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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2012/08/17

ドイツで観戦するロンドン・オリンピック2012 (3)…開会式生中継は深夜の地理授業!

この原稿が掲載される頃は、ロンドンオリンピックも全競技が終わり、閉会式も含め全日程が既に終了していることと思います。今週は、このロンドンオリンピックの開会式中継をドイツのテレビで見た経験を振り返りたいと思います。

ドイツとイギリスの間には1時間の時差があります。ドイツの国営放送ZDFで開会式特番が始まったのが21時半、私がテレビを点けたのが22時過ぎ(英国時間21時過ぎ)、その頃はちょうど英国女王(どうやらスタントではなく本物)がジェームス・ボンド(ダニエル・クレイグ本人)に宮殿から連れ出されるという映像部分と、それに引き続くエリザベス女王の登場のシーンでした。今年は奇しくもエリザベス2世即位60周年と『007』シリーズ50周年が一緒にやってきた年であり、早速広告宣伝の気配が見えてきました。女王にはまだまだこの先、選手入場後に開会宣言という重大なお仕事が残っていますが、いくらそれが国家元首のお仕事といえども、そしてアメリカのゴールデンタイムを意識したタイムスケジュールとはいえ、おん年86歳の女性の身体にこの深夜労働は相当こたえるのではなかろうか…夜のロンドンは寒そうですし、万一生放送中に女王が卒倒でもしようものなら、医師団は責任取れるのか…などとあらゆる懸念がもたげてきます。

全編ダニー・ボイル監督(映画『スラムドック・ミリオネア』で有名)の演出によるというこの開会式、ひき続きマイク・オールフィールド(全くフケないのが凄い!)のTubular Bells演奏、超久しぶりに見るMr.ビーンのギャグ炸裂の「炎のランナー」等、見所が多々ありましたが、夜遅いため次第にこちらも睡魔が襲ってきます。これでは果たして選手の入場行進までこちらの意識が持つかどうか、英国女王もコーヒーによるドーピングが必要では…などの思いもよぎります。

ドイツ時間の23時21分、ようやく各国の選手団の入場行進が始まりました。先頭の五輪発祥国・ギリシャに引き続き、国名アルファベット順でAのアフガニスタンからスタートしたのは良いのですが、とにかくAで始まる国の多いこと!アルバニアにアルジェリアにアルメニアにと、似た名前の国名にアタマが混乱、オーストラリアと間違えやすいオーストリアも(本国名称はOで始まるのに)これまたAという有様で、全13ヶ国ありました。そして、Bで始まる国がこれまた19ヶ国と、A以上に多いので、クラクラしてきました。ちなみに、お目当てのドイツと日本はGとJな訳ですが、この調子では下手したら1時間くらい待たされそうです。ドイツの登場が日付をまたぐか否かが全土の最大の関心事となりそうな(笑)雰囲気の中、もう寝ようかと諦めかけたところに、そんなドイツ全土の怒りの声が聞こえたかのごとく、ギリギリの23時57分にようやくドイツの登場です!

 

旗手のナターシャ・ケラー(女子ホッケー)を先頭に入場してきたのはよいのですが、後日知人一同の間で話題持ちきりだったのが、この選手団のユニフォームの色のセンスの悪さでした(笑)。ピンクとライトブルーが蛍光マーカーを想起させる色調で、そもそもピンクもブルーも国旗の色でもチームカラーでもないだけに、「何であの色なのか」の声しきりでした。これを見て私個人が真っ先に思い出したのが、2006年トリノオリンピックの実況中継をドイツで見ていた際のナレーションです。フィギュアスケートでアイスダンスの日本ペアが蛍光ピンクと蛍光イエローの混ざった衣装で登場した際、司会者が「それにしても何て衣装だ!この蛍光ペンのようなショッキングカラーというのは、保守的な欧州人は生理的に受け付けない」と生中継で言及したのに対し、コメンテーターが「いやいや、日本という国は、テレビにも街にもこの手の色がいたるところに溢れ返っている」と返したやりとりがあったのです。当時、渡独直後だった私には、このやりとり自体があまりに辛口でショッキングだったのですが、あれから6年後の歳月が経ち、ドイツ人の色彩感覚も変化してきているということでしょうか。

さて、ドイツ登場の10分後、ようやく日本の登場です。

 

赤いブレザーに白のパンツという日本のユニフォーム、その色は国旗の色とシンクロしており、一目で日本と分かるものとなっています。多少オーソドックスな感があり、ネットでは賛否あるようでが、これでこそ日本のユニフォームです!あらためて、先ほどのドイツのユニフォームの異様さ(?!)が浮き立ってしまった気がしなくもありません。

