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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2013/02/01

トラブル続きの「準国産機」!…ボーイング787(ドリームライナー)搭乗を振り返る

最近、ボーイング787(通称ドリームライナー)の事故が立て続いています。本年1月7日には日本航空機がボストンでバッテリー発火、1月9日には全日空機が山口宇部空港でブレーキ不具合(制御パソコンのトラブル)のため欠航、同じく1月9日には日本航空機がボストンで燃料漏れ、1月11日には全日空機が宮崎空港で潤滑油漏れ、そしてついに1月16日、山口宇部羽田行き発の全日空692便が高松空港に緊急着陸した衝撃的な映像が世界を駆け巡りました。こちらドイツでも、飲食店や駅の構内などの大型画面に、非常用スライドから日本人乗客が次々と滑り降りてくる様子が大写しにされた瞬間、旅行好きで航空機の利用の多いドイツ人たちもさすがに他人事とは思えなかったらしく、足を止めて目は釘付け、言葉を失っていました。1月18日付の地元紙Taunus Zeitungも、トップはズバリこの写真です↓。

 

「In Frankfurt gestrandet (フランクフルトで座礁中)」というタイトルのこの記事によると、前の晩(1月17日)にフランクフルト国際空港に到着したこのANA機は、日本の事故の報を受けてドリームライナーが全世界で飛行を見合わせて以降、一晩1000ユーロ(12万円余り)の駐車場代ならぬ駐機場代(!)を払う羽目になっているのだそうです。ちなみに、この駐機場代の話を聞いて、つい自宅の駐車場代(東京、月3万5千円)と比較して「日額でコレは高い!」と一瞬思ったものの、そもそも自家用車と大型旅客機とを比較することはできず、その大きさや重量、搭載機器の違いやセキュリティの問題などを考えれば、フランクフルトで毎日12万円余りの出費というのは、それこそ羽田の同条件と比べたら実は意外に安かったりするのでしょうか?さらにこれがボストンならハウマッチ?などと、いろいろ気になるところです。いずれにしても、海外で足止めを喰らっているドリームライナーには、当地での駐機場代が発生するのみならず、この「飛べない」「引き揚げられない」状態がいつまで続くか先が見えないというのも、その信用失墜と並んで痛い損失と思われます。

 

こちらの図は、ドリームライナーのトラブル一覧と、全50機の納入先別の棒グラフです(2013年1月現在)。All Nippon Airways(全日空)はその開発段階から深く関わっているローンチカスタマーだけあってダントツの17機を誇り、Japan Airlines (日本航空)が7機と、日系航空会社だけで全体の半数近くを占めており、Air India、United Air Lines、Qatar Airways、Ethiopian Airlinesと続きます。

実はワタクシ、昨年11月に一度だけ、羽田発フランクフルト行きの全日空便を利用したことがありました。全日空の羽田-フランクフルト便はそもそも、「最新鋭機材ボーイング787」の納入を待って開設された路線であり、2012年1月21日に鳴り物入りで就航開始しました。

ANA News (2011年10月5日)(以下、青字はこのサイトからの引用部分)

「2012年1月21日より、羽田=フランクフルト線の運航を開始いたします!~最新鋭機材ボーイング787、初の国際線長距離路線に就航~ 」
ANAは、ボーイング787(以下、787)を活用した新たな羽田発着の国際線路線として、2012年1月21日(土)より、羽田=フランクフルト線の運航を開始いたします。
 高い環境性能、快適空間を備えた最新鋭機材787はANAが開発から携わり、世界で最初に受領し、初号機が9月28日に羽田に到着いたしました。
 羽田=フランクフルト線の予約・販売は2011年10月13日(木)より開始いたします。
 既存の成田発の4路線※に加え、さらに旅の選択肢が増え、充実したANAの欧州ネットワークを、 ビジネスや観光に、ぜひご利用ください。
※ 成田=フランクフルト・ミュンヘン・ロンドン・パリ線

かくして、羽田便はボーイング787、成田便はボーイング777という棲み分けが出来たわけですが、それ以外にも相違があります。羽田便は深夜1:00発ですので、その日の夜まできっちり仕事してから出国できるのが最大の利点です(成田便は12:20発)。都心から羽田空港までの距離の近さという圧倒的利便性も手伝い、それゆえに「バリバリ働くビジネスマン」に人気の路線ともいえるでしょう。しかし、羽田便の最大の欠点は座席数です。成田便(ファースト8席、ビジネス68席、エコノミー140席)に比べて羽田便(ビジネス46席、エコノミー112席)は肝心のエコノミー席の設定が少なく、相当前もって予約しないとすぐに埋まってしまうこと、文字通りキチキチの満席なので、12時間もの長いフライトでは比較的空席のある成田便に比べて人口密度が高く窮屈に感じられることが、私のような「バリバリ」したくないタイプの人間(笑)にとっては敷居が高いのです。また、ドイツ到着が早朝5時頃なので、時差ボケになりやすく以降の体調に響くというのも負の要素です。従って、今まではこの羽田便を敬遠していたのですが、このときは前日の仕事の都合でやむを得ず、人生初のドリームライナー搭乗となったのでした。

