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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2012/12/14

番外編(2)…フィギュアスケートのリンク壁面広告にみるジャパン・パワーの圧巻

2014年の冬季五輪の開催地であるソチ(ロシア)で先週開催されたフィギュアスケートのグランプリファイナルは、日本勢の大活躍で幕を閉じました。男子シングル金の高橋大輔選手、銀の羽生結弦選手、女子シングル金の浅田真央選手、銅の鈴木明子選手という、計4名のメダリストが誕生したことは素晴らしく、フィギュア大国ニッポンの面目躍如ともなりました。

前回コラムでは、グランプリシリーズフランス大会「エリック・ボンパール杯」(Trophée Eric Bompard)での無良崇人選手の優勝について説明しましたが、あのとき私が着目した点がもう一つありました。それは、試合会場のリンクの壁面全周に展開されていた広告です。

試合会場となったパレ・オムニスポール・ド・パリ・ベルシー(Palais Omnisports de Paris-Bercy)はパリ12区内、地下鉄6号線と14号線の交差するベルシー駅のド真ん前にあり、さらに国鉄駅数駅も徒歩圏内という、この上なく交通至便の地にあります。普段はテニスや体操にハンドボール、つい最近は世界空手選手権など各種スポーツ大会の開催のみならず、有名アーチストによるコンサート(主にロック系)も多く、日本で例えるなら東京の国立代々木競技場が最も近いように思います。

 

試合会場に入ると、眼前には真っ白なスケートリンクが広がり、頭上では四角いモニターが四方の観客に向けて映像を映し出します。収容観客数17000を誇る客席は全面赤色で、アツ~い観客の熱狂と歓声を象徴するかのようであるのに対し、純白のアイスリンクを囲むフェンスは落ち着きのある深い濃紺、そしてそこに並ぶ広告は全て水色地に白字で統一されており、好対照となる独特の高級感を醸し出し、青・白・赤というフランス国旗にも通じるコンセプトの美しい色彩空間を演出しています。他国の大会では色とりどりの広告が観客やテレビ視聴者の心や目を引くのに対し、フェンス広告にこのような色の規制をかけていること自体、このエリック・ボンパール杯の個性であり、他大会との最大の相違点でもあります。

 

例えば、上の写真2枚を見比べてみましょう。左は今年のエリック・ボンパール杯男子シングルのジェレミー・アボット(Jeremy Abbott)選手(アメリカ)、右は昨年のグランプリシーズ中国杯「カップ・オブ・チャイナ」(上海・東方体育中心)アイスダンスのマイア・シブタニ&アレックス・シブタニ(Maia Shibutani/Alex Shibutani)組(アメリカ)です。両方に共通するものは何でしょうか。それは、演技者の背後にある、日本の貸金業者「アコム」(Acom)の広告です。ただ、そのデザインは全く同じであるにもかかわらず、色が異なるだけでも、その印象がかなり違って見えてきます。右の赤地に白字の広告は日本全国でよく見かけるものと同一ですが、左の青地に白字バージョンはまさにエリック・ボンパール杯限定と思われます。この色彩規制も、芸術大国フランスならではのこだわりと個性第一主義、「ヨソと違うことを美徳とするお国柄」の一端を思わせます。

ちなみに、エリック・ボンパール杯の場合、他のフィギュアスケートのグランプリ大会に比べて企業広告が圧倒的に少ないというのも、これまた大きな特徴です。私が最も驚いたのは、このスケートリンクの壁面に一般企業の広告が数えるほどしかないということでした。広告を出すスペースを数えてみると全部で31枠あったのですが、このうち実に半分以上にあたる17枠を独り占めしているのが、冠スポンサーのエリック・ボンパール・カシミア社(Eric-Bompard Cachemere)です。まさに、どの中継画面や写真記事も「エリック・ボンパール」に当たるという状態で、相当の比率の出資をこの一社で行っているのではないかと想像ます。残りの広告枠も、来る12/13-16に開催される全仏選手権の告知、来年で110周年を迎えるFFSG(フランスアイススポーツ連盟)及びその関連グッズ販売サイト、さらにはアイスリンク製造を担当するSYNERGLACE社など、およそ内輪の宣伝のようなものばかりが並び、そこにマスコミからはル・フィガロ(新聞)とRMC(ラジオ局)が1枠ずつ加わるだけです。結局、一般企業の出していた広告といえば、日本企業の「アコム」と「オリコ」がそれぞれ2枠ずつの計4枠、ドイツ車の「BMW」が1枠の、たった5枠しかないのです。他国の色とりどりで統一性のかけらもない広告の競演に比べ、フランスでのあまりにも一般企業の広告が少ないのもさることながら、その少ない5枠のうちの4枠をわがニッポンの会社が占めていることに、フィギュアスケートの世界における日本という国の立ち位置が見えるように思います。それにしても、日本がいずれもカネ関係、ドイツがクルマという業種の取り合わせも、多分に偶然なのでしょうが、何だか”いかにも外人が考えそうな(笑)”図式をつい妄想してしまいます。

参考のために、他国の大会のリンクの壁面広告ものぞいてみましょう。


2011年中国杯、羽生結弦選手(東北高校)のショートプログラム:ちょっと小さいが、壁面に「Cannon佳能」「Menard」「エステティック・ミス・パリ」「アコム」などの広告が並ぶ。

