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金曜日

Dr.片山晴子

高校野球取材や大食い番組等のメディア出演を行う東京大学医学部医学科卒の脳神経外科認定専門医の医学博士。ドイツ在住。
2012/04/27

「ベトナムと言えば?」(3)…「マーヴィン・トラン」と「グエン・トラン・フォク・アン」

先日、このようなニュースが飛び込んできました。

「トランがソチ目指し日本国籍取得へ」(日刊スポーツ2012年4月22日)

フィギュアスケートの2012年世界国別対抗戦で1位となった日本の活躍は御存知の方も多いかと思います。そして、「トラン」とは、この優勝チームの一員で、高橋成美選手とペアを組むマーヴィン・トラン選手のことです。ちょうど、「ベトナムと聞いて何を(誰を)思い浮かべますか?」シリーズに対する今週の答えとして、このマーヴィン・トラン選手を取り上げようと思っていた矢先だったので、あまりにタイムリーなニュースに驚きました。

マーヴィン・トラン選手は、ベトナム難民とカンボジア難民の両親から生まれた、現在21歳のカナダ国籍のフィギュアスケーターです。元々は男子シングルの選手だったのですが、2007年のシーズンから高橋成美選手とペアを組んで活躍中で、今年の世界選手権では堂々の銅メダルに輝いた、若手ペアのホープです。

ちなみに相手の高橋成美選手は、ペア結成の直前まで相手探しに苦労していたそうです。彼女は小学校時代から数年間、父親の勤務先であった中国で育っており、ペア大国としても知られる同国で初めて取り組んだペア競技で、その面白さに目覚めたようです。しかし、中学二年生で日本へ帰国してから、ペア競技継続が困難となりました。背景には、日本人男子の体格面およびペアの練習環境の問題などがありました。そこで中国時代のコーチのツテを頼ってカナダに渡り、ペア相手探しのトライアウトに参加した縁で紹介されたのが、このマーヴィン・トラン選手だったそうです。その経緯については、下のスポーツナビのコラムが詳しいので、ご興味ある方は是非お読みいただければと思います。

ペアスケーターであることの幸せ-フィギュアスケート・ペア 高橋成美インタビュー(スポーツナビ 2010年12月24日)

なお、トラン選手は身長175cm、ペア男子選手としては少なくともカナダでは小柄な方であり、カナダ国内でペア相手となる女性を探すのは至難の技だったと、以下の記事で告白しています(青字は引用部分)。

Skater Mervin Tran mulls turning Japanese (AFP: 2011年11月13日)

"The girls have to be small but strong at the same time," Tran said, adding that a height difference is also required for the sport. He stands 29 centimetres (11 inches) taller than Takahashi at 175 centimetres.
(「女性は小さくてしかもパワフルでなくてはならない」「さらに、男女間の身長差もこの競技には必要」とトランは言った。彼は高橋よりも身長が29cm高い)

このような事情のためか、意外にもトラン選手は2007年当初、「シングル選手として限界を感じていた」ものの、「そもそもペアをやることに興味は無かった」そうで、高橋選手に会ったのも「(会う予定の)モントリオールに一度行ってみたかったから」というだけの理由だったと以下の記事中に出てきたのには驚きました。もっとも、高橋選手の真摯な姿と、初めての練習の数時間後にはすでにリフトが出来るようになっていたことから「ペアでやっていける自信が出てきた」とも書いてあり、大変興味深い経緯です(青字は該当する引用部分)。
Mervin Tran, un «Japonais» à St-Léonard (LA PRESSE.CA, 2011年12月9日)(フランス語)
Je n'étais pas vraiment intéressé à patiner en couple, mais l'idée de passer une semaine à Montréal, une ville que je n'avais jamais visitée, m'a tenté. J'ai donc accepté et j'ai été séduit à la fois par le patinage en couple. La dédication de Narumi et la confiance qu'elle m'a vite témoignée - elle était prête à me laisser la porter à bout de bras après quelques heures d'entraînement - ont fini de me convaincre.

ペア競技では、男性が女性を高く持ち上げるリフトなどがあるため、女子選手は体が小さくて軽量であるのが好ましいところですが、それでいて同時に単独ジャンプやスロージャンプなどの高度なジャンプをこなす必要もあります。そのあたりが、アイスダンスとの大きな相違点でもあるのは、バンクーバーオリンピック・アイスダンス金メダリストのテッサ・バーチュー(カナダ)の身長が165cmであることや、その長身を生かしたダイナミックな演技からも伺えます。ちなみに、テッサ・バーチューと組むスコット・モイア選手の身長は、トラン選手と同じ175cmですが、高いリフトやスロージャンプなどの要素のないアイスダンスであれば、この身長差の少なさは問題ないのでしょう。しかし、アクロバティックな性質の強いペア競技ではこうはいかないと、トラン選手は先の記事で述べています。
(Tran said the acrobatic nature of pairs skating made it difficult to find the right partners at home.)

