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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2012/09/14

ドイツで観戦するロンドン・オリンピック2012 (7)…五輪は国を映す鏡?移民系ドイツ人選手の活躍

みなさんは、ドイツ人というと、どんな人を連想しますか?日本でそんな質問をすると、「ビール飲んでソーセージ食ってる人」という返答が最も多く、次いで「ジャガイモばっかり食ってる人イメージ」「堅苦しく地味」なんてコメントもよく聞かれます。ただ、かつてのドイツに「美味いビールと不味い食事」「イモくさい男女」という時代があったことは決して否定しませんが(笑)、最近のドイツはそんな過去とはいつの間にか決別した感があり、ここ数年のドイツで特筆すべき変化は、食事の味が意外とレベルアップしていること、磨けば光るはずのイモくさかった男女がこれまた意外にもオシャレに目覚めはじめたことの2点に尽きると言えるでしょう。もちろん、 ビールの美味さ(と安さ!)は今も昔も全く変わりません。ご旅行の機会がある方は、是非ドイツでこれらをご確認いただきたいです!

ここで疑問ですが、どうしてドイツは変わったのでしょうか?理由として最も考えられるのはEU(欧州連合)の誕生とそれに伴う人とモノの交流の活発化です。特に料理とファッションの2点に関しては、これらのレベルの高いイタリアやフランスとの往来の容易化および通貨統合が大きく貢献したと私はみています。うちの職場でも、イタリアやフランスからの女性研究者はすごくオシャレで私も刺激を受けましたし、ギリシャ系やトルコ系の先生方のパーティーで出てくる料理もイタリア・フランス料理に負けず劣らず美味しいです。そんな刺激こそ、伝統的ドイツ料理や伝統的ドイツ娘にとっては、「このままではダメかも!」と思わせてレベルアップさせるための外圧となった可能性があり、一種のドイツ版黒船襲来だったのかもしれません。

そして、そんな移民国家ドイツの面目躍如となったのが、今年のロンドン五輪における移民系ドイツ人選手の大活躍でした。ということで、今週はそのようなドイツ選手を何人かご紹介したいと思います。

1.男子カヌー競技(スラローム)銅メダル:Sideris Tasiadis(ギリシャ系)

こちらのイケメン君は、彼自身はドイツ生まれのドイツ育ちですが、ご両親がギリシャからの移民です。以前のコラムで「やっと金!」というニュースキャスターの表情をご紹介したことがありましたが(→ドイツで観戦するロンドン・オリンピック2012 (6)…氏より育ち?生育環境やお国柄がカギを握るメダリスト養成の秘訣)、彼の銀メダル獲得はこれと同じ日の出来事でした。その目鼻立ちクッキリのギリシャ彫刻の如きお顔は、「ビールとソーセージ」とはちょっとお里が異なる感がありませんか?この彼に南欧の香りを感じた淑女の皆様は、きっと男性を見る目が肥えていると言えるでしょう!(本当か?)

カヌーのスラローム自体を見たことがなかった私ですが、この競技には強い上半身の力はもちろんですが、バランス感覚や瞬時の判断力、体のこなしの器用さなども求められるようで、このあたりが南欧の海洋国家にルーツを持つ彼の資質に有利に働いたのではないかと勝手に妄想していました。それでは、荒々しい波にオール一本で立ち向かい、怒涛のごとく銀メダルのフィニッシュを果たして手を叩いて喜ぶタシアディス選手の勇姿をお楽しみください!

 

 

2.女子体操団体:Oksana Chusovitina(ウズベキスタン系)とKim Bui(ベトナム系)


