Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/02/15

「ザ・ベストテン中森明菜DVD」で気づいたこと(2)…「カビだらけの餅」が象徴する時代の加速度的変遷

ご存知の通り、『元祖!大食い王決定戦』(TV東京)は「大食い」を扱うのと同時に、「食」そのものを扱う番組です。制作者の意図の有無とは無関係に、特定の食材を扱ったテレビ番組の放映後にその食材がスーパーから消えたり、大食い番組で紹介された食材が放映と同時に注文殺到となるなどの事象からも、この手の番組には食欲ないし食に関わる消費行動を喚起する力があることには、異論を挟む余地がありません。これは、テレビという媒体の影響力が日本という国においては桁外れに大きいということの表れでありますが、(先進)諸外国との比較で見ると奇異で異様な現象と私の目には映ります。理由としては、(NHK等の公共放送受信料を除く、有料契約なしで見ることのできる)無料放送チャンネル数が日本は諸外国に比べて圧倒的に少ないということに尽きるのでしょうが(→ドイツで観戦するロンドン・オリンピック2012(9)…日本の”体を張ったバラエティ”に対するサミュエル・コッホ事件の教訓)、他人と歩調を合わせる国民性、ひいてはマス・メディアを盲信する人間の多さとも解釈すべきなのでしょうか?いずれにしても、こうまで影響力が大きくなると、テレビという媒体に、その裏で同じだけの重大な責任も伴うのだという自覚がなければ、単なる無責任な”消費の扇動装置”になってしまいますし、万一ウソ誤りを喧伝してそれにより健康被害が発生しようものなら、それは立派な”加害者”です。その点では、欧米のように何百もの無料チャンネルの中から国民が自由に選択して視聴できる国の方が、見ている人が少ない分、プレッシャーが減って番組の内容そのものに専念しやすいのではと想像する反面、逆に日本のテレビ制作者の苦労の大きさが伺えます。

このようなことを書くのは、『ザ・ベストテン 中森明菜 プレミアムボックス』(TBS、ユニバーサルミュージック)の中に、今なら到底放送できないと思われるシーンがあり、あれこれ考えずにはいられなかったからです。

それは、先週もご紹介した宮史郎さん(元・ぴんからトリオ)の登場回である1985年1月10日放送分のワンシーンでした。翌日となる1月11日が鏡割りということで、巨大な鏡餅がTBSのGスタジオに運ばれてきたのですが、そのお餅というのが、コレです↓。

 

「何じゃコレは?」…この青カビがビッシリと生えた鏡餅がテレビに大写しになった瞬間、私は凍りつきました。今のこの時代なら、その毒々しい青緑色のカビが画面に登場するだけでも、苦情がジャンジャン寄せられそうです。しかし、さらに驚いたのは、スタジオのゲストや司会者たちが、まるで何事もなかったかのように番組を進行し、このお餅を実際に食べるという展開にまで至ったことでした。

 

上の写真は、昨年鬼籍に入られた宮史郎さんがこの鏡割りで大活躍するシーンです。売れない時代は肉体労働で生計を立てたと胸を張りつつ語る宮さんのこの姿、まさに文字通りの「昔とった杵柄」です(笑)。しかし、そんな宮さんが生真面目にお餅を叩けば叩くほど、青いホコリが毒ガスのように舞い(左上)、新たに現れた断面からはさらに真っ青なカビがドドーンと登場です(右上)。まさかこれが宮さんの死因である訳はなかろうと思うものの、反射的に宮さんの健康への影響を心配してしまった私は、歌を聴くどころの心境ではなくなってしまいました。それでも、明菜さんと同じくこの鏡割りに参加した河合奈保子さんや菊池桃子さんは、カビの粉が降りかかっても一切気持ち悪そうな表情など見せず、そのアイドル然としたニコニコの笑顔を崩すことはありませんでした。まさに80年代アイドルの真骨頂ここにありという感じで、これがギャル曽根さんだったらどうなることかと想像しただけでも、別の意味で笑えてきます。

 

さて、そんなカビだらけの餅を、スタジオではなんと、カビごと揚げていきました。それも、しょうゆ味の煎餅にするのだと言います。私にとっては、カビた食材を食べることが生放送の番組内で全く問題視されていなかった事も驚きなら、このシーンがカットされずに中森明菜さんのDVDに収録されたことにも、時代の感覚の大いなるズレを実感するのでした。

ちなみに、うちの親に聞いてみると、カビた正月の鏡餅を加熱して食べるのは、昔はごく当たり前のことだったようです。食糧難の時代の「もったいない」という感覚や、「加熱すれば食べても大丈夫」「今までみんな大丈夫だった」という”おばあちゃんの知恵”的な経験則ないし伝聞に基づき、長らく「問題ない」と位置づけられてきたのでしょう。しかし、現代の医学的見解では、「食べてはいけない」という結論で例外なく一致しています。もちろん、世の中には、ビールやパンの酵母、味噌の麹菌、チーズの白カビ・青カビなど、体に良いとされて食品製造に使用されるカビは多種多様に存在することが知られています。三大ブルーチーズことロックフォール(フランス)・ゴルゴンゾーラ(イタリア)・スティルトン(イギリス)の青カビなどは、見た目もニオイも結構なもので、これならカビた鏡餅も似たようなものかとさえ思えてきます。しかし、勘違いしてはならないのは、食べて良いとされるのはあくまでも、既知の菌をきちんと管理されたコンディションで植えて計画的に繁殖させた食材に限定されるのであって、このベストテンで見られた「餅を放置した結果として自然発生したカビ」となると、医学的には話が大きく変わってくるということです。そもそもカビは有名なアレルゲン(アレルギーの原因物質)ですし、カビの胞子の舞い散る煙を吸うこと自体、喘息や気管支炎に蓄膿(副鼻腔炎)といったリスクがあり、さらに(免疫低下時に出てくる)真菌性肺炎や深在性真菌症になってしまうとその治療は大変困難となります。空気清浄機でも、花粉やウィルスのカットは勿論、カビの除去もまた効能として重要視されているのはご存知の通りです。

