Nagoya Talents' Network - タレコラ

Dr.片山晴子 RSS Feed

金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2012/10/05

ドイツで観戦するロンドン・オリンピック2012 (10)…もし大食いが七種競技になったら?!

日本から伝え聞く情報によると、『元祖!大食い王決定戦inマカオ』(TV東京)は去る9月30日(日)に無事にオンエアされたようで、ひと安心しました。例によってオンエアをまだ目にしていない私でありますが、今週からは記憶を頼りながら一年半ぶりとなった大食い本選ロケの回想を続けたいと思います。と書くと、大食いロケ回想記なのにどうしてタイトルが「ドイツで観戦するオリンピック」シリーズのままなのだ?と不思議に思われることでしょう。実は以前にも、大食いロケとオリンピックには接点がありました。2010年春のハワイでの女王戦のロケはちょうど「バンクーバーオリンピック」が一番盛り上がっていた時期と重なり、開催中だったフィギュアスケートの世界に起きていたことと当時の大食い界の勢力図に妙なオーバーラップを感じてそれをコラム化したこともありました(→菅原初代とエフゲニー・プルシェンコ(1)、→菅原初代とエフゲニー・プルシェンコ(2)…子持ちであることの意味、→フィギュアスケートと大食い…「復帰組vs.現役組」、→フィギュアスケートと大食い…「ロシアン」という共通点(前編)、→フィギュアスケートと大食い…「ロシアン」という共通点(後編)、→フィギュアスケートと大食い…ライザの不振)。今年は大食いロケとロンドンオリンピックが日程的に重なることはなかったものの、どうやら私はオリンピックを見るたびに大食いを連想してしまうことが習慣化してしまったようで(笑)、大食い競技ないし大食い番組制作について考えるヒントになることが相変わらず多かったため、今回もその視点でのコラムとなった次第です。

まずは、いきなり話が飛びますが、こちらの満足そうな表情の金髪美女をご覧いただきたいと思います。

 

おそらく、日本ではほとんど報道も注目もされていなかったのではないかと思いますが、この方は女子の七種競技(英語ではheptathlon、ドイツ語ではSiebenkampf)でドイツに銀メダルをもたらしたリリー・シュヴァルツコプフ(Lilli Schwarzkopf)選手です。日本ではSchwarzkopfといえばシャンプーのブランドとして有名かと思いますが、この選手はシャンプー会社とは一切関係ないようです。

それよりも、今回の原稿作成のために調べてみてビックリ!苗字があまりに純ドイツ風と思ってノーマークだった彼女、実は旧ソビエト連邦キルギスタン生まれの28歳(ロンドン五輪当時)、それも7歳の時に一家でドイツに移住してきたという、れっきとした移民でした。ちなみに父親はキルギスタンの元・十種競技選手で現在は娘のコーチを務めるという、「親子鷹」でもあります。元々、ロシアをはじめとする旧ソビエト連邦諸国へのドイツ人の移住には何百年もの長い歴史があり、その代表例(出世頭)として女帝エカテリーナ2世(1729-1796、ロシアの血を一滴も引かないドイツ人)が有名です。20世紀初頭前後よりドイツ系移民は、特にカザフスタン、次いでキルギスタン、ウクライナ、ロシアのシベリア南部等にドイツ系コミュニティを作っていったようです。彼らはドイツでは(旧ソビエト連邦諸国のケースもひっくるめて)Russlanddeutscheと呼ばれており(直訳すると”ロシアのドイツ人”、つまりドイツ系ロシア人の意)、言ってみれば日系ブラジル人がサンパウロで日系人社会を構築しているのと同様の構図です。このドイツ系ロシア人の場合、ドイツでの就労ビザ取得(ひいては国籍取得)に際して優遇措置があることが、ソビエト連邦崩壊後に彼らが大挙してドイツに集団移住したという、いわば「逆移民」「Uターン移民」の背景にあります(ここでも日本入国における日系ブラジル人の優遇措置と類似)。この「Uターン移民」のスポーツ界における存在感は大きく、今回のロンドン五輪では柔道男子100kg級銅メダルのドミトリー・ペータース、女子体操エースでアラフォーの星チュソビチナ、さらにドイツで活躍中の多数のアイスホッケー選手やサッカー選手がこのカテゴリーに入っています。

さて、話は戻りますが、このシュヴァルツコプフ選手の「七種競技」、具体的に行われるのは以下の七枚の写真の通りの競技です:

 

 これらの七つの競技をポイントに換算し、合算ポイントの多い順に最終順位を決定します。なお、競技は二日間に分けて行われ、一日目に上記1)~4)、二日目に5)~7)を行います。