ドイツの女子体操界は、なかなか面白いことになっていました。上の写真はエースのオクサナ・チュソビチナ(Oksana Chusovitina)選手です。おん年37歳で1児の母というこの貫禄だけでも驚きですが、実はこの選手、前回の北京五輪の跳馬で銀メダルを獲得しており、この時はオリンピック体操競技史上最年長メダリストとしても話題になりました。旧ソ連(現ウズベキスタン)時代から体操選手として活躍、1992年の五輪では旧ソ連統一チーム代表として女子団体で金メダルを獲得。そして23歳で引退し結婚出産…ここまでは引退後の体操選手にありがちなストーリーですが、ここからが大きく急展開します。2002年に彼女の一人息子の白血病が判明、その治療のためにドイツのケルンに滞在している最中に、ケルンにおける整った練習環境を目の当たりにして現役復帰決意。そして息子の病気が完治した後もそのままドイツ滞在続け、競技復帰とドイツ国籍獲得、そしてついにドイツ代表としては初めてとなる北京五輪に選出されるのです。同僚の選手と親子でもおかしくないほどの年齢差がある中、そして体が小さいうちが活躍のピークと思われがちな女子体操の世界において、あらゆる人生の艱難辛苦を乗り越えた円熟の境地で現役にこだわり続けるチュソビチナ選手は、輝く40代女性の鑑でもあります。

 

うってかわって上の写真は、ドイツ生まれのドイツ育ちでベトナム系の23歳、キム・ブイ(Kim Bui)選手です。アジア系ドイツ人の場合、テレビ中継の途中に突然このような画面が出てくると、「えっ、本当にドイツ人?」とつい反応してしまいます。それでも、以前の連載でも取り上げた元ベトナム戦災孤児から今やドイツの副首相になっている医師Philipp Rössler(→ベトナム回想記(1)…「ベトナムと言えば?」「フィリップ・レスラー!」)、同じベトナム系のMarcel Nguyenの活躍もあり(→ドイツで観戦するロンドン・オリンピック2012 (5)…目の保養特集!日本でも評判のドイツ美男美女アスリート)、その勤勉性も評価されているベトナム系は、他のアジア系移民と比べてもドイツ社会においては何となく存在感があります。

そんなドイツの体操女子チームが得点掲示を待っている瞬間のひとコマ(上の写真)は、私にはとても印象的に映りました。色々な背景を持つ多様な人々が一つのチームを構成し、異なる能力を持ち寄ってそれぞれの役目を果たしつつ、一つの旗の下に団結する…こういうのもまた、現代のドイツという国の一面をよく象徴しているカットと思います。


3.女子卓球:選手もコーチも中国系!会話も中国語!Wu JiaduoとJie Schöpp

左の写真に写っている、どうみても東洋系の人物…彼女がドイツ女子卓球の堂々たるエース、Wu Jiaduo(吳佳多)選手です。中国に生まれ育ち、21歳でドイツに移住、25歳でドイツ国籍取得。以降、2009年欧州選手権で金メダル獲得、国内ランキング1位、世界ランキング17位(2012年9月現在)。ロンドン五輪の女子団体準決勝で彼女は日本の石川佳純選手と対戦したのですが、その試合のタイムの最中に彼女がコーチから指導を受けているのが右の写真で、これまたどうみてもドイツ人には見えないコーチです(笑)。しかも、タイム中の二人の会話を中継のマイクが拾っており、そこで延々と展開された議論は明らかに中国語だったのです。これには中継のアナウンサーも苦笑していましたが、逆に私はこのコーチに興味を持ち始めたのでした。

ということで調べました。このコーチはJie Schöpp (旧名Shi Jie)で現在44歳。中国で生まれ育ちますが、卓球の選手層が厚すぎて出場機会もプロ選手への道も絶たれ、チャンスを求めて21歳のときドイツに渡ります。そして、翌年に早速ドイツ人コーチと結婚(速攻!)、さらに結婚から3年後となる25歳時にドイツ国籍獲得、ここから一気に戦績が開けてきます。ドイツ選手権でいきなり2連覇、欧州選手権団体戦26戦無敗、ヨーロッパランキング1位、世界ランク13位など、中国での挫折がまるで冗談のようです。2008年からは指導者生活に入り、今年ついにドイツナショナルチームのコーチに就任して、上の写真の光景に至るワケです。