さらにカビの場合に問題となるのは、カビの代謝産物として生じるカビ毒(マイコトキシン)です。カビ毒は熱に強く、加熱により生産菌が死滅してもその毒はほとんど残ります。つまり、「揚げれば良い」は大嘘だったのでした(注1)。一般に、急性毒性としては肝臓や腎臓への障害が多く、キノコ毒による嘔吐や下痢などの中毒症状もこれに該当します。慢性毒性としては発癌性が多くの物質で指摘されており、中には不妊や胎児奇形の原因となるものもあります。日本でカビ毒といえば1950年代の食料難の時代に起きた黄変米事件が有名ですが、これはペニシリウム属のカビ(青カビ)によるカビ毒でありました。また、世界的に有名なカビ毒といえば、ナッツ類(ピーナッツ・ピスタチオなど)や貯蔵穀物(とうもろこし・米など)に付着したカビから発生するアフラトキシンで、1960年代に発見されて以降、最強の癌原性物質として世界中で規制されています。

「昔はこうしていたから、今も同じようにして大丈夫」ということは、生活環境が劇的に変化した今の時代にはもう言えない…これが今回のベストテンDVDから得られる重要な教訓の一つです。もっとも、該当のシーンの放送された1985年といえば、今からちょうど28年前で、そんなに太古の昔という訳でもないはずです。それでも、携帯電話やインターネットといった通信技術の発達や技術革新にグローバリゼーション、医学界の常識の変遷など、特にこの10年程度の間の世の中の移り変わりの激しさは正に加速度的というしかありません。インターネットもスマホもグーグル検索も無かった80年代当時、すでにカビ毒の怖さなどは専門家の間では十分知られていたはずが、(番組スタッフも含めた)一般市民への浸透度がさほどではなかったというズレがあったこと、そしてそのズレも許容しなくなりつつある今という時代の更なる感覚のズレがそこに加わるという、現代のテレビ番組制作が内包する「時代のリスク」がここでもまた見え隠れしています。

ここでもう一度確認しておきたいのは、現代があらゆる意味でアレルギーの時代だということです。大人から子供にいたるまで、アレルギー性体質の持ち主は昔に比べて右肩上がりで増加しています(注2)。最近では給食のチーズ入りチヂミを食べて亡くなった学童の悲劇があり、今は給食で人が死ぬ時代なのかとショックを禁じ得ませんでした。実は前回の『元祖!大食い王決定戦』の本選においても、あわやアナフィラキシーショックかとこちらが非常に怖い思いをしたケースがありました。昔の給食や今の大食い番組のような、「全員一斉に同じものを食べる」「他人から与えられるがままに食べる」なるテーゼは、経済原理的には実に効率的です(だからこそスポンサーもつく)。しかし、みんなと同じものが食べられないというだけで殺される人がいてはたまりません。気合や根性ではアレルギーを消すことはできない…それが今の時代です。

人間は複雑で微妙な生の有機体であり、機械のような規格品ではないのですが、このことを忘れている人が日本にはもともと非常に多く、昨今話題となっているイジメや体罰の問題もこの延長線上にある話なのだと思います。しかし、忘れれば忘れるほど、平均値的なものを体が勝手に忌避する”アレルギー”的な現象が、今後の日本では本人の意思の有無に関わらず増え続けるでしょう。ひょっとしたら、蕁麻疹や喘息発作に胃腸炎やアトピーなどのアレルギー性疾患にとどまらず、原因不明の難病や自己免疫性疾患、自律神経失調症ひいてはうつ病といった診断名へと、その姿を刻々と変えながら、さらなる増殖を続けていくのかもしれません。それでも、「食の個別性」の追求が「生活の個別性」への入り口でもあり、究極的には今の日本に最も欠けている「人間性」の追求につながるという点は重要であり、それが例え経済の効率性に反するとしても、結局はそれが”アレルギー”的現象に対する唯一の処方箋となるだろうと思っています。



<参考サイト>

注1)カビとカビ毒について - 「食品衛生の窓」東京都福祉保健局
(この中に全文PDFダウンロードのリンクあり、この資料が最も充実している)

カビ毒Q&A 「食品衛生の窓」 東京都福祉保健局
(カビ毒は「100度~210度でも完全には分解されない」「油で炒めても炊飯してもほとんど減らない」。加熱でもカビ毒量の9割近くが残存するというデータが示されている)

注2)例として喘息の統計を二種類提示。
独立行政法人環境再生保全機構 - ぜん息などの有病率:国民生活基礎調査
(平成16年版「ぜん息・小児ぜん息の年齢階級別通院者率の経年変化」で、全ての年齢層で右肩上がりの増加がみられる)

文部科学省 – 学校保健統計調査 - 平成24年度(速報)の結果の概要
(ここから「調査結果の概要」を選んでPDFをダウンロードすると、16ページ「学校種別 ぜん息の者の推移」で、昭和42年時の0.03~0.25%から平成24年の1.91~4.22%へ、全ての学校種別で右肩上がりの増加)

バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465