さて、そんな私にとって、ドリムーライナーの乗り心地はどうだったでしょうか。その前に、先ほどのANAニュースに挙げられた「787客室の特徴」という項目をご一読下さい。↓

・開放感あふれる客室空間
従来の767よりも75cmワイドになったキャビンで今までにない開放感をご体験いただけます。
・窓の大型化
767に比べ面積比1.3倍の窓からは窓側以外の席からも外の景色をお楽しみいただけます。
・ウォシュレット装備のラバトリー
TOTO、ジャムコ、及びボーイングとの共同開発による、航空機向け温水洗浄機能付き便座「ウォシュレット」*を導入し、各クラスのトイレに搭載します。※「ウォシュレット」はTOTOの登録商標です。
・クリーンで快適な空気環境
2ヶ所だった客室内の給気口が4ヶ所になり、よりクリーンな空気環境を実現しました。また、湿度に強いカーボン新素材を機体に使用することで、乾燥しがちだった機内の湿度を大きく改善。これまで以上に快適な環境が整いました。
・気圧高度を抑えた快適な乗り心地
客室内の気圧高度を大きく低下させることが可能になり、気圧差による不快症状を和らげ、より快適な機内に。

機内スペースが広くなった、窓が大きいなど、色々書いてあります。ただ、私が乗ったのはエコノミーですので、その開放感はあくまでも機体がピカピカのおニューでキレイであったことに伴う心象と思われ、”キチキチ満席”の圧迫感を解消するほどのものとは感じられませんでした。

他方、特筆すべきは何といっても「トイレがウォシュレット」ということです。これはおそらく、世界のエアラインで初ではないでしょうか。以前取り上げたホテルオークラ・マカオのウォシュレットのことを思い出しました。このウォシュレット機能は、全日空がボーイング社と共同での開発段階から一歩も譲らず、「そんなモン本当に要るの?」という冷たい反応のアメリカサイドを説得して採用されたものだそうで、日本人のウォシュレットに対する深いこだわりを見た思いでした。

時事ドットコム:B787 エコ時代にぴったりの「準国産機」(3/6)~うれしいウォシュレット~

しかし、私が実際に乗った機では(まさか私が乗った機だけ?)、そのトイレにおいて実は大事件が勃発しました!といっても、ウォシュレットが発火したとか噴射したとかではありません。

このドリームライナー、色々なボタンとかレバーなどが、日本人好みの繊細なタッチで動く、いわば”日本人仕様”になっていたのですが、それがよりによって、トイレのロックのレバーにおいても当てはまったのです。どういうことかというと、本来トイレの鍵は内側からしかかからないはずが、飛行中の微妙な振動で勝手にトイレのロックが「カチっ」と閉まってしまう…ということが頻発したのです。となると、どういうことになるか、もうおわかりですね?トイレのドアが閉まっており、「使用中」の札が出て赤ランプも点灯しているのにもかかわらず、トイレの中には誰もいないのです。必然的に、トイレの前は常に人だかりで、扉をノックしたり声をかけるべきなのか、はたまた「早くしろ」とでも怒るべきなのか…などと並んでいる人々が判断できずに途方に暮れているのです。

そこへ、頼もしい客室乗務員がやってきました。そして、どこをどう押さえたり引いたりしたのか、いつのまにか外から器用にドアを開けているではありませんか!そして、中に人がいないのを確認してから、「どうぞ」とトイレ前で並んでいる客を誘導するのです。何がビックリかというと、客室乗務員がトイレのドアを外から開ける動作に「慣れ」があり、この機ではこういうことが比較的珍しくないのだろう、きっとマニュアルもあるにちがいない…ということを容易に想像させるものだったからです。しかし、トイレの鍵が勝手に閉まったりするという不具合を、何故今まで放置してきたのでしょうか?これはこの機体だけの問題なのか、ドリームライナーに特有の問題なのか、疑問に思っていました。