それにしても話が飛ぶのですが、この卓球の話を知れば知るほど、日本の女子フィギュアスケート選手にも是非この「中国卓球方式」を使ってもらうワケにはいかないものだろうか…などと妄想せずにはいられません(笑)!かつて東ドイツがカタリーナ・ヴィットを輩出した過去があるものの、今のドイツはちょうどシングルの層が(男女ともに)薄くなっており、特に女子選手でドイツ人男性と結婚して(逆も可)ドイツ枠での五輪出場を夢見る方がもし本当にいるのであれば、はっきり言って今がチャンスです(笑)!浅田真央、安藤美姫、鈴木明子、村上佳菜子、高橋大輔、羽生結弦、小塚崇彦、織田信成…そんな厚すぎる壁に阻まれている選手でも、他国でなら即チャンピオンという実力の方々が多くいるであろうことは疑いようがなく、ロンドン五輪の卓球が中国人選手だらけという現状が許されるのなら、フィギュアスケートも日本人選手だらけにしてみたいと思うのは、禁じ手なのかどうなのか…などとつい考えてしまいます。


4.男子卓球:Dimitrij Ovtcharov (ウクライナ系)

またイケメン君が出てきました。といっても、こちらの男性は南欧ではなく東欧の香りがする移民クンであります(笑)。ドミトリー・オフチャロフ選手は男子卓球の個人と団体でともに銅メダルを獲得した、若冠24歳にしてドイツ男子卓球界の期待のホープです。1988年、旧ソ連の連邦の一つであったウクライナのキエフに生まれ、父もソ連の卓球選手、母はソ連卓球指導者という卓球一家に育った彼は、ソビエト連邦崩壊直後の1992年にドイツの(笛吹きで有名な)ハーメルンに移住。そこから父親の指導のもとに頭角を現します。ドイツ卓球版「星飛雄馬」ここにも、といった感じでしょうか。

 

5.競泳女子平泳ぎ&メドレー:Sarah Poewe (南アフリカとの重国籍)

 

パッと写真を見ただけでは、この選手が移民系とはとても思えないことでしょう。実際、彼女はドイツ語ペラペラで、外国なまりも全くありません。彼女の場合は移民というよりは、南アフリカとドイツの二重国籍者でした。南アフリカ・ケープタウンに生まれ育った現在29歳の彼女ですが、水泳王国南アフリカで2001年には国内チャンピオン、世界選手権4位になるなど、順調に成績を伸ばしていたのに、2002年に突如としてドイツ代表に国替えを発表します。報道では、彼女の父はドイツ人、彼女の母は南アフリカ人かつユダヤ人とあります。彼女自身も「ユダヤ人スイマー」のカテゴリーに入っているようで、2004年に彼女が始めてドイツ代表としてアテネ五輪に出場した際には、「ドイツ代表として五輪に出場した戦後初めてのユダヤ人女子選手」と紹介されていました。つまり、「ユダヤ」というのはドイツにとって決して過去形の話ではないということです。

Mail Online “Ice hockey star set to become one of handful of post-war Jews to represent Germany at international level”(2012年2月8日)(英語)

上記リンクには、ドイツ代表選手として活躍するユダヤ人の事情が書かれています。先の大戦でナチスが政権をとる前は50万人いたユダヤ人が、終戦時には5千人にまで激減していたこと、ナチス時代に殺されたかつての五輪出場選手たちの名前、さらに近年のドイツ国内のユダヤ人人口の増加は逃げ延びたユダヤ人を多く抱えていたソビエト連邦の崩壊(1991年)により加速されたこと、イスラエルの若者が同国での徴兵を忌避するためにドイツに渡るケースもあることなど、なかなか興味深い記事となっています。

このような記事を見るまでもなく、ドイツに生活しながらいつも感じるのは、ドイツでは「第二次世界大戦」「ナチス」「ユダヤ」「ホロコースト」といった話題が今も強く意識されているだけでなく、今後も忘れることなく強く意識し語り継がねばならない…という位置づけを与えられていることです。これらを扱う記事やドキュメンタリー映像が、毎日のように手を代え品を代え、新聞やテレビにこれでもかと登場しますし、それを受けて家庭内や友人同士の集まりでも決して避けることなく議題として取り上げるので、渡独当初の私は本当に面食らいました。日本人は、そのような話題になるとつい避けたり話をそらしたりしてしまいがちです。その辺もスタンスの違いもまた、次回のコラムで紹介する話題がドイツで大きく波紋を呼んだ最大の要因でもありまが、その話題については次回に稿を改めます。

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