大食いに詳しい方なら、私がどうしてこの七種競技と大食いを結びつけようとするのか、もう既にピンと来たことと思います。実はこの七種競技というオリンピック種目、「元祖!大食い王決定戦」を思わせる類似点が色々とあるのです。

まず、今年初の本選となった今大会そのものが、昨年春に引き続き(従来より1名多い)9名の参加者でスタートし、毎回違う食材を用いて”全七日間で七試合を戦う”という、文字通り”七尽くし”の「七種競技」でありました。さすがに本家のように「二日間で七種」という訳にはいかず、全七日間の日程のうちに占める競技日は五日間でした。それも今大会の大きな特徴は、これまた昨年春に引き続き、最初の2試合で「全員が最大限食べた上でその多寡を争う(トップ争いはまさに青天井!)」という”青天井方式”(最下位者が脱落)ではなく、「一定記録をクリア出来れば全員勝ち抜ける」という”標準記録方式”(全員完食時は脱落者なし)を採用したことでした。これは2010年までの全競技を”青天井方式”で行っていたのとは一線を画すスタイルです。その上、ただでさえ”七尽くし”の中、二回戦「名古屋メシ七種60分勝負」という競技名中に「七種」と入っているところが、実は重要な隠しメッセージだったりして?!(笑)

2011年以降の番組制作スタッフが、「全試合青天井」というスタイルを放棄する決断をしたのは、おそらく以前に私が当サイトで指摘した「胃酸枯渇問題」の兼ね合いもあると思います(→大食い国内ロケの意味(4)…「胃酸の枯渇」、→大食いケミストリー(1)…オレンジジュース療法、驚きの効果、→大食いケミストリー(2)…コーヒーvs. オレンジジュース)。これは、一回戦から何キロもの食べ物を一日2回食べるような日程が数日続き、胃酸・消化酵素の過剰分泌が必要となり続けた末、ある時点を境にピタッと消化液が出なくなってしまうという現象で、特に2010年秋の男女混合戦の際に多くの選手に一斉にみられて問題となりました。そもそも、いくら強い選手といって、必ずしも一回戦から全力を出す必要は本当は無いのですが、実力が横一線の拮抗状態となればみんな持ち前の負けん気や闘争本能に火がついてしまい、後々にまで響くような体力消耗につながることは経験則としてもまず確実です。そこで、元々「デカ盛選手権」や「テレビチャンピオン」の一連の番組制作のアイデアやノウハウを受け継ぐ当番組スタッフが、それこそオリンピックの七種競技のように種目に変化を持たせ、視聴者を飽きさせないだけでなく、番組が選手の肉体に否応無く強いるリスクそのものを軽減しようとしたのではないかと、オリンピック競技を見た後だけに私は考えるのです。

なお、あくまでも私個人の見解ですが、「元祖!大食い王決定戦」に限らず大食い番組全般は今後、「七種競技化」の方向性をもっと強化するべきだろうと考えています。かつて、「青天井」一点張りの「食って食って食いまくれ」という番組コンセプトが成り立っていたのは、当時の参加選手の「豊富な競技経験や訓練経験」だったり、「バブル期・ポストバブル期という時代が可能にしたとも言える人間離れした顔ぶれ」だったり、「単に運が良かった」だったりするのでしょうが、それにプラスして何よりも重要なのは、「平和な時代だったから」ということではないかと、東日本震災以降は特にそう思わずにはいられません。徴兵制を導入しようかという議論まで飛び出している今のこの国で、口の中を血だらけにしながら他人から出されたものをひたすらおかわりする、というスタイル自体、医学的という以前に社会的な懸念を持たれてしまう可能性が心配です。だからこそ、今回の大会の最初の2試合で展開された「標準記録方式」、それも2回戦「名古屋メシ七種60分勝負」は非常に優良な企画だったと言えるでしょう。あの2回戦では、食べ終わったら次の食材を選手が自ら走って取りに行かねばなりませんでした。この手の設定、例えば選手自身に調理の一部をやらせるとか(手巻き寿司を自分で巻く、讃岐うどんを自分で茹でて盛り付けるなど)、パン食い競争のように食べ物にありつくまでに色々と潜り抜けるハードルを設けるとか、色々とアイデアの膨らませようはあると思います。そして、楽しめる内容でありながらも、医学のリスクのみならず「時代のリスク」をも分散できる番組制作を意識して欲しいと願っています。

 

(名古屋メシ七種のうち二種をご紹介。左が味噌煮込みうどん、右がひつまぶし。岩手放送のオラ君、まるで名古屋城主のような貫禄です。実は名古屋出身の私、色々な思い出が甦った印象的ロケとなりました)

バックナンバー>>
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472