ここで、そもそも考えなくてはいけないのは、欧米諸国の女性の体格面の遺伝的特性です。非常大まかな表現を敢えてするとしたら、欧米人女性は体がどうしても体が大きくなってしまう傾向(白人)、体が筋肉質で重くなってしまう傾向(黒人)、さらに体が小さければパワーが劣ってくるという傾向(黒人・白人共通)があり、高橋成美選手のように「20歳でありながら身長146cm」「それでいてパワーもスタミナもバッチリ」などという条件を満たす女性に出会うことは極めて困難です。その点、東洋人は「小さくてもパワフル」な女性の母集団が大きいということが、このような選手を次々と輩出することを可能にするのでしょう。同じペア・フィギュアスケーターでロシア国籍を取得し欧州選手権ペア優勝を成し遂げた川口悠子選手の存在は言うに及ばず、柔道やレスリング、ボクシングの軽量クラス(男子含む)に日本人を始めとする東洋系の世界王者が多いことの一因も、この「小さいのに強い」という遺伝的資質のすそ野の広さにあるのではないかと、オリンピックなどを見るたびに私はそんな思いにとらわれるのです。ちなみに、ペアの男子選手が日本でなかなか育たない背景には、「大柄な男性」の母集団がそもそも諸外国に比べて大きくないということ、大柄になると今度は器用さに欠けてくる傾向にあること、そんな中で比較的少ないはずの「大柄でパワフルで器用さも備える男性」のかなりの部分を”野球界”が、その少年野球からプロアマ問わず広範に網羅かつシステム化されたスカウト・育成システムで根こそぎ持っていってしまっている可能性も、うっすら透けて見えます。この20年程度をみると、日本経済が低迷すればするほど、野球以外のスポーツがお金にならなくなってくる現実(進学・就職の確保という側面も含む)を認めざるを得ず、この傾向が続くと男子スポーツの多様性が奪われてしまうのでは、という懸念もあります。

さて、話が随分飛んでしまいました。野球の話が出たついでに書きますが、私がそもそもベトナムと聞いて真っ先に思い出すスポーツ選手は、東洋大姫路(兵庫)のグエン・トラン・フォク・アン投手です。2003年選抜大会での伝説的な延長15回引き分け再試合「東洋大姫路vs花崎徳栄」を投げ合った投手として御記憶の方もいらっしゃるかもしれません。アン投手の両親はベトナムからのボートピーブル、名前のローマ字表記は「Nguyen Tran Phuoc An」、ちなみに「グエン」が母の姓、「トラン」が父の姓です。このアン投手に関する知識があったからこそ、その数年後にフィギュアスケート界で彗星の如く頭角をあらわしてきたマーヴィン・トラン選手を見て、私はその「トラン」という苗字に咄嗟に反応を示したのです。

ここでさらに思い出すのが、先日放映された『元祖!大食い王決定戦inベトナム』(TV東京)のロケでの思い出です。ちょうど一年余り前、ベトナムロケに同行したガイドさんの中に、グエンさんという方がいらっしゃいました。そこで私がここぞとばかりにアン投手の話を持ち出したところ、「NguyenもTranも、こっちではよくある名前!」「特にグエンは多くて、町中グエンさんだらけ!」などと、彼らはこの話を毎度のネタの如く披露しながら、ロケバス中に響き渡る朗らかな笑い声を誘っていたのです。

そのような陽気で話の面白いガイドさんが多かったベトナムロケは、とても楽しい思い出でした。その明るく楽しいベトナム人のカルチャーを受け継いでいるであろう(?)マーヴィン・トラン選手ですが、日本国籍取得を目指すとの報道があったのは冒頭の記事の通りです。日本が二重国籍を認めていないため、その決断は彼にとっては、故郷カナダの国籍返上を意味するという、大変重いものとなるでしょう。私はむしろ、彼のご両親の心境がいかほどに複雑なことかと、そちらを心配してしまいます。それでも、もしトラン選手がその重い決断を本当に実行に移したあかつきには、私たち日本人は彼を心から歓迎するでしょうし、ソチオリンピックでは誰にも負けない熱い声援を送りたいと思います。

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