同じく2011年中国杯、宋楠(Nan Song)選手(中国):中国男子シングル期待のホープ。羽生選手とはジュニア時代のライバル。背後の広告には、日本でもおなじみの「JACCS」(信販会社)と「ほけんの窓口」(保険代理店運営会社)。

 

2008年スケートカナダ表彰式:先ほどから頻出の「アコム」の他、「SONY BRAVIA」が見える。

ただし、欧州選手権のように日本人の出場がない大会となると、途端にスポンサーの顔ぶれが一変します。日本系企業はほとんど見られません:

「MARY COHR」(フランスのエステティックブランド)と「GUINOT」(フランス中心に全欧展開するスキンケアブランド)の広告。フィギュアスケートと化粧・エステは切っても切れない関係なのか、両社ともオフィシャルスポンサーとしてほぼ皆勤賞。

左上の写真はイタリアのバレンチナ・マルケイ(Valentina Marchei)選手と当時のコーチだったニコライ・モロゾフ氏。写真左端に、「Komplivit」(ロシアの複合ビタミン製剤)「MacCoffee」(シンガポール人社長が設立し東欧・ロシア・中東・東南アジア等に展開するコーヒーショップチェーン。マクドナルドとは無関係)の広告と並んで、この大会唯一の日系スポンサーであるCITIZENのロゴが見えます。時計とかかわりの深いスポーツであることや、ボウリング・アイススポーツ場「シチズンプラザ」(東京・高田馬場)の運営でも知られる同社は、スケート以外にUSオープン(テニス)のタイムキーパーとしても知られています。

 

上の写真は、日本でもおなじみのフィンランドの美人スケーター、キーラ・コーピ(Kiira Korpi)の背後にフィンランドの化粧品会社「LUMENE」の広告がドンピシャリの位置でおさまっているという、ちょっと出来すぎ(?)のカットです。

さて、先日ロシアのソチで開催されたグランプリファイナルにおいては、フィギュアスケート界における日本の威力が、戦績面でも広告面でも存分に発揮されました。ドイツでもその内容は(総集編のみでしたが)放映されましたが、一体どこの国のスケートリンクかと目を疑うような日本語広告のオンパレードでした。それもそのはず、下記の公式サイトには、大会の公式スポンサーとしてこのような顔ぶれが並んでいるのです:

Welcome to Sochi – Grand Prix Final 2012/2013 “Official ISU Sponsors”

acom
Canon
CITIZEN
Guinot
ジャパネットたかた
木下グループ
Kosé
MARUHAN
MARY COHR
sato(佐藤製薬)
住友生命

11社の公式スポンサーのうち日本企業が実に9社という、圧巻のジャパンパワーです!さらに来年の世界選手権では、日本企業のスポンサーは11社中8社となるようです(「ジャパネットたかた」と「Canon」が外れ、半導体製造の「東京エレクトロン」が加わる)。

ちなみに、ドイツではスポーツといえば、ナンバーワンは「もちろんサッカー!」という風潮が支配的で、フィギュアスケートは「女しか見ないスポーツ」というレッテルを貼られているのが実情です。このことは、実際に観戦しているスタジアムにおいて、毎回特に強く実感します。例えば、甲子園で野球観戦する時は、男子トイレはいつも大行列なのに女子トイレはいつもガラガラで、とても助かっています。それに対し、フィギュアスケート観戦の場合は例外なくこれが真逆のパターンとなり、トイレには非常に苦労します(その代わり、男子トイレはガラガラ!たくましいフランス人おばちゃんの中には、男子の方にコッソリ入るツワモノも…!笑)。

スポーツ専門チャンネルとはそもそも男性視聴者をターゲット層に設定している局であり、「オンナしか見ないスポーツ」は視聴率も低迷するため、特にここ数年はフィギュアスケートの中継数を大幅に削減してきているのが現状です。それに対し、日本は今もトップレベルの実力かつ人気を兼ね備える選手が信じられないほど揃っており、入場料収入もケタ違いに高額なのに飛ぶように売れ、テレビ放映も高い視聴率が取れるからこそ、この他国に類を見ないハンパなき力の入りようとなるのでしょう。それもこれも、それだけの広告効果が期待できるからであり、「国別対抗戦」「ジャパンオープン」といった日本を開催地とする大会がやたら多くなるのも、この突出したジャパンマネーへの依存度の高さをうかがわます。

それでも、世界をリードするフィギュア大国の一角として、今後もジャパン・パワーには頑張ってもらいたいですし、仮に日本人が出ない大会であっても、その存在感を世界で維持していただきたいと願っています。


<参考サイト>

Boutique FFSG (フランスアイススポーツ連盟の公式グッズ販売サイト):ブライアン・ジュベールやフローラン・アモディオのTシャツの他、連盟ロゴ入りのタオルやトレーニングウェア等が買えます。フランス外の国への発送もしてくれるようです。

Synerglace公式ホームページ

(上記サイトの下の方に、何もないところからスケートリンクを作り上げていく作業過程を2分39秒に圧縮した動画が面白い。スケートリンクの作り方を見たことのない人は必見)

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