そして、いつかは起きるだろうと思っていた最大の悲劇が、ついに起きました!前方のトイレの方角から、

「あーーーーーーーっっっ、おっ、お客様、しっ、しっ、失礼いたしましたっ!」

という、客室乗務員のうら若き女性の絶叫が聞こえてきたのです。中にいた男性は、それはもう何と表現していいやら…という顔でした。中で乗客が用を足している最中に外からドアを開けられてしまうなんて、私にはホラー以外の何者でもありませんが、いつ起きてもおかしくないとも思えたので、とにかく安心してトイレに座ることができません(笑)。ちなみにこの悲劇、私はセーフだったのですが、フライト中に2~3回ほど目撃しました。「ウォシュレットの前にやることがあるだろうが!」と、通路でジタバタしてしまいそうでした。

また、もう一つ、ドリームライナーには医学的観点からの問題点があります。それは「ブルーライト」です。ANAのイメージカラーが青なので仕方ないのかもしれませんが、このドリームライナーには今まで搭乗した他社のどの機よりもふんだんに、キャビン照明として青色光(LED)が使用されていました。それも、夕食を終えて機内を暗くして就寝時間となる際に、機内の光がいっせいにトーンダウンし、キャビンのLEDライトが独特の蛍光がかった青色になることで、SF映画の中にいるような”近未来的空間”と化すのです。そして、離陸前の朝食時間になると、オレンジ色の光に変わり明るくなります。

かつては、「青色は心を落ち着ける」という説があったり、その「近未来的」とも「幻想的」との印象を与えるイメージがあったものでしたが、今ではむしろこの10年程度の間に、「青色光は”睡眠障害””眼精疲労””網膜障害”を引き起こす」という説が定着しつつあります。青色光は太陽光、LED電球、蛍光灯に多く含まれ、液晶テレビ・スマホなどのディスプレーなどからも発せられます。光のエネルギーは波長に反比例するという法則の通り、可視光線の中で最も波長が短い青色光は、網膜に与えるダメージが最も強いこと、睡眠をつかさどるメラトニンというホルモンを抑制することが知られています。つまり、これは人を興奮される方に働く光であり、体を覚醒して睡眠のリズムを狂わせる可能性がどうやら高そうだということです。だからこそ、就寝前・睡眠時にはパソコンするなという話になったり、青色光をカットする「ブルーライト対応レンズ」が最近メガネ屋さんに随分並ぶようになっているのです。

 

上の二枚の写真は、1月27日掲載のドイツのWelt Am Sonntag紙における、ディスプレイやブルーライトひいては町のネオンや街頭までも含めた「過剰な光が人を病気にする」(Krank durch Licht)という内容の記事です。その中でも、パソコンやテレビによる睡眠障害には複合的な要因があり「コレ」と一つに絞ることはできないものの、ブルーライトに関しては目にも脳にも良くないという論調は眼科医の間でもほぼ合意が出来ているようです。

もっとも、それ以前の嗜好の問題として、ドイツ人は青色光をあまり好みません。街のライトアップやテレビ番組のセットなどを見ても、暖色系のオレンジっぽい光を好む傾向があるのと、何よりも街灯が日本のような白っぽい蛍光灯ではなくオレンジ色の光であることは特筆に価します。「青」は「高貴」という意味もある反面、「人工」「不自然」「毒」というイメージが欧州の人にはあるようです。そういえば渡独直後、日本では珍しくもない「青色ダイオードで装飾されたクリスマスツリー」の写真をドイツ人同僚一同に見せたら、「趣味悪い!」とバッサリ言われ、当時の私は大いにショックを受けたものでした。そういう観点からも、この全日空のブルーライトは「準国産」であるがゆえの問題という可能性も考えられ、世界からの集客という観点からも、そして医学的観点からも、再考の余地があるように思います。

話が長くなりましたが、私にとっての全日空ドリームライナーのトラブルといえば、「トイレの鍵事件」と「ブルーライト問題」だったわけです。ただ、今から考えれば、フライト中に電池発火や燃料漏れに遭遇したらその方がよっぽど悪夢であり、それに比べれば運がよかったと考えるべきでしょう。せいぜい「トイレの鍵」と「ブルーライト」ぐらいで済んだのですから、良しとしなくてはなりません。もっとも、この機は早晩行き詰るのではないかと当時思ったのと、座席数などの上述の数々の欠点から、今後も積極的に乗りたいと思えるフライトが体験できなかったのも事実で、今後どれだけの月日をかけて再建されるかわからないこの「準国産機」を、当面は遠めに様子見を決め込むことになりそうです。


<参考サイト>

大森医師会 - ブルーライトが忍び寄る(前篇)

大森医師会 - ブルーライトが忍び寄る(後篇)


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