、その個性的な編曲や情感溢れる演奏で音楽番組を支えてきた彼らのような人たちを切ってまで、砂漠からの中継やLEDが求められる時代というのは、音楽大好き歴ン十年の私にはちょっと理解できそうにありません。

また、上の記事では記載がありませんが、「口パク」の方はどうだったでしょうか。欧州では未だに歌番組は限りなく100%に近い「口パク」率なので、中森明菜さんの『ザ・ベストテン』のDVDで感心したことの一つが、彼女の毎回の生歌唱における天才的な機転と、当時のアイドルとしては数少なかったハズレのない磐石の歌唱力でした。『ZDF Hitparade』の「月一回」と異なり、「週一回」のヘビロテだった『ザ・ベストテン』の中でも最多の出場回数を誇り、しかも毎週のように激しいダンスを伴う「口パク」でなはない「生歌唱」を高いレベルで披露し続けることが可能なアーチストといえば、そう数は多くありません。しかし、よっぽどのことがない限り「生演奏・生歌唱」の原則を曲げなかったあの『ザ・ベストテン』ですら、とあるローラースケートに乗ったグループの台頭のあたりから「口パク」の採用が避けられない現実となり、そこから番組終了までが早かったこととつい結びつけて考えてしまいます。今思えば、このあたりが「豪華三点セット」に日本が引導を渡した端緒となる事件だったのかもしれません。

そう考えれば、紅白歌合戦か否かに限らず、多人数による激しいダンスを伴うあのユニットなども「口パク」とならざるを得ないでしょう。そして、「口パク容認」の番組制作が増えていけばいくほど、毎回毎回CDと寸分違わぬ演奏と歌唱しか聴こえてこない以上、音楽そのものに対する人々の気持ちが離れていくことになるでしょう。紅白歌合戦には、その存在意義を一から再考していただきたいものです。

そして、別に昔が良かったなどという懐古趣味では断じてなく、『ザ・ベストテン』の一連のDVDボックスは、その中で果てしなく展開される”生放送・生演奏・生歌唱”の豪華三点セットが当たり前だった時代の贅沢さの中にタイムトリップできるという点からも、(そのお高い価格に一瞬ひるんで中古で購入した私ではありますが)その価格以上に一見の価値アリと自信を持ってオススメできる…と、あらためて強調したいと思います。



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