ちなみに、日本選手団が開会式の途中退場を強いられたという報道が日本で数日後に出てきましたが、ドイツZDFの中継においては、そのようなシーンが放映されることも、そのような事実が言及されることもありませんでした。後日の新聞報道等にもこの話題はなく(という以前に日本が話題に取り上げられることがあまりない)、おそらくほとんどのドイツ人が今だにこの事実を知らないと思います。ただ、上の写真が撮られた8分後に日本国旗が、日本の旗手(吉田沙保里選手)ではない男性スタッフによって持ち去られていくこのシーン(下の写真)があり、これ以降は日本選手団が画面に全く映らなくなったことに、若干の不自然さと寂しさを感じた程度です。

 

さて、このZDFによる開会式中継では、他国における中継にはおそらく無かったのではないかと思われる、ZDF独自の趣向ともいうべき構成がありました。それは、「普段聞きなれない小国が登場した際の力の入れようの凄さ」です。地図を開いてもどこにあるか分からないであろう知名度の低そうな小国が登場すると、ナレーターが待ってましたとばかりにこう口火を切ります:

「視聴者の皆さん!これからちょこっと、地理の授業を始めたいと思います!」

そして、画面は唐突に二分割され、左が選手団、右が世界地図からその国をズームインしていく動画となります。さらに、スタッフが相当の時間をかけて前もって調べ上げたと思われる、人口が何人だの、どこの国から何年に独立したの、産業がどうだの、一人当たりのGNPがどうのといった情報を、下手したら先進大国よりも丁寧に時間をかけて視聴者に説明していくという、文字通りの「深夜の地理授業」が展開されたのでした。ドイツ人は世界に冠たる旅行好きの国民で、地理や地政学を扱うドキュメンタリーなどの人気が元々高い国であるためか、私の周囲でもこの「深夜の地理授業」は意外に好評で、これが面白くて眠気が吹っ飛んだと言う人もいました。特にこういう小さい国の場合、選手団ユニフォームがその国の民族衣装風であるケースが多く、そのファッションを眺めることで現地の生活や歴史・文化に対する想像をかきたてるようです。(以下の国々はほんの一例)

 

 

(ソロモン諸島。1978年イギリスから独立、英連邦加盟国。2007年4月2日の地震・津波で大きな被害を受けた。陸上2名、柔道・ウェイトリフティング各1名の計4選手派遣。旗手は女子57kg級ウェイトリフティング のJenly Tegu Wini)

 

 


(東ティモール民主共和国。1975年ポルトガルより独立も、直後にインドネシア占領。東ティモール紛争を経て2002年主権回復。男女マラソンに1名ずつ、計2選手派遣。旗手は男子マラソンのAugusto Ramos Soares)

(ツバル。1978年英国より独立、英連邦加盟国。陸上2名とウェイトリフティング1名の計3選手派遣。旗手はウェイトリフティング男子62kg級のTuau Lapua Lapua)

 

(バヌアツ。英仏共同統治より1980年独立、英連邦加盟国、英語とフランス語が共に公用語。選手は陸上、卓球、柔道の計5名派遣。旗手は女子卓球のAnolyn Lulu)

そんなこんなで全チームが出揃い、86歳の女王がそのお体にムチを打って”I declare open”で始まる”お言葉”を発したのがドイツ時間で1時18分(イギリス時間0時18分)、あのベッカム選手が船で運んできた聖火が無事にスタジアムに到着したのが1時31分(同0時31分)、聖火点火が1時35分(同0時35分)、その直後から花火がドカドカと上がりました。メインイベントが揃いも揃って午前様とは閉口モノでしたが、これでようやく女王はおうちに帰れそうです。ポール・マッカートニーの歌は最後まで見ていたら体が持たないと考え、私も2時前には戦線離脱、テレビ消灯となりました。

それにしても、参加した選手の体調管理面はもちろん、観客の帰宅の足のみならず、高齢の女王の深夜労働に至るまで、この現地生活者を無視した時間帯の設定は何とかならなかったものでしょうか。いくら仕事に響きにくい金曜の夜とはいえ、スポーツに限らず、何でもかんでもスポンサーの都合や経済原理の名のもとに本来の姿を歪められてしまうのが今の世の中だということか…このタイムスケジュールからくる寝不足の倦怠感の中で、そんなことを考えさせられた一夜でありました。


<参考サイト>
Olympia Eröffnungsfeier im Ticker: Frankfurter Rundschau(2012年7月27日)

Der Liveticker zur  Eröffnungsfeier in London – Olympia 2012 – tagesanzeiger.ch(2012年7月28日)

Athletes – Olympic Athlete Bios, Results, Medals – London 2012

Ahtletes Parade at the Opening Ceremony – London 2012 Olympic Games - YouTube

(↑YouTube内の公式サイトによる入場行進の国際映像。マイナーな国の登場時には、ドイツのような地図のインサート付きの「地理の授業」こそ出てこないものの、音声解説による似たような国紹介があることが分かる)

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